「1544」 副島隆彦先生の新刊・中国研究本の第7弾! 『中国、アラブ、欧州が手を結び ユーラシアの時代 が勃興する』 が先週末に発売。ロンドン金(きん)の値決めに中国の二大民間銀行が参加、人民元決済圏の拡大 から 南沙諸島問題も含めてユーラシア大陸の時代 を余すところなく分析。2015年7月26日
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副島隆彦の学問道場の中田安彦(アルルの男・ヒロシ)です。今日は2015年7月26日です。
今年の6月29日に、中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)の設立協定の署名式が行われ、参加表明をした57カ国のうち英独仏豪を含む50カ国が署名しました。一番最初に署名したのはオーストラリアだったと中国の新聞が報じていました。
6月29日に北京で署名されたAIIB設立協定
そして7月に入って、ロシアのウーファというところでは今年の定例のBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)の首脳会議が開かれ、その合間にBRIC開発銀行についての会合が開かれました。AIIBは年末に、BRICS開銀はインド人総裁のもとで上海で業務を開始しました。
予想されていたことでしたが、BRICS開銀は、融資案件は「人民元建て」で融資するということです。これを一部報道が伝えています。(http://www.zerohedge.com/news/2015-07-25/brics-bank-aiib-pledge-partnership-loans-be-issued-yuan)
すでにAIIBが人民元での融資を働きかけるという動きは朝日新聞が海外紙の報道として伝えていました。
(貼り付け開始)
AIIB融資、人民元利用を中国が働き掛けへ=香港紙
朝日新聞(2015年4月15日12時10分)
[香港 15日 ロイター] - 中国はアジアインフラ投資銀行(AIIB)による融資と決裁に使う通貨に人民元を加えるよう加盟国に働き掛ける。香港の英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポストが15日、シンクタンク関係者の話として伝えた。
また同紙によると、アジアのインフラ支援のために中国が設立したシルクロード基金とAIIBに対し、特別な基金を設け人民元建ての融資を行うよう促す。
(貼り付け終わり)
このように中国はAIIBやBRICS開発銀行(新開発銀行)、さらにはすでに存在した中国開発銀行(CDB)の融資をこれから次々と人民元建てに変えていくつもりだ。そして、ユーラシア大陸の開発途上地域を中心に人民元での決済を加速させていく。すでにロシアは人民元で原油とガスの決済を行う、と発表しています。
(貼り付け開始)
[FT]ロシア企業、ドルに代え人民元で決済へ
日本経済新聞(2014/6/9 14:00)
http://www.nikkei.com/article/DGXNASGM0900T_Z00C14A6000000/
欧米の経済制裁で米ドル市場から締め出される恐れがあるなか、ロシア企業は契約を人民元などのアジア通貨に切り替える準備を進めている。銀行首脳2人が明らかにした。
ドイツ銀行のロシア部門トップは「市場ではこの数週間、ロシアの大手企業が人民元などアジア通貨建ての様々な商品の利用や、アジアでの口座開設に大きな関心を寄せている」と話す。
天然ガス供給を巡り、中ロが合意。条約締結の式典に出席したロシアのプーチン大統領(左)と習近平国家主席(5月21日、上海)=AP
天然ガス供給を巡り、中ロが合意。条約締結の式典に出席したロシアのプーチン大統領(左)と習近平国家主席(5月21日、上海)=AP
ロシア国営の対外貿易銀行(VTB)のアンドレイ・コスチン最高経営責任者(CEO)は、ドル以外の通貨の利用拡大は同行の「主な課題」の一つだと語った。同氏はロシアのプーチン大統領に対し、ルーブルや人民元での決済拡大は5月から取り組んでいる「優先事項」だと述べている。
■経済制裁を受けて欧米への依存度減らす
人民元や香港ドル、シンガポールドルでの取引口座を開設する動きは、対欧関係が緊張するなか、ロシアがアジアに軸足を移そうとしていることを浮き彫りにしている。ロシア企業は経済制裁を受けて欧米の金融市場への依存度を減らしており、欧米の銀行のロシアでの融資活動は3月のクリミア編入以降大幅に縮小している。
ロシア中央銀行もビザやマスターカードなど欧米企業への依存を軽減する決済システムの構築に取り組んでいる。
別の欧大手銀行のロシア支店長は「ロシアがドルへの依存度を減らそうとするのは当然で、理にかなっている」と話す。ロシアの米ドルへの依存度が高ければ、危機時に不安定な市場の影響を受けやすいとも指摘。「日本との取引をドルで決済する理由はない」と語った。
輸出での売り上げの70%を米ドルで受け取っているロシアのあるメーカーのCEOは、制裁が強化された場合に契約の決済を移す準備を整えたと話す。「何かあれば、ほかの通貨に代える用意はできている」と語った。
ロシア国営ガスプロムの石油部門のアレクサンドル・デュコフCEOは、契約をドル以外の通貨にする可能性について顧客と協議したことを明らかにしている。資源大手ノリリスクニッケルもフィナンシャル・タイムズ紙に対し、中国の顧客と長期契約を人民元建てにすることを検討していると語った。
By Jack Farchy and Kathrin Hille
(2014年6月9日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
(貼り付け終わり)
もう1つの石油大国イランはどうか。制裁解除されたイランと取引をすることでもっとも利益を得るのは中国でしょう。何しろ人口8000万人の大国です。知的水準も高い。欧州諸国もすでに企業の進出計画をスタートさせている。オバマ外交の成果を議会の抵抗によって得られないのが当のアメリカという皮肉なことが起きるかもしれません。
このように人民元決済圏を拡大させるのが、中国のAIIB、NDBなどの新開発銀行の設立の狙いでしょう。その設立に当初から世界銀行関係者が協力しているという風に毎日新聞が報じていました。
上に載せた記事はFT紙の記事ですが、なぜか今度FTを日経新聞が買収することになってしまいました。買収を目指した競争相手がびっくりするような巨額、1600億円という金額を日経が現金で払うといったからみたいですが、ロンドンの金融街シティの旗艦紙と言われたFTも経営が苦しい。ロンドンが中国人民元決済の拠点となるのにいち早く名乗りを上げたのも、もう中国と組まないとやってられないという意識の現れでしょう。ロスチャイルド家はFTを維持できなくなり、旗艦雑誌のThe Economistだけは自分たちで経営権を持っていくというふうに決めたのかもしれません。
いずれにせよ、今まで開発途上だった「ユーラシア大開発」が始まる。そうしないと世界経済が続かないので、欧州もこれに乗った、ということでしょう。中国の地政学的な影響圏も拡大していくでしょう。
ロシアの手を借りないともう人類は宇宙ステーションに人を送れなくなっている。カザフスタンにはバイコヌール発射場がある。それで先日、宇宙ステーションに接続した日本人飛行士もバイコヌールから飛び立った。ユーラシアの時代を象徴する話だと思います。
副島先生の今回発刊した、『中国、アラブ、欧州が手を結び ユーラシアの時代が勃興する』(ビジネス社)は、そういうユーラシア時代がやって来たということを実感させる内容になっております。中国は10年間ずっと「西部大開発」を手がけてきましたが、AIIBやNDBを利用しながら今度は、ブラジルのような南米諸国にも開発協力の手を広げるのでしょう。これはアメリカからしてみれば、自分たちの裏庭に中国が主要な経済協力国として独自の地域ネットワークをつくろうとしている動きに見えるでしょう。
この本では日本では意図的に語られないが、世界レベルでは当たり前に言われている中国経済の拡大、世界経済の地殻変動についての分析が展開されています。
この種の予測を以前から大きな枠組で言っていたのは、日本では副島先生、海外では多分、パラグ・カンナという国際政治アナリストだけでしょう。ほかの知識人は、みんな米ソ冷戦の時代の枠組みの延長線で物事を論じてしまっています。大きな世界の歴史の軸をいち早く予想することができるのが一流の知識人なのだと思います。
しかし、中国の隆盛といっても、よく考えれば、いまのような活気のある中国は、モンゴルや、大清帝国を見れば分かるようにそれがむしろ「歴史の常態」だったわけです。欧米列強にしてやられた200年こそがイレギュラーな状態であった。常態に回帰しているに過ぎない。そのように認める人の方が世界の知識人には多いのです。
それでは以下に目次とまえがき・あとがきを掲載します。
(貼り付け開始)
まえがき 副島隆彦
世界の経済が急激に変動を始めた。この6月12日まで中国の株式が暴騰していたのに、大きく下落した。だからこそ今こそ日本人は中国株と人民元(じんみんげん)を買うべきなのだ。日本の株式(東証)やニューヨークの株なんか買うものではない。
中国はこれからもますます隆盛(りゅうせい)する。私は孤立無援の中でずっとこのように書いてきた。 この本は私の中国研究本の7冊目だ。
中国を中心に世界の流れが変わった。さらに一段階、突き抜ける感じで中国の存在感(プ レゼンス)が増している。中国は強い。中国は崩れない。だから中国を買え、である。 私が書いてきたとおり、この10年間に中国株を買い、中国で金(きん)を買い、人民元預金をした人の勝ちである。
3ページの人民元の表にあるごとく、1元=20円を突破した。2012年3月には1元=12・3円だった。2012年12月から急激な上昇トレンドが起きた。今や人民元は、16円、18円を突き抜けて、2015年6月に20円台に乗せた。
人民元預金をした人の勝ちだ。このあとも人民元高(円安)は続き、1元=30円を目指す。だから今からでも私たち日本人は人民元預金をすべきである。この5年間で、日本の主要な銀行でも人民元預金はできるようになった(P25参照)。
今も日本には中国を腐(くさ)して中国の悪口ばかり言っている人々がいる。
そんなことでいいのか。中国で暴動が起きて共産・中国は崩れる、の中国崩壊論を唱えてきた人々の大合唱が出版界で続いた。この人々の頭は大丈夫か。中国は崩壊などしない。私たちは嫌がらないで中国を正面から見据えなければいけない。
副島隆彦
「 中国、アラブ、欧州が手を結び ユーラシアの時代 が勃興する 」 目次
まえがき
第1章 今こそ人民元、中国株、中国金を買うべき
中国の株はどん底の今が買い時
1人民元= 20円の時代
上昇する人民元の実力
中国がロンドンの金価格決定に参加
金価格の決定権をめぐる闘い
台湾人の不動産〝爆買い〞
第2章 中国が目指新しい世界
ユーラシア大陸の時代が到来する
AIIBで中国、アラブ、欧州がつながる
中国はアラブ世界とも連携していく
中国の幹部たちの腐敗問題
第3章 「一帯一路」で世界は大きく動く
広大な砂漠でも、水さえあれば人は生きていける
日本企業の海水真水化プラント
中国が打ち出した大きな世界戦略「一帯一路」
中国は、戦争をしない。する必要がない
インドと中国の問題もいずれ解決する
中国と敵対する日本の反共右翼たち
戦争は帝国を滅ぼす
アメリカの危険な軍産複合体
ウクライナ危機の行方とプーチンの手腕
2007年に中国はイスラエルとの関係を切った
帝国は民族の独立を認めない
「香港の一国二制度」は中国民主化へのステップ
中国の南米戦略と焦るアメリカ
人類の歴史は理想主義では進まない
第4章 南沙諸島をめぐる紛争の火種
中国が南沙諸島での実行支配を着々と進めている
南沙諸島はもともと各国の主張がぶつかり合う紛争地域だ
中国が南沙諸島の領有を主張する根拠
フィリピンは中国に対抗できるのか
日本が中国を強く非難できない理由
領土問題は話し合いと調停で解決すべき問題である
第5章 欧州とアジアをつなぐアラブ、イスラム教徒の底力
副島隆彦のイラン、ドバイ探訪記
遊牧民が築いた帝国
中国は大清帝国の自信を取り戻す
イスファン(エスファハーン)とテヘランの位置関係
アラビアのロレンスとは何者か?
アラブ世界を分断したアメリカの力
ペルシャ湾岸の豊かな国々
アブダビで見たオイルマネーの威力
アラブもヨーロッパもアメリカに騙された
あとがき
巻末付録 主要な中国株の代表的銘柄32
あとがき 副島隆彦
中国指導者の真意は16億人の国民を食べさせること
中国についての本を、私はこの10年で対談をふくめると10冊書いた。この本はビジネス社から出す中国研究本の7冊目である。
2007年に出した1作目の『中国 赤い資本主義は 平和な帝国を目指す』から8年がたつ。まさしく私が予測(予言)したとおり、赤い資本主義(レッドキャピタリズム)である中国の巨大な隆盛は世界中を驚かせている。
「中国の不動産市場が崩れて、株式も暴落して中国は崩壊しつつある」はウソである。昨年末からの急激な中国株の上昇(2.5倍になった)のあと、6月12日から暴落が起きた。そして下げ止まった。だから今こそ日本人は中国株を買うべきである。外国人としての冷静な目で中国の今後を見るべきである。
中国の不動産(高層アパートの価格)は高値のまま安定している。1割でも下げればそれを買う若い人たちのぶ厚い層がいる。2年前の私の中国本は、『それでも中国は巨大な成長を続ける』(2013年刊)であった。このコトバどおり今も巨大な成長を続けている。
いちばん新しい中国の話題は、AIIB(エイアイアイビー)アジアインフラ投資銀行の設立である。そして中国政府が4月に打ち出した「一帯一路」(いったいいちろ)構想は、これからの世界に向かって中国が示した大きなヴィジョンだ。ユーラシア大陸のド真ん中に、10億人の新たな需要(デマンド)が生まれる。中国とロシアと、アラブ世界とヨーロッパ(インドも加わる)が組んで、新たなユーラシアの時代が始まるのだ。
AIIBは今年の3月から急に大騒ぎになった。イギリスが参加表明したからだ。アメリカは「裏切り者」と思った。中国が音頭をとって世界中から参加国を募っている。57カ国が参加を表明し(P59の表)、これらの国々は設立メンバーになる。今年2015年の終わりから営業を始めるらしい。
このアジアインフラ投資銀行の動きに取り残されたのが、アメリカ合衆国と日本である。ところが日本の財務省はコソコソと中国と裏取引をして、いつの間にかオブザーバー参加という形にするだろう。
日本の安倍政権は、公然と中国ギライであり中国包囲網を敷いている。中国を敵視して対中国の軍事(安全保障)戦略まで敷いている。このように日本はアメリカにべったりとしがみついて中国と対決、対抗する姿勢のままである。日本国内は奇妙な選挙をやって国会議員の数で安倍政権が圧勝しており、彼らが国家権力を握っている。国民は身動きがとれない。日本の金持ち(富裕層)はどんどん外国に資金(資産)を移し、住宅も買い、自分も逃げ出しつつある。
不況(デフレ経済)のままの日本のことなどお構いなしに、中国の巨大な成長は続く。中国は、日本やアメリカとの敵対、対立など考えていない。そんなことをやっているヒマはない。自分が経済成長(エコノミック・グロウス)を続けることのほうが大事だ。南シナ海と東シナ海で軍事衝突を起こさないほうが、中国にとってはいいのだ。
中国にとっていちばん大事であり、中国の指導者たちが本気で考えているのは、いますでにいる16億人の国民(公称は13億人。だが実際には17億人になるだろう)を食わせることだ。国民をなんとか食べさせて、自分たちがもっと豊かになってゆくこと。そのための大きな計画さえあれば中国の隆盛は続いてゆく。それが「一帯一路」でつくられてゆくユーラシア大陸の中心部の大開発である。ユーラシアの時代の幕開けだ。
2015年7月 副島隆彦
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