「1867」 2020年アメリカ大統領選挙に関する情報を簡単に紹介します 古村治彦(ふるむらはるひこ)記 2020年2月11日

 SNSI・副島隆彦の学問道場研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)です。今日は2020年2月11日です。

 今年2020年はアメリカでは4年に1度の大統領選挙の年だ。2020年11月3日(火)に本選挙(General Election、ジェネラル・エレクション)の投開票が行われ、最終的に大統領が決まる。今回の選挙で決まる大統領の就任式(宣誓式、Presidential Inauguration、プレジデンシャル・インアウギュレイション)は、2021年1月20日(水)に行われる。その他にも連邦上院の一部議席、連邦下院全議席、州知事などの選挙もあり、今年のアメリカは「政治のお祭り」の年となる。

 大統領選挙では、民主党(Democratic Party)と共和党(Republican Party)が候補者を立てて争うが、実は他にも緑の党(Green Party)やリバータリアン党(Libertarian Party)など複数の政党が大統領選挙に立候補者を出して戦っている。1992年の大統領選挙では、第三党の候補者として出馬したロス・ペロー(Ross Perot、1930-2019年、89さ9弟子)が本選挙で2000万票近くを得票し、現職大統領で再選を目指した共和党ジョージ・H・W・ブッシュ(George H. W. Bush、1924―2018年、94歳で死)の落選、民主党のビル・クリントン(Bill Clinton、1946年―、73歳)の当選の原因となった。現実的には、民主党と共和党のどちらかの候補者が大統領となる。


1992年大統領選挙討論会の様子(左から:クリントン、ペロー、ブッシュ)

 日本でも報道されたが、2020年2月3日にはアイオワ州で党員集会(caucus)が開催され、予備選挙(presidential primaries)の実際の投開票が始まった。民主党の結果ばかりが報道されるが、共和党の方でも同じ日にアイオワ州で予備選挙が実施され、ドナルド・トランプ(Donald Trump、1946年―、73歳)大統領が圧勝した。再選を目指すトランプ大統領が共和党の指名候補として事実上決まっている。全米で50ある州の中で、一部の州の共和党本部は、予備選挙を実施しないと発表している。


アイオワ州での党員集会の様子

 一方、民主党の方は2018年から予備選挙が始まり、これまでに20名以上の人物が立候補をしたが、既にその大半が選挙戦から脱落している。2020年2月3日に実施されたアイオワ州での党員集会から予備選挙の投開票がスタートした。予備選挙はいよいよ後半戦であり山場を迎える。

 今回は、アメリカ大統領選挙の仕組みについて説明し、これからどのように動いていくかを解説する。

(1)大統領が決まるまでの日程はどうなっている?

 大統領決定までの大まかな日程を下に貼り付けた通りだ。

(貼り付けはじめ)

・2020年2月3日:アイオワ州党員集会(予備選挙スタート)
・2月中は週1回のペースで、ニューハンプシャー州、ネヴァダ州、サウスカロライナ州で予備選挙が実施される
・2020年3月3日:スーパーチューズデー(民主党の場合は宣誓済み代議員数の3分の1となる1344名が決まる、カリフォルニア州、テキサス州など人口が多く代議員が多く配分される州を含む14州と1つの自治領での選挙)
・2020年3月10日:ミシガン州やワシントン州など7州で予備選挙(代議員数365名)
・2020年3月17日:フロリダ州やイリノイ州など4州で予備選挙(代議員数577名)
・2020年4月28日:ニューヨーク州やペンシルヴァニア州などの州を含む6州で663名の代議員が決定
・2020年6月6日:アメリカ領ヴァージン諸島での党員集会で終了
・2020年7月13日―16日:民主党全国大会(Democratic National Convention)、於ウィスコンシン州ミルウォーキー⇒民主党の大統領・副大統領候補決定
・2020年8月24日―27日:共和党全国大会(Republican National Convention)、於ノースカロライナ州シャーロット⇒共和党の大統領・副大統領候補決定
・2020年9月29日:第一回アメリカ大統領選挙本選挙候補者討論会、於インディアナ州ノートルダム市ノートルダム大学
・2020年10月7日:アメリカ大統領選挙本選挙副大統領候補者討論会(1回のみ)、於ユタ州ソルトレイク市ユタ大学
・2020年10月15日:第二回アメリカ大統領選挙本選挙候補者討論会、於ミシガン州アナーバー市ミシガン大学
・2020年10月22日:第三回アメリカ大統領選挙本選挙候補者討論会、於テネシー州ナッシュヴィル市ベルモント大学
・2020年11月3日:アメリカ大統領選挙本選挙投開票実施
・2021年1月20日:大統領就任式(宣誓式)、於ワシントンDC

(貼り付け終わり)

 大統領選挙の選挙運動自体は早い人では2018年中から始めている。立候補する人は連邦選挙管理委員会(Federal Election Commission、FEC)に届け出をし、選挙運動にかかった資金を四半期ごとに届け出をしなければならない。トランプ大統領は2019年6月の集会で正式に2020年の大統領選挙への出馬宣言を行った。民主党の主要な候補者たちは2019年2月から4月の間に出馬宣言をした。それからずっと選挙運動を続けてきた。

 アメリカ大統領選挙は2年近くも続く、長丁場、ロングランだ。その間に健康を害し、選挙資金が枯渇し、スキャンダルが発覚し、スタッフたちから総スカンを喰うなど様々な理由から選挙戦から撤退する候補者たちが出てくる。予備選挙の投開票までたどり着くだけでも大変なことだ。

(2)アメリカ大統領選挙の仕組みはどうなっているのか?

 アメリカ大統領選挙の仕組みは次の簡単な図のようになっている。


アメリカ大統領選挙の仕組み

 アメリカ大統領選挙は、まず民主・共和両党が候補者を決めるための予備選挙(primaries、プライマリーズ)が実施され、全国党大会(convention、コンヴェンション)の正式に候補者を決定する。ここからのプロセスは本選挙(general election、ジェネラル・エレクション)と呼ばれる。民主・共和両党の大統領候補者、副大統領候補者の討論会が複数回行われた後に、11月3日に全米で一斉に投開票が実施される。アメリカの大統領選挙は二段階になっている。他の連邦議会議員や州知事も党内で予備選挙をして本選挙という形になる。

 民主、共和両党の大統領選挙予備選挙は2020年2月3日のアイオワ州の党員集会から始まった。予備選挙は全米50州と自治領、海外在住者の間で実施される。予備選挙は、各州や自治領が、党員集会(caucus、コーカス)と予備選挙(primary、プライマリー)のどちらかの方式を採用して実施される。

 党員集会は小さな地区にある図書館や体育館に民主党員や民主党支持を登録している有権者が集まる。予備選挙に立候補している、それぞれの候補者を支持する説明係の人たちが、候補者の良さを集会に出席している有権者に向けてアピールする。そして、集会に出席者たちが誰を支持するかを皆の前で発表する。その数は地区でまとめられて州の党本部に報告され、集計する。投票と違って匿名性は確保されない。この党員集会方式を採用する州や自治領はどんどん減っており、今回の大統領選挙では5つにとどまる。


党員集会の概念図(腕を上げているのは候補者を支持する説明係)

 予備選挙は普通の投票と同じだ。党員や党を支持すると登録した有権者だけが参加できる方式(closed primary、クローズド・プライマリー)とその州の住民で有権者ならば誰でも投票に参加できる方式(open primary、オープン・プライマリー)に分かれる。投票では秘密が保たれ、手間もかからないので採用する州や自治領は増えている。


予備選挙の概念図

 アメリカでは有権者が自ら選挙管理委員会に有権者登録を行う。そうしなければ選挙に参加できない。日本では住民票を登録してある自治体から投票券が送られてくるが、アメリカではそんなことはしない。有権者登録する際に、共和党を支持する、民主党を支持する、他の政党を支持する、無党派ということも登録する。そうすると、自分が登録した党の党員集会か予備選挙に参加することができる。

 予備選挙で選ばれるのは、「宣誓済み代議員(pledged delegates、プレッジド・デレゲイツ)」だ。代議員は全国大会(national convention、ナショナル・コンヴェンション)に出席して、党の指名候補選挙で投票を行う。民主党では、各候補者が獲得した得票数に応じて、代議員が配分される。例えば、1つの州に代議員が10名配分されていて、A候補が得票率70%、B候補が30%となったら、代議員のうち7名は党の全国大会でA候補者に投票し、残りの3名はB候補者に投票する、ということになる。共和党では、一部の州で「勝者総取り(winner-take-all, ウイナー・テイク・オール)」制度を採用しているところもある。


民主党の宣誓済み代議員の配分

(3)民主・共和両党の全国大会とはどのようなものか?

 大統領選挙指名候補を決める両党の全国大会は伝統として、大統領を出していない党が先に開催する。今年は民主党が先である。2016年は共和党が先に開催した。全国大会は4日間にわたる派手なお祭りである。多くの人々が集まり、民主、共和両党の有名政治家、期待の若手政治家、有名人が次々と登壇し、演説を行う。全国大会では党の規約の変更なども行われるが、最大のイヴェントは大統領選挙本選挙に出馬する党の指名候補決定だ。党の全国大会に出席する代議員がその場で投票を行い、党の指名候補を決定する。


全国大会の様子(2012年共和党全国大会)

 民主党には、予備選挙で選ばれた宣誓済み代議員とは別に「特別代議員(superdelegates、スーパーデレゲイツ)」と呼ばれる代議員がいる。連邦議会議員、州知事、民主党全国委員会の幹部などがこの特別代議員となる。特別代議員は全国大会で座席が自動的に与えられ(そのため「自動代議員(automatic delegates)」とも呼ばれる)、自分が支持したい候補者に投票することができる。今回の大統領選挙予備選挙では、民主党は宣誓済み代議員を3979名、特別代議員を771名とすると発表している。

 共和党は宣誓済み代議員2440名、不宣誓代議員(unpledged delegates)110名が出席する。不宣誓代議員は各州や自治領の党支部代表と幹部で構成される。共和党の場合は、不宣誓代議員は自分自身が属する州で最多得票を得た候補者に投票しなければならない決まりになっている。この点は民主党の特別代議員とは違う。共和党も特別代議員制度を持っていたが、2012年に廃止している。今年の共和党の全国大会ではほぼ満票に近い代議員からの得票でトランプ大統領が共和党の指名候補に選ばれることになる。

 民主党の特別代議員制度については批判が多い。2016年の大都両選挙民主党予備選挙では特別代議員制度に対する不満が爆発した。バーニー・サンダース(Bernie Sanders、1941年―、78歳)連邦上院議員とヒラリー・クリントン(Hillary Clinton、1947年―、72歳)元国務長官の一騎打ちとなったが、予備選挙で選ばれる宣誓済み代議員の差は小さかったのに、特別代議員でヒラリーが圧倒した。そして、下の図のような結果になった。


2016年の民主党全国大会での代議員投票の結果

 民主党全国委員会の委員たちがヒラリーを勝たせようと画策したこと、特別代議員の過半数は全国委員会のメンバーが占めていたこともあり、サンダース支持者たちが会場の内と外で激しい抗議活動を展開した。全国大会の議事進行もスムーズにいかず、サンダースが自分の支持者たちに落ち着くように呼び掛ける事態となった。ヒラリーが党の指名受諾の瞬間には、サンダース派が堆積する事態となった。2016年の民主党全国大会は民主党内部の深刻な亀裂を印象付ける結果となった。


サンダース派による抗議活動の様子


ヒラリーの党指名受諾の時の様子

 そこで、2016年の大統領選挙が終了してから、民主党全国委員会内で党大会における特別代議員の影響力を小さくするためのルール変更が議論され、2018年にルールが変更された。特別代議員制度自体を廃止すべきという勢力と特別代議員の影響力を維持したという勢力が戦うことになったが、折衷案で折り合った。しかし、次回はまた特別代議員の影響力を復活させたいという勢力が民主党全国委員会内に残存している。

 特別代議員制度に関しての最大のルール変更は、大統領選挙候補者指名の投票で、1回目の投票に参加できないというものだ。2016年までは選挙で選ばれた宣誓済み代議員と特別代議員が一緒に1回目の投票に参加した。そこが変更になり、1回目の投票は宣誓済み代議員だけが投票することになった。それだけならば特別代議員制度は廃止すればよいのだが、特別代議員が投票に参加できる機会もある。

 全国大会のルールでは、共和党の方がすっきりしている。民主党がごちゃごちゃして、特別代議員のような分かりにくい制度を維持しているのは、「党のボス(party boss)による政治」「ボス政治」の伝統があるからだ。19世紀から20世紀中盤くらいまで、アメリカの大都市では「政治マシーン(political machine)」と呼ばれる、集票システムが存在した。党の地区支部のボスや政治家たちが公共事業や公務員の職を貧しい有権者に与える代わりに投票を得るというものだ。民主党は弱者、少数派のための政党というイメージだが、その内部は清廉潔白なものではない。

 特別代議員は民主党内の特権階級である。2016年の大統領選挙民主党予備選挙では、その特権階級と一般の民主党員や民主党支持者の間に大きな乖離があることが明らかになった。「人々の意見が通らず、特権階級が物事を決める民主党」という「民主」とはおよそかけ離れた実態が暴露された。そのことが現在までずっと尾を引いている。

(4)民主・共和両党の指名候補が決まってからはどうなるか?

 民主・共和両党は全国党大会で正式に大統領候補と副大統領候補を決定する。決定後はアメリカか国内の全有権者に向けた選挙運動がそれまでよりももっと激しく展開される。投票日までに重要となるのが、大統領選挙候補者討論会(presidential debates、プレジデンシャル・ディベイツ)だ。この討論会は大統領選挙候補者討論会委員会(Commission on Presidential Debates)という非営利団体が主催する。この団体は民主・共和両党が協力して設立したものだ。

 ちなみに大統領選挙候補者討論会の歴史は古いものではない。テレビがアメリカの各家庭に既に普及していた1960年の大統領選挙で、民主党のジョン・F・ケネディと共和党のリチャード・ニクソンとの間で行われたものが最初だ。この時、ケネディがテレビに若々しく映るようにメーキャップをして出たのに対し、ニクソンが何もしなかったので年寄臭く映ってしまい、このイメージ戦略がケネディ勝利の原因の一つとなったと言われている。


ケネディとニクソンによる討論会

 候補者討論会は1964年には実施されず、1968年と1972年の選挙では、共和党の候補者だったリチャード・ニクソン(1972年の時には再選を目指す現職大統領)が1960年の時の苦い経験のため、討論会への参加自体を拒絶して、討論会は実現しなかった。現在のような形になったのは1976年の選挙からだ。

 全米に生中継され、1億人が見るとまで言われる討論会では、候補者は、服装、髪型、歩き方など全てを専門家が計算した上で準備する。また、各陣営はあらゆる想定問答を作り、候補者たちと繰り返し練習する。そのように周到な準備をして討論会に臨んでも、各候補者の力量や性格が見えてくる。有権者はそれを見抜く。前回2016年の大統領選挙候補者討論会では、ドナルド・トランプがヒラリー・クリントンを圧倒した。


トランプとヒラリーによる討論会

 副大統領選挙候補者討論会も1回だけ実施されるが、そこまで注目を浴びない。副大統領候補者はあくまで大統領候補者を引き立て、失言をするなど足を引っ張らないようにすることが重要だ。

2020年11月3日に全米で大統領選挙本選挙の投開票が実施される。大統領選挙本選挙は全米に配分される538名の選挙人(electoral college)を取り合う方式で行われる。選挙人の過半数270名を獲得した候補者が勝者となる。選挙人は全米50州とワシントンDCに人口に基づいて配分される。大統領選挙本選挙の特徴は「勝者総取り(winner-take-all)」だ。


大統領選挙本選挙に選挙人の配分


2016年大統領選挙の結果(赤:トランプ、青:ヒラリー)

 勝者総取り制度は、各州とワシントンDCにおいて得票数で勝利した候補者が配分されている選挙人を総取りできるというものだ。極端な話、1票でも上回った候補者が選挙人を総取りすることができる。ただ、メイン州とネブラスカ州では一部に得票数による選挙人配分制度が導入されている。2016年の大統領選挙本選挙の結果は、トランプが獲得選挙人数304、ヒラリーが獲得選挙人数227、無効7で、トランプが勝利した。


レッド・ステイトとブルー・ステイト

 アメリカでは共和党が優勢な州をレッド・ステイト(red states)、民主党が優勢な州をブルー・ステイト(blue states)と呼んでいる。それぞれ党のシンボルカラーにちなんでいる。レッド・ステイトは地理的にはアメリカ南部や中央部の農業州、ブルー・ステイトはアメリカ東海岸と西海岸、工業地帯の五大湖周辺州とされている。2016年の大統領選挙本選挙では、トランプが中西部を制したことが勝因となった。レッド・ステイトとブルー・ステイトで色が濃い場所ほど、番狂わせは起きない。候補者の戦略としては、色が薄いところを何とか勝ち取ろうということになる。今回も中西部とフロリダ州が激戦州(battleground states、バトルグラウンド・ステイツ)となる。

(5)2020年の大統領選挙の状況と見通し:バイデンには苦難が続く

 ここからは2020年大統領選挙の状況と見通しを簡単に説明していく。

 アイオワ州での民主党党員集会の最終結果は出ていない。党員集会の最初に出席者に支持する候補者を聞き、集会の最後にまた支持する候補者を聞くという方式を採用していて手間がかかった上に、スマートフォンのアプリで結果を集計しようとしていたのだ、使いにくく現場に混乱が生じた。以下にアイオワ州での党員集会に関する日本の新聞記事を貼り付ける。

(貼り付けはじめ)

●「<米大統領選>民主初戦 2氏の勝因は サンダース氏、若者が圧倒的支持 ブティジェッジ氏、左派警戒票を獲得」

東京新聞 2020年2月9日 朝刊
https://www.tokyo-np.co.jp/article/world/list/202002/CK2020020902000143.html

 【ワシントン=金杉貴雄】米大統領選の民主党候補者選びの初戦となったアイオワ州党員集会で、事実上トップに並んだ中道派ブティジェッジ前インディアナ州サウスベンド市長(38)と急進左派サンダース上院議員(78)。二候補が抜け出した要因を分析すると、ブティジェッジ氏は左派を警戒する党員の票を集め、サンダース氏は若者から圧倒的な支持を得ていたことが浮かび上がった。

 AP通信は七日、集計の結果、アイオワ州に割り当てられた代議員数「四十一」のうち、ブティジェッジ氏が十三、サンダース氏が十二を獲得、未定が一と報じた。ほかはウォーレン上院議員(70)が八、バイデン前副大統領(77)が六など。党候補者選びでは各州に割り当てられた代議員数を、予備選や党員集会の得票に応じ各候補者が獲得し、全代議員数の過半数「千九百九十」を得れば勝利する。

 ワシントン・ポスト紙の出口調査によると、ブティジェッジ氏は、サンダース氏ら急進左派候補の看板政策である公的医療保険の全国民への拡大に反対する党員のうち、33%(一位)から支持を得た。

 直前に支持を決めた党員が多いのも特徴。中道派で支持する候補を決めかねていた党員が、バイデン氏ではなくブティジェッジ氏に流れた状況がうかがえる。

 一方、サンダース氏は年齢別の支持、不支持が鮮明だ。十七~二十九歳の若者について、二位ブティジェッジ氏(19%)の倍以上となる49%の支持を獲得。三十~四十四歳の年齢層でも一位(33%)。逆に四十五~六十四歳は11%、六十五歳以上は4%からしか支持がなかった。

 また「非常にリベラルな考えを持つ」と答えた党員のうち、43%から支持を得た。同じ急進左派のウォーレン氏の28%を大きく引き離し、リベラルな若者からの支持が原動力となったことが明確になっている。

◆躍進ブティジェッジ氏 集中砲火 

 【ワシントン=金杉貴雄】米民主党は7日、大統領選の党候補者選び第2戦となる予備選が11日に行われる東部ニューハンプシャー州で、討論会を行った。初戦アイオワ州で躍進した最若手ブティジェッジ氏に、他候補が集中砲火を浴びせる展開になった。

 アイオワ州で首位を争ったサンダース氏は、ブティジェッジ氏が富豪から献金を受けていると指摘。「この国を変えたいなら、大金持ちの家に行く候補者を選ばないだろう」と攻撃した。

 初戦4位と出遅れたバイデン氏は、ブティジェッジ氏について「トランプ大統領に本選挙で勝つための経験が不足している」と強調した。

 ウォーレン氏も「大金持ちや大金持ちの機嫌をとる人」が大統領になるべきではないと非難。支持を伸ばしつつある大富豪ブルームバーグ前ニューヨーク市長(77)と、ブティジェッジ氏を批判した。

 ブティジェッジ氏は、富豪からの献金について「トランプ氏を倒すための資源だ」と反論した。

 一方、最終集計の結果発表が遅れ、米メディアが勝者を確定できないなどと報じたアイオワ州の党員集会について、同州の民主党支部は7日、結果の再点検などの申立期間を現地時間の10日正午まで延長すると発表した。これまでは7日正午までだった。

(貼り付け終わり)


アイオワ州の党員集会での上位5名

 アイオワ州の党員集会では、1位はインディアナ州サウスベンド市前市長ピート・ブティジェッジ(Pete Buttigieg、1982年―、38歳)で得票率26.2%、2位はバーニー・サンダース(Bernie Sanders、1941年―、78歳)連邦上院議員(ヴァーモント州選出、無所属)で得票率26.1%、3位はエリザベス・ウォーレン(Elizabeth Warren、1949年―、70歳)連邦上院議員(マサチューセッツ州選出、民主党)で得票率18%、4位はジョー・バイデン(Joe Biden、1942年―、77歳)前副大統領で得票率15.8%、5位はエイミー・クロウブッシャー(Amy Klobuchar、1960年―、59歳)連邦上院議員(ミネソタ州選出、民主党)で得票率12.3%という結果になった。クロウブッシャーまでが宣誓済み代議員を獲得することになった。宣誓済み代議員の最終的な配分はまだ発表されていない。

 有力候補者たちを色分けすると、ブティジェッジ、バイデン、クロウブッシャーは中道派から右寄り、サンダースとウォーレンは左派となる。2019年4月から毎月1回のペースで民主党全国委員会主催の候補者討論会が行われてきた。そこでの焦点は、医療保険制度や大学学費無償化などであった。サンダースやウォーレンは「メディケア・フォ・オール(Medicare for All)」という政府が全国民に健康保険を提供する制度を主張してきた。一方、中道派から右派はこのような政府だけが健康保険を提供する主張には反対してきた。

 ブティジェッジがアイオワ州の党員集会で1位となったことは大きく報じられた。ブティジェッジについては、2019年3月頃からアメリカでも注目されるようになっていた。それは政策というよりもユニークな経歴と落ち着いた話しぶりのためだった。

 ブティジェッジの両親ともに中西部の名門ノートルダム大学教授という家庭に生まれ、ハーヴァード大学に進学。その後はアメリカのエリートの登竜門であるローズ奨学金を得てオックスフォード大学大学院に留学し修士号を取得した。マッキンゼー社で3年間コンサルタントとして働いた。2012年、29歳の時に生まれ故郷のインディアナ州サウスベンド市の市長になった。人口10万人以上の都市で、29歳で市長となったのはアメリカ史上最年少記録だ。市長在任中に休職制度を利用して、アメリカ海軍の情報士官として約8か月アフガニスタンで軍務に就いた。8か国語を操るということも注目されたが、何よりも彼が同性愛者であることを公表していることに注目が集まった。昨年3月にCNNの番組に出演してから人気が高まり、全くの無名候補から有力候補にまで駆け上がった。


2020年2月第一週の支持率(モーニング・コンサルト社調べ)

 ブティジェッジとサンダースの勝利とは対照的に、スタートに失敗したのはジョー・バイデンだ。バイデンはこれまで各種世論調査でトップを維持してきた。それが4位に沈んだ。これによって「バイデンはダメだ」という雰囲気が漂っている。アイオワの民主党党員集会の後、全国規模での世論調査で、サンダースとブティジェッジは支持率を上げ、バイデンは下げている。


支持率の変遷(モーニング・コンサルト社調べ)

 バイデンにとっての更なる問題は、ニューヨーク市元市長マイケル・ブルームバーグ(Michael Bloomberg、1942年―、77歳)の存在だ。この世論調査でも支持率が15%となっている。ブルームバーグは2月中に予備選挙が実施される4つの州では候補者登録をしていないが、スーパーチューズデーで予備選挙が実施される各州に200億円の資金を投入し、テレビ広告を放映している。

 民主党予備選挙では各州や自治領の党本部が主導権を握っていて、選挙の方式を決めることができる。候補者登録も各州や自治領の党本部が主管している。たとえば、ニューハンプシャー州では州の党本部に1000ドルの登録料を支払えば、アメリカ国民であること、年齢が35歳以上であることなどの大統領になる条件さえクリアしていれば、誰でも候補者名簿に名前を登録することができる。党員集会に関しては候補者登録などは必要ない。予備選挙の場合には必要だ。ブルームバーグは2月中に予備選挙が行われるニューハンプシャー州、ネヴァダ州、サウスカロライナ州で候補者登録をしていない。3月からの戦いに賭けている。

 ブルームバーグはメディア大手の「ブルームバーグ」社の創立者であり、総資産は日本円で約6兆円と言われている。政治献金を受け取らないと宣言している。ブルームバーグは4つの州を捨てて、スーパーチューズデーに集中するという戦略を採用し、結果として、支持率を上げている。これがバイデンにとっては脅威である。


マイケル・ブルームバーグ

 ブルームバーグとバイデンは民主党中道派と見られ、有権者を取り合う形になる。ブルームバーグの勢いが大きくなれば割を食うのはバイデンということになる。また、アイオワ州での結果を受けてサンダースとブティジェッジも支持を伸ばしているとなると、「バイデン包囲網」「前門の虎(サンダース)、後門の狼(ブルームバーグ)」という状態である。スーパーチューズデーからの3月ちゅうの予備選挙でブルームバーグがバイデンを抜き去ることもあり得る。そうなればサンダースとしては好都合ということになる。

 ブティジェッジの勢いは2月いっぱいで終わるだろう。アイオワ州で勢いがつき、ニューハンプシャー州までそれが続くだろうが、続くネヴァダ州、サウスカロライナ州では支持率が上がっていない。ネヴァダ州ではバイデンとサンダースが接戦を展開している。サウスカロライナ州ではバイデンが大きくリードしている。また、全国的に見れば、ブティジェッジの支持率は高くない。

 サンダースの強固な支持基盤は30代までの若者層だ。一方で、バイデンの支持基盤は中年から上の高齢者と黒人層だ。サウスカロライナ州は南部で黒人の人口比が高い。それもあり、バイデンの支持率が高く、バイデンが1位となる。このことは織り込み済なのだが、アイオワ州での惨敗は予想外のことで、そのことで勢いが失われたのはバイデン陣営には痛手となった。サンダースにとってはブティジェッジに先行を許したが、3月以降の戦いで1位を奪取できると踏んでいる。

※細かい数字について知りたい方はブログ「古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ」をの記事「全国規模ではマイケル・ブルームバーグが躍進、スーパーチューズデーに賭ける」ご参照ください↓
http://suinikki.blog.jp/archives/81222518.html

 民主党全国委員会の幹部たちの中には、前回の予備選挙でヒラリー・クリントンの当選を画策したグループが生き残っており、そうした人間たちからは「特別代議員が投票に参加できるようにこれからルール変更をするべきだ」という声も出ているそうだ。そんなことをすれば、トランプ大統領に嘲笑され、選挙戦での「口撃」に利用されるだけなのに、「ヒラリーの大統領就任の邪魔をしたサンダース、許すまじ」ということで、民主党の幹部の中には状況が見えなくなっている人間がいる。

 民主党は深刻な分裂を抱えながら大統領選挙に突入する。一方、共和党はトランプ大統領再選に向けて団結している。また、トランプ大統領は昨年だけで約230億円の選挙資金を集めている。民主党側ではサンダースが約110億円、ウォーレンが約90億円、ブティジェッジが約85億円の選挙資金を集めている。資金力でもトランプ大統領が有利だ。

 また、今回の中国で発生した新型コロナウイルス感染拡大は、アメリカ国民の内向き志向に拍車をかけるだろう。トランプ大統領のアイソレーショニズム(Isolationism、国内問題解決優先主義)と「アメリカ・ファースト(America First)」の言葉が前回よりもアメリカ国民にアピールすることになる。また、「不公正な中国に対して毅然とした態度を取った」ということもアピール・ポイントになる。

 更には、民主党の有力候補であるバイデンとサンダースの年齢もネックとなる。バイデンが77歳、サンダースは78歳だ。トランプは今回で選挙は終わりだが、バイデンとサンダースが今回の大統領選挙に当選して大統領になり、再選を目指すとなると共に80歳を超えることになる。「次を目指せるのか」ということになり、一期で終わるということになれば、任期後半には力を失うことになる。再選を目指すことに不安がある大統領で良いのかということもアメリカ国民は考えるだろう。

 このように考えると、トランプ大統領が再選されるだろうと考えるのが自然だ。ただ、それではせっかくのお祭りなので、民主党の候補者選びを無理にでも盛り上げなければならないということになる。

※アメリカ大統領選挙の状況について細かく知りたい方はブログ「古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ」をご参照ください↓
http://suinikki.blog.jp/

(終わり)

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