[649]72年ぶりに米(コメ)先物が上場

松尾 雄治 投稿日:2011/08/08 15:42

松尾雄治です。今日は2011年8月8日です。

Bloombergから貼り付けます。

(貼り付け始め)

72年ぶりコメ先物、サーキットブレーカー発動-基準値5000円超え (1)

【記者:宋泰允、高田亜矢】
  8月8日(ブルームバーグ):コメ先物取引が8日、日本で72年ぶ
りに復活した。東京穀物商品取引所によると、取引開始時点から値幅制
限の上限を超えたため、売買を一時中断する「サーキットブレーカー」
が発動されている

  午前10時30分現在、東穀取で上場されている11月限、12月限、1月
限の3限月は1万8000円台と、取引所が事前に取引の基準値としていた
1万3500円を大幅に超えている。

  東穀取の渡辺好明社長は同日の会見で、コメ先物が強い買い気配で
始まったことについて「先の需給がタイトと皆が判断していると思う。
それを織り込んでこの値段が出ていると思う」と述べた。

  市場では、低迷する国内商品先物取引の活性化の切り札として期待
が集まるが、東京電力福島第一原発事故による放射能汚染問題のコメへ
の波及が懸念されている。

  会見に同席した東穀取・米穀運営委員会委員長の茅野信行氏(国学
院経済学部教授)は、福島原発事故によるコメ汚染の影響について「今
マーケットが一番気にしているのは、原発事故の影響で市場に出回って
くる米が少なくなるということだ。原発の問題を深刻に捉えてこれが値
段に反映している」と指摘した。

  先物取引は、将来の価格を予想して売買契約を結び、現物の受け渡
しや反対売買で決済する。価格は酷暑や冷害などで変動するリスクがあ
るため、先物市場は生産者や流通業者などにとってリスクヘッジ(保険
つなぎ)の場となる。

  ただ、関係者が気をもむのがコメの放射能汚染問題だ。農水省は3
日、コメの放射性物質の検査方法について14県を対象に収穫前と収穫後
の2段階で検査する方針を発表した。1キロ当たり500ベクレルを超え
たコメには合併前の旧市町村ごとで出荷制限をかけることになっている
が、実際どの程度の影響が出るのか、結果が出ないと分からない。

  20年以上にわたって国内外の商品先物市場を分析、現在は商品先物
取引業務を行うフジトミのチーフアナリストを務める斉藤和彦氏は、「
原発の問題のリスクは高いと思う」と述べ、東穀取や関商取が目指す取
引量を達成できない可能性があると指摘する。東穀取の渡辺社長は、市
場が成功するにはスタート段階で1日平均5000枚程度の取引成立が必要
だとみている。

             様子見

  コメは、一般に春に田植えが行われ秋に稲を収穫する。農水省総合
食料局消費流通課の皆川浩貴氏によると、昨年は、全国の作付面積の6
-7割を占める早場米の収穫が8月上旬に宮崎県で始まり、福島県や宮
城県など東北地方では9月下旬から10月上旬まで行われた。

  コメ卸業者を中心に190の組合員で構成する全国米穀販売事業共済
協同組合の木村良理事長は1日、コメ先物取引に参加するかどうかは「
検査を終え収穫を済ませてから判断するしかない」と述べた。年間5万
トン以上のコメを購入し、「すき家」や「なか卯」など4000店舗以上の
外食チェーンを展開するゼンショー・グループの藤田直樹広報室長もコ
メ先物市場については「様子見をする」という。

  福島第一原発事故の影響で基準値を超える放射性セシウムが検出さ
れ、出荷停止される食品が増えている。汚染は福島県などの一部野菜、
神奈川県や千葉県などの茶葉などのほか、7月以降は、福島、岩手、宮
城、栃木の4県の牛肉の出荷も停止されている。

             「起爆剤」

  東穀取が取引の対象にするのは、茨城、栃木、千葉県産のコシヒカ
リ。関商取は石川、福井県産のコシヒカリ。実際の受け渡しは東北・関
東産などそれ以外のコメも認めている。2年間の試験上場中に十分な取
引量が見込まれ、生産・流通に著しい支障を及ぼす恐れがなければ、正
式上場の手続きに入る。

  フジトミの斉藤氏は、特にコメ卸業者が「最近の傾向で現物を持た
なくなった影響で、ヘッジ目的で先物市場を使うニーズがある」とみて
いる。商品投資顧問、JSCの重本貴樹チーフ・マネージャーは、「福
島原発事故が収束していないので、その分価格変動要因が増えることに
なる。それに注目して投機資金が入ってくるかもしれない」とみる。

  東穀取は現在、トウモロコシや一般大豆、小豆など7商品を上場し
ており、コメ先物を含めると8商品になる。7月の1日当たりの総出来
高は7044枚で、その内、トウモロコシが3729枚で最多だった。1日当た
りの総出来高は1996年4月の17万4677枚が過去最高でここ数年は減少傾
向にある。国内商品取引所会員で構成する日本商品先物振興協会の多々
良実夫理事(豊商事会長)も、取引高が低迷する業界の「立ち直りの起
爆剤になると思う」と、実需家や投資家の参加に期待を示す。

  穀物貿易に携わるコンチネンタル・ライスの茅野信行代表によると
コシヒカリなどのジャポニカ米の先物取引は東穀取と関商取がすでに上
場している小豆と同様、「他にはどこの国も上場していない」日本唯一
の商品だという。7月5日付日本経済新聞は、独自に開発した「ロジャ
ーズ国際商品指数」(RICI)の構成品目に東穀取の小豆を組み込んで
いる米国の著名投資家ジム・ロジャーズ氏とのインタビューを紹介、同
氏がコメ先物に興味を示していると報じている。

            全中は反対

  農林水産省によると、2009年度はコメの出荷量は624万トンで、農
業協同組合(JA)グループのルートで流通しているのは約6割。全国
農業協同組合中央会は7月発表した談話で、主食であるコメに「投機的
なマネーゲームである先物取引の試験上場を認可したことは大問題」と
批判、取引には組織を挙げて参加せず、本上場阻止の運動を展開してい
くと表明している。

  一方、年間150トンから200トンのコメを生産し、将来はコメの輸出
も考えているという秋田市の農業生産法人、藤岡農産の藤岡茂憲社長は
「今までは農協の買い取り価格が指標のようになっていたが、需給バラ
ンスに関係なく価格を出す根拠のない値段だった」と説明。「それが買
い取り直前にならないと分からないので規模の大きい生産者にとっては
非常にリスクが大きい」と述べ、先物取引を検討しているという。

  JSCの重本氏は、「もしコメ先物取引が失敗すれば、東穀取は、
東工取との統合の話に戻らざるを得ないだろう」とみている。

(貼り付け終り)