「1871」 『本当は恐ろしいアメリカの思想と歴史』(副島隆彦著、秀和システム)が発売される 2020年3月24日
- HOME
- 「今日のぼやき」広報ページ目次
- 「1871」 『本当は恐ろしいアメリカの思想と歴史』(副島隆彦著、秀和システム)が発売される 2020年3月24日
SNSI・副島隆彦の学問道場研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)です。
本当は恐ろしいアメリカの思想と歴史 フリーメイソン=ユニテリアンは悪魔ではなく正義の秘密結社だった!
2020年3月26日に副島隆彦先生の最新刊『本当は恐ろしいアメリカの思想と歴史』(秀和システム)が発売される。アメリカとヨーロッパの近代(1500年代から始まる)500年間をキリスト教プロテスタント内の各宗派の動きと争いを読み解き、理解するという内容になっている。
プロテスタント諸宗派の系譜(ユニテリアンは会衆派に入る)
『本当は恐ろしいアメリカの思想と歴史』、63ページから
各宗派間の争いがヨーロッパ近代を作り、アメリカを作った。ローマ法王、ローマ教皇、更にはイギリス国王(イギリス国教会[アングリカン・チャーチ]の神聖体[ホーリー・ボディ])に抗い、合理的な精神(迷信を信じず、利益追求と性欲を人間の自然な営みと考える)を持った人々が命を懸けて行動した結果が現代社会ということになる。
本書の中で特に重要な大発見は、英国国教会とはまだ妥協できるプロテスタントの一派であるカルヴァン派(Calvinism、ユダヤ思想返り、その現代版)と、英国国教会に徹底的に抵抗する ユニテリアニズム(Unitarianism)の違い と 争いが極めて重要ということになる(本書77―80ページ、103―110ページ)。
「合理的(rational、ラショナル)」ではあるが、社会改良を目的とする政治活動に進むユニテリアンと、金儲けに邁進するカルヴァン派は、お互いを嫌い合っている、と、私にとっては、「目から鱗(うろこ)が落ちる」発見だ。
この本の最重要のキーワードは、だから「ユニテリアン(Unitarian)」だ。ユニテリアニズムの信者たちがアメリカを作り、現代まで続く近代西洋の500年 の 思想の諸原理を作り上げた。ユニテリアンと呼ばれる人々についての簡単な定義は、以下の通りとなる。
(引用貼り付けはじめ)
チャールズ一世(CharlesⅠ、1600―1649)という王様が、プロテスタント(新教徒)の活動をものすごく邪魔した。いじめた。殺した。だから、プロテスタントの一部はオランダに逃げた。彼らは「もう絶対に国王と英国国教会(こっきょうかい)の言うことを聞かない」という人たちだ。この人たちをユニテリアン(というキリスト教の一派)という。(17―18ページ)
(引用貼り付け終わり)
このユニテリアンはキリスト教から外れていき、突き詰めた果てに「神(ゴッド)の存在を疑う」というところまで行きついた。そして、このユニテリアンたちが政治活動家となって社会改良運動を始め、イギリスでは王政廃止論を主張するようになった。
「共和制(republic、リパブリック)」とは「王様の首を切り落とす」ということだ。この動きはイギリスで言えば、1642年からの清教徒革命(Puritan Revolution、ピューリタン・レヴォルーション)となった。この清教徒革命を実行したのがユニテリアンだ。まったく同時期(1620年)に、北米大陸に渡っていった人々もユニテリアンだ。この人々は(1)初期ユニテリアンである。
『本当は恐ろしいアメリカの思想と歴史』、57ページから
その時から約150年後、の 1776年に、アメリカがイギリスから独立した。アメリカ独立革命を主導した人々、日本でも有名なジョージ・ワシントンやベンジャミン・フランクリン、トマス・ジェファーソンはユニテリアンだった。彼らは、(2)第二期ユニテリアンである。複雑なのは、この独立戦争を資金面で支えたのが、カルヴァン派の商人たちであったということだ(彼らは、英国王側のイギリスからの遠征軍にも資金を出していた)。
私たち日本人は「アメリカとイギリスは、言葉は同じ英語だし、第一次世界大戦、第二次世界大戦で同盟国だったのだから、仲が良いのだろう、それが当たり前だ」と考える。しかし、ユニテリアンという、(イギリス王室から見れば)「王様の首を切り落とせ」、「不合理な権威を振りかざしてバカが威張るな」という、ユニテリアンの過激な思想でできた国がアメリカだ。
だからこのアメリカとイギリスが、互いに相容れるはずがない、ということが、この本ではっきりと分かった。 本書118ページから124ページまでに、「王政廃止論」(Abolition of Monarchy、アボリション・オブ・モナーキー)が、詳しく説明されている。
『本当は恐ろしいアメリカの思想と歴史』、23ページから
ユニテリアンは、キリスト教内の革新派であるが、英国国教会(アングリカン・チャーチ、英国王を神聖体と仰ぐ)の枠組みから外れ、それを否定した。この政治的にも徹底した過激派であるユニテリアンが、北米大陸に上陸して出来上がった国(王様のいない国、共和国、リパブリーク)がアメリカだ。ここでまたびっくりするのは、1776年のアメリカ独立革命(American Revolution)が、13年後の1789年のフランス革命(French Revolution)の勃発を誘発したということだ。以下に引用する。
(引用貼り付けはじめ)
アメリカ独立戦争から13年後に起きたのがフランス革命だ。この2つには深いつながりがある。アメリカ独立の指導者たちが、フランス貴族たちを焚(た)きつけて、あれこれ思想的にも煽動して、それでフランス革命が起きたのだ。(137ページ)
(引用貼り付け終わり)
アメリカ独立革命を主導したユニテリアンたち、その中でも、ベンジャミン・フランクリンとトマス・ジェファーソンは、フランス国内でも人気が高かかった。彼らが成し遂げた革命に、フランス貴族たちは熱狂し、共和制へと突き進み、最後には自分たち自身が、断頭台(ギロチン)にかけられて首を切られて死んでしまったという事実に、人間とは一体どれだけ先が見えない生きものなのか、と考え込んでしまう。
『本当は恐ろしいアメリカの思想と歴史』、137ページから
1776年のアメリカ独立革命から80年後に出てきた、(3)三世代目のユニテリアンが、ラルフ・ワルド・エマーソンだ。エマーソンが、ヨーロッパで全くの同時代人である、カール・マルクス、ロシアの文豪レフ・トルストイ、少し後のマハトマ・ガンディに大きな影響を与えた。この事実が。第3章で、詳述されている。エマーソンは、社会主義、農地解放、ヒッピー運動、自己啓発、スピリチュアリズム(の肯定)、非暴力主義、社会改良運動など現代にもつながる思想の源流の人物だ、ということが説明されている。
これを言い換えるならば、「ユニテリアンが、現代の世界中の様々な思想の、源流になった」ということになる。
『本当は恐ろしいアメリカの思想と歴史』、195ページから
その他にも、この紹介文ではとても書ききれないが、第2章の「アメリカ史を近代西欧の全体史から捉える」には、トマス・ホッブス、ジョン・ロック、ジャン=ジャック・ルソーの啓蒙思想、フランス革命がドイツに与えた影響と、ヨハン・フィヒテ、フリードリヒ・ヘーゲル、ヨーハン・ヴォルフガング・ゲーテと文化都市ヴァイマールの大繁栄の理由、といったことが、一つのつながり、連鎖として描かれている。
まさに、「目から鱗が落ちる」16世紀からこっちの、西欧近代史の全体像の理解となる。簡単に言えば、「無意味で不合理な権威や体制を覆して人類を進歩させ、新しい体制を築こう」という熱気と熱意、しかしその裏にある狂気が支配した時代を、私たちは理解することになる。
私が、特に、なるほどと思ったのは、「日本の今の皇室制度を作ったのはイギリスだ」という事実だ。以下に引用する。
(貼り付けはじめ)
明治になって日本の皇室を作ったのはイギリスだ。神格化された天皇陛下を、イギリスが作ったのだ。明治維新(明治レストレイション、1868年)は、イギリスの王政復古[レストレイション](1660年)の真似だ。そのものだ。イギリスに国教会という宗教があるから、自分たちイギリスと同じように、東アジアの日本の王も、神聖体(生き神さま)にせよ、とイギリスがしたのだ。現人神(あらひとがみ)の創作者は、大英帝国である。(62ページ)
(貼り付け終わり)
昭和天皇(裕仁=ひろひと)と、今の上皇(死んだら明人=あきひと=天皇になる)は、それぞれ皇太子時代にイギリス訪問、今上天皇(死んだら徳仁=なるひと=天皇になる)は、イギリスのオックスフォード大学に留学している。天皇皇后の最初の外国公式訪問は、今年4月のイギリス訪問の予定であったが、延期となった。
宮内庁は、今も天皇即位後、初めての外国公式訪問は、イギリスという姿勢を崩していない。「現人神の創作者は、大英帝国だ」という指摘を敷衍(ふえん)すると、更に、「戦後1946年1月の昭和天皇の人間宣言は、イギリスの敗北、アメリカの勝利」ということになる。
雅子皇后が、ハーヴァード大学出身であること、今上天皇が、天皇即位後、初めて国賓(こくひん)として迎え、皇居内を特別に案内したのが、ドナルド・トランプ大統領夫妻だった。この事実も考えると、イギリスとアメリカの間に位置する属国・日本 の皇室、という姿が浮かび上がってくる。
下に貼り付ける「あとがき」は、書籍になる前の、生(なま)原稿を、特別に掲載します。書籍版とどのように違っているか、を是非、本を読んで見比べて下さい。3月26日発売開始で、首都圏の大型書店の店頭に並ぶと思います。国の大型書店に並ぶのは、週末以降になると思います。
(貼り付けはじめ)
はじめに 副島隆彦
この本を読むと、あなたは、大きく歴史が分かるだろう。ヨーロッパとアメリカのこの500年間の歴史が、鷲づかみするように分かる。
欧州と米国のこの500年間が、私たち人類(人間)の世界の歴史を引っ張ってきた。私たちは欧米白人の近代文明に引きずられて生きてきた。
明治(1868年)からこっちの日本の知識層は、ヨーロッパの文物(ぶんぶつ)を取り込むことで必死だった。イギリス、フランス、ドイツ、イタリアの文学と思想を翻訳し輸入することに疲れ果てるほど全身全霊を打ち込んだ。
ところが、アメリカの研究をほったらかした。アメリカはヨーロッパの後進国だろ、と軽く見た。そのことが、その後の日本の文化の成長に影を落とした。現在は、これほどに強くアメリカの影響と圧力を受けていながら。テレビのニューズはアメリカの表面を映すだけだ。
ヨーロッパとアメリカの2つをガシッとつないで、私たちに大きく分からせてくれる本がない。粗(あら)っぽくていいから私たちは、欧と米を結合させて、大きくその全体像で理解したいのである。このことに私はずっと不満だった。
だから、私はこの本で、まずヨーロッパの恐ろしい国王たちの姿を次々と印象深く描いた。私たちが名前ぐらいは知っている有名な王様と、政治家たち数十人に光(スポット)を当てて、どこまでも分かり易く、「ああ、そういうことだったのか」と読者に思ってもらえることを目指した。
そして〝チューダー朝の恐ろしい王たち〟から逃げ出して北アメリカに渡って植民(コロナイズ)した、初期のプロテスタントたちを描くことから第1章を始める。
「本当は恐ろしいアメリカの思想と歴史」なのである。冒頭のヨーロッパで断頭される王と王妃の絵、に戻って再度じっくり見てください。ここに凝縮される欧米白人500年の歴史の真実なのである。
覆(おお)い隠されている事実がたくさんある。だから私たち日本人に大きな「ああ、本当はそういうことだったのか」の真実が伝わらないのだ。
私は、一冊の本に書き込めるだけを書いてこの本に載せた。これでもかなり舌足(したた)らずだ。あんまりにも突拍子(とっぴょうし)もないことを、前後の脈絡(コンテクスト)なしで書くと、眉唾(まゆつば)ものだと思われるから、普通に知られている当たり前のことも、そば粉のつなぎ のように、各所に入れてある。
=====
目次
はじめに
第1章 17世紀の王殺し(レジサイド)とピューリタニズムの真実
イギリスに戻って清教徒革命に参加したピルグリム・ファーザーズがいた
「リパブリーク」(共和政)とは、王様の首を切り落とせ!ということ
ユニテリアン=フリーメイソンがアメリカをつくった
丘の上の町
メソジストとはどういう宗派(セクト)か
誰がアメリカ独立革命戦争の資金を出したか
アメリカに渡ったキリスト教諸派のセクト分析
「会衆派」がユニテリアンの隠れ蓑
指導者がいない「会衆派」
社会福祉の運動になっていったオランダ改革派
本当はユニテリアンとカルヴァン派の間に激しい闘いがある
バプテスト系の人たち
「非戦」思想のメノナイトとクエーカー
「ペンシルヴァニア・ダッチ」と呼ばれる人々のルーツ
第2章 アメリカ史を西欧近代の全体史から捉える
全体像で捉える能力がない日本のアメリカ研究
カルヴァン派とユニテリアンは対立した
カルヴァン派はユダヤ思想戻り
ピルグリム・ファーザーズという神話
現代につながる王政廃止論
ピューリタンの中心部分がユニテリアン
アメリカ独立戦争を戦ったのはユニテリアン
アメリカとフランスのリパブリカン同盟
啓蒙思想としてはホッブズが一番正直
「自由」とはユダヤ商人たちの行動
ヴァイマールはユダヤ商人を入れて繁栄した
なぜ「近代」がオランダから始まったか
ゲーテ小論
偉大な皇帝だったカール5世
ブルボン朝の初代王、アンリ4世は賢く生き延びた苦労人
男女の愛への讃歌が民衆に受けた
「ケンカをやめよう」と言ったモンテーニュとモンテスキュー
第3章 アメリカから世界思想を作ったエマーソン
すべての世界思想はエマーソンに流れ込み、エマーソンから流れ出した
環境保護運動、ベジタリアン運動の祖もエマーソン
エマーソンは過激な奴隷解放論者は容れなかった
土地唯一課税の理論をつくったヘンリー・ジョージ
社会主義思想までもユニテリアン=フリーメイソンから生まれた
アメリカ独立戦争は成功した革命
自己啓発の生みの親までエマーソン
日本にキリスト教を輸入した人々もユニテリアンだった
ガンディ(ガンジー)の偉さは、イギリスに抵抗し、かつ日本に組しなかったこと
チャンドラ・ボースの死の真実
第4章 フリーメイソン=ユニテリアンは正義の秘密結社だった
独立軍は弱かった
ユニテリアンとフリーメイソンは表裏一体
ハミルトンとジェファーソンの違い
=====
あとがき 副島隆彦
この本の最大の発見(のちのちの、私の業績)は、カルヴァン派(長老派)と呼ばれるキリスト教プロテスタントの大きな宗派(セクト)と、ユニテリアンの区別をつけたことだろう。どちらもピューリタンたち(清教徒革命)と言うけれど、どう違うのか。長いこと分からなかった。
ようやく私は、この大きな謎を解いた。日本人としては初めてで、日本への初理解(初上陸)となる。カルヴァン派のすぐそばに居るのに、もっと先鋭な活動家たちで、革命(革新)運動(すなわち王政廃止論)の中心の者たちが、ユニテリアン派だったのである。つまり、ユニテリアンは、「神の存在を疑う(もう、これまで通り信じるわけにはゆかない)」すなわち、理神論 deism にまで到りついたヨーロッパの過激派たちだったのだ。
私はこの本を途中まで書いてきて、ようやく、この中心に横たわる疑問にはっきりと解答(ソルーション)を出すことができた。この本を書く途中で、私はこの疑問(謎)を佐藤優氏に「カルヴァン派とユニテリアンはどう違うのか」と執拗にぶつけた。彼の助言にも助けられて、それでようやく大きな解(根=こん。答)を得た。
この本全体は、ユニテリアンという、キリスト教の一派なのだが、現在ではそこから追い出されたと言うか、かなり外(はず)れてしまった人々について書いた。ユニテリアンからヨーロッパの社会改善(改革)運動が生まれた。
貧しい人々を救(たす)けようという社会福祉活動となり、そして社会主義者(ソシアリスト)の革命家(レヴォルーショナリー)の群れまでが生まれたのだ。マルクスとエンゲルスが「空想的(ユートピアン)」と呼んだ人々だけでなく、カール・マルクスたち過激思想家たち自身が、ユニテリアンから生まれ、派生したのである。
その100年前の、フランス革命の革命指導者(ロベスピエールらルソー主義者)もまた、全員ユニテリアン=フリーメイソンであった。そして、それと完全に同時代のアメリカ独立(革命)戦争(アメリカ建国)の指導者たち、フランクリン、ワシントン、ジェファーソンたちも全員ユニテリアン(フリーメイソンリー)である。
そして何と、その150年前の1620年からの「メイフラワー号」のピルグリム・ファーザーズのアメリカへの初上陸の指導者たちも全員、ユニテリアンであった。驚くべき大きな真実である。
時代に先進する人たちを描くことがこの本の中心だ。ユニテリアン Unitarian とは何者か。この改革派知識人、活動家たちの動きが、欧米近代500年間の最先端での動きだったのだ。この「ユニテリアンをなんとか理解する」という太い一本の鉄棒をガツンと欧米の500年に突き刺すことで、欧米近代(モダン)の歴史の大きな真実をついに捜(さぐ)り出した。
(2)アメリカの独立戦争(1776年、独立宣言。建国)、その150年前の 、(1) アメリカ入植以来の話。そして現在から150年前の(3) エマーソン(マルクスと同時代のアメリカ思想家)を中心に置いた。ヨーロッパ、とくにイギリス、フランス、ドイツをアメリカと連結させた。
日本で初めてここにユニテリアンという中心軸を一本通した。そうすることで大きな理解が、私の脳(頭)の中で出来上がった。岩穴を掘り進むように苦心して書いた。たいした知識もないのに、真っ暗闇の中で、私は自分の筆の鏨(たがね)(掘削道具)で掘って、ガツガツと書き進んだ。すべてを語り尽くさなければ気が済まない。
それが、果たしてどれぐらいの意味を持つか。なんて、もう言ってられない。私は本当に、恐ろしい重要な真実がたくさん分かってきた。
この本は、人類史の全体像を縦、横、奥行きで立体化させて、つかまえようとしている。
その時、他の国(主要国)はどのように動いたか。その内部の対立はどうだったのか。この相互連関を書き並べる。登場人物は、その時代の王様と権力者たちだ。
彼ら西洋の王様の名前が次々にたくさん出てくると、日本人の読み手は混乱して、「訳(わけ)が分からん。イギリス国王ジョージ3世と言われてもなあ」となる。ここで私も苦しむ。ヨーロッパの王様の名前など、一読したぐらいでは誰も分からない。区別もつかない。だから私は今も苦しい。
それでも、どの国でも、その時の30年間の、一人の国王(権力者)のご乱行と事件の数々は、その国の人々には、自分の人生に関わる大変なことだったのだ。だが、次の時代の人々は、もうそれらを忘れ去る。そして、目の前の自分たちの事件と問題に翻弄され、振り回される。
私は、ここに、新しい手法(文体=スタイル、あるいは文章の序列=オーダー)を作る技術での、革新(イノヴェイション)を、何としても発見し開発しなければならなかった。これが大変なことだ。
私は、何故、本(あるいは評論文)を、今も次々と書いて出しているのか。
出版社に「早く書け、書け」と強要されながら、書いている。 私はようやく自分の頭の中にまとまった「ああ、そうだったのか。大きくはこういうことだ」と発見したことを、次々と本に書いている。
「ようやく(私は)分かったぞ」と。そして日本人では、私以外ではこの大きな分かり方はできないだろう、と豪語する。それを日本(語)文にして、出版物(本)にして、世の中に投げ出す。商業出版物(一般向けの書物)として。
学者の論文ではない。そんなものは誰も読まない。学者(大学教授)たちの、自分のところの大学院生でさえ、自分の先生の書いた論文を読まない。読む気にもならない。教授たちは「私の論文を読みなさい」と教え諭すことさえできない。そんな厚かましいことはできない(笑)。
細かい事実なら、翻訳家や、その領域を専門とする学者が私よりも知っている。しかし、彼らには大きな理解がない。歴史に起きた大事件、そして戦争を、各国を横につないで世界規模の全体を見るということができない。
この本には、ヨーロッパ皇帝になった(1804年)ナポレオンが、文豪ゲーテとどのように会ったか。とか、ナポレオンが米ジェファーソン大統領(第3代)とものすごく仲がよかった(ユニテリアン=フリーメイソン=王政廃止論者=リパブリカンの同志として)ので、ルイジアナ(仏ルイ王の土地の意味)という広大なフランス領土を、ものすごい安値でアメリカに売った話とかを書いた。
この本には少し書いたが、ベルリン大学の創立者のフィヒテが「ドイツ国民に告ぐ(レーデン・アン・ディー・ドイチェ・ナツィオーン)」(1807年)という大講義で、ドイツ国民を奮い立たせたこと。しかし、このフィヒテにしても、ベルリンに移る前にイエナ大学教授の職を、「どうも無神論(エイシイズム)である」と疑われて罷免(ひめん)(解職=クビ)になっている(1799年、37歳)。
フィヒテの8歳下の弟分が大哲学者のヘーゲルで、一緒にベルリン大学で頑張った。フィヒテはイマヌエル・カントに自分の論文を持って行き、カントが感激、激賞して本になった人だ。これでカントとヘーゲルがつながるのだ。
ベルリン大学でヘーゲルの熱烈な授業を受けたフォイエルバッハも、1828年(24歳)のとき書いた論文が「無神論(エイシイズム)である」と教授会で糾弾されて免職(クビ)になった。そして苦労して名著『キリスト教の本質』“ Das Wesen des Christentums(ダズ ヴェーゼン デス クリステントゥームス)“(1841年)を書いた。
この本を一行で説明すると、「人間が住んでいる家を、壮麗に壮大に作ったものを神殿(テンプル)と言う。神が住む家のことだ」と書いた。すなわち、「神が人間を作ったのではない。人間(たち)の幻想が神を作った」とフォイエルバッハは言い放った。この時、理神論(デイイズム)(神の存在を疑う。ユニテリアン)を通り越して唯物論(ゆいぶつろん)(マテリアリズム。精神=スピリットまでも物質=マターに還元できる)が誕生した。
このフォイエルバッハの思想は若いマルクスやエンゲルスたちに強い影響を与えた。このとき、ヘーゲル左派(青年ヘーゲル派)が勢力としてヨーロッパに誕生したのだ。
今の私たち日本人(のほとんど)は、神(ゴット)なんか信じていない。そんなものは虚妄(きょもう)の妄想(もうそう)だと思っている。一部の信仰者やスピリチュアル系を除いて。そしてそれを欧米白人に向かって「私は無神論者です(アイ・アム・アン・エイシイスト)」と初対面で言ったら、今の今でも、ギョッとされることを知っているべきだ。「あなたは日本の破壊活動家(テロリスト)か」と思われるだろう。自分の友人の欧米人に試(ため)しに使ってみるとよい。
日本人が欧米人よりも進歩している、のではない。ほんの75年前の敗戦まで、日本人は、心底そして頭のてっぺんから昭和天皇のことを崇高なる現人神(あらひとがみ)であると信じ込んでいたのである。そして、1946年に、裕仁(ひろひと)天皇は、「(私も)人間(です)宣言」をしたのである。人間なんてこんなもので、わずか数十年で、集団的に、どんな思想にでも切り変わってゆく。愚かで弱い生き物なのだ。
明治天皇絶対体制は、神国(しんこく)日本の伝統から作られたのではない。そうではなくて大英帝国(イギリス)が作ったのだ。自分たちの英国王は、神聖体(ホウリー・ボディ)であり、霊的(れいてき)存在である。そのように英国国教会(アングリカン・チャーチ)を創った(ヘンリー8世が1534年、ローマ・カトリック教会から分裂)時に出来た考え(思想)である。
今、イギリスに労働党(レイバー・パーティ)を中心に「王政廃止論」が盛り上がっている。「自分たちのイギリスは、今も王と貴族たちを上に載せている、世界で一番遅れた国だ」とブツブツ言っている。こういう世界最先端の課題も日本人に教えなければ、私の役目は済まないのだ。
こういう、過去と現在をグサグサと(縦横無尽に)縫い合わせる文体(スタイル)を、私は開発(開拓)しようとして必死なのである。
一冊の本は、本当に分かりやすく、大きな柱に向かって全体を組み立てなければいけない。「ただの世界史の本」みたいなものを私が書くわけがない。それでは読者が喰いついてくれない。私が中公文庫の『世界の歴史』(30巻)のまとめ直しみたいなことをやっても、無意味だ。
簡潔にたった一冊で、大きな流れをスパッと「ああ、そういうことだったのか」と、読み解いてみせることに意味がある。「お前の勝手な考え、思いつきに過ぎない」と言われても構わない。この出版不況のさ中で、出版社と書店がどんどん廃業、倒産、潰(つぶ)れている。大きな火の玉を投げつけなければ、お客様に対して失礼だ。書き手はもっともっと客(本の読者)に奉仕しなければいけない。
最後に。この本もまた、本当にドイツ語とフランス語がスラスラと読めて書ける有能な編集者である小笠原豊樹氏との合作である。大きな思考(思想)の鉄骨は私が組み立てた。細かいあれこれの表記や事実関係の訂正は小笠原氏がやってくれた。この国は、出版社の編集者(エディター)たちの才能と苦心、労力に対してほとんど報いることのない、無惨な国である。
これらの現実を、精一杯、全身で受け留めることだけして、我慢しながら、歯を喰いしばって、最高級知識を分かり易く知的国民にお裾分けする任務を、私は死ぬまで果たす。
2020年3月5日 副島隆彦
(貼り付け終わり)
本当は恐ろしいアメリカの思想と歴史 フリーメイソン=ユニテリアンは悪魔ではなく正義の秘密結社だった!
(終わり)