「1520」 AIIB「アジアインフラ投資銀行」の設立をめぐるゴタゴタの真相を載せます。 副島隆彦 2015年4月1日 (重たい掲示板から転載)

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アルルの男・ヒロシ(中田安彦)です。

今日は2015年4月1日です。

以下に転載するのは、3月26日の副島隆彦先生の文章です。
アジアインフラ投資銀行をめぐる動きについての分析です。(7日に大幅に加筆しました)

副島先生は数年前に、「やがてカザフスタンを本部にした新しい世界銀行ができる」と予測しました。これでまでも、中国主導の「新しい世界銀行」への動きが出ていました。

新しい開発銀行の設立は、2013年3月27日に南アフリカのダーバンで開かれた第5回BRICSサミットにおいて、BRICSの首脳たちにより合意された「BRICS開発銀行」です。これのアジア版が今のAIIBでそれぞれは別々のものです。

BRICS開発銀行が、世界銀行への対抗、AIIBが日本人が総裁を務めるADB(アジア開発銀行)への対抗です。副島先生は、「やがて世界銀行の代わりとなって登場する、新しい世界銀行はその本部をカザフスタンに置く」と予測しています。これには理由があります。

現段階で決まっている範囲では、BRCIS開発銀行の本部は上海であり、総裁はインド人であるということが決まっています。しかし、「BRICS開発銀行、そしてこれがやがて新しい世界銀行になった場合、その本部がこのまま上海に置かれ続けることがありうるのか」という根強い疑問を副島先生は持っています。

BRICS開発銀行が、やがて新しい世界銀行になっていくとすれば、それは世界の中心に位置しなければならない。やがて、中国などBRICSだけではなく、欧州諸国、様々なイスラム圏の諸国も参加できるものにするためには、それは世界の中心であり、同時に穏やかなイスラム諸国を取り込んだものでなければならない、というのが副島先生の予測です。

(私は、直接この説明を最近受けました。これを聞いて思うのは、欧州中心の世界秩序であったときに存在した欧州の中心部の金融国家でるスイスの存在です。)

そして、より多くの国の賛同を得るという点で、この条件をみたすのは、カザフスタンである、というのが副島先生の予測です。現在、このカザフスタンのような内陸の国家にも飛行機が容易に乗り入れることが可能になり、インフラも整備されれば、国際会議を頻繁に開催することができる中心都市の役割を果たすことができるようになる。

このように2009年にカザフスタンを実際に訪問した際に感じたそうです。そのカザフスタン訪問記は09年8月に出た『あと5年で中国が世界を制覇する』(ビジネス社)に詳しく書かれています。

(引用開始)

アメリカのドル覇権の弱体化と、基軸通貨としての地位の喪失が、必然的に呼び込むのが、それでは一体どこを新しい世界決済機能の中心とするかという課題である。はじめのP 46から書いてきたとおり、私の予見ではどう考えてもそれは「世界のヘソ」である中央アジアであらぎるをえない。

ユーラシアの大国であるロシアと中国の駆け引き、綱引きがある。だからロシアと中国のどちらの国の首都にも、世界の通貨決済機能を呼び込むことはできない。他の国々にも反対する。とすれば、どうしてもその中間にある、 一応、独立国である中央アジアのどこかに世界の送金決済、貿易決済の機能を移さぎるをえない。

そうすると、私の考えでは、やはり中国から見ればタクラマカン砂漠(タリム盆地)つまり新彊ウイグル自治区をさらに越えて、中国と国境線を接している中央アジア5ヵ国のうちのひとつだ。それはキルギスやタジキスタンではなくて、中心のフェルガナ盆地を領有するウズベキスタンでもなくて、トルクメニスタンでもない(P 42の地図を参照のこと)。

カザフスタン2009

●カザフスタン国の アセット・イシェキシエフ産業貿易大臣と
2009年7月16日 首都アスタナの政府ビルで

Kazakhstan-Map

カザフスタンの首都アスタナは北の方にあって冬は零下30度で寒い。
その東の方のセミパラチンスクが、かつてソビエトが核実験を行ったところ。このセミパラチンスクがユーラシア(ユーロ + アジア)大陸の地理上中心 = ヘソ である。
旧都で最大都市のアルマトウ(アルマティ)は、天山山脈の雪解け水がある古代からのオアシス都市。
ここが新しい世界の中心としてのBRICS銀行の本部にやがてなるだろう(副島隆彦)

写真と地図は『あ5年で中国が世界を制覇する』(ビジネス社)から

ずばリカザフスタンであろう。カザフスタンこそは、おそらく近未来に人類の(世界の)中心となる国である。カザフスタンの首都のアスタナは今から12年前に建設された首都である。

政治都市として今も建設が進んでいる。首都アスタナはカザフスタンの北のほうにあって冬は零下30度になる寒い所である。だからそれよりはずっと南のほうのアルマティ(アルマトウ)という都市が最も有力だと、私は判定した。

この町は古都であり、シルクロードが14世紀まで栄えた都市である。このアルマティの町から、道路と鉄道がやがて、キルギスやタジキスタンを越えて、アフガニスタンのマザリシヤリフとヘラートを越えて、イランの首都テヘランにまでつながる。そしてイラクの北のほうのザクホを越えてシリアに入り、あるいはトルコに入り、ジェイハン港、あるいはイスラエルのハイファの港からヨーロッパ世界ともつながるのである。

『あと5年で中国が世界を制覇する』(ビジネス社)(100ページ)
(引用終わり)

また、次のように書いて、海の時代から陸の時代への時代の移り変わりを予測しています。

(引用開始)

おそらく15世紀を区切りとしてシルクロードは大きく衰退した。なぜなら16世紀のはじめ、今からちょうど500年前から大航海時代が起きた。1498年にバスコ・ダ・ガマが、アフリカの南端の喜望峰を回ってインドのカリカットに到達した。この時から東方貿易の航海路が開かれた。この時から海運力という大きな力で、ヨーロツパがアジアまで進出してきた。

この時、一気にシルクロードが衰退したらしい。陸上を馬やラクダの背に高価な財物を載せて運んでみても、その運ぶ量はわずかなものである。それに比べて海運力(船の力)で運ぶと、それこそ何十トンもの物量を一度に運ぶことができた。だからそれからの500年間は、沿海部の海運力に、アジア大陸の内陸部の経済は負けてきた。

ところが大きな変化が起きている。どうやら急速に内陸部が重要になっている。中国が建設している新しい「第二のシルクロード」の道が、きわめて重要になってきている。今や中国全土に主要幹線道路が建設され張り巡らされている。

ロシアとの国境もどんどん越えて大きな道路網が作られている。そして中国の西域のその向こうにあるのが中央アジアである。カザフスタンとキルギスと、タジキスタンは中国と国境を接し、トルクメニスタンとウズベキスタンは、イランやアフガニスタンと国境を接している。ここにまでやがて中国が道を通す。

『あと5年で中国が世界を制覇する』(ビジネス社)(104ページ)
(引用終わり)

ここで書かれているのは、中国が現在まさに主導している「現代のシルクロード計画」です。これは、一帯一路構想(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/40509)と呼ばれており、陸だけではなく海のシルクロード構想を含みます。陸のシルクロード構想のハブになるのがカザフスタンのアルマトウという都市であろう、ということになります。

もともと、BRICS開発銀行にしても、地域開発銀行であるAIIBにしても、ワシントンに本部を構える、世銀とIMFにおいて、自分たちの議決権が経済規模に比例した形で認められていないのが不満だったため発足したものです。中国は、これまで世界銀行やIMFの内部での影響力拡大を目指してきましたが、アメリカがあまりに頑固で、埒が明かないという風に考えるようになりました。

この中国外しをアメリカが続けてきたことが、今、アメリカのエスタブリッシュメントの間では失策であったのではなかったのか、という責任追及の声として上がっているわけです。

世界の中心アメリカ主導の世界銀行はあまりにも露骨にアメリカの首都ワシントンにその本部を置いたために、IMFと並んでアメリカの世界支配の道具であると考えられました。副島先生にしてみれば、だからこそ、中国はアメリカの失敗をしっかり研究しているだろう、というわけです。この仕組みは「ワシントン・コンセンサス」と呼ばれて批判されています。

ここで露骨に中国は、アメリカの失敗を研究しているだろうから、露骨な「北京コンセンサス、上海コンセンサス」と揶揄されるような形での「帝国建設」をするような愚かな真似はしないだろうと中国の指導者が考えていくようになるだろう、ということです。

中国が、アメリカに変わって新しい秩序を担うような、副島先生の言う「平和な帝国」になるには、そのようなアメリカが世界銀行の設立の際に見せたような、露骨な思惑をむき出しにしたままでは、やがて脚をすくわれるだろう。

「なんだ、中国もアメリカと同じで結局は自分たちの国に世界の中央銀行の本部を置くのか」という風に批判されるだろう、というわけです。それを避けるためには、誰もが納得する世界の中心に、穏健なイスラム国家まで取り込む形で世界銀行の本部を設置しなければならない、ということになるわけです。

おそらく世界の中央銀行が名実ともに世界銀行に取って代わる存在になるには、様々な国から承認される必要があり、そのためには本部は中国にあってはならない、という風に中国の指導者は考えなければならない、とこれが副島隆彦の読みです。そこで登場するのが「カザフスタン」である、ということです。カザフスタンは、まさにユーラシアの中心で、穏健なイスラム国家です。

だから、現在のところはBRICS開発銀行も上海に本部を構えているが、これがやがて「新しい世界銀行」に発展していく時に、より中立的なカザフスタンのような国に本部を構えることで、新しい世界秩序がより安定的に形成されていくという風に考えることは、現在の中国の指導者が当然考えているべきことなのでしょう。

ただ、BRICS開発銀行と、副島先生の言う「決済機能を含んでいる世界の中央銀行」は、更に違うものではないかとも思います。そもそもアメリカにある「世界銀行」(ワールドバンク)というのは、「国際復興開発銀行(IBRD)」が前身であり、単なる開発銀行であるからです。副島先生の言っているのは、むしろバーゼルにある国際決済銀行(BIS)の機能を持った中央銀行であると私は上の引用文を読んでいて感じました。

そして、現在の中国では3月末に行われた経済会議の「ボアオ・アジアフォーラム」でも話題になりましたが、AIIBのプロジェクトと、一帯一路構想が大きくリンクしたかたちで政策担当者や国営企業の動向が決まっていくようです。

副島先生の『余剰の時代』の話ではありませんが、おそらく帝国建設というのは、有り余ったパワーや物資を海外に吐き出すことで行われるのだと思います。中国国内、あるいは東部の沿岸部で消費しきれなくなった鉄鋼、アルミニウムなどの資材や、人員をもこの「一帯一路」によって、中国の新疆ウイグルから西へ、あるいは海路ではスリランカといった南アジアの国から、中東、アフリカへと運びだして消費する仕組みです。

中国の国有高速鉄道会社が最近、合併することを決めたりしたこともこれと大きく関係していると思います。なぜなら、そうする大風呂敷をぶち上げることによってのみ、余剰を消費する需要が生まれるという中国の戦略家の判断だと思います。

この巨大な需要創出計画に、英国を始めとする欧州勢が目をつけ、日米を除くほとんどの主要国が関心を示すということになっているのでしょう。所詮、TPPは「ものやサービス」をやりとりする際に、どのようなルールをつくろうか、という「供給側」の取り決めであり、慢性的な需要不足を解決するには、「開発銀行モデル」が有効であるという中国の判断だと思います。

中国は中国開発銀行(CDB)というものをすでに立ち上げて、アフリカへのプロジェクト融資などに活用しています。ただ、ここで他の国の資金も導入することで、中国の帝国建設へ参加を促し、同時にアメリカ抜きの世界秩序を徐々につくりあげようということだと思います。

しかし、これはG7の主要国抜きで行われれば、せいぜい中国とロシアとその辺のユーラシアと東南アジアの国だけのプロジェクトとなって終わっていました。ここで、いのいちばんに英国が手を上げたということがものすごく重要だと思います。

イギリスはここ数年のあいだに中国の通貨である人民元の国際化にむけた働きかけをしていましたし、かつては大英帝国として世界の盟主として君臨していたわけですから、衰退し内向きになっ
ていくアメリカに代わる秩序を作る際に重要なパートナーになるのだと思います。

地球全体のパワーバランスが大きく動いています。


日本経済新聞(2015年4月1日)から

副島先生の文章は後々重要になると思いますのでそのまま転載します。

===以下転載貼り付け開始====

副島隆彦です。  今日は、2015年3月26日です。

政治と 金融・経済の両方で、世界の流動化(リクイデイション)が続いています。
今は、一件、A I I B (エイ・アイ・アイ・ビー)の ことだけ書いておきます。

AIIBというのは、 中国が主導する「アジアインフラ投資銀行」(アジア・インフラストラクチュア・インベストメント・バンク)のことで、今年の年末には、発足する予定になっている。これに参加する加盟国を、中国は去年から募集というか勧誘していた。

騒ぎは、先々週の3月12日から始まった。英国が、このAIIBに入ると、と12日のFT(フィナンシャル・タイムズ)紙が報じた。 初めは、アメリカがこの英国の加入表明に、不快どころか、怒りを表明して、英国の意思を撤回させるように働きかけたようだ。日本は、みっともないぐらいにアメリカの子分(こぶん)だから、この20日までは、「日本は、西側主要国(G7,先進国ジーセブン)と共に、この中国主導の世界銀行の動きに強く反対する」という態度だった。

それが、20日には、麻生太郎財務大臣が、フニャフニャになって、態度が崩れて、今にも参加しそうだ。 20日までに、以下に並べる新聞記事のとおり、まるで雪崩を打つように続いた、多くの国の参加表明に、日本も追随して参加しなければいけないような、惨めな感じになっている。

このままだと、アメリカだけが孤立しそうな感じになった。今日26日に分かったことは、アメリカのジェイコブ・ルー財務長官が、急遽、北京に飛んで、中国と真剣に話すようだ。

このAIIB「アジアインフラ投資銀行」の重要性は、アジアの新興国や発展途上国が、開発、成長用の資金を欲しがっていて、その強い需要に、今の世界銀行(ワールド・バンク)や、アジア開発銀行が、機能不全に陥っていて、アジア諸国が強く必要としている、長期で安全な資金を供給出来ていない、という切実で、緊要な問題があるからだ。

だから、アジア地域(リージョン)の銀行なのに、なぜ、西側先進国が参加しなければいけないのかと言うと、西側先進国は、カネ余りで、ジャブジャブ状態の供給過剰の資金が、うなるほど余っているのだ。

それを、中身のあるしっかりした生産性を持つ資金として、アジア諸国の旺盛な成長発展用の資金として、投資することは、世界の経済の発展にとって、ものすごく重要なことなのだ。 だから、国内で余剰になっている資金の出し手として、先進国が必要なのである。

中国を中心としたこのAIIBの素晴らしい動きは、もしかしたら、世界の覇権(はけん)が、遂に、アメリカから、中国に移りつつあることの重要な地殻変動(ちかくへんどう)、根底からの世界の大変動の 表面化である。

私、副島隆彦は、「中国赤い資本主義は平和な帝国を目指す」(2007年刊)、「あと5年で中国が世界を制覇する」(2009年刊)、「それでも中国は巨大な成長を続ける」(2012年刊) などの 合計8冊に中国研究本の著者である。 この私こそは、ここに至る中国の巨大な成長を、この10年間、着実に研究した人間だ。 私が書いてきたとおりの動きになりつつある。

アルル君が、この件については、ここの重たい掲示板に、早くも3月14日には、
[1762]番として 「イギリスが中国を抱き込んだ 」

を書いて報告し分析している。そこに、「 中国主導のアジア投資銀に英参加 G7で初 、日本経済新聞 2015年3月13日 」の記事を載せている。

私は、ここで、これまで、多くの中国叩き本、中国けなし本、中国毛嫌い本、中国への憎しみ本を書いてきた著者たちに、問いかける。「あなた達は、今から、まだ、そのように中国を見下して、中国を悪(あ)しざまに書き続けるつもりか」 と。

総じて「中国崩壊(ほうかい)論」と呼ぶべき、「もうすぐ中国は暴動が全土に起きて、崩壊する」と書いた者たちの愚かさを、彼ら自身の、引きつった表情や、それに追随して、中国嫌いの自分の感情の共鳴、共同をして来た者たちは、今こそ、自分に向かって、正直でなければいけない。

今の中国の政治体制の欠点をあげつらい、今も極貧層を多く抱える中国の現実を、見下げ果てるように書いて来た者たちの自分の内心への恥の自覚となって、今回のAIIB設立の動きは、このあとも大きくなってゆくだろう。

物事(ものごと)を冷静にみつめることが出来ない者は、知識人とか言論人とか学者にはなれない。私は、これから、いよいよ 中国腐(くさ)し本を書いた多くの著者たちとひとりずつ、静かに対論して、説得する仕事をしようと思う。

以下の イギリスの高級紙フィナンシャル・タイムズ(FT)の主幹のマーティン・ウルフが、書いた署名記事が素晴らしい。この AIIB設立の問題 を、余すことなく、ものすごく優勝な筆致で書き尽くしている。さすがにイギリスの超一流のジャーナリストの書名原稿である。 マーティン・ウルフは、日本の安倍晋三のおかしさを、世界基準で痛烈に批判した文を書いて、日本の今の危険な状態を抉(えぐ)り出した記事を去年書いている。
マーティン・ウルフは、「中国主導のAIIBを拒絶する者たちは愚か者だ」と書いている。

続いて載せる米 WSJ(ウオールストリート・ジャーナル)紙の記事も、それなりに優れている。 それ以外の記事は、ここに至る 報道記事を並べた。日本と、アメリカの見苦しさが、証拠となって書き表されている。 オバマ政権(ホワイトハウス)自体は冷静に事態を受け止めていることまでが分かる。

副島隆彦拝

(転載貼り付け始め)

●「中国主導のインフラ銀行を拒絶する愚」
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/43312

2015年3月25日 FT(フィナンシャル・タイムズ)紙
By  Martin Wolf (主幹、マーティン・ウルフ 筆)

英国は中国版世界銀行の一部になるとも指摘される金融機関の創設メンバーになることを選び、米国を苛立たせた。しかし、だからと言って、英国が 不適切な決断を下したことにはならない。確かにリスクがないわけではないが、これはむしろ賢明な決断だ。

アジアインフラ投資銀行(AIIB)は500億ドルの資本金でスタートし、その後 1000億ドルまで増資が行われる可能性がある。アジア大陸の 発展途上国での道路や鉄道といったインフラ整備に資金を融通するという。

中国が筆頭株主になる予定で、多くのアジア諸国が参加する。アジア以外の国々も参加できるが、その出資割合は25%に制限される。欧州では英国 のほかにドイツやイタリアなどが参加申請することを決めた。オーストラリア、日本、韓国はまだ決めかねている。

AIIBは貴重な貸し手になる可能性を秘めている。アジアの発展途上国は、このようなインフラ投資を切に必要としている。リスクがあって期間も 長いプロジェクトとなれば、そこに投じられる民間の資金は存在しないか金利が高いかのどちらかである場合が多い。

また、世界銀行とアジア開発銀行の資源は、途上国のそうしたニーズに比べればかなり不足している。

AIIBの創設は朗報

従って、中国が3兆8000億ドルに上る外貨準備高のごく一部をAIIBに投じたいと思っていることは良いニュースだ。しかもその投資を、中国 がどれほど強い発言力を持つとしても、多くの参加国の1つになる多国間機関で行いたいと言っていることは、なお良いニュースである。

AIIBはグローバルな運営スタッフを抱えることになり、その結果、中国が資金を全額拠出する場合よりも政治色の薄い金融機関になるだろう。

こうした理由から、AIIBには米国も参加すべきだ。ホワイトハウスはこれに対し、参加したいのはやまやまだが、現在の連邦議会から承認を得ら れる見込みはないという答えを返してくるかもしれない。確かに、そうかもしれない。しかし、それは、他国の参加に反対する根拠にはならない。

それでも、不可解なものだとはいえ、米国には主張がある。西側諸国は外側にいることでもっと大きな影響力を行使できるという。米国のある政府高官 は、「中国が拒否権を保有しないことに確信が持てない段階で参加する」よりは外側にいた方がいいと述べている。

しかし、外部の資金を必要としない金融機関に外部の者が影響力を及ぼすことはない。影響力を行使したいなら、内側に入り込むしかない。確かに、 参加の条件に欧州勢が事前に同意していればもっと良かっただろうが、今さらそれを言っても始まらない。

米国のジャック・ルー財務長官は、AIIBは組織の統治や融資に関する「最も厳しい国際標準」に従わないのではないかという米国の懸念を表明し ている。

かつて世界銀行のスタッフだった筆者としては、苦笑せざるを得ない。世銀が関与したぞっとする事例は少なくないが、例えばザイールのモブツ・セ セ・セコへの資金提供で世銀がどんな役割を果たしたか、一度調べてみることをルー長官にはお勧めしたい。

確かに、中国の主導する銀行が清廉潔白な金融機関であればそれに越したことはない。しかし、この世界はもう汚れてしまっている。少なくとも、多くの国々が参加する方が、そうでない場合よりもましだ。

米国は、既存の機関との競争が始まることに確かな根拠を掲げて反対することもできない。確かに、貸し付け基準の切り下げ競争になるリスクはあ る。しかし、面倒な上に不必要な手続きが一掃される可能性もある。

米国の真の懸念に対する4つの答え

世界経済に対する米国の影響力を弱める機関を中国が立ち上げるのではないかという懸念が、米国の本音だ。以下では、この懸念に4つの答えを提示しよう。

第1に、米国、欧州諸国、そして日本は、グローバルな金融機関に対する一定の影響力を大事にしているが、その影響力と、世界におけるこれらの 国々の地位とのギャップは次第に大きくなってきている。

さらに、これらの国は国際機関の運営において、やるべきことをきちんとやってこなかった。特に、リーダーを指名する権利にこだわってきたが、そうしたリーダーが常に素晴らしい実績を上げてきたとはとても言えない。

第2に、国際通貨基金(IMF)で一部の国々が過大な影響力を持っている状態を緩和するために出資割当の仕組みを改革することについて、20カ 国・地域(G20)が合意してから5年になる。世界はまだ、米国連邦議会がこの改革を批准するのを待っている。これは責任の放棄である。

第3に、途上国に長期資金が大量に流入すれば、世界経済は恩恵を享受するだろう。また、資本流入の「急停止」に見舞われた国々にIMFよりも大 きな保険を提供する機関ができることも、世界経済の利益になるだろう。

世界の外貨準備高は、21世紀に入った時には約2兆ドルだったが、今日では12兆ドル近くに達している。これに対し、IMFが利用できる資源は 1兆ドルに満たない。規模が小さすぎることは明らかだ。

中国の資金は、世界を正しい方向に向かわせる可能性を秘めている。実際にそうなれば、これは素晴らしいことだ。

最後に、米国は台頭する超大国たる中国への「絶え間ない配慮」について英国を批判している。だが、配慮に代わるものは対立だ。中国の経済発展は 有益であり、不可避だ。そのため、必要なのは賢明な配慮だ。

中国が中国自身と世界にとって理にかなうことを提案する場合、傍からケチをつけるよりも関与する方が賢明だ。昔の米国の政策立案者はある時、中国に「責任あるステークホルダー(利害関係者)」になるよう求めた。中国はAIIBの創設で、まさにそれをやっている。

英国の決断の効用

だから、英国と他の欧州同盟国のアプローチは称賛されるべきだ。さらに言えば、AIIBに参加するという英国の決断は、米国にとって有益な ショックになる可能性さえある。確かに、英国と米国など、似たような利益と価値観を持つ国々が一体となって発言、行動できたら望ましい。

また、確かに、英国は最も重要な国際的パートナーのそれと異なる方針を採用することでリスクを取っている。だが、支持というものは奴隷的になっ てはならない。それが誰の利益にもならないことは分かっている。

さらに、もし英国の選択が米国の政策立案者に、リーダーシップは権利ではなく、獲得しなければならないものだということを明確に示したとすれ ば、その決断が有益な結果をもたらす可能性が十分ある。第2次世界大戦後の数年間、ふと冷静さを取り戻した時に、米国は現代世界の制度機構を築い た。だが、世界は先へ進んだ。

世界は新しい機関を必要としている。新たな大国の台頭に適応しなければならない。ただ単に、米国がもう関与できないからと言って、世界は止まらない。
もし米国がその結果を気に入らないのだとすれば、米国は自分を責めるしかない。

●「中国、アジア投資銀に欧州国誘致のため「拒否権」辞退」

2015年3月24日 WSJ(ウオールストリート・ジャーナル)
http://jp.wsj.com/news/articles/SB12371367657780613424004580536951261196816

米国の懸念をよそに主要欧州諸国が中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)への参加表明をした裏に、中国が同銀での諸決定で「拒否権」を 行使しないと申し出ていたことが明らかになった。

AIIB設立に関与する関係筋が明らかにしたもので、拒否権辞退の申し出は、米国との堅い盟友関係にある数カ国に対し過去2、3週間になされた という。

関係者らによると、この中国側の打診は、英国、フランス、ドイツ、イタリアが米国と袂(たもと)を分かち、AIIBの設立参加国に名を連ねる上 で重要な役割を果たした。

中国の提案は、新銀行での政策や運営ではいかなる国も単独での決定はしないという内容だ。これは国際通貨基金(IMF)の意志決定手続きでの古 くからの慣行から大きく離れている。米国のIMFでの議決権シェアは20%に満たないものの、一部の重大な決定事項については事実上の拒否権が行 使できる仕組みとなっており、他のIMF加盟国が長い間不満を募らせていた。

主要欧州国の新銀行への参加は、国際政治の舞台ではまれな中国の勝利、と同国内外の関係者は位置付けている。中国政府のこの周到な計画により、 AIIBは第2次世界大戦後の国際経済システムにおける米国支配に本格的に挑戦する存在にしつつあるという。

IMFでかつて中国担当高官を務め、現在は米コーネル大学教授のエスワー・プラサド氏は「中国はうまく時間をかけて事を運んでいる」とし、 「まったく急いでいない。諸外国がいずれついてくることがわかっているからだ」と述べた。

中国の拒否権辞退の約束による影響について、米財務省高官らはコメントを控えた。

中国はこのほか、AIIBの透明性やガバナンスに関する米国などからの懸念についても対処しようとしている。

中国政府から新銀行の暫定総責任者に任命されている金立群・氏は、ワシントン在住の世界銀行退職者を集め、AIIBのガバナンス問題についての 助言と、同銀に対する西側諸国の信頼構築の方策を求めている。その一人が、世銀の法律スタッフを務めた経験を持つナタリー・リヒテンシュタイン氏 だ。リヒテンシュタイン氏は新銀行での自身の役割に関するコメントを控えた。

新銀行の運営や役員の構成についてはまだ交渉段階だ。この議論に参加している関係者らは、同銀の主要な意思決定について中国政府は拒否権こそ持たないにしても主導権は握るだろうとみている。その場合、AIIBが最終的には中国の外交政策手段となるとの米国やインドなどの懸念をあおる可能 性が高い。

金氏は先週末、今月末までに新銀行の設立加盟国数が35を超えることになると語った。設立準備に関与する中国人政府担当者らによると、アジア・ 太平洋地域での米国の主要盟友国である韓国とオーストラリアも月末までに設立メンバーに加わる予定という。

中国と西側諸国政府の担当者によると、新銀行の資本は当初発表された中国出資分500億ドル(約6兆円)から、目標の1000億ドルに増える見通しだ。

● 「 日米、アジアの開発金融 中国主導に警戒感  英が参加、先進国の追随焦点」

2015/3/14 日本経済新聞

中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)に英国が参加を表明したことを受け、日米両国は他の先進国が追随することに警戒感を強めている。日米主導のアジア開発銀行(ADB)は融資枠を拡大させてインフラ支援を強化するが、AIIBに参加する先進国がさらに増えれば、アジアの開発金融の主導権が移る端緒になる可能性もある。(1面参照)

「とんでもない」。日本の財務省幹部は13日、英国によるAIIBへの参加表明を受け、思わず声を荒らげた。主要7カ国(G7)でAIIBに参加するのは英国が初めてになる。

英財務省は声明で「組織運営の透明性向上に役割を発揮する」と表明した。日米はAIIBへの参加に慎重な姿勢を示す最大の理由として不透明な意思決定などを挙げていただけに、英国の声明に、はしごを外された格好だ。

英国からは事前に参加方針が伝えられたが、日米は翻意させることができなかった。資源やモノの貿易で中国への依存度が増す各国は日米の慰留を素通りする。

「案件審査で環境への影響を考慮できるのか」。麻生太郎財務相は昨年9月、インドのモディ首相との会談でAIIBが国際基準に沿った審査体制が不十分な点を指摘し、参加を思いとどまるように訴えた。ところがわずか2カ月後、インドはAIIB創設の覚書に署名した。財務相会談を通じて参加を思いとどまらせようとしてきたオーストラリアも「止めるのは難しい」と、日本の財務省幹部は警戒感を隠さない。カナダや韓国も参加を検討する。

AIIBの創設は日米が招いた結果でもある。中国はADBの出資比率を上げるように訴えてきたが、影響力の維持を狙う最大出資国の日米は増資に反対を貫いてきた。2017年から実施する自己資本の改革でも、増資は棚上げした。ADB総裁は1966年の創設以降、9代続けて日本の財務省と日銀の出身者。不満を募らせた中国は独自の銀行創設に動いた。

英国のような先進国が参加すれば、AIIBが発行する債券は高格付けを得やすくなり、資金調達コストを抑えられる。これまで日本の財務省幹部は「AIIBは新興国が中心で資金調達コストが高く、採算が合う案件は限られる」として、最上位の格付けを持つADBの優位性は揺るがないとみていた。

「AIIBがなぜ問題なのかは改めて言うまでもない」。麻生氏は13日の閣議後の記者会見で、参加に慎重な姿勢を改めて示した。

だが主要国がAIIBへの参加を検討する事態を目の当たりにすると、日米がアジアの開発金融の主導権を保つことが一段と難しくなっているように映る。

●「習氏、キッシンジャー氏と会談 9月訪米、関係発展に期待」
2015年3月17日 共同通信
http://www.sankei.com/world/news/150317/wor1503170059-n1.html

中国の習近平国家主席は17日、北京の人民大会堂でキッシンジャー元米国務長官と会談した。習氏は9月の訪米を念頭に、米中が「相互理解 を深め、意見の異なる問題は建設的にコントロールしなければならない」と述べ、米中関係の発展に期待を示した。新華社電が伝えた。

1970年代の米中国交正常化交渉に尽力したキッシンジャー氏は「米中関係は全世界の平和に関わる重要な2国間関係だ」と応じた。

●「仏、独、伊も参加へ=中国主導のアジア投資銀」
2015年3月17日 時事通信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150317-00000052-jij-eurp

17日付の英紙フィナンシャル・タイムズは、中国主導で年内発足を目指すアジアインフラ投資銀行(AIIB)に、フランス、ドイツ、イタリアも 参加すると報じた。英国に続き、欧州主要国が加盟で合意したことは、投資銀に距離を置くよう働き掛けてきたオバマ米政権の「打撃」になると分析し ている。

同紙によると、オーストラリアと韓国もこれまでの姿勢を改め、参加を検討しているという。アジアインフラ投資銀をめぐっては、英国が12日、日米欧の先進7カ国(G7)
で初めて参加を表明。中国が主導する国際機関を警戒する米国は、 英国に不快感を示した。

●「 中国主導のアジアインフラ投資銀行 に 仏独伊 も参加 」

2015年03/18    テレビ朝日

フランスとドイツ、イタリアの3カ国は、中国が提唱するAIIB(アジアインフラ投資銀行)に加盟する方針を発表しました。

フランスとドイツ、イタリアは17日に電話協議を行い、AIIBに参加することで合意しました。AIIBにはイギリスがすでに参加を表明していて、G7(主要7カ国)のうち、日本とアメリカ、カナダを除いた4カ国が加盟することになります。AIIBは中国が設立を提唱し、発展途上国のインフラ整備の支援などを目的としています。年内にも設立が予定されいて、中国は創設メンバーへの参加期限を今月末までとしています。一方、アメリカのルー財務長官は、AIIBが労働条件などの基準を守るか懸念を示し、「参加する国はまずこうした問題を提起すべきだ」と釘を刺しました。

●「スイスも参加申請=アジア投資銀-欧州6カ国目」
2015年3月20日 時事通信
http://www.jiji.com/jc/c?g=int&k=201503200097

スイス政府は20日、中国主導で年内の発足を目指すアジアインフラ投資銀行(AIIB)への参加を申請したと発表した。これにより参加表明国は 33カ国、欧州では6カ国となった。創設メンバーとなるための申請期限を月末に控え、他の欧州主要国に追随した。

●「アジア投資銀、豪も参加へ=最大2800億円出資-地元メディア」
2015年3月20日 時事通信
http://www.jiji.com/jc/c?g=int_30&k=2015032000392

オーストラリア政府は、重要案件を協議する国家安全保障会議(NSC)を開き、中国主導で発足を目指すアジアインフラ投資銀行(AIIB)への参加を決めた。豪メディアが20日、報じた。
23日の閣議で承認後、中国側に参加の意向を伝える方針。最大30億豪ドル(約2800億円)の出資を検討しているという。

中国は豪州にとって最大の貿易相手国。実利を優先し、豪政府は当初からAIIB参加に関心を寄せてきた。同盟国・米国から参加見送りを求められているが、英国など先進各国が参加を表明したのを見て、追随する方針を固めたもようだ。

●「官房長官、中国主導のインフラ銀巡る麻生氏発言「従来の政府見解と同じ」 」
2015年3月20日 日本経済新聞
http://www.nikkei.com/article/DGXLASFL20HKQ_Q5A320C1000000/?n_cid=TPRN0006

菅義偉官房長官は20日午前の記者会見で、中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)への日本政府の関与について「参加については慎重な立場」と従来の政府見解を繰り返し強調した。

AIIBへの日本政府の参加を巡り、麻 生太郎副総理・財務相は同日午前の閣議後の記者会見で、 AIIBについて 「誰が融資を決定するかなどは極めて重要だ」との認識を示した上で、「こうい うところが確保されれば、少なくともこの中に入って (参加に向けて)協議になる可能性はある」と発言。融資審査の透明性が確保されれば、AIIBへの参 加の可能性を示唆した。

この発言を巡り、菅氏はAIIBに関して「公正なガバナンスが確立できるのか。さらに債務の持続可能性を無視した貸し付けを行うことによって他 の債権者にも損害を与えることになるのではないか」との懸念をあらためて指摘。「麻生氏も同じ立場で、これらの問題が解消されない限りにおいては (日本政府が)参加することはあり得ないという趣旨で発言されたのではないか」との見方 を示した。

日本政府の立場と麻生氏の考え方に違いはないのかとの記者団の質問に対し
て、菅氏は「全く一緒だ」と答えた。

●「各国で相次ぐアジアインフラ投資銀参加、麻生財務相も含み」
2015年3月20日 ロイター
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPKBN0MG0GP20150320

麻生太郎財務相は20日、中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)について、「(参加にむけ)協議になる可能性はある」と述べた。運営 の透明性や返済能力を無視した融資を行わないなどの条件付きだが、英国やドイツなど先進7カ国(G7)からも参加が相次ぎ、態度を軟化させた格好 といえそうだ。

麻生財務相は、同日午前の閣議後会見で、AIIBへの参加に関し、「外交・経済の意味から慎重に判断したい」としながらも、以前から日本が求めて いた運営の透明性や、返済能力を考慮した融資姿勢を担保できるなら「この中にはいって、どういうことになるか協議になる可能性はある」と言及。

日本は米国とともに慎重な立場をとってきたが、各国で参加が相次ぐなかで柔軟に対応する用意があることを示唆した。

一方、菅義偉官房長官は同日の会見で「公正なガバナンスの確立ができれば、さらに債務の持続可能性を無視した貸し付けを行うことで、他の債権者に 損害を与えることになるとの観点から慎重な検討が必要。参加については慎重な立場」と強調した。

その上で菅官房長官は「麻生財務相も同じ立場で、これらの問題が解消されない限り、参加することはありえないとの趣旨で発言されたのではないか」 と語った。

(転載貼り付け終わり)

副島隆彦拝

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