「1796」 アメリカ中間選挙の結果とアメリカ政治の分析をします(第2回・全3回) 2018年12月28日

 副島隆彦です。今日は2018年12月28日です。

 アメリカ政治分析の第2回です。

 前回話したチャオの旦那さんは、ミッチ・マコーネル(Mitchell McConnell、1942年-、ケンタッキー州選出)です。この人は、共和党所属の上院議員の筆頭であるマジョリティー・リーダー(Majority Leader)ですね。日本語では、院内総務と訳しています。党の議員団のとりまとめ役です。

 院内総務の次が、マジョリティー・ホイップ(Majority Whip)です。院内幹事と訳します。ホイップは、鞭(むち)ですから、 牛たちを並ばせるカウ・ボーイの仕事に似せて、「議員ども、言うことを聞いて、ここに並べ。執行部(政権)に反対するな」という党内の調整役です。


ミッチ・マコーネルとイレーン・チャオ

 ジョン・コーヌン(John Cornyn、1952年-、テキサス州選出)がマジョリティー・ホイップです。来年からはジョン・スーン(John Thune、1961年-、サウスダコタ州選出)がなります。

 これに対して、野党のほうは、マイノリティー・リーダー(Minority Leader)とマイノリティー・ホイップ(Minority Whip)がいる。チャック・シューマー(Chuck Schumer、1950年-、ニューヨーク州選出)という議員が上院の民主党の代表(マイノリティ・リーダー)、院内総務です。院内幹事は、リチャード・ダービン(Richard Durbin、1944年-、イリノイ州選出)です。


共和、民主両党の上院議会指導部

 中国系 というよりも台湾系のアメリカ人の代表である、イレーン・チャオの旦那さんのミッチ・マコーネルを、うまいぐあいにトランプは取り込んでいる。なぜなら奥さんのイレーン・チャオは、運輸長官ですからね。

 チャオと、前回言ったリック・ペリー、彼はア、テキサス州知事上がりで、エネルギー長官をやっている。もうひとり、内務長官のライアン・ジンキ(Ryan Zinke、1961年-)。彼は、つい最近、内務長官(インテリア・セクレタリー)を辞任すると発表した。この件は、後述する。この3人で組んで、テキサスのヒューストンとダラスの間に、ようやく、日本の技術の新幹線を、どうしても通すという計画が進行中だ。 何とかかんとか、このダラス-ヒューストン間に、日本の新幹線を通したい。


ライアン・ジンキ

 現地に、この高速鉄道の建設計画に対して、反対運動があって。アメリカの場合は線路の敷地ではなくても、その周りに大牧場があって、そこを新幹線が通ると「牛の乳が出なくなる」とかいって、補助金をよこせとかいう激しい反対運動がある。これを何とか押さえ込んで合意して、テキサスにぐらいは、せめて高速鉄道、時速200キロ以上の高速鉄道をつくりたい。


計画中のテキサス高速鉄道の地図

 カリフォルニアは高速鉄道を作ってくれ、と長年、望んでも、作れない。ずっと計画は失敗している。 LAとサンフランシスコの間で、リフォルニアの州民たちは、毎日毎日、2時間も3時間も車の運転をしている。もう嫌だ、と。通勤線路をつくってくれと強く願っている。 同じように東海岸の、ボストン、ニューヨーク、フィラデルフィア、ワシントン(頭文字から、BOSNYWAG、ボスニワグという)にも高速鉄道を通してくれ、と言っても、できない。カリフォルニア(西海岸)も、東海岸も、両方とも。

 反対運動がいっぱいありますからね。アムトラックというのがある。だけど、このアムトラックがしょっちゅう事故を起こしている。旧式の鉄道だ。これで通勤で通っている人たちもいるのですけど、長距離で、だらだだと、長時間の通勤になってしまう。それを何とかしてくれというのがアメリカの現状なんです。


構想段階も含むアメリカ高速鉄道計画地図

 しかし自動車文化があまりにも発達し過ぎて、今さら用地買収をするのも大変で、通勤深センを通すことさえできない。これが真実の、現実のアメリカだ。せめてテキサス州のダラス―ヒューストン間だけは、つくりたいと必死になってやっています。長官が3人も掛り切りで。テキサス州はアボットという州知事がいて、彼が頑張っています。

 昔、日本大使もしていた、ちびな男(身長160センチぐらい)トム・シーファー(Tom Schieffer、1947年-)という男がいました。実に泥臭い政治家だった。テキサス州選出の上院議員でした。後に日本大使になりました。このトム・シーファーが一緒懸命にテキサスに新幹線を通そうとしていた。その跡継ぎの人たちですね。今言った4人、5人は。


トム・シーファー

 さらに、テッド・クルーズ(Ted Cruz、1970年-)という人が今度、上院議員選挙で再選された。このテッド・クルーズも一緒になって、懸命にテキサスに新幹線をつくらなきゃとなっている。アメリカという国は、超大国なのに、たった一本の新幹線を通すだけでも、うまくいかないという、本当に先進国のトップですが、なかなか鉄道一つ敷けない国なんです。それでもやろうとはしている。


テッド・クルーズ

 テッド・クルーズは、ベト・オルーク(Beto O’Rourke、1972年-)と闘った。46歳の格好いい、ハンサムなのが、ふぁっと出てきて、下院議員なんだけど、このベト・オルークが勝つんじゃないかと言われていた。だけどベト・オルークは僅差で負けた。テッド・クルーズが424万票、ベト・オルークが402万票ぐらいの接戦でした。トランプが、現地に行って、テッド・クルーズを応援したのが、やはり効いた。これで、テッドは、トランプに借りが出来たから、頭が上がらなくなった。テッド・クルーズは、2016年の大統領選挙で、最後まで、共和党内の予備選挙で、トランプと競争し合った。


ベト・オルーク

 ベト・オルークは、格好いい男で、「ジョン・F・ケネディの再来」みたいに言われたが、それほど、そこまで人気が出るとは私は思わなかった。テッド・クルーズが受かってよかった。テッド・クルーズという人は、大統領選の時に、トランプとちょっとけんかになったんですね。トランプが共和党の候補に決まったときも、不愉快で、「私はトランプを応援します」と言わなかった。それでブーと、ブーイングが会場から起きたんですが、テッド・クルーズのところにトランプが応援演説に行って、何十万人もわいわい人がたくさん集まって、それで喜んで、テッド・クルーズはトランプの言うことを聞く人間になっただろう。自分が選挙で受かるのが何よりですから。政治家は、選挙に落ちたらただの人で、大変ですからね。


選挙期間中にクルーズを応援するトランプとメラニア夫人

 テッド・クルーズは、お父さんのラファエル(Rafael Cruz、1939年-)が、キューバ人なんですね。「亡命キューバ人」というのは、ものすごく暴力的なすごい人たちがたくさんいて、恐ろしい人たちだと言われている。亡命キューバ人については、また、話します。お母さんはアメリカ生まれのアイルランド系白人です。父親のラファエルは、カトリック教会からプロテスタントに改宗して、現在は牧師になっている。両親は石油会社で働くためにカナダに移住した。そこで、テッドは生まれた。


テッド・クルーズの父親ラファエル

テッド・クルーズが騒がれたのは、こいつはカナダ生まれだ、ということです。アメリカ大統領になる資格がない、と騒がれた。テッド・クルーズは、2014年にカナダ国籍を放棄した。それまでは、2重国籍だった。何でテッド・クルーズが大州であるテキストの上院議員になれたかというと、やっぱり怖い人たちというか、やっぱりキューバ人の血が流れているから。南米系のヒスパニック、ラティノスの人たちが、テキサスにはたくさんいて、その支持をテッド・クルーズは取れるからだ。

 だからこういうことがあって、今のアメリカ政治では、相当に人種の問題でまざっていないとだめだ、ということだ。ここがアメリカ政治の基本性質だ。今度だって、ミシガン州とミネソタ州で、民主党が勝った、2人のイスラム教徒がいる。ラシダ・タリーブ(Rashida Tlaib、1976年-、パレスチナ系)とイルハン・オマル(Ilhan Omar、1981年-、ソマリアの難民キャンプで生まれ12歳でアメリカに移住)だ。パレスチナ系、あるいはイラン系の人で下院議員になった人もいる。


ラシダ・タリーブ(左)とイルハン・オマル

 そういう女性たちがたくさん受かった。選挙線を報道する、ニューズ番組をじっと見ていると、みんな混血だ。白人と中東アラブ人の混血みたいな人たちで、元気な者が候補者として出てきている。どうも混血ぐらいの人が、ちょうど下院議員に受かりやすいというのが、今のアメリカ政治です。従来のような、白人の金持ち階級の立派な経歴の人が受かる、ということが減っている。

 だから微妙なところでアメリカ政治は動いている。フロリダ州では、選挙のあとも、ずっと再集計をやっていた。リアカウンティングといって、票の数え直しをやっていた。フロリダ州の上院議員で、リック・スコット(Rick Scott、1952年- )という、トランプに支えられて、その支持票を当てにした男が受かった。そのことで、大接戦だったので、ぐずぐずと票の数え直しをやった。相手はビル・ネルソンという男でした。有名な、何とか郡というのが、フロリダ南部の、大都市マイアミのほうに、2つあって、そこの票の集計がおかしいといって、トランプもツウイッターでわめいていました。だから、voter fraud(ヴォウター・フロード)というんですけど、インチキ選挙、不正選挙 が行われている、と大統領が自分で書くぐらいですから何かあるのだろう。


トランプとリック・スコット(右)

 ここのフロリダ州の南部のマイアミ地区は、デビー・ワッサーマン・シュルツ(Debbie Wasserman Schultz、1966年-)という恐ろしい下院議員の女がいるところで、反トランプ派の牙城だ。自分たちの目的のためだったら、人殺しでも何でもする者たちが、何人もいる。ヒラリー派の極悪人(ごくあくにん)たちが、このワッサーマンシュルツのように下院議員でいます。そういうところだ。つまりアメリカでも政治的に“最深部”で、凶暴なところだ。


デビー・ワッサーマン・シュルツとヒラリー・クリントン

 ジェブ・ブッシュ(Jeb Bush、1953年-)が、フロリダの州知事をずっとやっていました。ジョージ・W(ウオーカー)・ブッシュ元大統領の弟です。ジェブも、ブッシュ・ファミリーの“ブッシュ王朝”から、一応、大統領選で出たんですけど。彼は生来、悪い人間じゃないものだから、さっさとやめてしまいました。その息子で、ジョージ・P・ブッシュ(George P. Bush、1976年-)というのがいます、まだ40代だ。今、テキサスで下院議員をやっていて、選挙には難なく受かる。この ジョージ・P・ブッシュが、次の時代に出てくるんだろうけども、どういうやつかまだよくわかりません。ジェブの奥さんは、ヒスパニックですから、その息子だから、いかにも浅黒い南米系の顔立ちだ。だからこそ、この若い男が、次のブッシュ家を代表するのだ。アメリカ混血の時代のひとりだ。


ジェブ・ブッシュ(左)とジョージ・P・ブッシュ

  中西部(ミッドウエスト)の、オハイオ州が、上院選で、民主党に奪い返された。
オハイオ州が、トランプが2016年11月に当選するときの最大の決戦場でした。

 それに対して、トランプが何とかフロリダを押さえた、共和党のリック・スコットで勝った、ということで、トランプは機嫌がいいわけですよ。上院選挙と州知事選挙では、共和党のトランプ政権が勝ったと言われています。下院ではトランプが負けたわけですが。35議席、共和党は議席を減らした。前述した。

 オハイオ州のクリーブランド(5大湖のひとつエリー湖に面している)と、ミシガン州のデトロイト(“自動車産業の首都”)と、ペンシルバニア州のピッツバーグ(“鉄鋼の都”)の、あの辺がまさしく、ラストベルト(lust belt)、「錆(さ)びついた州」で、トランプ時代のアメリカの焦点になっている。ここは、5大湖の周辺の大都市だ。アメリカの中西部(ミッドウエスト)全体の北部一帯だ。石炭と鉄が取れたので、鉄鋼所が出来、そして、自動車産業が、1800年代のアメリカに、勃興して、これと、石油産業が合体して、アメリカが、“世界の工場”となり、ヨーロッパを圧倒していった。 

 1914年に、アメリカが、世界覇権(ワールド・ヘジェモニー)をイギリスから、奪い取った。アメリカ合衆国の繁栄は、1930年代と1950年のふたつある。第1次大戦と第2次戦争に勝利したあとだ。ラストベルト「錆びついた州」の話は今日はもう、ここではしません。この 沈滞しきって、寂れまくって、失業者たちが溢(あふ)れている、これらの「錆びついた州」に、ですから、新しい半導体や、スマホ作りの工場を、どんどん、作らなければいけない。 

 だから、孫正義のソフトバンクも、それに使われるので、苦労している。ウイスコンシン州(下院議長だったが、トランプとウマが合わなかった、若いポール・ライアンの選挙区だった。彼は引退した)の アップルと フォックスコンの工場が、あまりうまく動いていない話は、前回した。

 前回言ったように、ナンシー・ペロシ下院議長と、トランプがうまいぐあいに妥協しながら、アメリカ政治、国家運営 をやっていく、というのが、このあと2年間の、2020年までのアメリカだ。2020年に、次の大統領選挙と議員たちの選挙がある。

 日本との関係で、一番、大事なのは1970年代、私は覚えているけど、日本も含めて貿易交渉、通商交渉、貿易戦争 が激しい時代があったということだ。

 この1970年代に、「アメリカは貿易赤字がひど過ぎる」と言って、ディック・ゲッパート(Dick Gephardt、1941年-)という有力な政治家がいた、民主党だ。彼は、十分に大統領になれると言われていた男だ。この民主党の大物のリチャード・”ディック“・ゲッパート議員が、一番厳しく外国からの輸入品を制限せよ、というのを言った。そして議会で法律を通した。それが「スーパー301」 通商法301条だ。これで、不公正な取引をしている国に対して、輸入を緊急に制限することや、懲罰関税(ピューニティブ・タリフ)や、報復関税(リタリアトリー・タリフ)を掛けることなどの、一連の法律の改正をやった。

 これを、ゲッパートを先頭にして民主党の議員たちが、やった。この動きは、アメリカの大労働組合の組合員たちでアル、労働者たちからの、強い、外国製品の輸入ラッシュへの反発、怒り を土壌にしていた。 それの頂点が、スーパー301条と言われているやつで、今回、それをトランプが発動したんですね。全く、そのまま、ゲッパート議員が、作った、法律をそのまま復活させてたのようにして、使った。 これに、諸外国の通商担当官たちが、驚いた。ゲッパートの亡霊が、アメリカに現れた。 ゲッパートは、まだ、77歳で、生きているようだが、アメリカ政治の表面には、もう出てこない。


ディック・ゲッパート

 それで25%のretaliatory tariffといって報復関税です。貿易不均衡(トレイド・インバラスス)の原因をつくっている、自分の国の市場を開放しない国に対しては、厳しい報復的な仕返し的なtariff(タリフ、関税)をかける、という貿易政策をゲッパートが始めた。実はトランプ自身が、1970年代の若い頃(まだ40代だった)に、自分が民主党員だったものだから、その頃の記憶があって、今、強力に、かつてのゲッパートの民主党路線(ゲッパート・デモクラット)に乗っかっているのです。


トランプとルドルフ・ジュリアーニ

 1970年にトランプは44歳です。このときトランプは、ニューヨーカーですからニューヨーク民主党だった。雰囲気として、彼は、今もニューヨーク民主党の体質を持っている。前回、話したウィルバー・ロスもそうだけど、もう1人重要なのは ルドルフ・ジュリアーニだ。彼は、今、トランプを一緒懸命に、トランプへの裁判攻撃で、守っているニューヨーク市長をしていた大物政治家だ。ジュリアーニも大統領選挙に出れば、当選する、と言われていた時期がある。 

 ルドルフ・ジュリアーニ(Rudolph Giuliani、1944年-)はイタリア系で、ニューヨークの名物市長だったが、警察の組織や、消防、とか、公務員たちの組織に、ものすごく力があった。彼自身が、NYの検事の頂点にいたNYの検事総長だった。トランプや、ジュリアーニ、ウィルバー・ロスたちは、ニューヨーカーで、70年代までは民主党だったんですね。ニューヨーカーは、威張っていて、他の州の連中のことを、田舎者だと、思っている。このことは、何故か、なかなか活字にはならない。 

 そして、80年代になると、“レーガン・デモクラット”という 大きな、国民潮流が、起きて、アメリカで民主党支持だった、多くが、共和党のレーガン大統領を支持して、「ソビエト・ロシア(の共産主義の体制)に対して、アメリカは、もっと強硬な態度を取ってもいい」という態度になって、民主党支持なのに、レーガン大統領の支持に回った、態度を変えた、という大きな政治変動が起きた。

 あの1980年の大統領選挙の時の、「レーガン・デモクラット」の動きが、今回の、トランプ政権の誕生に、同じことが起きた、と、鋭く観察しなければいけないのだ。
トランプたち自身が、こうやって、80年代に、共和党支持に変わっていった。公務員系の労働組合も、何となく、共和党の大統領を支持しても構わない、という態度に変わっていった。この分析が重要だ。

 ニューヨーカーは、「自分たちはアメリカ人の中でも、特権のある人間たちなのだ。地方の人間たちとは違うのだ」と思っている。このことが、実は、トランプという男を語る上では、大事なことが。あの、両手を広げて、大仰(おうぎょう)に、ペラペラとしゃべる感じは、ニューヨーカー独特なのだ。

(続く)

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