「1306」 爆弾のような破壊力を持った一冊!! 古村治彦著『アメリカ政治の秘密』(PHP研究所)を強力に推薦する。2012年5月13日

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 副島隆彦を囲む会の中田安彦です。今日は2012年5月14日です。

 今日は、私たち副島国家戦略研究所の古村治彦・研究員の初めての単著である『アメリカ政治の秘密~日本人が知らない世界支配の構造』(PHP研究所・刊)を紹介します。この本はアメリカによって終始コントロールされてきた日本政治についてその一番核心を知りたい人がまずもっていま読まなくてはならない本であると、私は推薦したいと思います。

 この本にはあまり難しいことが書いていない。重要なことだけが、極めて適切に簡潔に鋭く抉り出されている。そして、なぜ日本の政治が良くならないのかということについての重要な指摘がある。

 一般読者は、他の日本の政治に関する新刊書を読む前にまずこの本を真っ先に読むべきだ。そうすると、現在の日本の政治家たちが何故ここまで追い詰められているのかが手に取るようにわかる。その他の本はその後で読めばいい。そういった意味で「日本政治の正しい見方」を教えてくれる本である。

 本書では、小沢一郎という政治家にたいしてなされた個人攻撃、謀略国策捜査の背後にあるとされ、名前が取りざたされた民主党内部の大物政治家たちについても脇役としての扱いではあるが、もちろん書かれている。私は自著『日本再占領』の中で同じようにこの問題について取り組んだが、その際に解き明かせなかった部分を古村研究員は、彼が持つ日本政治史に対する深い知識を駆使することで、見事に解き明かしている。

 といっても、この本が日本の政治について述べているのは全8章のうち、第4章以後からである。前半の4章は、去年話題になった「アラブの春」の話題や、その中東政策をめぐってのアメリカのオバマ政権内部の政策論争について書かれている。古村研究員はアメリカの大学に留学中に、向こうの政治学を学んでいる。アメリカの世界介入の背後にある「民主化」(デモクラタイゼーション、強制的民主化)という戦後アメリカの外交の基本政策について、アメリカの大学で教えられる基本的な学説の内容を極めてわかりやすく噛み砕いて説明してあるが、そればかりではなく、その「民主化政策」がアメリカの世界覇権の維持拡大にどのように利用されたか、ということまで具体的な例をあげて説明してある。

 アメリカのこの強制的民主化政策の実施となったのが、ブッシュ政権のネオコン派らによるイラク民主化であり、アラブの春である。アラブの春では、アメリカのNGO(民間団体、非政府機関)がどのようにエジプトの民主化に介入し、外部からの政権転覆を演出したかということも詳しく述べられている。アメリカが他国の政治や体制に関与、介入するのは何も軍事的な手段だけではなく、それ以外にも民主化団体やNGOをその他国の国内外に作り上げ、そこに政府の資金を注ぎこむというやり方によっても行われる。

 いわば、これが覇権国アメリカの「ソフトパワー」というものだ。このソフトパワーによっておもいっきりに作り変え、改造されてしまったのが、戦後の日本という国だ。無論、このアメリカのソフトパワーには良い面もあるが、外圧を利用して国を変えることは、アメリカに主導権を与えることになり、国家構造の変革にアメリカの意思が入ることは否定できないのである。

 これまで、戦後、アメリカのソフトパワーによる日本改造というテーマについては、拙著『ジャパン・ハンドラーズ』や副島著『属国・日本論』、さらには欧米の文献としては、ジョン・ロバーツやグレン・デイヴィスの『軍隊なき占領』(講談社、新潮社)や松田武・著の『戦後日本におけるアメリカのソフト・パワー―半永久的依存の起源』(岩波書店)などがあり、最近ではオランダのジャーナリストであるカレル・ヴァン・ウォルフレンらが臨んでいるが、本書『アメリカ政治の秘密』は、それらの先行研究が光を当てきれなかった部分に光を当てている。

 すなわち、現在の民主党政権のキーパーソンたちはアメリカによってどのように、育成・コントロールされてきたのかというテーマである。これまでは自民党政権のキーマンたちがアメリカとどのように交わったのかということに対する研究がメインであり、民主党のキーマン、すなわち元々社会党やリベラル左派だった議員たちの研究は殆どなされていなかった。

 だが、本書ではジェラルド・カーティス、ケント・カルダー、リチャード・サミュエルズという3人のジャパン・エキスパート(ジャパン・ハンズ、ハンドラーズ)らの来歴を詳しく調査することを通じ、これらの対日本政策アドバイザーたちが、自民党系だけではなく、社会党にまでどのように浸透していったのかを解き明かしている。ここは今後もあらゆる研究者によって参照されなければならない箇所であろう。

 古村研究員は、ここでエドウィン・ライシャワーという知日派の日本大使について、物議を醸しそうな再評価を行なっている。これまではライシャワーは日本をよく理解したリベラル派の良心のような存在であるとされてきた。私も自著でそのように評価してきた。問題なのは、ライシャワー系の後の知日派たちだ、ということだ。

 しかし、本書では、ライシャワーこそが「アメリカの日本管理路線を敷いた人物」であるという評価がなされている。ライシャワーが駐日大使になったのは、「安保改定で日本国内の対米感情が悪化したが、それは米政府が自民党だけの声を聞いてきたからだ」として、日本の左派を含めた幅広い層との対話路線を打ち出したことによるという。

 このライシャワーの主張は、アメリカの外交問題評議会の機関誌である『フォーリン・アフェアーズ』に発表されたのだという。これがきっかけでケネディによって起用されたらしい。だが、おそらくはCFRの論文誌に自分の論文を公表することで、ライシャワーは、アジア文化交流を手がけていた、CFRで有力な地位を占めていたデイヴィッド・ロックフェラーに政策をアピールする狙いもあっただろう。

 古村研究員は、ライシャワーの「対話」路線こそが、現在の民主党幹部たちの取り込みの最初のきっかけを作ったと指摘する。ライシャワーは、社会党の指導者であった江田三郎にまで注目していたようだし、アメリカとの関係が深くなった民社党の西尾末広や曽根益(そねえき)とも会談を重ねたという。日本の労組にまで対話を広げたが、対話というのは相手の立場を理解することであると同時に、相手を説得し、取り込むということでもある。

 ライシャワーは安保全学連にまで対話を広げていたわけだが、ここからスタンフォード大学に留学した青木昌彦などの親米派の転向左翼が出てきているわけだ。そのようにして、ライシャワーによる対話=取り込み路線が始まってゆき、それがカーティスやカルダーらの次世代に引き継がれていくということになった。

 そのライシャワーの次に登場した日本管理班の“新星”で、現在も日本の政治家やマスコミ関係者に隠然たる影響力を持っているとされるのが、ジェラルド・カーティス(コロンビア大学教授)である。このカーティスは私は二度ほど講演で話をするのを聞いたことがあり、一度は質問を日本語で投げかけたことがある。TBSの『時事放談』などで日本の自民党の元長老政治家たちと並んで政治雑談を定期的に行ったりするので、ちょっとした政治オタクのひとはよく知っている名前である。最近になって、このカーティスが、1990年代後半当時、米中央情報局(つまりCIA)に対する情報提供者であったことが、元CIA関係者の遺した資料(クロウリーファイルズ)によって明らかになった。カーティスと並んで名前があったのは朝日新聞の前の主筆の船橋洋一である。

 このふたりとも、日米欧委員会(三極委員会)の長年の主要メンバーであり、カーティスなどは三極委員会の日本事務局長であった山本正が先ごろ亡くなった際には、上智大学のイグナチオ教会で行われた葬儀では山本に対して弔辞を読んでいる。今年の4月21日から例年通りホテルオークラで開催された三極委員会東京総会でも様々な層の日本のエリート層との交流を行なっているのを私は目撃している。小泉政権時代には、政策研究大学院大学の教授も務め、現在は笹川良一の流れをくむ「東京財団」で研究員をしながら米ニューヨークのコロンビア大学でも教えている。

 古村研究員がこのカーティスについて裏の裏まで暴いている。この本が現在の日本政界にも「爆弾的な破壊力」を持つとすればまさしくこの部分だろう。カーティスと交流を持つ現役議員の名前がざっと20人は列挙されており、この部分だけでも価値は高いが、重要なのはカーティスがライシャワーの後をついで行った野党人脈の育成が反小沢の菅政権の組閣につながったとする部分はまさに圧巻である。

 詳しくは述べないが、安東仁兵衛(共産党)―江田三郎(社会党)―江田五月(社民連)―菅直人・仙谷由人(シリウス)といった1980年代のロッキード事件以後の社会党右派の政治家人脈をカーティスは育成していたことが明かされている。

 常々、私はロッキード事件以後に反田中派の意味合いで、中曽根政権とは別に並行し、反ロッキード金権政治の旗印の社民連が組織的に日本におけるポピュリズムの台頭(アメリカの日本管理に対する自立運動)を左派からも起こさないようにする万全の「抑え」としてこの社民連―シリウスが育成されたのではないかという仮説を立てていた。しかし、古村研究員の調査の結果、なんとそうではなく、ライシャワー時代から連綿と続くアメリカの対日支配の一環であったことがわかった。なんという遠大な計画だろう。

 考えてみれば、山本正がカーティスとたちあげた、「下田会議」(http://www.jcie.or.jp/japan/pe_usgk/tous.htm)には、保守系だけではなく、社会党からの参加者もあった。 

 カーティスは反小沢の江田五月・前参議院議長とも仲が良い。江田はカーティスとの交遊録を自分のサイトで公表している他、カーティスだけではなく、三極委員会創始者のデイヴィッド・ロックフェラー本人とも関係があることがわかっている。

 また、これは古村氏は述べていないことであるが、江田五月はいろいろと暗躍があるようだ。小沢一郎のもとに結集しようとする政治家に直接恫喝を加えていたことが、民主党の森ゆうこ議員らの証言で明らかになっているが、江田五月はもともと政治家になる前は裁判官であり、弁護士出身の仙谷由人・元法務大臣・官房長官と並び、反小沢の急先鋒である。仙谷は小沢一郎の政治資金をめぐる裁判で検察官役を務めた指定弁護士3人らと同じ「第二東京弁護士会」の中のサークル「全友会」のメンバーであるという。

 学生運動や左翼リベラル政党のニューリーダーたちは、カーティスによって道を踏み外さないように、厳しく教育されてきたわけだが、権力を握るにいたり、仙谷由人・元官房長官を始めとして、率先してアメリカの意向を終始、忖度(そんたく)する、変わり果てた権力者になってしまった。カーティスは数年前に下田会議を復活させており、古村研究員が言うように「日本管理は世代を超えて行われる」ということなのである。

 先月の4月26日に、小沢一郎元民主党代表の政治資金団体「陸山会」をめぐる、政治資金収支報告書の記載をめぐる裁判の判決が東京地裁であったが、この日の午後、カーティスが反小沢一郎の本性をむき出しにした判決の解説を兼ねた記者会見を、東京・有楽町の外国特派員協会(FCCJ)で行なっている。この場所は1974年に田中角栄の金脈問題が燃え上がるきっかけを作った因縁の場所でもある。

 この中では、小沢が一審無罪になったこともあってか、小沢の復権に外国人記者たちの関心が集まったが、カーティスは判決が予想外の結果だったのか、終止不機嫌であった。

 記者会見の途中では、上で述べたカーティス自身のスパイ疑惑(CIAに対する情報調査員だった疑惑を指す)に対する質問まで飛び出した。私自身、この記者会見に参加していたが、カーティスが「陰謀論などゴミだ」と吐き捨てるように言ったことに驚いている。

(※詳しくは拙文を参照⇒http://amesei.exblog.jp/15782104/

 これ以外に、古村研究員はケント・カルダーとリチャード・サミュエルズという二人のアメリカの知日派についても詳しく研究している。本書で唯一、残念なのは、現在最も有名なジャパン・ハンドラーズの一人であるマイケル・ジョナサン・グリーンについての独立した章がなかったことである。

 というのも、これからの日本管理はカーティスだけではなく、軍事・安全保障を専門とするマイケル・グリーンの影響を見た上で行われるだろうからである。カーティスは東京財団に移籍しているが、すでに述べたようにここは笹川良一という保守政治のパトロンの系統にある。他に笹川平和財団(http://www.spfusa.org/)というシンクタンクがあり、ここが日米同盟についてのシンポジウムをマイケル・グリーンが日本部長を務めるアメリカのシンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)と連携して開催しており、いわば日本の次世代の政治家リーダーたちを「洗脳」する重要な場となっているからである。

 現在、カーティスが亡くなった山本正の影響が強い「政策研究大学院大学」から、東京財団に移籍しているのは、資金面で日本研究家を受け入れる余裕のあるシンクタンクが笹川系くらいしかなくなっていることではないか。日米関係は円熟といえば聞こえはいいが、アメリカのいうがままに日本が振り回されており、それどころかアメリカの意向を常に忖度し、先んじて対米従属的な政策を打ち出す日本の政財界が、環太平洋経済連携協定(TPP)や消費増税など、アメリカの求める政策を打ち出し、国民不在の政治が行われている。

 いろいろ述べてきてしまったが、日本の政治のウラ側だけではなく、本書ではアメリカが民主主義、民主化という道具を使って、どのようにアメリカの国益に都合よく世界を作り替えてきたか、そしてそれがどのような対象国の政治の失敗をもたらしてきたか、ということを理解するには本書『アメリカ政治の研究』は欠かせない本となるだろう。

 この本は、アメリカの日本支配の秘密を知りたい一般読者層にも読みやすく、それだけではなく、日本の大新聞記者、政治家、知識人に少なからず衝撃を与え、今後も語り継がれる一冊になることは間違い無いと私は断言したい。

 中田安彦拝

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<「まえがき」と「あとがき」>

まえがき

 本書『アメリカ政治の秘密』は、アメリカ外交を「民主化」「近代化」「管理」をキーワードにして読み解くことを目的にしている。そして、私は、本書を通じて、「アメリカは、デモクラシー、自由市場、人権と言った価値観で世界を都合の良いように変革し、管理してきた。日米関係も管理し、管理される関係であった」ということを検証していく。

 アメリカは、第二次世界大戦後、世界覇権国、世界の警察官として行動してきた。世界各国に介入し、戦争までも起こしてきた。こうしたアメリカの介入の際に常に唱えられるのが、デモクラシー、自由市場、人権といった価値観だった。アメリカはこうした価値観を、錦の御旗にして世界各国に介入してきた。また、冷戦期は、発展途上国には、「欧米諸国のような近代的な国になることが良いことだ」という近代化理論に基づいて介入をしてきた。

 アメリカの外交の基礎となっている民主化や近代化は一見、素晴らしいことのように思える。しかし、アメリカは、こうした誰も反対できない価値観を用いて、外国に介入する。そして、アメリカは、アメリカにとって都合の良い世界秩序や世界のルール作りをしようとしている。これは、現在、日本国内で議論となっている環太平洋パートナーシップ(TPP)を見ても明らかだ。ルールは守る立場ではなく、守らせる立場にある方が有利である。アメリカがデモクラシー、自由市場、人権を世界中に拡散しようとするのは、それがアメリカの国益に適うからである。

 そして、アメリカは、介入が終わり、民主化が達成された国々を、今度はアメリカの国益に資するように管理する。そのための人材をハンドラーズと言う。日本を管理する人材は、ジャパン・ハンドラーズである。本書第五章でも書いたが、日本管理路線が本格化したのは、ケネディ大統領時代のライシャワー駐日大使時代からである。それから半世紀経過した。その間、ジャパン・ハンドラーズは、日本の政界に幅広い人脈を作り上げた。それは自民党以外の野党にも広がり、現在の民主党にもつながっている。

 本書前半部では、アメリカ外交について分析していく。まず第一章で、オバマ政権の外交姿勢の変貌を分析する。オバマ政権の外交姿勢の変化を象徴するものが、北アフリカ諸国で起きた「アラブの春」である。そして、オバマ大統領の意向とは異なる外交を主張した政権内の人々にスポットを当てる。第二章では、アメリカ外交の目的である民主化について分析を試みる。民主化はアメリカ外交の基本理念であり、その実現のための実行機関があるということを示す。また、民主化についての政治核の諸理論も併せて紹介する。第三章ではアメリカ外交の潮流を見ていく。そして、オバマ大統領の前任である、ジョージ・W・ブッシュ大統領の外交をリードしたネオコン派について検証する。第四章では、アメリカの介入主義外交の歴史を遡(ルビ:さかのぼ)る。アメリカの介入主義外交を始めたのは、ジョン・F・ケネディ大統領である。ケネディ大統領の外交政策を検証する。

 本書後半部では、ジャパン・ハンドラーズについて掘り下げる。第五章で、アメリカの日本管理路線、ジャパン・ハンドラーズの創始者であるエドウィン・O・ライシャワーとライシャワーの路線に反対したチャルマーズ・ジョンソンを取り上げる。ライシャワーは、近代化という第六章、第七章、第八章では、それぞれ、ジェラルド・カーティス、ケント・カルダー、リチャード・サミュエルズといったジャパン・ハンドラーズを代表する人々を取り上げる。彼らの人脈や日本側のカウンターパート、それから彼らが何を研究していくかを検証していく。

 本書を全部読む時間がないというお忙しい方や、横文字の名前や単語が苦手だという方には、まず後半部からお読みいただきたい。後半部は、日本のこと、そしてジャパン・ハンドラーズについて書かれている。日本について書かれているので、馴染みのある話題がたくさん出てくるので、読みやすいと思う。そのあと、前半部のアメリカ外交についての部分を読んでいただいても、理解していただけると思う。もちろん、最初から順番に読んでいただければ、読者の皆さんに本書の内容をより理解していただきやすい。

 私は、アメリカ外交と日米関係に関して、一つのストーリーを読者の皆さんに提供したいと思って、本書を書いた。私は、アメリカ外交の裏にある凶暴さや狡猾さを描き出すことができたと思う。本書が読者の皆様にとって、お役にたつ本となることを今はただただ祈るばかりだ。

二〇一二年三月二日

古村治彦

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あとがき

 本書では、アメリカの外交をオバマ政権の外交から遡(ルビ:さかのぼ)って検証していった。アメリカの外交の基本にあるのは民主化である。そのために、外国に介入していく。この点では、ブッシュ前大統領時代の外交とオバマ大統領の外交は変化がない。アメリカは、デモクラシーや人権といった人類普遍の、そして不変の素晴らしい理念を錦の御旗にして、外国に介入し、管理しようとしてきた。

 アメリカはこれから衰退していく。衰退は既に始まっている。オバマ大統領は外交のアジア回帰と軍事費の削減を発表した。こうした動きはアメリカの衰退を示している。しかし、「腐っても鯛」ということわざもある。アメリカは世界覇権国の地位を失うだろう。しかし、それにはこれからしばらく時間がかかるだろう。また、アメリカが次の世界覇権国になると予想される中国の台頭をただ黙って見ていることはない。

 アメリカは世界覇権国の地位から完全に滑り落ちる前に、自分たちが錦の御旗として掲げるデモクラシー、自由市場、人権を世界に拡散しようとするだろう。なぜなら、こうした諸原理が世界で拡散していけば、アメリカが世界覇権国の地位から滑り落ちたとしても、しばらくはルールを設定した存在として、国際政治において重要な地位を占めることができるからだ。

 その一例が一昨年から昨年にかけて発生したアラブの春であり、日本の関連で言えば、環太平洋パートナーシップ(TPP)である。アメリカは、民主化という錦の御旗を掲げて外国の体制転換を行ってきたし、これからも行っていく。そのための人材や機関を整えている。それは本書の第2章で書いた通りだ。

 世界覇権国としてのアメリカの衰退は、日米関係にも影響を与える。アメリカの属国である日本管理が本格化して半世紀が経った。この五〇年間に日本の政界、官界、財界に張り巡らされた日本管理の人脈は、地下茎のようになってその全貌は見えない。しかし、ところどころに地上に顔を出しているところがある。

 噺は少しそれるが、以前にたけのこ堀りの名人がたけのこを収穫する様子をあるテレビ番組で見たことがある。名人は、地上にほんの先っぽだけを出したたけのこ(素人にはどこにあるのか全く分からない)を見つけて、「大体これくらいの大きさかな」と言って掘っていく。そして名人が言った通りの大きさのたけのこが出てくる。

 私が本書の後半部で行ったのは、政界たけのこ堀りと言える作業だ。日本政界に張り巡らされた地下茎が土の表面に顔を出している部分を発見し、それを掘り起こした。日本政界の地下茎が顔を出している部分、それは、首相動静の一行、政治家や学者たちの書いた本の一段落である。私は、日本政界のたけのこ堀りの作業をこれからも続けていきたいと考えている。

 「ジャパン・ハンドラーズによる日本管理なんてネガティブなことをぐずぐず言っていても仕方がない。前向きにならなきゃ」という意見を言われたことがある。しかし、こうした意見は、日本の現状から目を背けるだけの空元気、盲目的な突撃至上主義でしかない。

 ジャパン・ハンドラーズの作り上げた人脈の地下茎は、与党であり続けた自民党だけでなく、野党にも及んでいた。だから、二〇〇九年に政権交代が起き、民主党が政権与党の座についても何も変わらない。そのことを私は本書の後半部で書いた。ジャパン・ハンドラーズたちは、自民党が与党時代に既に野党にまで触手を伸ばしていた。そして地下茎のような人脈を形成していた。自民党だけでなく、民主党にまでアメリカからの毒がまわっている。アメリカは、日本で政権交代が起きても、実質的には何も変化せず、うまく管理ができるように準備を整えていた。それは、現在の民主党政権の体たらくを見れば明らかだ。

 日本の政治家や財界人がアメリカからの管理を脱することは大変難しい。しかし、アメリカの衰退が始まっているこの時期から少しずつでも属国の立場からの脱却を準備すべきだ。そのためには、まずは日本の現状を正しく理解することだ。現在の政権与党の民主党までもアメリカに管理されているのだという認識をもっと多くの日本人が持つことだ。今からでも日本がアメリカの属国であり、エリート層には毒が回っているのだということを認識を国民が持つことが重要だ。

 私にとって初めての単著となる本書を出版するまでには多くの方々のお世話になりました。

 まず、私の師である副島隆彦先生にはお忙しい中、貴重な時間を割いて、原稿に目を通し、指導していただきました。また、序文を書いていただきました。心からお礼を申し上げます。

 また、副島国家戦略研究所(SNSI)の先輩研究員である中田安彦氏には、原稿を読んでもらい、多くの助言と励ましをいただきました。中田研究員と話し、整理した内容を基にして原稿を書き上げることができました。ありがとうございました。

 その他にも家族や友人の皆さんにも支えてもらいました。記して感謝します。

 最後に、PHP研究所の大久保龍也氏には、原稿が出来上がるまで辛抱強く待っていただきました。大久保氏のご寛容があり、素人同然の私が本書を出版することができました。深く感謝申し上げます。

二〇一二年三月一日

古村治彦

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副島隆彦による序文

 本書、『アメリカ政治の秘密』の著者である古村治彦(ルビ:ふるむらはるひこ)氏は、私が主宰する副島国家戦略研究所(SNSI ルビ:エス・エヌ・エス・アイ)の研究員である。

 古村氏は、二〇〇一年から六年間、アメリカのロサンゼルスにある南カリフォルニア大学の大学院に留学し、本場でアメリカ政治学を学んできた若手学者である。彼がこれから日米の政治分析やアメリカ政治研究で活躍してくれることを私は強く希望している。

 今回、古村氏が、これまでの調査研究の成果をまとめて、初めての単著『アメリカ政治の秘密』として、PHP研究所から出版していただくことになった。私も大変喜んでいる。私は、才能のある若い知識人をたくさん育てていくことが、私の責務であると考え活動してきた。私は、副島国家戦略研究所(SNSI ルビ:エスエヌエスアイ)を主宰し、集まってくる「才能はあるが恵まれた環境にいない」若者たちを育てている。古村氏もその一人である。SNSI(ルビ:エスエヌエスアイ)は、中田安彦氏や古村氏に続いてこれからも若い人材を世に出していく。

 本書、『アメリカ政治の秘密』は、私が二〇年前から確立した「帝国―属国理論」とアメリカ政治研究の系譜に連なる本である。私の主著『属国・日本論』(五月書房、一九九七年)と『世界覇権国アメリカを動かす政治家と知識人たち』(講談社+α文庫、一九九九年)及びSNSI筆頭研究員の中田安彦氏の『ジャパン・ハンドラーズ』(日本文芸社、二〇〇五年)で、日本における現在のアメリカ政治研究、日米関係研究は、飛躍的に進歩したと自画自賛している。

 本書、『アメリカ政治の秘密』は、私や中田氏の研究の枠組みを用いている。だが、著者独自の視点からの新事実の発見と分析がふんだんに盛り込まれている。

 この一〇年でようやく、日本国民の中に「日本はアメリカの属国である(残念だ)」という考えが受け容れられるようになった。普通の人たちでも「日本はアメリカの属国だから仕方がないんだ」と平気で口にする。

 私が一九九七年に『属国・日本論』を出した頃は、「日本はアメリカの属国である」と書いても、冷たく黙殺され鼻で嗤(ルビ;わら)われた。もしくは激しく嫌われて、反論される反応しかなかった。それが、一般国民に間でも、「日本属国論」がじわじわと浸透しつつある。しかし、知識層だけでなく、日本の大テレビ局五社(それにNHK)と大新聞社五社の合計一一社は、今も私を徹底的に無視している。

 「日本属国論」が浸透するようになった理由は、やはりアメリカの日本管理が杜撰になり、これまでのような温和さと鷹揚さがなくなったからだ。アメリカが日本を上手に管理し、操るだけの余裕がなくなった。かつ、日本人の側も「何かおかしいな」という疑問を抱くようになったからだ。

 アメリカは、長年、日本をうまく管理してきた。一九九〇年代までは、日本全体がアメリカに“洗脳”されている状態だった。

 選抜され、フルブライト奨学金でアメリカの大学に留学させてもらった人々は、アメリカに育てられて日本に帰ってくる。そして、日本の政界、財界、マスコミなどで重要なポジションに就く。彼らは、頭からどっぷりとアメリカの行動を何でも支持する。そして今もアメリカの国債を、円高対策のためと称して、日本国民の血税を使って一回あたり何兆円も購入する。この状況が現在でも続いている。

 しかし、アメリカも相当に行き詰ってきた。アメリカは世界覇権国(ルビ:ヘジェモニック・ステイト)として世界で君臨してきたが、覇権国(=帝国 ルビ:エムパイア)としての国内だけでなく、世界の経営もうまくいかなくなってきている。だから、主要な周辺属国のひとつである日本を良い気持ちにさせながら管理していくという方法がなかなか取れなくなった。その結果、日本に対して露骨な、そして凶暴な本性を垣間(ルビ:かいま)見せるようになってきた。

 その表れのひとつとして、日本からアメリカへの留学生の数は、一九九七年に史上最高の四七〇七三人を記録した。それ以降、減少し続けている。二〇一〇年には、わずか二一二九〇人となり、一九九七年と比べ半減している(日米教育委員会の統計)。それに比べてアジア諸国からのアメリカ留学が一段と増加し日本だけが減少している。このアメリカの衰退は、そのまま現在の世界経済の状況をも映し出している。

 ハーバード大学のジョセフ・ナイ教授は、日本に来るたびに嘆いている。「ハーバード大学に留学してくる日本人学生の数が激減している。これは日米関係にとってマイナスになる」と。ナイが学科長をしているハーバード大学ケネディ行政学大学院(通称“Kスクール”)には、日本の各省庁から多く留学していた。が、その数が激減している。ハーバード大学のウェブサイトで(http://www.hio.harvard.edu/abouthio/statistics/studentstatistics/academicyear2010-2011/)で調べると、中国や韓国からの留学生が数十人いるのに対して、日本からの留学生の数はわずか一二名だ。日本からのエリート留学生が減ると、ナイは、二つの面で困る。

 まず、自分たちの食い扶持の収入が減る。アメリカの大学経営は、一般企業に劣らずシビアな競争の世界である。二つ目は、自分たちの意思に従って、日本を管理する、日本側の人材が減少してしまう。これまでのように立派に“洗脳”して日本に送り返して、重要ポストに就け、アメリカの政策を東アジアで貫徹する仕掛け(仕組み)そのものが弱体化していく。

 アメリカにとって海外からの留学生は、一つの産業である。世界中の若者が最新の学問を学びに、また英語を身に着けるためにアメリカにやってくる。アメリカの大学にとって留学生は、多額のお金を落としてくれる大事なお客様なのである。最新の統計によれば(http://www.fulbright.jp/study/res/t1-college02.html)、アメリカへの留学生の数は約七二万人である。そのうちのおよそ三分の二の四六万人がアジアからの留学生だ。上位の三カ国は、中国、インド、韓国である。日本は第七位となっている。

 学費と生活費で、アメリカへの留学生一人当たり年四〇〇万円(約三万ドル)くらいかかる。すると、日本人留学生が最盛期の約四万七〇〇〇人から約二万二〇〇〇人に減少すると、単純計算で約一〇〇〇億円の減収だ。アメリカの留学産業にとって、この減収は大きな痛手だろう。

 本書は、前半部では「アメリカの外交の手口(世界各国への介入の仕方)」を、後半部では「アメリカの日本管理(日本の計画的な操り)の手口」を取り上げている。前半部で明らかになったことは、二〇一〇年末から二〇一一年にかけて発生した中東諸国の「アラブの春」が、アメリカ政府(とくにヒラリー・クリントン派)によってあらかじめ周到に準備されていたものであることだ。

 後半部は、日本に対するアメリカの最新の管理の諸手法を解明した。

 これらを本書『アメリカの秘密』は、必ずしもジャーナリズムの手法に寄らず学問的な緻密さで白日の下に明らかにした。読者諸氏のご高配を賜りたい。

二〇一二年三月六日
副島隆彦
 
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