「1594」米大統領選挙、共和党はトランプが躍進し、民主党はヒラリーが候補を指名獲得し、二者の対決になりそうだ。2016年3月18日

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 中田安彦です。今日は2016年3月18日です。

 共和党の次期アメリカ大統領選挙候補者選びは、3月15日にフロリダ州の予備選挙で地元選出の上院議員のマルコ・ルビオが不動産王のドナルド・トランプにダブルスコアに近い敗北を喫し、その他の州でもトランプが順調に勝ち進んだことで、順調に候補指名への道を築いている状況です。3月初めのスーパーチューズデーでもトランプは、僅かな州をテキサス州のテッド・クルーズに譲ったものの、予備選や党員集会では支持を集め、指名獲得に必要な代議員数を確保していきました。現在、候補指名には1273人の代議員を必要とする中、トランプは半分の673人を獲得しています。二番手のクルーズが410人です。

(貼り付け開始)

 
トランプ氏、フロリダ州でも勝利 ルビオ氏は撤退表明
マイアミ=佐藤武嗣
朝日新聞(2016年3月16日13時27分)

 米大統領選は15日、共和、民主両党とも5州で予備選を実施した。共和党では、実業家のトランプ氏(69)がフロリダ州など少なくとも3州で勝利し、大幅に獲得代議員数を増やして党指名獲得へ前進した。ルビオ上院議員(44)は地元の同州で敗北し、撤退を表明した。一方、民主党はクリントン前国務長官(68)がフロリダ州、ノースカロライナ州などで順当に勝った。

 共和党は、フロリダ、オハイオ、イリノイ、ミズーリ、ノースカロライナの計5州で予備選を、北マリアナ諸島で党員集会を実施した。

 トランプ氏は、最多得票者が州に割り当てられた代議員をすべて獲得する「勝者総取り」方式のフロリダで勝利し、99人の代議員を獲得したほか、ノースカロライナ、イリノイ両州、北マリアナ諸島でも勝利。獲得代議員数を大幅に伸ばしそうだ。

 今後は、党の指名獲得に必要な代議員総数の過半数1237人にどこまで迫れるかが焦点となる。トランプ氏阻止をもくろむ党主流派は、7月の党大会まで同氏が過半数を獲得できずに党大会決選投票となり、別の候補が指名を得るシナリオを練っているが、党大会前にトランプ氏が過半数を確保する可能性が出てきた。

 一方、ルビオ氏は地元フロリダ州で敗北。15日夜に「本日選挙戦から撤退する」と表明した。

 総取り方式のオハイオ州ではケーシック同州知事(63)が勝利して代議員66人を獲得、トランプ氏に一矢報いた。これで、独走するトランプ氏をクルーズ上院議員(45)とケーシック氏が追う構図となった。

 民主党は、共和党と同じ5州で予備選を実施。クリントン氏がフロリダ州など4州で勝利を確実にした。中西部のミズーリ州ではサンダース上院議員(74)と接戦を演じている。

 クリントン氏は、すでに同氏支持を表明している特別代議員数の約470人を加え、代議員数でサンダース氏を圧倒。党指名獲得に必要な2383人に向け、順当に駒を進めている。

 一方のサンダース氏は、ミズーリ州で大接戦を演じている。製造業や農業が盛んなオハイオ州やイリノイ州などに照準を絞り、国内産業保護のため、環太平洋経済連携協定(TPP)への反対姿勢をアピールする選挙戦を展開したが、全体的に苦戦を強いられている。

 今後は、22日にアリゾナ州予備選などが予定されているが、共和、民主両党ともペンシルベニア州など5州で一斉に予備選が行われる4月26日が次の大きなヤマ場となる。(マイアミ=佐藤武嗣)

(貼り付け終わり)

 大統領選挙では、予備選や党員集会の中で、各州の有権者が二大政党である民主党と共和党に分かれて指名を目指す候補に対する投票を行います。予備選挙はプライマリーといい、党員集会はコーカスといいます。コーカスでは投票する前に有権者同士の話し合いがある点が違います。

 15日に行われた「ミニ・スーパー・チューズデー」と言われる予備選挙集中日では、フロリダ州やオハイオ州の他に合わせて5州で投票が行われました。事前の報道では、ここでフロリダ州とオハイオ州をトランプが勝てば、同州で選出される代議員(7月に開催される党大会で候補者指名投票券を持つ有力者)をそれぞれ99人、66人獲得するということから、トランプがこの時点で代議員を党大会が始まる前に総数2472人中の過半数1237人の代議員を獲得してしまうことが確定すると言われていました。

 しかし、オハイオ州では地元の知事のジョン・ケーシックが地盤を活かしてトランプを破りましたので、メディアの報道を見る限りでは、「当大会前にトランプの指名が確定するかわからない、だから予備選挙でトランプを出来るだけ勝たせないようにする動きが強まると言われています。具体的には、党大会で3人の候補(トランプ、クルーズ、ケーシック)が代議員の投票でいずれも過半数の1237人を得票できないように今後の予備選で二人の候補者がトランプから有権者の指示を奪う動きが強まるということです。


ジョン・ケーシック オハイオ州知事

 ケーシックは穏健派で共和党主流、クルーズは合衆国議会を一時期閉鎖に追い込んだこともある「ティーパーティー」の上院議員で、そもそも2010年の初当選以来、ワシントンの既成権力を敵視している政治家で、上院には仲間が少ないと言われています。この二人が踏ん張って今後の予備選でトランプの勝ちを弱めるという狙いです。代議員の配分のやり方には「勝者総取り」方式と、それ以外の「比例配分方式」の2種類が大きく分けてありますので、トランプに圧勝できなくても、「勝ちを少なくする」ことはできるだろうという共和党の主流派、エスタブリッシュメントの期待感です。


テッド・クルーズ上院議員

 7月の共和党大会で候補者が決まります。候補者に投票する代議員(デレゲート)は、一回目の投票では全て予備選の結果通りに投票しなくてはならない決まりですが、一回目で過半数を得る候補がいない場合には、2回、3回と投票していきます。2回目は全てではないにしても多数の代議員が予備選の結果に縛られず投票でき、三回目になると全て自由に投票できるという制度です。そのため、共和党主流派(RNC、共和党全国委員会)は、各州の有力者に呼びかけて、できるだけトランプを支持しない代議員を選ぶように働きかけを始めるだろうと言われています。そのように手配しておけば、決選投票になったばあい、トランプ以外の候補者を、ルールに従って選出できる、という期待感です。ただ、トランプはその動きをすでに牽制しています。仮に共和党主流派が党大会で談合して自分の候補指名を阻止するようであれば、「暴動になるだろう」と警告を始めています。

(貼り付け開始)

トランプ氏、党大会で候補選出阻止されれば「暴動起きる」と警告
ブルームバーグ(2016/03/17 00:02 JST)

    (ブルームバーグ):2016年の米大統領選挙で共和党からの候補者指名を目指すドナルド・トランプ氏は16日、次回の討論会に参加しないと述べた。同氏はまた、代議員獲得数でトップとなっても党大会で同氏の候補者選出が党指導部によって阻止されるようなことがあれば、「暴動」が起きるだろうと警告した。

15日の予備選・党員集会でトランプ氏は3州を制したものの、ミズーリ州では小幅なリードにとどまり、オハイオ州では敗北を喫した。代議員数獲得でトップになっても、過半数となる1237人に満たない場合、最終決着は7月の党大会に持ち越される可能性がある。

「党大会の開催前に勝利すると思う。しかしそうならない場合、例えば20人足りない、あるいは100人足りない、もしくは1100人獲得したが他の候補が500人、400人の場合は断トツでリードしていることになるが、自動的に勝利したとは言えないということらしい」とトランプ氏はCNNに対して発言。「そうなれば暴動が起きるだろう」と続けた。

同氏は暴動について、「私が導くわけではないが、悪いことは起きる」と述べ、そうなれば同氏の支持者の「参政権が奪い取られることになる」と付け加えた。

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 トランプの支持者集会では3月になって、反トランプの黒人運動家やリベラル派の抗議者が紛れ込んで、乱闘騒ぎになることが少しずつ増えてきました。トランプは支持者集会で集会を邪魔する奴らは「ぶん殴ってやる」と聴衆を前に言ってのけ、支持者から喝采を浴びたほか、「俺の集会で抗議するやつらと乱闘になって逮捕された場合、その人の弁護士費用は俺が持つ」とも発言し、支持者を煽り立てています。だから、「党大会が荒れるぞ」という共和党エスタブリッシュメントへの警告が真実味を持ってきます。

 トランプについては、ウォール・ストリート・ジャーナルのコラムで、彼のことをイタリアのファシスト、ベニト・ムッソリーニになぞらえる解説がありました。同じ頃、トランプが集会で支持者に右手を掲げかせて、「私はドナルド・トランプを支持します」と「宣誓」させたことも報道され、ナチスドイツの敬礼を連想させるとして批判されています。3月の前半に12州での予備選が集中したスーパーチューズデーの直前には、アメリカのネオナチの指導者がトランプを支持表明したり、彼の父親がかつて白人至上主義の運動であるKKK(クー・クラックス・クラン)に参加していたのではないかとする報道も出て大きく批判を受けました。

 しかし、これまで同様に、トランプの躍進を食い止めようとするこれらの動きは、全て逆効果に終わっています。大統領選挙といえば、対立候補を批判する選挙CMに巨額の資金を投入することが通例になっていますが、トランプ批判のコマーシャルは彼には全く通用しない。トランプ自身が遊説で「選挙CMに金を出している共和党主流派を支える大金持ち」を批判して、それが彼の支持の原動力になっているためです。ジェブ・ブッシュもマルコ・ルビオも選挙CMに大金をつぎ込みましたが、全く効果がなかった。私も2月のこの場での投稿では、マルコ・ルビオとネオコンの関係を紹介しましたが、穏健派、ネオコンの政治家を問わず、共和党の草の根の有権者のエスタブリッシュメントに対する不信感はものすごい。エスタブリッシュメントはティーパーティー運動を議会内では沈静化させましたが、その不満は一般有権者の中で溜まりに溜まって、それがトランプというポピュリストの登場によって爆発したわけです。私はどうもその辺を少し甘く見ていました。

 トランプは遊説や討論会のほか、ツイッターを活用し、CNNなどの主流派メディアに挑戦的なコメントを発表し、それがまたメディアで拡散される。だから、番組の合間に放送される批判CMよりも多くの放送時間を獲得しているわけです。極右との関わりが指摘されたり、支持者による暴力事件が報道されたりもしましたが、それでも予備選挙では勝ちます。そういうネガティブキャンペーンをむしろ、「主流派の仕掛けた謀略」とトランプ支持者は受け取るからです。

 トランプは、討論会などの場でうまくいかないことがあると、自分に注目をあつめるために、何らかのメディアに注目される事件を仕掛けます。トランプの支持集会が15日の予備選挙前の週末にオバマ大統領の地元のイリノイ州シカゴで予定されていましたが、これが黒人の反トランプ活動家が一斉に集まったことで中止になることがありました。この集会は石を投げれば黒人に当たるというほどの黒人地区であるサウスサイド(オバマ大統領の自宅もこの地域にある)で予定されていた。トランプは確信犯的に暴動を呼び起こすように仕掛け、その抗議のせいで、「自分の集会結社の自由が侵害された」と主張したのだろうと私は考えています。ただ、トランプ自身が、気に入らないメディアを政治家がもっと自由に名誉毀損で訴えられるように法律を変えたいと遊説で宣言していたことで批判されていたことを考えると、これは虫がよすぎる話です。

 これがトランプのメディア操縦のうまいところで、トランプは意図的に「乱暴な黒人活動家に妨害される自分」というのを演出して、それをテレビで報道することで、支持者の結束を固めたのではないか、と私は思いました。抗議行動に集まった活動家は、かつて1960年代に反戦活動や公民権運動で大荒れに荒れた頃に比べればごくわずかだったそうです。しかし、それをCNNが繰り返して中継することで大暴動になっているようにみえる。

 さらに、抗議活動に集まったのは、日本で言えば、「韓国人差別活動家の在特会に抗議する過激派リベラルのしばき隊」に相当する黒人の権利擁護活動家の中でも急進的と言われる「ブラックライヴズマター」という集団でした。この集団ですが、去年は大学内での些細な黒人差別の言動に対して、それを行った教授たちを吊るし上げる行動をとって、一部から批判されていた集団です。彼らは、ヒラリーの集会にもなだれ込んだことがありました。

 トランプはこれからもこの種の過激な集団をわざと挑発して騒がせて自分の方への批判をそらすことをやるのではないかと思います。彼らはもともと、2014年に、シカゴやミズーリ州での警官による黒人少年射殺に抗議して生まれた運動ですが、その抗議行動では暴徒化の様相を見せました。黒人差別反対に対する情熱が高まるあまりに、その正義を暴走させている。この動きは大学キャンパス内に去年は広がり、今年はリベラル派の反トランプ運動に結びついています。


アラバマ州でのトランプ集会で拘束される黒人活動家

 こういう集団は、「政治的に正しくない発言」(PC)を取り締まる風紀委員の活動家と言える存在ですが、こういう「差別発言を自由に口にすることもできない風潮」に対する反発が実はアメリカでは高まっていて、その不満を代弁しているのもトランプなのです。日本で言えば、放送禁止用語を連発していたかつての石原慎太郎にその点は似ています。トランプの躍進というのは、そういう窮屈なPC文化に対する反発ということもある。「言いたいことも言えないこんな世の中じゃいやだ」という草の根の保守層は「自分たちのホンネ」を誰にも遠慮することなく言ってのけるトランプに拍手喝采をしているわけです。

 だから、私はエスタブリッシュメントが期待する、「党大会での決着」というのは、あまりに楽観的で本当にうまくいくのだろうか、と正直疑問に思っています。ブッシュに変わるエスタブリッシュメントの期待の星とされた、ルビオ上院議員が低迷していったことを考えると、更にその思いを強くします。

 メディアの報道では、クルーズでもケーシックでもない別の候補を党大会で登場させて、代議員たちによる二回目、三回目の決選投票の際に反トランプ候補として登場させるとか解説されていますが、名前が上がっているのは、ブッシュ、前の共和党候補だったミット・ロムニー、前の副大統領候補だった、ポール・ライアン下院議長らです。ケーシックやクルーズでは一つにまとまらないという話です。

 しかし、これらの話は「あまりにも虫がよすぎる」と思います。当初はトランプの支持は貧乏白人だけだったのですが、最近は広がりを見せていて、逆にブッシュ撤退によって生まれたエスタブリッシュメント票がルビオやケーシックに集まらない。2月まで指名争いに参加していたニュージャージー州知事のクリス・クリスティがトランプ陣営の幹部クラスとして参加したことは関係者を驚かせました。仮に党大会まで持ち込んでも、仮にトランプが1237票にほんの僅か数十票たりないだけだったら、このシナリオは崩れるでしょう。
 
 また、トランプが別の候補の登場や党大会のルールの直前での変更に腹を立てれば、共和党を出て「無所属」で出馬してしまうかもしれない。そうなれば、かつての1992年にブッシュ父大統領とビル・クリントンの間をぬって登場した「第三の男」のロス・ペローのような形で、トランプが共和党の票を割ってしまい、楽にヒラリーを勝たせるということになるでしょう。
 
 ここで私が注目したいのは、1月に無所属での出馬を検討すると報じられた、マイケル・ブルームバーグ元NY市長が、3月に入って出馬を断念すると発表したことです。ブルームバーグは共和党主流派で、元は民主党だったニューヨークの金融財界人です。ヒラリー・クリントンもイリノイ州の出身ですが、上院議員としての基盤をニューヨークで築いています。ブルームバーグは共和党でドナルド・トランプ、民主党では民主社会主義者を自称するバーニー・サンダース上院議員が指名を受けるようであれば、という条件で出馬を検討していました。

 民主党ではクリントンは、予備選挙で順調に価値づけています。共和党と違って予備選挙では「勝者総取り」の州はありませんから、ヒラリーは多少サンダースに代議員を獲得されても順調に票差を伸ばしていけます。昨日の段階で、ヒラリーは指名に必要な2383人のうち、1139人の代議員を獲得しており、一方でサンダースは825人にとどまっています。

 更にヒラリーは、予備選挙で選ばれるのとは別の党の有力者などによって構成される、特別代議員(スーパーデレゲート)をすでに467人獲得しています。サンダースは特別代議員の獲得数はまだ26人です。そもそも民主党指導部(DNC、民主党全国委員会)は圧倒的にヒラリー支持で、予備選挙においてもサンダースとは違って、黒人やヒスパニック系の支持を圧倒的に得ています。黒人の議員たちはヒラリー支持です。黒人への利益配分を実現してもらうためには、民主党政権で影響力を示す必要があり、それでヒラリーを支持しているのです。議会内での黒人議連(ブラックコーカス)は重要なスイングボーターとして常に注目されています。だから、ヒラリーはこのまま候補者指名を獲得するでしょう。サンダースにしても、予備選挙に参加するのは、民主党内のエリザベス・ウォレン上院議員らのような貧乏白人のリベラル派の代弁者として、ヒラリーが極端にエリート寄り(ウォール街などの利益集団の代弁者)にならないようにする、牽制を狙って選挙運動をやっているわけです。

 だから、ヒラリーが候補指名を安泰にした段階で、彼女を支持しているウォール街の連中などは、むしろブルームバーグに出てもらってはヒラリーと票を喰い合うので困るのです。そもそもオバマ大統領も大統領選挙の際には少なからず献金をウォール街からもらっていました。ウォール街の献金は「勝ち馬に乗る」といってよく、選挙資金はトランプではなくヒラリーに流れるということです。同じように軍需産業も似たような政治資金の動かし方をするでしょう。エスタブリッシュメントというのは外交問題評議会(CFR)に集まる人たちのことをいい、それは超党派なのです。

 政治サイトの「リアルクリアポリティクス」に掲載された世論調査では、3月上旬の段階で、5ポイントから13ポイントの差で、ヒラリー対トランプではヒラリー有利に出ています。 この流れが続くならば、という条件付きですが、トランプは11月の本戦ではヒラリーには勝てない、と世論調査は示しているわけです。


民主党指名をほぼ確実にしたヒラリー

 ヒラリーにとっての鬼門は、私的サーバーを使って国務長官時代に機密情報を含むメールを側近とやり取りしていた問題や、リビアのベンガジ大使館襲撃事件の時の対応をめぐる問題、更に自分の夫が率いるクリントン・イニシアチブという財団が中東地域の国家指導者から資金提供を受けていたという問題でしょう。ただ、これらも予備選挙のはじめのうちに、サーバーを経由したメールをすべて国務省のウェブサイトで公開したことや、去年の11月に自ら下院公聴会に出席して釈明をしたことで、説明責任を果たしたとして、本人はあまりもはや問題視していないようです。ヒラリー以外の国務長官も私的メールを使っていたことも明らかになっています。ベンガジ公聴会を率いたのがルビオの盟友だったサウスカロライナ州のガウディ下院議員でしたが、ルビオが選挙戦から撤退したことでこの動きも収まるのではないかと思います。というか、そもそも今年は議会選もあるので、議員たちはまずは自分たちが当選することが大事です。

 共和党は、トランプが指名候補になった場合は、大統領選挙は諦めて、議会選挙、知事選挙で共和党の負けが拡大しないように動く方を選択するでしょう。今回のトランプ旋風は1964年に非エスタブリッシュメントの候補に指名された、元軍人のバリー・ゴールドウォーター上院議員が、主流派のネルソン・ロックフェラーを破って本戦に進み、ジョンソン大統領に敗れた時に似ています。この時も、ゴールドウォーターは公民権法(黒人に選挙権を与える法律)に反対したために、トランプと同じようにKKKと結び付けられるということがありました。この時、ゴールドウォーターを支持したのが、今は「トランプ嫌い」の急先鋒の財界人になっているリバータリアンのコーク兄弟の父親のフレッド・コークだったのはなんとも皮肉です。コーク兄弟を中心にして生まれたリバータリアン政治運動は、最後はティーパーティーという大衆動員にまで向かいましたが、トランプは「コーク兄弟の資金をもらって発言に縛りを掛けられるのはまっぴらごめんだ」と発言し、それがまた草の根の共和党支持者の喝采を浴びています。リバータリアンのランド・ポール上院議員の低迷に見られるように、リバータリアニズムとポピュリズムはもはや完全に相容れないものになりました。

 共和党主流派は、党大会での決着(トランプ排除)に望みをつないでいるようですが、この話も「うますぎる話」で、ある種の「期待・願望」に近いのではないかと思います。本当のアメリカの支配階級は、すでに誰が共和党の候補になっても、ヒラリー大統領を前提に考え始めているように私は思います。それでも、今年の大統領選挙、まだ何が起こるかわかりません。

 中田安彦拝

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