「1816」番 副島隆彦と佐藤優の『激変する世界を先読みする』が発売される。 2019年3月21日

 SNSI・副島隆彦の学問道場研究員の古村治彦です。今日は2019年3月21日です。

『激変する世界を先読みする』(副島隆彦、佐藤優共著、日本文芸社、2019年3月)が発売される。発売日は2019年3月29日です。来週末から4月初めには全国の大型書店の店頭に並びます。


激変する世界を先読みする

 副島先生と佐藤先生の対談本はこれで5冊目です。
 2008年12月の『暴走する国家 恐慌化する世界 ― 迫り来る新統制経済体制(ネオ・コーポラティズム)の罠 』から2年おきに出されている。これまでの本と同じく、2人の対談(dialectic)は時代の流れの最先端で話していることが分かります。

 目次を見ていただくと分かるが、幅広いテーマで2人は縦横無尽に語っています。読者それぞれが関心を持つテーマについて語られている。私(古村)にとっては、北方領土返還交渉、ファシズムとコーポラティズムの関係、今上天皇の生前退位といったテーマが興味深かった。

 安倍晋三首相は、1956年の日ソ共同宣言の線に沿って、歯舞、色丹だけの返還で、平和条約締結を目指す動きだ。私たちは「北方四島は日本固有の領土である、ソ連(今はロシア)は不法に占拠しているのだからすぐ返せ」とずっと教えられてきた。「四島が返還されることが正当で、それ以外は間違ったことだ」という刷り込み教育(洗脳)が日本国民になされた。

 日本政府は、1949年のサンフランシスコ講和条約で千島列島を全て放棄している。これについても、「いや、北方四島は条約で言う千島列島に入っていない」という捻じくれた主張が日本国内で長く通用してきた。それが、安倍首相が2島返還論を言い出したら、安倍首相を支持する保守派の人たちがそれを批判せず、「もともと四島返還など無理なのだから」という擁護をし始めている。奇妙な変節です。

私は、四島返還が正しいとずっと国民を洗脳し、騙してきた自民党と日本政府が、まず責任を取るべきだと考えます。現在の日本政府(行政府)の最高責任者は安倍晋三首相ですから、安倍首相が辞任すべきである。


『激変する世界を先読みする』から

 佐藤先生は、自身が日露外交に長年にわたり関与した経験から、ロシアのウラジミール・プーチン大統領の考えを解説。プーチン大統領は歯舞、色丹を引き渡す意向だそうですが、副島先生は二島返還すらも難しいのではないかと疑問を呈しています。2人はシベリアの天然ガスが日本にとって重要であるという認識で一致している。

 例えば、北欧諸国の福祉国家を高く評価する風潮がある。国民への手厚い保護が売り物で、「国民はもっと税金を払っても良いと思っている」という喧伝がなされています。政治学の用語で言うと、北欧諸国で行われているのはネオ・コーポラティズム(Neo Corporatism)というやり方で、労働組合や経営者団体などの利益団体の代表が、政府の公共政策の決定過程に直接に参加する手法をとる。これは、戦前から戦中のナチスドイツやイタリアで採用されていたファシズム、全体主義がその源流だ。

 ファシズム(Fascism)とコーポラティズム(Corporatism)との関係について、佐藤先生はマルクス主義から始まって、その流れを簡潔に分かりやすく説明。副島先生は、橋本徹前大阪府知事・前大阪市長とイタリアのベニト・ムッソリーニの類似性を指摘しています。日本においても、経済発展のない閉塞状況の中で、国家社会主義(State Socialism)という現代版のファシズムが生み出されつつある現象があり、それについて分析している。

 今年2019年4月に今上天皇が退位する。それによって元号も平成から変わります。佐藤先生は、今回の譲位は「革命」だと喝破しています。一世一代で、自然死以外に天皇が代わることはないという明治維新で行われた「革命封じ」のフックが外れた、という主張を行っています。この分析は卓越したものだと私は思います。副島先生は、「日本の外側からの視点」から天皇について分析しています。


『激変する世界を先読みする』から

 このように様々なテーマと、2人の猫についての考え方まで網羅されています。各テーマについて簡潔に短く触れられているし、自分にとって関心が薄いテーマも分かりやすい。改めて関心を持つことが出来るように工夫して作られている本です。現在の状況を理解するためのお得な一冊です。

以下に、佐藤先生による「はじめに」、目次、そして副島先生による「おわりに」、を貼り付けます。参考にして、是非、書店で手に取ってください。よろしくお願いいたします。

(貼り付けはじめ)

 はじめに ── 混沌とする国際情勢を大胆に予測する   佐藤 優

 国際情勢は実に混沌(こんとん)としている。一方において、アメリカと北朝鮮の関係は劇的に改善している。他方において、日本と韓国の関係が急速に悪化している。

 日本とアメリカは軍事同盟(ぐんじどうめい)国で、韓国とアメリカも軍事同盟国である。国際関係においても、従来は「友達の友達は友達」というルールで動いていた。

 しかし、それが現在では、このルールが適用できなくなっている。この関連で興味深いのは日露関係だ。ロシアとアメリカ、ヨーロッパ諸国の関係は非常に悪い。1991年12月に、ソ連が崩壊した後に限って言えば、ロシアと西側諸国との関係は、現在がいちばん悪い。

 しかし、2018年11月14日に、シンガポールで、安倍晋三首相とロシアのプーチン大統領が会談した後(あと)、北方領土交渉が本格的に動き始めた。こういう現象の背後にある歴史のダイナミズムをとらえることを、この対談で副島隆彦氏と私は試みた。
 
 歴史のダイナミズムについて、私の個人的体験に即して少々語ることをお許し願いたい。

 1987年8月に、私が外交官としてモスクワの日本大使館に赴任した時点で、近(きん)未来にソ連が崩壊すると考えていた国際政治の専門家はいなかった。

 1991年3月17日には、ソ連維持の賛否を問う国民投票が行なわれた。投票者の76・4%がソ連維持に賛成票を投じた。それにもかかわらず、同年12月25日に、ソ連は崩壊した。ソ連が人造国家で、武力を背景にリトアニア、ラトビア、エストニアのバルト三国を併合したことに無理があった。

 バルト海沿岸の三国から始まったソ連からの分離、独立運動が、ソ連崩壊の原因となった。バルト三国の人々の自己決定権確立に向けた意思が、歴史をダイナミックに動かしたのである。

 北方領土交渉についても、私には歴史のダイナミズムが皮膚感覚でわかる。

 2000年4月4日、モスクワのクレムリン宮殿で、鈴木宗男(すずきむねお)衆議院議員(当時)が大統領選挙に当選したばかりのプーチン氏と会談した。

 この会談を取り付けるうえで、私はそれなりの働きをした。森喜朗(もりよしろう)首相(当時)からも、当時の外務事務次官からも「よくやった」と労いの言葉をかけられた。それが2年後の2002年に事態は暗転し、私は鈴木氏と組んで、北方領土の四島一括返還を放棄したとバッシングされ、私も鈴木氏も東京地方検察庁特別捜査部によって逮捕された。

 それから17年を経た現在、日本政府は、当時、鈴木氏や筆者が進めていた路線よりも、ロシアに対して譲歩した北方領土交渉を行なっている。

 具体的には、「主権に関して、歯舞群島(はぼまいぐんとう)と色丹島(しこたんとう)は日本、国後島(くなしりとう)と択捉島(えとろふとう)はロシアにあることを確認して、日露間の国境線を画定(かくてい)し、平和条約を締結する。ただし、国後島と択捉島に関しては、日本人に特別の想いがあることを考慮して、往来・経済活動などについて日本国民のみを対象とした特別の仕組みを作る 」 という内容に収斂(しゅうれん)する方向で交渉が進んでいる。

 国後島と択捉島に関しては、1855年に、日本とロシアが初めて国境線を画定した際に日本領となった。その後、1945年8月に、ソ連軍が占領するまで、外国の領土であったことはない。

 この歴史的経緯があるにもかかわらず、1951年のサンフランシスコ平和条約2条c項で、日本は国後島と択捉島を含む千島列島を放棄した。さらに、それにもかかわらず、日本政府は、1955~56年の日ソ国交回復交渉の過程で、サンフランシスコ平和条約で放棄した千島列島に国後島と択捉島は含まれないという立場に転換した。

 アメリカが、日本が歯舞群島と色丹島の返還のみで、ソ連と平和条約が締結されるならば、沖縄をアメリカ領に併合する、と圧力をかけてきた。

 また、当時の日本の内政を見ると、日本共産党だけでなく社会党も革命を主張していた。歯舞群島と色丹島の返還が実現すると、日本国民の親ソ感情が強まり、革命が起きることを日本政府は心配した。

 そこで、ソ連側が絶対に呑むことのない四島(歯舞群島、色丹島、国後島、択捉島)一括返還という要求を突きつけ、共産主義の影響力が日本に浸透することを阻止したのである。

 四島一括返還とか、北方領土とか、わが国固有の領土というのは、1950年代後半以降に日本政府が作った神話なのである。言い換えると、当時の日本のエリート層が共謀して、日ソの接近を避ける理論を作ったのだ。
 
 副島氏は、世界的規模でも日本国内でも、権力者による共同謀議によって政治や経済が動いていると主張するが、確かにそのような現実が存在することを私は目の当たりにした。だから、副島氏との意見交換から、私は大きな知的刺激を受けているのである。

 現下の国際情勢は、極めて複雑だ。2019年末の国際情勢を正確に予測することができると主張している人は、情勢がまったくわかっていないか、嘘つきであるかのいずれかだ。

 もっとも正確に予測することはできないにせよ、大きな傾向をつかむことは可能だ。その際には、預言のような大胆な予測が必要とされる。

 ちなみに予言と預言は異なる。予言とは、未来に起きることについて述べることだ。対して預言とは、神から預かった言葉を述べることだ。預言には未来予測も含まれるが、それよりも重要なのは、現状に対する批判と人間に対する悔い改めの要請だ。

 副島氏は、自らを預言者と呼んでいるが、この規定は正しいと思う。現下の日本と世界の状況に対して警鐘を鳴らすと同時に、われわれ一人ひとりに悔い改めよと要求しているのだ。

 私は、副島氏の預言を虚心坦懐に受け止めて、悔い改めている。ときには意見が異なり、激しい議論になることもあるが、神の預言を人間の限られた知恵で完全にとらえることはできないので、預言の解釈をめぐって議論が分かれるのは当然のことだ。

 いずれにせよ、2019年の世界が、本書に書かれたテーマを中心に動いていくことになる。

 本書を上梓(じょうし)するにあたっては、日本文芸社書籍編集部の水波康氏、副島精神を体現している優れた編集者で作家の山根裕之氏にお世話になりました。どうもありがとうございます。

        2019年2月28日、曙橋(東京都新宿区)の書庫にて 佐藤優 

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 「 激変する世界を先読みする 」    もくじ

はじめに|混沌とする国際情勢を大胆に予測する 佐藤優 1

第1章 世界エネルギー覇権と日本の安全保障

カルロス・ゴーン逮捕にちらつく産油国の影 18
世界官僚同盟による統制が始まる 18
日産幹部の憎しみを買ったゴーン 23
ゴーン逮捕で普及が遅れる電気自動車 25
無理やりストーリーを作る特捜の手口 29
ゴーン事件は鈴木宗男事件と似ている 32
北方領土交渉と日本のエネルギー戦略 35
米軍基地が北方領土問題の障害となる 35
日本の主権と「属国・日本論」 40
ロシアは2島を返還する気はあるのか 45
国際法と国連憲章から見た北方領土問題 50
色丹島のロシア住民3000人の行方 54
ロシアの天然ガスは日本にとって重要 56
サウジアラビア王家内紛の裏側 59
カショギ事件ではめられたサウジアラビア王太子 59
サウジの宮廷革命を支援したトランプの娘婿 62
国家の悪は裁けるのか 65
世界情勢と日本のエネルギー安全保障  68

第2章 北朝鮮問題から解読する 極東のパワーバランス

金正恩をたらし込んだトランプの「カジノ外交」 72
これからの極東地域の大きなトレンド 72
金正恩が進める北朝鮮カジノ計画 75
予測は「逆問題」で組み立てる 81
ポンぺオ米国務長官をめぐる騒動 83
世界政治におけるトランプの意味 86
核ミサイルは「張り子の虎」か 90
中国が新帝国主義時代の勝者となる 93
北朝鮮空爆回避から見えたアメリカの終焉 93
中国の弱点はどこにあるのか 96
ロシアは中国の怖さを一番知っている 98
オバマ前政権はステルス的な帝国主義だった 102
衰退する日本は中国と韓国に呑み込まれる 104
日韓関係悪化の本当の理由  104
最先端技術はほとんど中国に盗まれた 107
中国の宇宙開発は急速に進んでいる 111

第3章 安倍政権と忍び寄るファシズム

終わりが見えてきた安倍独裁政権 114
官邸は2019年にダブル選挙を仕掛ける 114
ポスト安倍政権は大混乱になる 116
ヘラヘラした柔構造でできている安倍政権 118
『政権奪取論』に見え隠れする橋下徹の野望 120
野党再編で政権交代の可能性もある 122
公明党が憲法を守る勢力の最後の防波堤になる 125
世界政治の背後で蠢く統一教会 128
現代によみがえるファシズムの亡霊 130
ファシズム思想の先鞭をつけた高畠素之とムッソリーニ 130
ムッソリーニはマルクス主義者だった 133
「1人は万人のため、万人は1人のため」 136
反グローバリズム運動にもファシズムの影 142
国家社会主義を体現している橋下徹は素晴らしい 145
「維新八策」から消えた「相続税の100%課税」 149
「寛容」の精神こそがファシズムを乗り越える 153
生理的な次元から生まれる不寛容性 153
徹底的な殺し合いから寛容という思想が生まれた 155
寛容とは一種の棲み分けである 157

第4章 平成から新時代へ 天皇と近代日本の実像

天皇の生前退位と新たな易姓革命の予兆 162
いまの日本を覆う〝穢れ〟の思想 162
秋篠宮発言から見えてきた官邸と皇室の対立 165
天皇は、いまなお現人神か 169
『愚管抄』と『神皇正統記』の思想 171
「譲位」が歴史の分節を変えてしまった 174
啓典(キャノン)がない神道 177
世界政治に騙された昭和天皇と大日本帝国 181
最後まで戦争の指揮をしていた昭和天皇 181
独ソ開戦で真っ青になった松岡洋右外相 184
四国同盟案は米英に筒抜けになっていた 190
現代ロシアの地政学にも通じる四国同盟論 192
やがて歴史は繰り返す 195

第5章 これからの世界潮流を読み解く

ついに資本主義の崩壊が始まった 200
ソフトバンク「二重評価」のインチキ 200
あと2年でアマゾン時価総額は半分に落ちる 205
資本主義社会では誰もが拝金教を信じている 208
ロシアの仮想通貨はどうなるか 211
国家を超える権力を作ろうとしているエリート層 215
現代の労働者階級に未来はあるのか 218
『資本論』は資本家見習いのための本 218
企業経営も国家戦略の中で動かされる 222
現在の労働者はプロレタリアート以下の存在 226
サラリーマンは洗脳された現代の奴隷 230
黄色いベスト運動にも公安が潜り込んでいる 233
ヨーロッパでは生きているアナーキズム 236
人権宣言以来、人類を支えた理念が壊れ始めた 240
『サピエンス全史』と『ホモ・デウス』は人種主義の復興か 240
権力分立を信じていなかったモンテスキュー 244
人間の「工場化」が進行している 247
ベジタリアンとビーガンという思想の本質 249
猫は人間を裏切らない 252

おわりに | この世のすべての虚偽を手加減せずに暴く 副島隆彦 256

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   おわりに ── この世のすべての虚偽を手加減せずに暴く    副島隆彦

 本書、『激変する世界を先読みする 沸き起こるファシズム』は、佐藤優氏と私の5冊目の対談本である。

 最初の1冊は『暴走する国家 恐慌化する世界』(2008年12月、日本文芸社刊)で、鳩山由紀夫(友紀夫)の民主党政権が出来る(2009年9月)前年だった。
 
 2冊目が、『小沢革命政権で日本を救え』(2010年6月刊)だった。あのとき、これで日本の政治が変わる、と皆が期待した。 だが、アメリカと旧態依然の日本国内の現実主義の勢力によってガラガラと壊されていった。私は、現実政治にキレイごとは通用しない、という政治という悪(あく)の本態をまざまざと見せつけられた。あれから10年が経った。

 佐藤氏が、本書の「はじめに」で、「預言(よげん)とは神から預かった言葉を述べることだ …… 副島氏は自らを預言者と呼んでいる」とあるが、これは誤解である。いくら私でも自分を預言者 (プロウフェト)とまでは自称していない。

 私はこれまで慎重に、自分は予言者(近(きん)未来の予言をする者。 プレディクター )ではあるが、預言者だと言ったことはない。私は、自分を預言者だとそこまで懼(おそ)れ多いことを言わない。

 佐藤氏はこのことを十分に承知している。それなのに佐藤氏は私を買い被(かぶ)って、わざと私を預言者に祀(まつ)り上げてくださった。

 予言者〔プレ(前もって)ディクター(言う人)〕というコトバでさえ、当今(とうこん)でも、十分に誤解を招き、いささか奇矯に見られる。 このことを十分に承知のうえで、私は、言論商売人(げんろんしょうばいにん)としての自分自身に、厳しい試練を与えようとして、この言論予言者業 を自称している。

 それは、千年の昔から日本にもいた、占(うらな)い師(これが予言者だ)と、呪(まじな)い師(悪霊=あくりょう=を祓(はら)う職業 )の列に、私は連なりたいからだ。

 だが、私は宗教は嫌いだ。この地上のすべての宗教を疎(うとん)じる。なぜなら私は、新(しん)左翼思想という政治イデオロギーに若い頃から囚(とら)われて、ずいぶんと苦しんだからだ。そういう人は私の世代にたくさんいる。

 イデオロギー ideology などと、荘厳(そうごん)そうに、(元)ドイツ語( さらにはギリシア語 )で言えばいいかと思っている。これも本当は、宗教(人類救済の信念、願望)の一種でしかなかった。

 自分たちはインテリ(ゲンツィア)だから、宗教という低レベルの確信ではない、などと思い上がった左翼、リベラル派全体への、私からの厳しい視点である。

 イデオロギーも宗教である。さらには、社会主義(ソシアリズム)どころか、資本主義もまた、宗教である。このことが、どうもはっきりしつつある。

 資本主義(Kapitalismus カピタリスムス)だって滅ぶかもしれないのだ。
さらには科学(サイエンス。science スシャンス、スキエンザ、現代学問)でさえ、宗教(レイジジョン)の一種だろう。人間(人類)が、これまでに確実にわかったことはほんのわずかだ。宇宙(space スペイス)についても生命( life ライフ)についても物質( matter マター)についても,
いくらも解明されていない。

 もう一つ奇怪(きっかい)な現代宗教がある。それは「自分は(生まれながらの、強固な信念の)反共産主義(者)だ」という信念である。この反共主義(はんきょうしゅぎ)もまた、まさしく歪(ゆが)んだ宗教である。

 反共(反ロシア、反中国)をブツブツ毎日唱えてさえいれば、自分は正義の人で、愛国者だなどと信じ込める。その偏屈な神経もまた宗教である。私は彼らから斬りかかられたら必ず斬り返す。

 佐藤優は、驚くべきことに、「 創価学会の池田大作(いけだださく)名誉会長(まだ存命なのだろう)は本当の宗教家であって、自分も池田先生のようになりたい」(引用は不正確)というようなことを言った(書いた)。宗教者、信仰を持つ者 というのは、いつか、このような相当に深い境地に到達するものらしい。佐藤氏は篤(あつ)い新教徒(プロテスタント)のキリスト者である。

 佐藤氏は、本書の中で、「創価学会・公明党のような中間団体(ちゅうかんだんたい)がいてくれることが、憲法改正(戦争ができる体制に変わること)を杭い止める。副島さんの『学問道場』も、この中間団体です」と言ってくれた。私はこの言葉をありがたく受け留めた。こうやって私も佐藤優の戦略図式の中に組み込まれる。

 それでも、私が宗教団体もどき を作るときは、「真実暴き教と名乗る」と、20年昔から決めている。教義(きょうぎ。カノン canon 。ドグマ dogma ではない)は、「この世にあるすべての虚偽(きょぎ、fault フォールト)を、気づき次第、手加減せずにすべて暴(あば)くべきである」の、たったこの一条である。このことを私は弟子たちに言い聞かせている。

 天皇、皇后(もうすぐ譲位する)は、昭和天皇の遺志を堅く受け継いで、いまの平和憲法を擁護している。特に、美智子皇后は、仄聞(そくぶん)するところでは、安倍首相に向かって、「あなたたちは、憲法を改正して、また戦争をする気ですか」と厳しく問い詰めた(引用、不正確)。

 私は、いまの皇室(次の天皇、皇后も)の、この堅い憲法擁護(護憲、ごけん)の立場はきわめて正しく、立派であると思う。天皇制(皇室伝統)が、いまも生きながらえているのは、時の今上(きんじょう)天皇の、真面目な不断の行ないへの、国民の信頼が有るからである。

 人はそれぞれ、何ものかに囚(とら)われて生きる愚かな生き物である。ある年齢に達すると、自分(己、おのれ)の過去の愚かさに恥じ入りながら生きるようになる。

 佐藤氏が、私に対して忝(かたじけ)なくも、「預言が …… 重要なのは、現状に対する抑制と人類に対する悔い改めの要請だ。 …… 私は、副島氏の預言を虚心坦懐に受け止めて、悔い改めている 」と書いてくださった。このときハッと思って自分のこの国における役割、責務、天命を、私は思い知る。

 佐藤氏と私は、2人でこんなエールの交歓のようなホメっこをして遊んでいるのではない。
私たちの、この国における生来の サヴァン症候群 savant syndrome の保有者としてのズバ抜けた頭脳が、他の、もっと若い知識人、有能の士、優れた読書人たちへの嚮導(きょうどう)となることを願っているのである。螺子(ねじ)曲がった精神で知識や言論などするべきでない。

 私と佐藤氏(私より6歳下)には、やり(語り)残した仕事がある。それは、前記した宗教( キリスト教、ユダヤ教、仏教、イスラム教)についての論究と、マルクス主義( 共産主義、『資本論』、左翼思想全般 )についての論究である。それと猫ちゃん(動物)論だ。次作で屹度(きっと)やります。

 この対談本を編んでくれたふたりには、先にまえがきで佐藤優氏がお礼を書いたので、私も同感とする。

                          2019年3月    副島隆彦 

(貼り付け終わり)

(終わり)

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