「2075」 映画『ギャング・オブ・アメリカ』(2021年)を評論する(第2回・全2回)

副島隆彦です。今日は2023年8月1日です。『ギャング・オブ・アメリカ』の感想の続きです。

※前回の「「2062」 映画『ギャング・オブ・アメリカ』(2021年)を評論する(第1回・全2回) 2023年6月3日」は下記アドレスでお読みください↓
https://www.snsi.jp/tops/kouhou/2390

ラスベガスはその後うまくいって繁栄の時代が来るんだけど、もう今はラスベガスも終わりましたね。ラスベガス・サンズをつくって親分になってこの間死んだ、日本にもカジノを持ってくると言って騒いでいた大親分、サンズの親分のシェルドン・アデルソン(Sheldon Adelson、1933-2021年、87歳で死)が、シンガポールのビルを三つ建てた上に船を横に並べたようなビルをつくって、その地下で今もカジノをやっているんですけどね。これ、最初はうまくいったんだけどもう駄目ですね。

シェルドン・アデルソンとドナルド・トランプ

それからマカオにも進出して派手にやっていたんだけど、2013年から習近平(しゅうきんぺい、Xi Jinping、1953年-、69歳)が権力を握って、反腐敗闘争というので、中国共産党幹部たちに対する激しい締めつけをやるわけです。300万人ぐらいが捕まったと言われて、幹部たち17万人ぐらいがもう、何というか、懲役20年みたいになりましてね。恐らく3000人ぐらいは死刑になったと思う。それぐらい激しい反腐敗闘争で中国共産党は気合いが入っちゃったもんだから、それまではいっぱいマカオに来て、それこそ1億円、10億円みたいな掛金でばんばん、ばくちを張っていた中国人の民間企業の大物経営者たちと、それとつながっている中国の各省ごとの共産党の幹部の連中がたくさん捕まったんです。

習近平

処罰された役人の数

それでマカオが元気なくなりましてね、もうけが出なくなったんで、シェルドン・アデルソンのラスベガス・サンズは潰れたみたい。要するにもうラスベガスはだめなんですよ。

もう一つウウィン・リゾート(Wynn Resorts)というのがいたんですけどね。これもサンズと争って、ウィン・リゾーツが日本に来る予定だったんだけど、何か先にとん挫してしまいましたね。つまりラスベガスの時代が終わったんですよ。

もう一つは、ニューヨークから南100キロのところにアトランティックシティ(Atlantic City)というのがあるんだけどね、ここもニュージャージー州が許可を出してカジノを大々的にやらせたのね。腐敗の限りやる。そのときにも、初期のころから、1970年ぐらいから、トランプはそこにビルをつくっていましたからね。1棟目は買い取って、あと2つつくった。

アトランティックシティの地図

街の様子

それで、最初の奥さんと大げんかになったんだ。それは別に新しい女をつくったからね。最初の奥さんのイヴァナ(Ivana Marie Trump、1949-2022年、73歳で死)と大げんかになって、その娘がイヴァンカ(Ivanka Marie Trump、1981年-、41歳)ですからね。イヴァンカが大統領選挙に出る可能性が今もあるんですよ。

ドナルド・トランプとイヴァナ・トランプ(1988年)

左からドナルド・ジュニア、イヴァナ、エリック、イヴァンカ

戦後すぐは、アメリカが戦争に勝ったわけで巨大な繁栄が生まれた。世界のGDPの7割ぐらいがアメリカにあったと言われています。だって他の国々は敗戦国ですからね。日本も焼け野が原、ドイツもヨーロッパも焼け野が原でね。アメリカの巨大な繁栄があって、その裏側で、さっき言った売春と麻薬、あとばくちですね、この三大産業をマフィアたちがやる大繁栄の時代がありました。

一方で取り締まりもあります。1952年にバチスタ(Fulgencio Batista y Zaldivar、1901-1973年、72歳で死)政権というのがキューバにできた。これは軍人上がりなんだけど、腐敗し切った軍人でね。これがマイヤー・ランスキーとつながって、どんどん来てくれということで、キューバの首都・ハバナに巨大な麻薬とカジノの歓楽街ができるわけです。もの凄かったみたい。

バチスタ(左)とランスキーとランスキーの妻

そのときにマイヤー・ランスキー自身がつくったホテルがあってですね、映画の中に出てきました。ホテル・ナショナルというホテルが一番立派なホテルで、これは最大格式のホテルらしいけど、もう1つつくったホテルのホテル・リヴィエラは1959年のフィデル・カストロ(Fidel Castro、1926-2016年、90歳で死)たちの共産主義革命があって全部接収された訳で、それを補償、お金の支払いをしろというのをマイヤー・ランスキーの孫娘が今もやっているらしい。

カストロ

キューバ政府は知ったこっちゃないですからね。でもやっぱりカストロたちの革命というのは素晴らしかったというか、凄かったんでね。マフィアを全部一掃して、叩き出した。その後ソ連と組んで、ソ連から弾道ミサイルを持ってくると言ったら、ケネディたちが大きく反抗して、それでできなかったんで、キューバは貧乏な状態がずっと続きます。今も頑強に反アメリカ、反ヤンキー帝国主義をやっている訳です。ヤンキーというのは本当はユダヤ人という意味なんだけど、北アメリカ帝国ですね。

南米のヒスパニック系のね、ラティーノ(Latinos)というんだけど、連中が今でもアメリカからの支配に怒っている。それで、今まさにニカラグア運河というのが今度できたら、パナマ運河の北のほうにね、どかんと穴があいたら、北アメリカ帝国のバックポンド、裏の池なんですけど、カリブ海諸国に中国産品ががんがん来るようになる。今、南米はベネズエラを中心にできているから、ぐるっと船でブラジルからアルゼンチンまで中国の力が伸びてくる。これが一帯一路と言われているんだけどね、今、そういう時代に入っています。

ニカラグア運河

それでキューバの大繁栄のときにマイヤー・ランスキーが巨大なお金をつくっているんだけど、恐らくそれは全部、推定2000万ドル、たかが2000万ドルというからたった20億円なんだけどね。でもそれは1959年の話だから、今はその100倍でしょう。ね。だから2000億円なんだ。それぐらいのお金を財産として、マイヤー・ランスキーは持っていた訳です。

キューバで会議を開いたときには、ラッキー・ルチアーノが1回来ているんだそうです。ラッキー・ルチアーノは、これ、デポーティド(deported)というんだけど、アメリカ政府から国外追放処分を受けているんですね。それでシシリアに帰った。帰ってもう二度とアメリカに来るなということです。このラッキー・ルチアーノが大親分ですが、ただし、何かキューバに来ているというんですよ、マフィアの大会議のときに。それでもまだ追放処分になっているんだけどね。それはまだカストロ革命の前ですからね。

だから南米人たちの泥臭い、ラテン系の底抜けに明るい、朝から晩まで踊りを踊っているようなあの人たちの感じには、日本人はちょっとついていけないんだけど、それともつながっている訳です。だから結局、フロリダ半島のマイアミまで死ぬ気で撤退したわけですね。

キューバからアメリカにいっぱい亡命してきていたキューバ人たちがたくさんいるんですよ。彼らは激しい闘争力があって、それこそチェーンソーで人間の体を引き裂くとか切り裂くみたいなことを平気でするような奴らで、アメリカのマフィアの中でも一番怖がられているのが、そのキューバ難民系の、要するに南米系のマフィアたちなんですよ。

だからマフィアという言葉はもう時代がかった美しい言葉になってしまってね、この30年間ぐらいはもう、何ていうか、ヒスパニック系の暴れ者のチンピラたちなんだけど、朝起きたら死体が転がっているのを、白人の警察官たちがパトロールして死体を拾って回るみたいなね、そういう国になってしまった訳です。それと黒人系の暴力団とが抗争をする。要するに最下層の連中が殺し合いをやっている訳で、いわゆる昔のイタリア系の白人たちの最下層の、最下層といったって白人ですから、その人間たちの世界はもう終わっている。また中国系マフィアなんかもいるんだと思う、カリフォルニア州にはね。

だから時代が変わっているんですよ。そして昔マフィアだった連中が表に出てきて、一番上のほうで立派な人間みたいなふうになってしまっているのが今の世界です。気質は、裏側は、本当のところは変わらない訳ですね。日本の自民党の裏側が汚いというのと同じことで、財界人になり、きっと立派な大企業になっているけど、昔はやくざ者から始まっている経営者たちってかなりいるんですよ。

一番大きな話は、戦争中にラッキー・ルチアーノがイタリアのマフィアの親分で、労働組合じゃないんだけど、沖仲士たちを束ねていた。そうすると、もう本当のことを言うと、アメリカからの輸送船団がね、Uボートというんだけど、ドイツの潜水艦に見張られていまして、いつ、何時にどこを通ると分かっていたんですね。それで、Uボートが10隻ぐらいで、10メートルぐらいある大きな魚雷でドカンドカンと輸送船団をいっぱい沈めたんですよ。

Uボートの攻撃を受けた輸送船

そしたらもうイギリスが困るわけね。そんなことが続いたら戦争に負けてしまう。だから情報が漏れていると気づく。輸送船団の船員たちはイタリア系ですからね、イタリア系の船員たちから情報が漏れている。イタリアのムッソリーニ()政権、ファシスト政権に漏れている。それを何とか食い止めてくれということで、アメリカ政府自身が、最初にアメリカ海軍情報部が動いたんだけど、アメリカ海軍情報局(Office of Naval Intelligence、ONI)というのかな、それが動いて、ラッキー・ルチアーノやマイヤー・ランスキーを取り込むんです。協力してくれとね。そのかわりに、酒と麻薬と売春、賭博を許すとなった。これが戦争中の大きな決断なんです。1940年ぐらいだな。戦争が終わるまで。それで情報漏洩を食い止めるんですよ。

ドイツのUボートが優秀で、ドイツ海軍の提督だったものすごく優秀な将軍がいるんです。この人は、立派な海軍将軍で、ヒトラーに逆らったわけでもないんだけどね。立派な海軍提督だったカール・デーニッツ(Karl Dönitz、1891-1980年、89歳で死)です。デーニッツ元帥が偉かった。彼が潜水艦隊を率いて攻撃して戦果を挙げたんです。

カール・デーニッツ

イタリアのムッソリーニ政権から輸送船団の情報が来ていたわけね、アメリカの輸送船団の動きがね。アメリカ政府はマフィアを使ってそれを封殺したわけです。それのためにラッキー・ルチアーノがアメリカ政府と協定を結んだわけね。

さらにアメリカ陸軍第七軍というんだな。陸軍第五軍はマッカーサーが率いて日本に来たのね。それで朝鮮戦争を戦ったのね。陸軍第七軍というのはパットン将軍が率いたんですけどね、ブラッドレー将軍とね。第七軍がイタリアのシシリー島から上陸するんです。シシリーから上陸して、ローマまで北上していくわけね。

連合軍のシシリア侵攻(1943年)

その途中で、イタリア系のコーザ・ノストラをつくっていたアメリカのイタリア系のマフィア系の人間たちが、反ムッソリーニの運動でアメリカ軍に大きく協力するわけね。そしてアメリカ軍が占領した町から町、都市から都市の市長みたいになるのが、大体イタリアマフィア系の人たちなのね。それが「ゴッドファーザー」の中に描かれていた美しいシシリーの光景なんですね。

日本でいえば、日本の暴力団みたいなやつらが政府に協力したというのと同じことです。それで同じことだと私が書いて、今でもものすごく恐れられ怖がられていることなんだけど、何で山口組の田岡一雄(たおかかずお、1913-1981年、68歳で死)三代目が神戸の沖仲士組合から全国制覇をしたかというのは、アメリカ政府がそれを許可したからなんですよ。

田岡一雄

まだベルトコンベアもコンテナもないから、沖仲士が船の荷物を運ぶわけで、日本に1万隻ぐらいアメリカの船が来ていたんです。輸送船から小さな船までね。朝鮮戦争(1950-53年)をやっていたから。1950年からたった3年間ぐらいなんだけど、その後の占領軍、アメリカ軍の輸送問題もあるから。日本にもアメリカ軍がいますから、日本のほとんどの大きな港が全部、アメリカの戦艦以外の輸送船もたくさん来ている訳です。それの沖仲士を田岡一雄に全部束ねさせたのね、横須賀も横浜も佐世保も全部ね。そのときに、山口組がアメリカによって大事にされたわけです。

このことを私が最初に書いたら、何か今も恐れられているんですね。それは言っちゃいかんことになっているんですよ。だから本なんかに書くと削られるんです、そこのところはね。ただ、私の映画評論の中にはずらっと載っています。

だから日本で同じことが起きていたということですよ。だから山口組の全国制覇というのが70年代ぐらいまで続いていた訳です。だけどそのうち、もう止めろということになって。だからアメリカ本国のラッキー・ルチアーノはシシリーに強制送還されたと。アメリカ政府から裏切られたと思っている。アメリカ政府のために自分たちイタリアマフィア、コーザ・ノストラは協力してやったのに、俺はこんなひどい目に遭ったと思っている訳ですね。

だから政府とか政治家、国家官僚たちのほうがいつも強いんです。なぜなら法律を握っているからね。法律で変えられて、法律の力で捕まえることができるからなんですよ。そこが、このやくざ者映画を私たちが見るときに本気で考えなきゃいかんことなのね。

ヒトラー支持の集会が潰されるのは本当なんですよ。でもね、ニューヨークにドイツ系移民たちがいますから。彼らは本当にヒトラー主義者で、ナチスのアメリカの党をつくっていた。映画に出てくるあんなふにゃふにゃした男たちじゃありません。でぶっとした、どかっとした、ものすごく大きな、大柄な男たちでね。ドイツ系の移民ですから。

ところがそれに、マイヤー・ランスキーたちポーランド系ユダヤ人、自分のことをポーラック、ポーランドと言っているのはユダヤ系だという意味なんです。そしてドイツ人に差別されている。日本人と朝鮮人の関係と一緒なんです。それが集会に殴り込みをかけたのは真実です。

しかしそれはね、あんなたくさんナチス主義者のドイツ移民たちがぼろぼろに負けたというほど甘くありません。殴り合い程度です。人殺しまで行ってないと思う。ただ、抗争をやっているから、殴り合いを激しくやっているので、その後すぐ警察が来る訳ですね。死人も出ていると思うけども、ドイツ系のナチス、ヒトラー主義者も負けてないんですよ。強かった。あんなもんじゃない。

それはね、アメリカ政府も後押ししたと思う。そうでしょ。だから警察もマイヤー・ランスキーたちを利用したんですよ。そのユダヤ人の暴力団をね。そしてヒトラー主義者たちを襲撃させたんですよ。しかしそれは政治運動ですからね、いわゆるやくざ者が捕まえてきて惨殺するとかそういう問題じゃなくて、真実はただの殴り合いです。かつ、どっちが強いとか弱いという話じゃなくて、政治運動に利用されただけなの。

イギリスにも、ナチス運動をやっているヒトラー主義者はいた。それが『日の名残り』(1989年)という、日系人のカズオ・イシグロ(Kazuo Ishiguro、1954年-、68歳)が書いた小説に出てくる執事の役の人が雇われていたお屋敷の貴族なんです。徹底したヒトラー主義なんです。イギリスはドイツと組むと、そういった貴族なんです。有名な人です。

それと、実はあれ、エドワード8世(Edward VIII、1894-1972年、77歳で死)ですね。イギリス国王を1年間だけやった人がいてね、その人はドイツと仲よかった。なぜならイギリス国王は1917年にウィンザー家と名前を変えるけど、その前はドイツ系の王様ですからね。ドイツから来た王様だから、実はドイツ人なんですよ。エリザベス女王なんかも、ね、ドイツ系なんです。ザクセン=コーブルク=ゴータ家()というんです。ドイツ系で、ドイツと仲よかった。ウォリス・シンプソン(Wallis Simpson、1896-1986年、89歳で死)というアメリカ人の女と結婚したことで退位してね。で、ジョージ6世になって、それの娘がエリザベス女王です。

エドワード8世とシンプソン夫人

だから大きくは政治家に利用されたというか、国家に利用された人たちであって、麻薬と売春とお酒と賭博は、裏側で一番管理しているのは国家なんですよ。だから公営ギャンブルというのが認められていて、競馬と競艇と、それから競輪とね。何ていうんだろう。モーターボートは競艇だけど、あとはオートバイクを使ったオートレースがある。

パチンコは公営ギャンブルじゃなくて、あれは遊技というくくりです。パチンコ法という法律はあるのかな。風営法というのがありますね。ただ、お金を渡していいということにはなってないんだけど、最近はカードみたいになって公然とやっている。もう許しているんだ。公営ギャンブルという形で、日本にもカジノをやるという動きがあって。

で、今回、IR法というのは1回潰れたんだけど。何か総合リゾート法というんだろう。Integrated Resort Promotion Actというんだよね、総合リゾート法はね。法律はあるのに、要するに1兆円のお金をシェルドン・アデルソンが持ってこられなかったんですよ。大きなビルを建ててカジノ場をつくる資金をね。

それは、さっき言ったように、中国の反腐敗運動があったから、アジアで儲けられなくなった。あとラスベガスがもううまくいってないんだね。ということが日本に影響している訳ですね。そうした大きな流れで物を見なきゃいかん。

あと、オーストラリアの競馬主、競馬協会を持っているやつで、シドニーのオペラハウスの横のカジノ場を経営している悪いのがいて、そいつとシェルドン・アデルソンが組んで日本に来る予定だった。それが潰れましたと。それだけのことです。これで終わります。

(終わり)

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