「1677」 日本の「国家秘密警察長官」である 菅義偉・官房長官の正体がわかる二冊の本を紹介する。(2) 2017年6月10日
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中田安彦です。今日は2017年6月10日です。「1976」に引き続いて、菅義偉(すがよしひで)官房長官についての話です。前回は、菅義偉をモデルにした小説と、菅義偉の「裏人脈」について考察しました。今回は、菅義偉の「表人脈」の話をします。その際に、ノンフィクション作家の森功(もりいさお)氏の「総理の影」(小学館)から学んだことを紹介していきます。
第一次安倍政権で総務大臣になった菅義偉は、2012年暮れの総選挙で安倍晋三が内閣総理大臣に返り咲いてからは、ずっと政権の官房長官として安倍政権のスキャンダル処理を担当してきた。安倍政権のときに、官僚の幹部人事を一手に握る、「内閣人事局」が発足したが、幹部公務員の人事は菅義偉の横槍で変更されることもあるというが、官僚はこの人事を司る人事局の存在に震え上がって、安倍政権に意見を言うことができなくなってしまった。
菅義偉は、1996年の総選挙で初当選している。この選挙は、初めて中選挙区制ではなく、小選挙区制で行われた選挙だ。国会議員歴は20年になる。菅は、派閥を渡り歩く政治家である。最初は小渕派に所属し、次に古賀誠時代の宏池会に所属し、それ以降は無所属の政治家だということになっている。
ただ、菅は派閥には所属していないが、掛け持ちが可能な自民党内の幾つかの議員グループには所属している。その一つが、「創生日本」という党内でも最も右よりの議員があつまるグループで菅は副会長をしている。この創生日本の母体は安倍晋三と第一次政権時代に盟友関係にあった、今は亡くなった中川昭一財務大臣が安倍と立ち上げた「真・保守政策研究会」である。超党派の議員連盟となっているが、実際には以前は郵政選挙以来のゴタゴタで自民党を離党した平沼赳夫元経済産業大臣も自民党に復党しているので、自民党議員しかいない。現在は2015年以来、活動を行っていないようだが、まだウェブサイトは残っており、メンバーも、現在の自民党の代表的な右派政治家ばかりが揃っている。
また、菅義偉は、亡くなった鳩山邦夫元総務大臣がポケットマネーで立ち上げた「きさらぎ会」というグループの顧問もやっている。このグループは鳩山邦夫が安倍晋三を支えるという目的で作った会合で、幹事長には安倍晋三の総理補佐官で、ジャパンハンドラーズの受け皿の一つだった広島選出の河井克行という衆議院議員がついている。鳩山が亡くなっても約106人のメンバーを持つ「きさらぎ会」は存続している。鳩山邦夫の亡くなったあと、その地盤の福岡の選挙区を争う補欠選挙では、菅義偉は福岡の自民党のドン的存在である麻生太郎財務大臣が推薦する候補ではなく、鳩山の次男である鳩山二郎を二階俊博幹事長と一緒に支えて当選させた。麻生が推した候補、自民党福岡県議会団長、つまり地元のドンの一人である人物の長男だった。このドンが獣医師だった。そこで加計(かけ)学園の獣医学部の新設をめぐる問題では、麻生が安倍・菅に対して嫌がらせをしているのではないかという説が流れているが、真偽は分からない。
菅義偉を体系的に研究した本の中で最も優れていると私が思っているのが、去年(2016年)の夏にでた、『総理の影』という本だ。著者は1961年生まれで、政治家が嫌がるノンフィクション本を書かせたら今は右に出る人はいない。この本には菅義偉の「表人脈」について網羅的に説明がされている。
菅義偉の「表人脈」は、(1)横浜人脈(2)大阪人脈(3)保守人脈(4)沖縄人脈の4つにわけられると私はこの森功氏の本をじっくり読むことで理解した。菅義偉は、秋田県の生まれだが、高校を出るとすぐに「集団就職」で東京に飛び出して就職して、その後法政大学に入学しているので、秋田弁は残っているものの、実際は都市部の政治家である。森氏は菅義偉の朴訥なイメージや叩き上げの政治家である経歴に騙されて、田中角栄のような地方のことを考える政治家であると考えては間違う、と指摘している。
(1)横浜人脈
森氏の本でも多くのページをさいて紹介しているのが、菅義偉の横浜時代だ。1973年に法政大学を卒業したあとで、菅は法政大学就職課の世話で、そのOB会事務局長から衆議院議長にもなった国会議員の秘書を紹介され、同じ派閥だった中曽根派の小此木彦三郎(おこのぎひこさぶろう)の秘書として政治の世界に入る。この小此木が横浜市会議員から衆議院議員になった政治家だったから菅は今の選挙区が横浜市なのである。小此木は運輸族で、国鉄民営化もやった政治家だから、今は安倍晋三のブレーンで右翼のJR東海の葛西敬之とも親しかったようだ。森氏によると、小此木事務所には神奈川県内の鉄道会社に強い秘書が揃っていた。小此木の三男が、小此木八郎という衆議院議員で、小選挙区制で中選挙区から変わる際に選挙区が増えたことで、菅と小此木が議席を分け合って、菅が2区(横浜市西区・南区・港南区)、小此木が3区(横浜市鶴見区・神奈川区)を持つことになった。三男なのに八郎で選挙区は3区というのはわかりにくい。
菅は小此木三郎事務所で7番手秘書から頭角を現し、1988年に市会議員になってゆき、そこで当時の市長を操る「影の横浜市長」とまで言われたという。この市長は小此木事務所や菅のバックアップで、港湾などの横浜市開発を急速に進めていったし、道路の整備も進めていった。そういった地元市議活動の中で、菅はバックアップしてくれる財界人を増やしていった。山口組三代目の田岡一雄と「全国港湾荷役振興協会」という港湾業者の組織でそれぞれ副会長、会長の役割を分担した間柄の地元の「藤木企業」の藤木幸太郎という海運業者の息子である藤木幸夫(ふじきゆきお)は今も「ハマのドン」と言われる人物で、この人物の一言で横浜にカジノを誘致するかしないかが左右される。去年、成立したカジノ法案は日本へのカジノ誘致の第一歩だったが、あれは議員立法の法律だったが菅官房長官と二階俊博幹事長の肝いりの法律だ。しかも、藤木は二階とも極めて親しい。親中派の二階が安倍政権でうまくやっているのは菅義偉との関係が安定しているからだろう。
(2)大阪人脈
菅義偉は、秋田出身だがもともと都会派の政治家なので、竹中平蔵元総務大臣のようなグローバリストとも仲が良い。小泉政権時代に竹中が大臣、菅が副大臣という関係もある。森功は菅義偉を「橋下徹の生みの親」とまでいう。確かに大阪維新の会の橋下徹前大阪市長と今の松井一郎大阪府知事は、菅義偉や安倍晋三と極めて良好な関係にある。その関係は自民党の大阪府連が嫉妬してしまうほどだ。
森氏は触れていないが、安倍や菅のような「創生日本」の政治家は、徹底的な右翼政治家であり、日本会議や国際勝共連合とも近い政治家であるといってよい。その右の政治家にとっての悲願は憲法9条改正であり、そのためにリベラル勢力の民主党・民進党を解体する一方で、かつての民社党のような別の保守政党を欲しがっている。国政選挙では公明党の集票力に依存しつつ、維新のような「噛ませ犬」を育成して、民進党が勢力として成り立つ「野党第一党」にするのを阻止したい。大阪維新の国会議員というのは、お笑いの横山やすしにそっくりの顔の足立康史衆議院議員(それでもコロンビア大学のジェラルド・カーティス門下)とか、イケメンだがネット右翼に人気がある丸山穂高(まるやまほだか)衆議院院議員とか、自民党にとって使い捨てにできる便利な存在が多い。
ここ最近になって、関西の民主党系が衰えたことで、大阪では維新と公明の住み分けというのが徐々に出来上がっており、そのせいか、大阪の公明党議員にもネット右翼的な傾向が「感染」している面がある。これはもちろん、日本会議と公明党が急接近をしていることもあるだろう。その一例が、今年の三月の終わりの「日本会議系」の団体の改憲集会に初めて公明党から議員が参加した、という話である。本筋から離れるので詳しくは言わないが、公明党や支持母体の創価学会には国際派グローバリストの思想や日本会議に近い思想を持った政治家や支持者が増えているのだろうと思う。日本会議系の浸透作戦や、日本全体の右傾化の影響を公明党も逃れられない。
また、森氏は著書の中で長年、創価学会で関西を率いていた西口良三(にしぐちりょうぞう)という学会副会長の死が投げかける物が大きいと指摘している。西口が率いた関西創価学会は「常勝関西」と言われるほどの勢いがあったが、池田大作名誉会長の運転手から引き立てられた存在である西口は、池田大作の長年に渡る「不在」によって影響力を失っていった。創価学会の本部は池田不在の中で、秋谷栄之助前会長と佐藤浩副会長、谷川佳樹副会長のラインが主流派になっていたと、解説されている。もう一つの勢力が、原田稔会長や正木正明理事長のグループで、こちらに西口がつながっていて、自民党のカウンターパートは、二階や古賀誠だという話になる。そして、森氏によると佐藤浩副会長が菅義偉とつながっているのだというのである。西口は反維新だったが、新しい主流派は大阪都構想の住民投票を容認することで、橋下徹の衆院選出馬を抑止したが、それをサポートしたのが菅義偉だったという。維新はもともと自民党大阪府議団の離党組が作った政党で、もともとは安倍晋三に離党してもらって代表になってもらおうとしたこともあるほどに安倍にはシンパシーがある。安倍と橋下は「新しい歴史教科書をつくる会」の分派組織である日本教育再生機構という団体が大阪でシンポジウムを開いた時に知り合ったのだという。
安倍・菅がやろうとしているのは、改憲勢力を自民党の外に広げていくということである。「裏人脈」の方で解説したように、この二人は筋金入りの右翼政治家である。そして、安倍が総理を辞めて下野しているときにも菅が安倍を支えた。安倍は、東日本ではなく、関西圏で定期的にテレビに出るなどして東京では気づかれないように勢力を拡大していった。
「日本維新の会」を巡っては、一時は国政政党では橋下徹・石原慎太郎の二枚看板になったこともあったが、日本維新の会、みんなの党の勢力に小沢一郎系の別働隊の旧民主党議員の比例復活組の議員たちが加わって「維新の党」になった。ここで当時は「生活の党」(現・自由党)の代表だった小沢は維新を民主党にくっつけて自民党に代わる政治勢力と作るつもりだったようだが、2015年に内紛が有り、維新の党は、大阪系は菅義偉の思惑で独立し、おおさか維新の会になっており、維新の党は民主党と合併して今の民進党に至っている。ここを見ればわかるように、これは私の独自解釈だが、維新を巡る争いは小沢と菅の闘いでもあったのである。そして、小沢が今の段階は負けている。維新はひところの勢いは国政レベルではないが大阪圏では勢力になっている。それが、今度の東京都議選では民進党から櫛の歯が欠けたように次々と、民進党の都議たちが小池百合子の「都民ファーストの会」に流れていってしまっており、民進党は都内では地方選挙がやがてうまく戦えない状況になる。そうなると、民進党はまだ東北や北海道では強いものの、都市政党としては「都民ファーストの会」の国政政党版(ジャパン・ファースト?)が出てくることになり、かなりつらい状況になる。自民党への離党届を出した小池百合子都知事が、今度、国政政党を立ち上げ、野党系の誰か中堅の政治家を国政の看板に据えていくかどうかは今のところ何とも言えないが、可能性は6割というところではないかと思う。
安倍・菅が、この国会の終わりで「加計学園」の問題を逃げ切った場合、次は総裁選挙で麻生や石破、岸田を振り切って来年の9月の総裁選挙で再選できるか、というのが勝負になる。これと前後して、自民党は憲法改正も公明党、維新、小池勢力を抱き込んで実行してくると思う。天皇陛下の譲位問題も民進党の野田佳彦幹事長を抱き込んでうまくやった菅官房長官なので、改憲も多数派工作を仕掛けてくると思う。すでに言ったように、公明党にはマイケル・グリーンとも親しいグローバリスト系の議員が多くいるので、現在はかつてに比べて「平和の党」としての実質は変質していると思う。
余談だが、日本国内ではこれだけ騒がれている加計学園の獣医学部新設問題についての報道は、欧米の主要なメディアは報道はほぼ皆無である。森友学園問題は、日本の復古主義的な宗教教育という切り口が有り海外のメディアも踏み込みやすかったが、加計学園の問題は、国家戦略特区という規制撤廃、つまりアベノミクスの「3本の矢」をめぐる問題であり、以前も小泉純一郎や竹中平蔵の「構造改革」やTPP(環太平洋経済連携協定)について概ね好意的に報道してきた、海外の英字紙が取り上げる訳がない。グローバリストは宗教右派は警戒するが、竹中平蔵が諮問会議メンバーである国家戦略特区については批判するわけがない。
(3)保守人脈
これについては、すでに述べた「創生日本」の人脈そのものである。「きさらぎ会」の人脈もある。菅義偉は麻生太郎に対抗する安倍晋三にベッタリとくっつくことで巨大な権力を振るっているが、加計学園問題で女性記者から記者会見で厳しく追求を受けるとすぐにつらそうな表情になるなど、打たれ弱い側面もある。だからこそ、加計問題での獣医学部設置をめぐる前川喜平・前文部科学事務所官が、内閣府から文科省に「総理のご意向」という文書にが出されたことに告発に対しては、「怪文書」だと言ってみたり、前川前次官を国家秘密警察の情報網を使って監視して、読売新聞に「出会い系バー」の謀略報道をやらせるなど「裏人脈」を使う。
ところが、麻生太郎が自分の派閥である「為公会」と、旧高村派と谷垣派の一部(代表は麻生の子飼いだった、国会の裏方の経験が長い佐藤勉・元総務大臣)を糾合して旧竹下派の流れの「平成研究会」を抜いて、安倍晋三派の清和会(93人)に次ぐ60人超の大派閥になることが決まった。それと相前後して、菅義偉が率いている勉強会である「韋駄天の会」という衆議院当選3回までの若手議員20人位(メンバーはよくわからない)の名前がメディアにわざとらしく出てくるようになった。菅義偉は安倍晋三丸が沈没する時にはこの韋駄天の会という脱出ボートに乗って、きさらぎ会や他の政治家の方に擦り寄っていくのではないかと思っている。
菅官房長官は国連の人権委員会が選んだ特別報告者が、報道の自由や共謀罪法案に懸念を示したときには、記者会見でひときわ冷酷に門前払いの姿勢を内閣として取ることを表明したことが批判されている。安倍晋三と同じで「戦後レジームからの脱却」を唱える保守グループのメンバーである菅義偉にとって、連合国である国連からの批判はうっとおしいものでしか無いのだろう。
菅義偉は、かつて「竹下派七奉行」と言われたうちの一人である梶山静六官房長官(橋本龍太郎内閣)を1990年代後半にバックアップしていたことがある。森氏によると、自民党の総裁選挙に出た梶山を、菅と小此木八郎は支えた。結局、梶山は総裁選では小渕恵三に敗れたので、菅は無派閥になったが、やがて宏池会の古賀誠に拾われる。当時は加藤紘一派と言われた宏池会は、森喜朗内閣に対して、野党が提案する不信任案に同調するかしないかという決断を迫られていた。これが「加藤の乱」で、加藤紘一や山崎拓は、小渕恵三が過労で倒れて入院先の病院で死んだあと、小渕の後継者を密室で森に決めたことに反発して、不信任に賛成したい、という動きを見せた。この「加藤の乱」は当時の野中広務幹事長と古賀誠副幹事長に潰されていった。
そうこうしているうちに菅は小泉政権の次の総理を選ぶ際に、北朝鮮に対する強硬派で共通する安倍晋三に注目し、保守政治家として安倍を支えていくことになる。菅は安倍を北朝鮮問題に対する強硬姿勢を評価して支えるようになったことは重要だ。菅義偉の派閥の変遷を見ると、小渕派、宏池会とリベラル系に所属していたので、保守ではなく中道の政治家だと思ってしまいがちになるが、最近は地金がだんだん見えてきたように、ゴリゴリの保守である。安倍晋三のような「バカでも愛嬌がある」というわけではないので、本当に怖い。
森功氏によると、NHKの会長人事を決めているのも安倍晋三やその周辺の財界人である当時に菅義偉だという。なぜNHKかというと、第一次安倍政権の総務大臣だったときに、菅が「北朝鮮まで届くNHK短波ラジオ放送で、日本政府が拉致被害者の救出に向けて頑張っているという内容を拉致被害者向けに流せ」と要求したことがあるのだという。安倍晋三はNHKの慰安婦問題を扱うドキュメンタリーに中川昭一と一緒になって改変要求を突きつけたこともあった。そういう点で、放送業界に対する権限を行使することを可能にすることを狙っていたようだ。だから第二次安倍政権になると、籾井勝人(もみいかつと)のような右よりで政府の以降に逆らわないという会長を据えだ。こうして、NHKの報道番組を「検閲」したり、自主規制をさせていったりするようになった。安倍政権がNHKを政権の道具として利用するようになったのは、安倍・菅の計画がしっかりあったためだということなのだ。
(4)沖縄人脈
そして最後が沖縄人脈だ。 保守である安倍・菅は中国・北朝鮮に対する脅威に対抗するために米軍の沖縄基地を重視している。菅は師匠である梶山静六官房長官が橋本内閣の時代に始まった、沖縄中部の宜野湾市にある海兵隊の普天間飛行場の返還をライフワークにしているが、そのやり方は梶山よりもかなり強権的である。沖縄が繰り返し選挙で示す民意が普天間飛行場の北部名護市辺野古への移設ではないにもかかわらず、日米合意を盾に今も工事を強行している。
その移設の実現のために菅が作り上げているのは沖縄の財界人人脈である。森氏によると、菅は2012年暮れに第二次安倍政権が発足した数カ月後の13年4月、8月と菅は沖縄負担軽減担当の大臣として、沖縄を訪問しているが、何をしていたかというと財界やメディアとのパイプづくりだったという。8月の会合では当時の仲井真弘多(なかいまひろかず)知事は、元通産官僚だったから財界のコネはたくさんある。この中に「沖縄のナベツネ」と言われる「琉球放送」元会長の小禄邦男(おろくくにお)という人物も含まれていたという。沖縄の地デジ推進のときに総務大臣だった菅は沖縄のメディアとの接点を作っていたらしい。もう一人が沖縄の建設業界のドンである國場組の社長の国場幸一だったという。
国場家からは沖縄から1区の国場幸之助(こくばこうのすけ)が比例復活ながら選出されていて、コロンビア大学留学組(ただし語学留学)だ。その後、沖縄県知事になった稲嶺恵一の秘書をしている。国場はカーティスとも親しいようで、フェイスブックには勉強会に呼んで、「米国における次世代の日本の政治研究者の育成をお願いさせていただきました」と書いている。沖縄は今、翁長雄志知事の「オール沖縄」に賛同し、辺野古移設を反対する財界人グループもあるが、最近は辺野古問題の政府の強硬姿勢もあり、オール沖縄の勢いに陰りが見えている。冷酷に分析すると、オール沖縄が何を言おうと安倍政権は辺野古に基地を移設すると思う。名護の辺野古の移設先の住民たちにターゲットを絞って国が直接交付金を支払うなどの荒療治にも出ていた。森氏は菅が2015年に海兵隊の一部移転先のグアムを訪問した時に取材中だったが、その時に地元議員と面会する菅をホテルで出迎える人の中に、國場組の国場幸一の姿を目撃したことから、グアム移転利権にこの地元ゼネコンが絡んでいることに気付いたと書いているのが興味深い。
辺野古移設のために菅義偉が手がけてきたのは、辺野古移設の「強権発動」というムチとあわせて、辺野古以外の住民を懐柔するリゾート開発というアメの併用である。アメとしては、遊園地のユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)の誘致やディズニ・シーの誘致なのだという。リゾート地にカジノを併設するというやり方らしい。USJの誘致には「国家戦略特区」の指定までもくろんでいたらしい。
このようにカジノと基地の計画の影にも菅義偉の存在がある。
<まとめ>
このように菅義偉と安倍晋三は、どちらも切っても切れない関係にある。それは思想的に保守であることが大きく関わっている、というのが森功氏の『総理の影』という本から抱く感想である。菅義偉は、麻生太郎や宏池会の岸田文雄とは違う系統にあり、自らもいずれ派閥を作っていくかもしれないが、「影」である存在が、太陽の光を浴びることはできないだろう。安倍晋三が続く限りは菅も続くという一蓮托生の関係にあるのだろうと思う。かつての中曽根康弘の後藤田正晴、小泉純一郎と福田康夫というような、保守とリベラルの首相・官房長官の組み合わせではなく、安倍政権ではともに「日本会議」に所属する保守強硬派であることが、今の自民党をものすごく息苦しくしている原因である。