「1695」 『東芝はなぜ原発で失敗したのか』(相田英男著、電波社、2017年10月7日)が発売されます 古村治彦(ふるむらはるひこ)筆 2017年9月26日

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 SNSI研究員の古村治彦です。今日は2017年9月26日です。

 2017年10月7日に相田英男(あいだひでお)氏のデビュー作『東芝はなぜ原発で失敗したのか』(電波社)が発売となります。相田氏は現役の原子力エンジニアで、私たちの研究員仲間です。


東芝はなぜ原発で失敗したのか

 相田氏はこれまでに私たちの出版した論文集で論文を発表したり、本サイト「今日のぼやき」においても、福島の原発事故や東芝の経営危機について、鋭い分析を行った論説を発表したりしています。今回の本はその集大成となります。

『エコロジーという洗脳 地球温暖化サギ・エコ利権を暴く「12の真論」』 副島隆彦+SNSI副島国家戦略研究所著、成甲書房、2008年)に入っております、相田氏の論文「日本の切り札『原子力発電』を操るアメリカ」も併せてお読みください。

 東芝に関しては、不正経理問題から、巨額の赤字が明らかになり、経営危機に陥りました。東芝は、日本の戦後復興を支えた大規模電機メーカーの一角を占めてきました。それが巨額赤字で経営危機に陥るということは、私たち日本国民の大きな不安を持たせることになります。東芝の得意分野である半導体事業をどこが買うのかと言うことにも注目が集まっています。以下に新聞記事を貼りつけます。


謝罪する東芝経営陣

(貼りつけはじめ)

●「東芝もメモリー事業に3500億円を出資、日米韓連合に売却決定-関係者」

古川有希、Pavel Alpeyev
2017年9月20日 13:38 JST
更新日時 2017年9月20日 16:00 JST
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-09-20/OWKA1O6KLVRU01

東芝は半導体子会社「東芝メモリ」の売却先を、米投資会社ベインキャピタルが主導する日米韓連合とする方針を決めた。20日午前開催の取締役会で決議した。東芝も3500億円の出資を確保する計画だ。事情に詳しい関係者が明らかにした。

  同連合の買収案では、アップルやデルなどの米IT企業や、韓国半導体大手のSKハイニックスなどが参加・資金を拠出する計画。関係者によると、アップルが10億ドル(約1100億円)の出資を含む70億ドルを拠出するなど、総額190億ドルの案を示していた。

  米原発事業の失敗で巨額損失に陥った東芝は、上場廃止基準である2年連続の債務超過を回避するため、来年3月末までに東芝メモリを2兆円程度で売却する方針を決定。買収当事者や利害関係者の多さなどから交渉に時間を要し、売却を決定した2月から約7カ月を経てようやく決着することになった。

  売却先の最終候補には、東芝の合弁相手である米ウエスタンデジタル(WD)と米ファンドKKRなどの陣営も残っていた。WD陣営はで第三者への売却は合弁契約に違反するとして国際仲裁裁判所に東芝メモリの売却差し止めを求めて提訴している。

(貼りつけ終わり)

 東芝がこのような状況まで追い詰められてきた理由が原子力発電であり、アメリカの上スティングハウス(WH)社であることを、相田氏は明らかにしています。

 目次をお読みいただくとお分かりになりますが、これは、決して一般の大新聞では描かれるこことのない、日本の原子力導入についての隠れた歴史です。福島第一原発事故の原因は、幾つかの方面から追求がされています。一つには、第一次安倍政権時代の2006年に津波などによる原発の全電源喪失に対する対策を当時の安倍首相が必要ないと一蹴したことが原因であると言われていますし、それ以外にも当日の東京電力の作業のミスが原因という説もあります。

 ただ、そもそも日本において原子力発電が導入されるときに、アメリカの重電メーカーからの輸入という体裁を取らざるを得なかったことが問題なのではないか、という視点で理解しようとしているのが、相田英男氏の著作です。原子力版の「属国・日本論」を、とうとう属国論と原子力工学に精通した相田氏がエンジニアの視点で書いてくれました。破綻したウェスティング・ハウスの東芝による買収もその大きな枠組みの中で見ていかないとなりません。


ウェスティングハウス社

 今回は、出版社のご好意により、最初の5ページを特別に公開いたします。併せて、副島隆彦先生による推薦文、目次、あとがきも掲載いたします。

 2017年10月15日開催の定例会会場でも販売する予定です。冊数に限りがございますので、途中で売り切れとなることもございます。その場合にはご了承くださいませ。

 『東芝はなぜ原発で失敗したのか』を是非、手に取ってお読みください。よろしくお願い申し上げます。

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『東芝はなぜ原発で失敗したのか』の最初の5ページ

第1章 東芝が原発事業で失敗した本当の理由

東芝とはどういう会社か

「シェールガス革命」という言葉が使われるようになって久しい。地下の硬い岩盤の中にあるのでこれまで採掘が難しかった天然ガスが、技術革新で安価に採れるようになった。このために火力発電のコストが大きく低下して、原発が早々に駆逐されるというのである。

 本当にそうなるのか、私には疑わしい。この大きな歴史的エネルギー政策の変化の問題は、ひとまずわきに置く。このシェールガスによる発電は、どのような設備を使うか、皆さんご存じだろうか? ガスタービンを使うのだ。ビルに取り付けたボイラーのような単純な釜か まの中にガスを入れて燃やしてしまうと、熱効率が悪くて大変もったいない。だから天然ガスを燃やす際にはガスタービンという装置を使うのである。

 ガスタービンとは、旅客機や戦闘機の推進器であるジェットエンジンと、まったく同じ構造の機械である。前部から取り込んだ空気を圧縮して、燃料ガスと混合して点火し、できた高温ガスを後方に設置した風車に吹き付けて主軸を回転させる。航空機の場合は残ったガスを後方に噴出して推進力とする。これがガスタービンである。発電用の場合は、このガスタービンにできるだけ多くの燃焼ガスを風車に吹き付けて、主軸に取り付けた発電
機を回すのである。

 この発電用ガスタービンの販売について、現在も世界最大のシェアを持つのがアメリカのGE(ゼネラル・エレクトリック)である。そしてGEこそが東芝の真の親会社であり、今回の事件の黒幕なのである。

 そもそもが、プライドだけは人一倍高いウェスティングハウス・エレクトリック・カンパニー(以下ウェスティングハウス社)を東芝という会社が仕切って、言うことを聞かせられるなど、関係者たちは誰も思っていなかった。それでも真の黒幕で東芝の親会社であるGE は事情を抱えていた。東芝はGEにそそのかされたか、脅されるかして、6000億円の巨費を投じてウェスティングハウス社を買収する羽目となったのだ。

 そしてその当然の結果として、ウェスティングハウス社に振り回された。その挙句、倒産寸前の状況まで東芝は追い込まれてしまった。

■東芝傘下の米WH、連邦破産法申請 負債総額1兆900億円

 経営再建中の東芝傘下の米原子力大手ウェスティングハウス(WH)は、2017年3月29日、米連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)の適用を申請した。これに先だって東芝は同日午前の取締役会で、WHの申請方針を事前承認した。WHは原子力建設サービス会社を2015年末に買収した。が、人件費や材料費など想定外の費用が膨らみ事業継続が困難となった。東芝はWH を切り離し、(国内の)社会インフラ(引用者注。真に稼ぐ力のある部門)を中心とした事業構造への転換を急ぐ。

 WH に関連する企業を含めた負債総額は、計98億ドル(約1兆900億円)。申請に伴いWH は、東芝の連結から外れる見通し。WH は最新鋭原子炉の技術を持ち、米国や中国で計8基を建設中だ。核燃料や関連サービス部門は堅調だが、原子炉の新設は規制強化などを背景に工期が遅れ、赤字続きだった。原子力サービス会社の買収で巨額損失を抱え、親会社の東芝の経営危機の主因となった。米国2カ所の原発計画は(ウェスティングハウスの)破産法適用後も継続する見通しだ。

 東芝は7125億円の損失を計上する見通しだったが、WH の破産法適用で実質的に縮小する可能性が高い。だがWH に約8000億円の債務保証をしており、この保証は完全履行する意向。違約金などの支払いを迫られる可能性があり、負担は1兆円程度に膨らむとの見方が出ている。(2017年3月29日 日本経済新聞)

 この日経の記事は重要である。今回の東芝の危機の全体像を簡潔に書き表している。東芝は子会社にしたウェスティングハウス社の負債の肩代わりとして約1兆円を払わなくてはならないように追い込まれている。

 東芝は2006年のウェスティングハウス社買収以降、同社を自社の原子力事業の中核と位置付けた。ところが2011年3月の東京電力福島第1原子力発電所の事故で、原発需要が世界的に低迷した。2015年には東芝の会計不祥事が発覚した。その後のリストラを経ても原子力事業を再建の柱とする姿勢は変えず、世界でも新規受注を目指した。しかし、米国の原子力事業でウェスティングハウス社を原因とする巨額損失を計上する見通しとなったことで、ウェスティングハウス社を早期に連結対象から外す方針に転換した。

 東芝は日本を代表する巨大企業だ。アメリカの子会社に命令されて経営判断を下すなどあり得ない。今回の損失は東芝の経営者たちの判断ミスによるものだ。東芝の問題に、GE は関係ないのではないか、と思う人も多いだろう。しかし東芝がGEの子会社である事実は、東芝が誕生した時以来のグローバルな見方では疑いようがないことなのだ。普通の日本人は知らなくても、日本の電力会社の幹部社員や技術者たちに聞いてみれば、全員が「そうだ」と答える。福島事故の後は、今の日本の電力会社は“原子力ムラ”の一員としてみなされ、電力会社の社員たちの発言は無視される状況にある。しかし、彼らは今回の東芝事件の真実を知っている。

 東芝は、戦前の1939年(昭和14年)に東京電気という白熱電灯をつくる代表的なメーカーと、福岡県出身の「からくり儀右衛門」こと田中久重(たなか・ひさしげ 1799~1881)が起こした機械メーカーである芝浦製作所が合併してできた。だから、この合併で「東京芝浦電気」となったのだ。ところが東京電気と芝浦製作所は合併前からともに、GEからの技術供与を受けていた。公開株式の何割かをGE が所有する状況にあった。その2つの会社が合併してできた東芝は、だから誕生の段階から日本におけるGE技術の受け皿となる宿命を負わされていたのである。この宿命は、太平洋戦争をはさんで、今日に至るまで脈々と受け継がれている。今回の事件にも伏線として大きく影響した、というのが私の主張である。

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推薦文                                 副島隆彦

 名門企業、東芝が経営危機に陥って、日本人はみんな驚き、心配している。

 本書、『東芝はなぜ原発で失敗したのか』の著者、相田英男氏は、現在、国内の大手重電機メーカーに勤務している。原子力発電機器に使用される金属材料の解析の専門家である。
機械材料の評価、分析を業務として行っている。原発の製造管理の本当の専門家である。

 相田氏は、2011年3月11日に起きた福島第1原発事故についても本書で優れた論究を行っている。

 そして、原発事故から4年後の2015年1月に、東芝の不正経理問題が起きた。新聞記事で騒がれた。この時から東芝の経営危機が表面化した。続いて2016年10月、東芝の子会社であるはずのウェスティングハウス社の7000億円( 64億ドル)にも上る赤字が表面化した。現在、会社再建の手続き( 米連邦破産法(べいれんぽうはさんほう)チャプター11(イレブン)条項の適用)に入っている。このために東芝本体が大きな打撃を受けている。東芝自体の再出発の目途(めど)が見えない。

 78年の歴史を誇る東芝(1939年創業)は、日本を代表する一流大企業である。ここの屋台骨が突如、グラグラと揺れて、私たちを驚かせた。本書『東芝はなぜ原発で失敗したのか』で相田氏は原子力技術に携わった専門家の目から、この重大な課題に鋭く切り込んでいる。東芝の経営危機について産業紙や経済誌にたくさん載ったあれらの東芝問題についての記事を書いた記者やジャーナリストたちとは、業界内部からの目を持つ相田氏の書き方は一味ちがう。

 相田氏は現役の原子力工学者であるとともに原子物理学を綿密に学んだ者としての、正確な知識を積み重ねて、「東芝が何なにゆえ故に大きく躓つまずいたか、その本当の理由」を追究して、大きく解明している。本書に見られるのは、そのための驚くべき理論構築力である。この本を読む者は、その筆致(ひっち)の妙(たえ)に驚くだろう。

 アメリカの原発メーカーの専業の草分けであるウェスティングハウス社が誇った原発「AP1000」の栄光の歴史、そして転落、蹉跌(さてつ)だけでなく、遠くわが国の原発製造の歴史の全体像までを論じている。

 東芝問題の真の原因をつくったのは、GE(ゼネラル・エレクトリック)という世界一の巨大電気メーカーだったのである。けしてウェスティングハウスという原発専門企業の破綻と、それが日本に及ぼした迷惑にとどまらないのだ。GEこそは東芝破綻の元凶であり、真犯人であった。

 この本を読むと、著者相田氏が、単に理科系の技術者であるにとどまらない、人並みならぬ文科系の教養人としての素そ よう 養までを持っていることがわかる。

 日本の原子力開発史の全体像までが見えてくる。本書を強く推薦する所以(ゆえん)である。
  2017年9月                           副島隆彦

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東芝はなぜ原発で失敗したのか 目次

推薦文 副島隆彦 3

第1章 東芝が原発事業で失敗した本当の理由

東芝とはどういう会社か 12
ビリヤード理論で見れば理解できる 17
ガスタービンがなぜ重要か 19
日本のタービンメーカーの試練 25
三菱重工の逆襲 30
巻きぞえを食わされた東芝 35
問題の核心は原発事業だった 40

第2章 ハゲタカたちの饗宴とその終結

「AP1000」の建設プロジェクト破綻の経緯 54
東芝より先に潰れていたGE 71
東芝はGEに見捨てられた 76
GEのエージェントだった西室泰三 83
東芝と同じく海外企業買収で躓いた日本郵政 88

第3章 今後の世界「原発」事業の行方

統一教会に入信し、中曽根のブレーンになった物理学者・福田信之 94
東芝、日立、三菱の実力と今後 97
フランス、ドイツ、ロシアの事情 107
中国の原発技術は、すでに日本を超えている 110
アメリカの原発建設はもう完成しない!? 112

第4章 歪められた原子力の導入 ―右と左の対立の狭間で―

福島原発事故を生み出した50年以上前の対立 116
武谷三男と素粒子論グループ 121
日本学術会議という団体 128
「札束でひっぱたく」の真実 139
原子力の三原則 148
左翼物理学者たちの排斥 153
矢内原提案と伏見の敗北 158
素粒子論グループ最後の抵抗 167
塵と化した反対運動 173

第5章 日本初の原発はテロの標的とされた ―原子力反対派よ、一度でよい、菊池正士に詫びよ―

「原子力の日」の前日に行われたストライキ 176
日本原子力研究所の発足 177
原子の火、灯る 180
嵯峨根遼吉、原研を去る 183
菊池正士の華麗なる経歴 185
紡がれる破滅への伏線 190
菊池理事長の嘆きと怒り 195
非情なる裁断 202
運命に絡め取られた菊池理事長 214
解体されゆく原研 217
その後のJPDR 225
JPDR失敗の真実 228
原研にも「設計」を熟知した研究者がいた 232
菊池の遺言 238

第6章 原発止めれば日本は滅ぶ

一瞬のうちに文明を葬り去るカルデラ噴火 246
巨大な自然災害に備えるための「新世代型」原発 250
科学とは副作用の強い薬のようなもの 257

おわりに「破滅へと宿命づけられた東芝と日本の原子力開発」 259

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おわりに「破滅へと宿命づけられた東芝と日本の原子力開発」        相田英男

 東芝の不正会計問題は、2015年前半から始まった。それから2年経って巨大な総合電機会社の存続を揺るがすまで広がった。こんな事態を誰が予想しただろうか。

 問題が発覚した以降の東芝は、坂道をころがり落ちるように破滅へと向かった。1.虎の子メディカル事業のキヤノンへの売却。2.ウェスティングハウスのチャプター11(日本の産業再生法に当たる)手続の申請。3.本社の管理部門と研究開発部門以外の実働部隊のすべてを別会社へ分離。4.最大の稼ぎ頭であるフラッシュメモリー事業の売却準備。これらの強烈な企業リストラを進めざるを得ない状況に追い込まれた。

 東芝は日本を代表する名門企業である。それでも一民間会社に過ぎないから、経営判断を失敗すると破綻に至る。これはおかしな話ではない。しかし私が強く感じるのは、ここに至る道は、東芝内部の当事者たちの努力では変えられない運命だったということだ。確かに2006年のウェスティングハウス買収以降に起きた、いくつかの不幸な出来事が重なって引き金を弾いた。それでもそれ以外のいつかのタイミングで、東芝はこの結末を迎えざるを得なかった。東芝という会社が1939年に誕生した瞬間から、今の結末がビルトインされていた。私にはそのように思えてならない。

 東芝の破綻を招いた重要な要素として、マスコミの記事と数冊の出版物で語られたとおり西室、西田、佐々木ら歴代社長たちの間の醜い確執と、それを取巻く重役たち、社外取締役、監査法人のメンバーの無能さが挙げられるだろう。

 しかし、彼ら東芝内部の人物たちが危機的状況を変えようと、いかに努力しても、動かしようのない強力なバイアスが、外部から東芝には掛かっていたのだ。企業の技術者社員が日々の仕事をする際にも、同じ目に見えない強い思考のバイアスを受けてきた。これは評論家の副島隆彦氏が提唱した「属国・日本論」につながる問題である。本書の前半では、アメリカの属国である日本論を元に、今回の東芝事件について説明した。もっと具体的には、属国・日本論の元のモデルである「ビリヤード理論」によって、東芝が破綻に至った理由について解説した。

 これは定められた運命だった、と私が感じるもう1つの出来事は、やはり2011年の3・11福島第1原発事故である。福島原発事故の概要についての説明は最小限にとどめる。不要だろう。事故を起こした原発の所有者である東京電力は、日本国中から非難が浴びせられ、勝俣恒久元会長ら旧経営陣3人の責任を追及する刑事裁判が、2016年6月末から始まった。

 しかし私は、福島原発の事故についての責任を、東電に対してのみ追及する風潮に、違和感をずっと感じている。東電と経済産業省(原子力委員会)と原発メーカーという原発推進派の責任は、確かに重い。しかし原発反対派も、これ見よがしに、「東電の経営陣は事故を当然ながら予見できていたはずだ」などと、声高に訴えることができるのか、という疑問が私の頭の中から消えない。この自己疑問に答えを出そうと私は福島事故の後から、戦後の日本が原子力を導入してきた歴史に関する文献を、少しずつ集めて読み込んだ。原発反対派に対する違和感を、福島事故が起こる前から私は感じていた。

 過去の文献を読み込んだ私の結論を簡単に言う。福島原発事故の責任は、東電だけでなく原発反対派にもある、ということだ。私の理解では、東電と同じくらい事故に対する責任が、原発反対派にもあると言わざるをえない。

 私がこんなことを主張しても、誰も相手にしないだろう。だが、私が本書で書いた真実を曲げることはできない。その証拠の1つが、今から53年前の1964年の衆議院科学技術振興委員会の議事録に、はっきりと記録されている。原発事故についての国会での審議の内容だ。この時も大きな事件が起きていた。反対派のメンバーは、反省などしなかった。事件そのものがなかったかのごとくその後も振るまい続けた。その結果が、53年後に福島原発のメルトダウン事故に繋がった。福島原発事故の原因は、50年前にビルトインされていたのである。

 本書の後半は、福島事故の引き金になったともいえる、53年前のこの「事件」の全貌と、それに至る戦後日本の原子力技術導入の歴史と人間模様について記した。この事件は、日本の原子力開発史上最も重要なイベントだったにもかかわらず、関係者とマスコミはほとんど取り上げなかった。体制派(原発推進派)と反対派の両方にとってあまりに都合が悪かったので、闇に葬って隠してしまった。ここまできたら、もうそうはいくか、である。

 私はこれまで重電会社の原子力に関する部門で、構造材料の強度の研究とそれの顕微鏡観察という材料分析を行ってきた。火力システムには直接関与しなかった。しかし、火力にも興味があったので、自分で勉強したり、電力会社の知人から話を聞いたりした。その知識を元にしてまとめたのが本書である。

 3・11以来、若い理科系の技術者たちの原子力開発への期待は薄れるばかりだ。しかし日本の原子力開発の過程で先人がやったことは、そこまで馬鹿でも無様でもない。困難に立ち向かい、砕け散りながらも、希望を繋ごうとした優れた者たちが、原子力ムラにもいた。この事実を、若い人に伝えることが私の願いである。この本に触れた若い人たちが、原子力を少しでも前向きに見てくれれば、私としてはとても嬉しい。

(貼りつけ終わり)

宜しくお願い申し上げます。


東芝はなぜ原発で失敗したのか

(終わり)

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