「1322」副島先生の仏教論の集大成『隠された歴史~そもそも仏教とは何ものか?』(PHP研究所)とロン・ポール米下院議員の『連邦準備銀行を廃止せよ(END THE FED)』(佐藤研一朗・訳、成甲書房)が発刊されました。 2012年7月29日

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 副島隆彦を囲む会の中田安彦です。今日は2012年7月29日です。

 夏の新刊です。米連邦準備銀行の廃止を訴えてきた、共和党の大統領候補者でもあったロン・ポール下院議員の集大成とも言うべき、”End The Fed”の日本語訳が発売されました。日本語の書名は、『ロン・ポールの連邦準備銀行を廃止せよ』(成甲書房)となっています。また、もう一冊、囲む会主催の講演会でも好評を呼んだテーマである、副島隆彦の仏教論の集大成である『隠された歴史~そもそも仏教とは何ものか?』(PHP研究所)も発刊されました。

 ロン・ポールは、今年の夏前の米下院で「連銀監査法案」を提案者として提出。共和党が多数である下院では可決されました。

(記事貼り付け開始)

米下院がFRB監査法案を可決、上院では否決の公算

 [ワシントン 25日 ロイター] 米下院本会議は25日、連邦準備理事会(FRB)の金融政策に関する監査を可能にする法案を賛成327、反対98の賛成多数で可決した。ただ、上院では否決される可能性が高いとみられている。

 FRB批判を展開してきたロン・ポール下院議員(共和党)が提出した法案で、採決では民主党から89議員が賛成に回った。可決には3分の2以上の賛成が必要だった。
 FRB当局者は法案について、FRBの独立性を脅かし、金融政策決定の政治化につながる恐れがあるとして強く反発してきたが、この日の採決では、金融危機への対処を通じて拡大されたFRBの権限をめぐり、透明性を高めることに超党派の支持があることが示された。

(貼り付け終わり) 

 中央銀行を、議会がどのように取り扱うかというのは極めて重要な問題です。今回の世界金融危機の元凶は米連銀であるとするのがロン・ポールです。一方で、もう一人の「ポール」として知られる、ポール・クルーグマンはこれに異論を唱え、『さっさと不況を終わらせろ』(End the Great Depression NOW!)という本を書いており、これも書店では並んで展開されています。この二人はテレビ番組で議論をしており、「連銀は経済を操作できる」とする立場のクルーグマンと「どうせ連銀は経済を操作することなど出来ない」とするロン・ポールの間で大議論が行われた。(その模様は本書の「訳者あとがき」に収録されています)

 また、仏教論のほうは、数年前に副島先生がインドを訪問したとき以来の大きなテーマをあつかっています。本当のお釈迦様の教えを理解したい人、思想や宗教は次々に歴史を重ねるに連れて多くの馬鹿馬鹿しいことを積み重ねたのだという真相をを知りたい人にはお勧めです。

 それでは、以下に、『連邦準備銀行を廃止せよ』の目次と、隠された歴史~そもそも仏教とは何ものか?』の目次を載せます。

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『ロン・ポールの連邦準備銀行を廃止せよ』
ロン・ポール/著 副島隆彦/監訳・解説 佐藤研一朗/訳

第1章:連銀という罪悪(文明の繁栄と衰退を決めかねないお金の質/健全な経済には持続可能で堅実なお金が必要だ/お金を独占する連銀を廃止せよ/「反・中央銀行」はアメリカの伝統/偽金づくりを続ける連銀)
第2章:連銀の「出生の秘密」(連銀の秘密のベール/金融不安の根源は部分準備預金制度になる/二度も廃止されたアメリカの中央銀行/共同謀議によって準備された連銀設立/連銀はロックフェラーとロスチャイルドによって作られた/常に減価する通貨/政府と民間の最悪な部分を併せ持った組織/連銀は景気変動を悪化させ巨大化させる/連銀が大恐慌を引き起こした)
第3章:お金の本質を教えてくれた私の先生たち(一セント硬貨にも昔はちゃんと価値があった/第二次世界大戦の戦費は通貨膨張によって賄われた/配給制や物価統制は地下経済を作る/旧約聖書にも出てくるお金の質の問題/デフレは脅威ではない/初めて聞いた銀行批判/悪貨は良貨を駆逐する/私の人生を変えたニクソン・ショック/金(きん)の値段をしきりに気にする連銀議長/ハイエクとミーゼスの思い出/金合法化運動/オーストリア学派の偉大な経済学者たち)
第4章:連銀と戦争(中央銀行が生まれ戦乱の時代が始まった/連銀が大恐慌を生み、大統領の介入が事態を悪化させた)
第5章:ゴールド委員会(ゴールドこそがお金なのである/金本位制を廃止して生き残った大国は一つもない/紙切れ世界通貨は成功しない/連銀の「思慮ある通貨政策」はツケの支払いを先延ばしすること)
第6章:連銀前議長グリーンスパンとの論争(金本位制の擁護者だったグリーンスパン/グリーンスパン対オーストリア派経済学/グリーンスパン対金本位制)
第7章:連銀現議長バーナンキとの論争(バーナンキがめざした「経済成長」とその誤算/弱いドルが国益だというバーナンキの陥穽/オーストリア学派とミルトン・フリードマンとの対立点)
第8章:金融政策に関心のない議員たち(金融政策に興味を示さない議員たち/連銀による政治干渉/世界をコントロールする人間をが通貨制度をコントロールする/政府の統制が闇経済を作る/危機を巧みに利用するエリートたち)
第9章:現在の経済危機(ガイトナー財務長官が白状した3つの失敗/人工的な低金利が経済危機を引き起こした/どうして日本は不況から回復できないのか/モラルハザードを生んだ連銀の低金利政策/金利の統制をやめ、市場に金利を決めさせろ/モラルハザードに加担した政府の諸政策/規制されるべきは中央銀行であり政府である)
第10章:なぜ連銀を廃止するのか(連銀はドルを破滅に導く/お金を刷り散らすことは、金貨の含有量を減らすのと同じ/人類の歴史が選んできたのは金本位制である/今こそ金の本質を理解しよう)
第11章:哲学からの考察(パーティの後には返済の期限がやってくる/お金で買える民主主義/富の再分配は合法的な略奪によって成り立っている/政治家に分け前を要求する企業家たち/自由市場を擁護することもできなくなった産業界)
第12章:憲法からの見地(合衆国憲法では金と銀だけが法定通貨/建国とともに始まった中央銀行設立論/合衆国憲法の第1条8節と修正条項十項/ダークサイドに堕ちた経済学者ケインズ/連銀の徹底した秘密主義/進歩派・プログレッシブも賛同する連銀監査)
第13章:経済学からの見地(若者たちが気づきはじめた偽りの経済体制/中央銀行による金融政策は社会主義である/インフレの定義を正しく理解する/規制を増やしても金融詐欺は亡くならない/中央銀行の通貨の引き下げ競争/銀行も他の産業と同じように自由競争で競争すべきだ)
第14章:リバータリアンとしての見地(自由の国アメリカという人類の壮大な実験は終りを迎えるか/潰れるものは潰す、それが市場の自浄機能/世界通貨は生まれないだろう)
第15章:こうして連銀を廃止せよ(古代アテネでも認識されていた通貨の質の問題/連銀を廃止すると何が起きるか/連銀廃止へのロードマップ)

【訳者解説】クルーグマン教授との両ポール対決/佐藤研一朗

(貼り付け開始)

[訳者解説]クルーグマン教授との両ポール対決       佐藤研一朗

ロン・ポールはなぜ、「連銀廃止」を叫ぶのか

 本書『連邦準備銀行を廃止せよ』End the Fed は、アメリカの中央銀行であるFRB連邦準備銀行(連銀 れんぎん)を廃止、解体することを目標にして書かれた本である。現在の中央銀行を廃止し、金(きん)に裏付けられた金本位制(ゴールド・スタンダード)を復活させろ、というのが著者ロン・ポールの主張である。

 ロン・ポールは1935年生まれで、現在77歳。アメリカの連邦下院議員である。そして2012年の大統領選挙に共和党内で立候補した大統領候補である。だからこの本は一介の経済学者や評論家が書いた本とは少し違う。言うならば、この本はロン・ポールの主張を世に知らしめ、現実の金融制度を変革するために書かれた政治闘争の宣言書なのである。

 今回2012年の選挙では、4年前の2008年の選挙時と比べ、ロン・ポールは大幅に支持者を増やした。多くのアメリカ国民が、ロン・ポールらリバータリアンの主張に注目した。それもあって、金融機関と軍事産業に買収されているメディアや共和党のエスタブリッシュメント(支配層)の選挙妨害があった。それは常軌を逸した激しさだった。

 2012年6月6日、ロン・ポールは支持者に宛てて電子メールを送った。「この8月に行われる共和党大会で、私は共和党の大統領候補を選出する全米の代議員(デレゲイト)の20%を確保しました。ところが残念なことに、大統領候補として選出されるだけの数には至りませんでした」という内容であった。共和党大会ではロン・ポールの支持者たちが最後まで絶対に諦めないでひと波乱起こすかもしれない。どのような結末を迎えるかは、見てのお楽しみだろう。

 重要なことは、全米のロン・ポール支持者が今回の大統領選挙の予備選挙(プライマリー)を通して、各州で共和党組織内に上手に入り込んだことである。茶会党(ティーパーティ運動)と呼ばれる人々の中心は、実はリバータリアンであった。彼らは共和党の内部に今もとどまっており、全米各州の党役員として共和党の政策に影響を与えるようになった。たとえばアイオワ州ではロン・ポールの支持者が州の党代表に選ばれて、実際に党支部の政策綱領(プラットフォーム)をリバータリアン寄りに変更している。かつてキリスト教右派(レリジャス・ライト)が共和党に乗り込んでいったように、リバータリアンたちも共和党内部に居座って大きな影響を与えている。

 ロン・ポールが要求している「議会が連銀を監査する」という政策が、今後、共和党の正式な政策として採用されることも充分にあるのである。FRB連銀というデタラメでやりたい放題の組織の真相を知ったら、アメリカ国民は今のままの連銀の存在を許さないだろう。それこそ世論が「連邦準備銀行を廃止せよ(エンド・ザ・フェド)」となる。

 ロン・ポールは、ポール・クルーグマン(プリンストン大学教授)のようなケインズ主義者で、ノーベル経済学賞を受賞した学者と互角にやり合える人物だ。現在のアメリカで政治・経済思想のディベートをリードしている現役の政治家である。「大きくなりすぎた政府と、勝手にお金を作ったり動かしたりしている連邦準備銀行が、アメリカ国民の自由と繁栄を侵害している」と訴えている。このリバータリアンの旗手こそはロン・ポールである(彼の詳しい経歴やリバータリアニズムについては前作『他人のカネで生きているアメリカ人に告ぐ』〔成甲書房、2011年刊〕を参考にしてください)。

 ブルームバーグでのクルーグマンとの激論

 ロン・ポールとポール・クルーグマン教授の討論が2012年4月30日、金融ニュースチャンネルのブルームバーグで放映された。「現在の景気後退(リセッション 本当は大不況)から脱するためには通貨をもっとたくさん刷って政府の景気対策としろ」と主張しているケインズ主義者(日本では「リフレーション派」と呼ばれる)のクルーグマンを、ロン・ポールは「それではまるで、金貨の金の含有率を引き下げて衰退していったローマ帝国と同じだ」と批判した。

 この論戦はアメリカ国内で大きな話題を呼んだ。拙訳を以下に掲載しておく。その映像は動画投稿サイトのユーチューブで見られる(http://www.youtube.com/watch?v=izXEWZ3rZek)。

 ***

司会の女性アナ:これまで、二つの異なる経済学派、すなわち「オーストリア学派」対「ケインズ主義」がライブ中継のテレビ番組で議論を交わしたことはありませんでした。今日は「ポール対ポール」と題してお二人をお招きしています。

 ロン・ポール議員は、財政保守派のパイオニアで、政府債務の削減を訴える、小さな政府の擁護者であり、ティーパーティ(茶会党)のヒーローです。対するはポール・クルーグマン教授。積極的に介入する政府(アクティブ・ガヴァメント)のスポークスマンで、「政府は債務をどれだけ積み上げても支出を増やすべきだ」と主張する経済的なリベラリズム(ケインジアン)の信奉者です。

 ようこそいらっしゃいました。まずずばり、核心ともいうべき二人の意見の不一致について伺います。ポール議員、「不況時には政府は借金をしてでも財政支出を増やすべきだ(そうやって景気回復させるべきだ)」というクルーグマン教授の主張を私たちはよく知っています。ポール議員は、クルーグマン教授が考えている政府の役割の、どの部分がおかしいとお考えですか? もしくは反対しているのですか?

ロン・ポール:私が彼の著作を読んだり聞いたりしているところでは、クルーグマン教授は、大きな政府を信じています。私は、小さな政府(最小限政府論)を信奉しています。私は何よりも個人の自由を重要視しているのです。私は政府によって経済管理されるのが大嫌いです。それが中央計画によるものでも、中央銀行の通貨政策によるものであってもです。もちろん連邦議会によるものでも同じことです。教授と私とは完全に異なる経済哲学を持っています。

 私は、市場は外部からの統制を受けない、自然な形で機能すべきだと思っています。金利は市場によって自然に決まるべきです。私は政府と中央銀行が勝手に金利を決めて固定することを望みません。金利の操作とは価格統制なのですよ。政府による賃金や物価の統制がうまくはたらいたことは有史以来一度もありません。金利とはお金の値段のことです。お金の価格統制をやってもうまくいくはずがありません。「一部の人間たちが適切なお金の総量や適切な金利を知りうる」というのは思い上がった考えです。いったいそのような知識をどこから仕入れたのでしょうか。

 これをハイエクは「見せかけの知識」と呼びました。彼らは分かっているふりをしていますが、実際には何もわかっていないのです。私たちが大統領や議員を選挙で選んで、経済をもっとまともに運営させるなどと考えること自体がおかしな話なのです。政府は経済を運営すべきではないのです。人々が経済を運営すべきなのです。

女性アナ:クルーグマン教授、では政府を経済の方程式から外すとどのような問題が生じるのですか?

クルーグマン:いいですか、通貨政策から政府を追い出すわけにはいかないのですよ。何もしないでほうっておくことなど……そんなことは出来ようがない。政府はいつでも、中央銀行もいつでも、通貨を管理しようとします。もしそれを避けようとするなら、あなたは百年前の世界に住んでいることになります。私たちは、通貨とは大統領の顔が描かれた緑色の紙切れ(ドル紙幣のこと)だけではない時代に生きています。お金とは、金融システムの結果であり、資産そのものなのです。私たちは何がお金であるのか、そうでないのか、境界線を引けなくなっています。明確な線引きはできません。

 歴史がはっきりと語っています。まったく管理されない経済は非常に不安定なものです。急激な景気後退の主因になりかねない。世界大恐慌は政府や連銀によって引き起こされたという都市伝説があります。ポール議員、あなたが広めているのかもしれませんが、それは正しくありませんよ。実際には市場経済が荒れ狂って起きたのです。あのような事態は過去の数世紀に何度も起きました。私は、市場経済や資本主義の信奉者です。私は自由市場が、限りなく自由であるべきだと思います。が、それにも限度があります。政府が経済に介入して経済を安定化させる必要があるのです。恐慌は資本主義社会にとっては好ましくありません。恐慌が起きないように、もしくは長期化しないようにする、それが政府の役割なのです。

女子アナ:ポール議員、今日はインフレについて議論しています。クルーグマン教授は、連銀がより前面に出るべきだという政策を提起しています。もう少し言いますと、今の経済をなんとかうまく回すためには、私たちには若干のインフレが必要なのだというご主張です。この主張にどう異議を唱えますか?

ロン・ポール:ハハハ(笑)。インフレというのは泥棒そのものですよ。お金を貯めている人から、その価値を盗むことです。もし通貨から2%、10%と価値が失われたら、それは非常に重要な経済の役割を毀損します。重要な経済の役割とは貯蓄のことです。貯蓄は市場にメッセージを送ります。資本(資金)が充分にあるという、誤ったメッセージです。資本が通貨量の増加から生まれると考えるのはまったく筋が通りません。クルーグマン教授は、私たちが百年前に戻りたいと考えていると批判しました。が、これは正確ではありません。私たちは当時よりももっとまともにしたいのです。しかし、教授の主張は1000年、2000年前に戻りたいという考えではありませんか? かつてのローマやギリシャのような国家が、自分たちの通貨を減価させたように。彼らはコンピューターは持っていませんでしたがね。連銀が経済を運営しなくてはいけないという考え方。これは非常に新しい……

(アナウンサーに遮られる)

男性アナ:1000年前に戻るというのは、どういう意味ですか、少し説明してもらえませんか?

ロン・ポール:ローマ帝国は自分たちの通貨に何をしましたか? それに対してビザンティン帝国は、金本位制を1000年間も続けました。彼らは戦争もせず、うまくやっていました。ところがローマ帝国は、最終的に自分たちの通貨を破壊してしまいました。ローマ帝国は金貨や銀貨を他の金属で薄め、増発したのです。その前には物価統制や賃金統制までしたのですよ。彼らは人々を騙すことで、富が生まれると思ったのです。今の時代に、10年後に子供を大学に入れるためにお金を貯めておこうと思ったら、たった1%か2%の利子しかつかない国債を買いますか? そんなもんじゃ、とてもじゃないが物価の上昇、もしくは通貨の減価についていけませんよ。それなら金を買ったほうがよほどいい。

クルーグマン:私は金の含有率を減らしたローマの皇帝の通貨政策の擁護者ではありませんよ。

女子アナ:ハハハ(笑)。

ロン・ポール:いや、あなたは擁護者ですよ。それがまさにあなたが擁護している政策ですよ。

クルーグマン:私は第2次世界大戦後のアメリカの経済政策の擁護者です。それまで経験したことのない、すばらしい経済発展を実現しました。あのころアメリカはマイルドなインフレ政策をとりました。金融機関に効果的な規制をかけました。この規制を撤廃したら、今回のような荒々しい事態(リーマン・ショックなど)が起きたのです。アメリカは財政政策が必要なときにはやりました。市場の理想をただ崇拝するのではなく、中産階級を育てる政策をとりました。それでも市場は私たちを今のような危機に追い込みました。私は、私の両親が豊かになったようなかつてのアメリカに暮らしたいのです。たくさんのことを復活させることができると思いますよ。

ロン・ポール:私の主張にはちゃんとした根拠があります。バーナンキ議長がフリードマン教授に謝ったのを覚えていらっしゃいますか? バーナンキは、自分たち連銀が大恐慌を長引かせたことを謝罪しました。私たちは積み上がった負債を清算しなくてはならないのです。第2次大戦後には、多くの負債が清算されました。その他に私たちは何をしたでしょうか。1000万人の兵隊が戦場から戻ってきました。大きな政府の信奉者であるリベラル勢力は、雇用を促進する政策をやりたがっていました。しかしその時間もありませんでした。そこで政府の支出を60%もカットしたのです。かつ、税金を大幅に減税しました。そして、それでやっと大恐慌が終わったのですよ。負債を清算したことが、私たち国民が職に就くことを可能にしたのです。

クルーグマン:ミルトン・フリードマンについて語らせてください。彼が経済学者向けに書いた論文を読むと、こう言っています。「連銀こそは大恐慌の原因である、なぜなら連銀が充分な仕事をしなかったらからだ」と。フリードマンの不満は、連銀が充分にお金を印刷しなかったことです。

ロン・ポール:そんなことは知っていますよ。

クルーグマン:バーナンキの「ヘリコプターからお金をばら撒け(そうすれば不況から脱出できる)」という比喩は、ミルトン・フリードマンの理論からきています。今のアメリカではフリードマンが通貨政策の最左翼(推進派)に位置しているのです。これはさすがにおかしいのではないですか?

ロン・ポール:この問題の核心は、連銀がお金を刷りすぎても、刷らなすぎても、結果は同じだということです。連銀は経済をうまく操作することなどできないのです。連銀の実績はとても自慢できるものではありません。連銀は創設された1913年から今日までに、ドルの価値の98%を減価させました。これは非常に不誠実なことです。人々から本来のお金の価値を奪っているからです。どうして人々が貯金をしてもたった1%の金利しかつかないのに、銀行はほとんどタダでお金を手に入れて、ぼろ儲けできるのでしょうか? どうして連銀は銀行や金持ちだけを救済するのですか? どうして住宅ローンで苦しんでいる人々を救済しないのか。もしあなたが貧乏人を助けたいというのなら、どうしてヘリコプターでお金を直接その人たちにばら撒かないのですか? そっちのほうがまだしも公平だ。

女子アナ:では処方箋は何ですか? 連銀は何をすべきでしょうか。私たちは連銀を持つべきではないのでしょうか? 連銀の役割は何ですか。フリードマンは連銀をコンピューターに置き換えたほうがいいと言っていましたね。

ロン・ポール:フリードマンに賛成します。私たちが今できることを説明しましょう。私は『連邦準備銀行を廃止せよ』という本を書きました。が、明日にでも連銀を廃止せよと言っているのではありません。それでは経済をいたずらに混乱させるだけです。要は、連銀のシステムに頼っている人が多すぎるのです。私が目指しているのは、連銀による通貨の独占を終わらせることです。私は通貨の競争を合法化したいのです。通貨の競争は国際的に見ればごく普通のことです。どうしてアメリカ国内でも金本位制や銀本位制との競争ができないのですか? どうして連銀は競争をそんなに恐れるのですか? もし私が間違っていたとしても、別にだれも損をしません。

クルーグマン:いまいち意味がわからないのですが……。

ロン・ポール:私はただ、通貨の競争を合法化したいだけなのです。独占を廃止すべきなのです。金や銀にかかっている今の税金を廃止すべきなのです。金貨の売却時にかかる消費税やキャピタルゲイン税をなくし、法定通貨法も撤廃すべきです。独占の陰に隠れて、人々にドルの使用を強制するのをやめさせるのです。金貨や銀貨を今のアメリカで使おうとすると、牢屋にぶち込まれるのですよ。

クルーグマン:私の理解はあなたとはちょっと違いますね。人々は、政府が他の決済手段を許さないからドルを使っているのですか? ちょっとおかしくないですか? 

ロン・ポール:他の方法を使えば、牢屋に入れられるのですよ。

クルーグマン:それは私が聞いていることとは違います。物々交換だってできるでしょう? 実際には通貨の過当な競争が起きています。現下の危機は、民間のお金の拡大によって起こされたのです。例えばリポ(repo 買い戻し条件付き債券)のような。これは少しも規制されていませんでした。これが破綻して、とんでもない危機に陥りました。

ロン・ポール:もし民間企業が詐欺をしたら、刑務所に行くのですよ。でも連銀が詐欺をはたらいても、何ら罰せられません。まったくのやりたい放題です。もし民間でお金の一種を発行する企業が詐欺をはたらいたら刑務所に行くのですよ。しかし政府が通貨を減価させて多くの人に損害を与えても、ビジネス・サイクル(好景気と不景気の波)を起こし、インフレや失業率の上昇を招きますが、それでもけっして罰せられません。

クルーグマン:私はバーナンキ議長には批判的ですが、彼に対して詐欺という言葉は使いません。

ロン・ポール:ハハハ(笑)。あなたは連銀に、もっとたくさんのお金を、すぐに刷ってもらいたいからですよ。

クルーグマン:もちろんそうです。

ロン・ポール:そんなことでは絶対にうまくいきませんね。私は充分すぎるほどの証拠を持っています。

男性アナ:クルーグマン教授、アメリカの国債残高に州債と年金基金を加えると、GDP(約13兆ドル=約1000兆円)とほぼ同じ規模です。私たちはこのあとどれほど借金を重ねることができるのでしょうか? ポール議員にも同じ質問をします。

クルーグマン:これといった具体的な数字はありません。もし借金を30%増加させることでこの恐慌から抜け出せるなら、私はそれを容認します。リスクがないとは言いませんが、この恐慌を抜け出すために何もしないのはかえって危険です。私はアメリカを日本の国債残高のレベル(GDPの2倍)にしたいなどとは思いません。まあそれでも、今のところはなんとか経済を回せているように見えます。ポイントは、アメリカはまだ崖っぷちには立っていないということです。ただ、ここで特定の数字を申し上げることはできません。

 ジョン・メイナード・ケインズが『雇用・利子および貨幣の一般理論』を書いていた当時、イギリスの国家債務はGDPの150%を超えていました。が、ケインズは財政政策による解決策を捨てませんでした。要は、借金を返済するために今支出を減らし始めたら、債務問題をさらに悪化させるということです。私は現在ほどの水準の債務を望みませんが、政府債務を減らしたいばかりに国家経済を破壊するのは健全な政策とは言えませんね。

ロン・ポール:クルーグマン教授は重要な事実を無視しています。アメリカは第二次大戦が終わった後、政府の債務と支出を大幅にカットしました。私が教授に同意する点があるとすれば、それは債務危機が起きるのはGDP比110%なのか、158%なのかは分からないということです。もしかすると明日起きるかもしれないし、もっとずっと先かもしれません。なぜなら、そこには主観的な要因があるからです。

 私たちはまだドルの危機に直面していません。それは世界がまだドルを信用しているからです。しかしそれではドルとアメリカ国債のバブルを大きくするだけです。しかし、もしあなたが、アメリカの国債がGDPに対してどれだけ増えようと関係なく、世界の人々にドルを受け取ってもらえると信じているなら、今のままお金を刷り続ければアメリカ人は働く必要すらなくなります。これが最悪なのは、政府の借金をさらに容易にすることです。

 連銀は最後の貸し手なのです。これは銀行や金融機関にとってだけではありません。選挙で自分たちが再選されるために人気取りをして、政府の支出を増やし借金を増やしまくっている政治家にとっても、連銀は最後の貸し手なのです。連銀は常にそこにいます。彼らには連銀が必要なのです。連銀があるから議員たちにまったく財政感覚がなくなってしまうのです。あなたがなぜ連銀を好きなのか、私にはよく理解できます。あなたは大きな政府を信奉していて、それがいつまでも維持できると考えているからだ。けれども、自由、市場、堅実なお金、戦争反対を信じる人々にとっては……〔訳注:「連銀は廃止すべき機関なのです」〕

(クルーグマン遮る)

クルーグマン:私だって自由や市場を信じていますよ。ただ通貨政策が恐慌を長引かせることになるとは思いません。

女子アナ:時間が来てしまいました。今日はここまでにしなくてはなりません。

 ***

 このテレビ討論は、硬派な金融経済ニュース番組としては空前の高視聴率を獲得し、ユーチューブでの閲覧回数は25万ビューという大きな注目を集めた。

 最後に私事を記させていただきたい。

 2011年3月11日の東日本大震災後に、私は故郷・仙台の被災状況を見るためにアメリカから一時帰国した。変わり果てた東北の海岸をスクーターでまわりながら、この本の翻訳を進めた。私ができることは何かと考えたら、それしかなかった。そのころ、大統領選の共和党予備選挙を懸命に闘っているロン・ポール議員を遠目に、私は翻訳を進めた。こうして本書を上梓できて、ひとりの日本人リバータリアンとしての責務を果たせたと胸を撫で下ろしている。

 監訳・解説者の副島隆彦先生が、私のへたくそな訳文に命を吹き込み、多くの読者に届く形にしていただいたことを心から感謝します。翻訳を進める上で的確なアドバイスをしてくれた副島国家戦略研究所研究員の中田安彦氏にも深く謝意を表します。家族、友人、恋人に励まされて、なんとかこの仕事をやり遂げることができた。この本が今後の日本に希望を与えるものになることを心から願うばかりである。

  2012年6月          佐藤研一朗(ニューヨーク州ロチェスター市にて)

(貼り付け終わり)

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『隠された歴史~そもそも仏教とは何ものか?』(PHP研究所)

第1章:お釈迦様の教えはどこへ行ったのか
(日本人がうっかり信じ込んでいること/マグダラのマリア?/観音菩薩、弥勒菩薩の「菩薩」とは何か/大仏は大日如来である/チベット仏教の思想/GODは神(かみ)ではなく天(てん)と訳すべきだ/お釈迦様と観音菩薩/ブッダとキリストが望んだ人類の救済はなかった/日本ではブッダと阿弥陀如来の像は区別がつかない/人類の文明は2500年前から下り坂/修行の主流は出家すること/カースト制度を激しく嫌ったお釈迦様)
第2章:2世紀頃、仏教にキリスト教が流れ込んだ
(ギリシャ、ローマの影響を受けたガンダーラ美術と仏教伝来/敦煌の仏教壁画/私が2000年にすでに書いていたこと/キリスト教の影響を受けた観音様はマリア様)
第3章:ブッダの言葉こそ本当の仏教
(釈迦=ブッダの一生/ブッダが必死で修行した町/「無益な苦行を行うことは、どうも無駄なことだ」/ブッダの死語250年を経て現れたアショーカ王/根元のところで仏教を理解する/輪廻転生は仏教思想ではない/仏教を教団化した極悪人デーヴァダッタ)
第4章:宗教の中心は「救済を求める思想」
(「人間は死んだら全て終わりであり、消滅し、無に帰る」/龍樹がつくった大乗仏教/救済を求める思想/救済を求めない自力としての禅宗)
第5章:救済思想の否定として生まれた禅宗
(中国人仏僧がさまざまな仏教の宗派を生み出した/「何者も信じない」禅の思想/『臨済録』の真髄/禅は徹底的に自力/密貿易の文書作成係だった日本の臨済宗の僧侶/禅僧の思想が行き着いたもの)
第6章:般若心経になぜブッダの名前は無いのか?
(262文字の般若心経/小室直樹先生による空の思想の解説/輪廻転生の否定/副島隆彦による般若心経の翻訳/大乗の「四諦八正道」(したいはっしょうどう)などについて)
第7章:「悪人正機説」を解体すると見えてくること
(「世尊布施論」(せそんふせろん)こそは日本に伝わったキリスト教の「聖書」そのものである/悪人正機説の本当の意味/親鸞の教え/キリスト(教)あるいはブッダ(=仏)教における「愛」/キリスト教と仏教は、同じである)
第8章:法華経を通じて見えてくる大乗仏教の正体
(法華経について/観音経は法華経の一部)
第9章:現代の阿弥陀如来の姿
(インドの神さまたち/大日如来はチベット仏教で密教の仏様/現代の阿弥陀如来は何になって生きているか―結論/ハイデガーの「最後の人論」とガルブレイスの「ゆたかな社会」/オタク(ナード)こそが人類の新しい進むべき道である/コミケに行ってわかった現代の阿弥陀如来)
第10章:道教とキリスト教
(『三国志演義』の義兄弟の思想/中国の道教も起源は伝来したキリスト教であろう/中国を侵略した悪いイギリス/阿弥陀、観音様を信じながら、「キリスト教を信仰している」と言った中国人女性たち/人類のあけぼのはバグダッドのシュメール人)
第11章:現代と救済
(空海と最澄/空海が言った弥勒下生(みろくげしょう)/キリストの復活と再臨)
あとがき
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