「1454」 【今読み返す副島本】 米同時多発テロ事件前に発表された、副島隆彦の「集団的自衛権」論をそのまま転載します。 今こそ読み返してほしいと思います。 2014年6月3日
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副島隆彦を囲む会の中田安彦(アルルの男・ヒロシ)です。
今日は2014年6月3日です。
以下に転載するのは、2001年3月に発売された、副島隆彦著『悪賢いアメリカ 騙し返せ日本』(講談社、2001年3月22日刊)の序章です。今はもう新刊では手に入りません。
この中で副島先生が今、安倍晋三首相が必死になって推し進めようとしている集団的自衛権について持論を述べています。
今、2014年に読み返してみても、全く内容に変更を加える必要がありません。
「副島隆彦の学問道場」では、だいたい10年先んじて日本の言論を先読みしています。(だから、「先読みしすぎている」ということであまり注目を浴びません)
愛国者と言われる政治家・知識人は、この文章で書かれている「アメリカの罠」にまんまとハマっている。田母神俊雄氏のような人でさえも石原慎太郎の新党に参加しようと言い出すのだから、この国の言論空間はますますおかしくなっていきます。
以下に副島隆彦著『悪賢いアメリカ 騙し返せ日本』(講談社)の序章をそのまま転載します。
(貼り付け開始)
副島隆彦著 『悪賢いアメリカ 騙し返せ日本』(講談社、1600円)
序章 新たに日本に襲いかかるアメリカの罠
<アメリカが仕掛ける新たな戦略的攻勢>
この一〇年間、日本は、アメリカの金融支配層とその意を受けたアメリカ政府が仕掛ける対日金融戦争(マネー・ウォー)で散々な目にあって、完敗した。日本の金融法人の大きなところが、次々と、今も私たちの目の前で、ニューヨークの金融会社に買収され、乗っ取られ続けている。アメリカの金融支配戦略に対抗して、日本の指導者層は、知恵を絞って有効な防御の壁を幾重にも築くほどの能力がなかった。そのために、日本を守ることができなかった。日本の指導者層は、ここに至った事態を深刻に反省すべきである。そして、アメリカは、今度は、まったく別の方角から、日本に戦略的攻勢を仕掛けはじめた。それは、「日本強制開国」の次の段階とも言うべき新たな対日戦略である。
ジョージ・ウォーカー・ブッシュ新政権は、新しい布陣で「東アジア政策の一環としての日本管理政策」に乗り出した。 アメリカは、過去一〇年間にわたって、これだけ日本を金融・経済で痛めつけたのだから、「もうそろそろ、少しは、日本を大事にしてくれるはずだ。少しは、攻撃の手を緩めてくれるだろう」とか「今度の新政権の東アジア政策の専門家たちは、ほとんどが“知日派”であるから、日本に対して優しい対応をしてくれるだろう」などという考えは甘い。
そのような幻想を振りまく人々はおかしい。 アメリカは、次は、金融・経済の分野からではなく、安全保障(軍事)・外交・政治の分野から攻勢をかけてくるのである。「経済と政治は、互いに貸借を取り合ってバランスするのだ」という、近年、私が確立した大きな考え方に依るしかない。世界的思考基準では、金融・経済と政治・外交・安全保障(防衛)を、大きく二つに分け
て考えることになっている。したがって対日専門学者もこの二種類に分かれる。
日本は、自力で自国を防衛する力が実際上、無い。その分を、アメリカの第七艦隊と極東派遣駐留軍の世話になっている。だから、前者の金融・経済の分野で、日本側の政治家や対米交渉官僚たちが、強い主張や反論をすることができないのである。
<集団的自衛権行使の真意>
今や、ただ一点、「日本は、集団的自衛権の行使に踏み切るべきか、否か」の問題にかかってきている。私は、この重要な外交問題に対して、はっきりと書く。日本国民よ、騙されるな。
今度こそは、この一〇年の金融戦争(マネー・ウォー)での大敗北を肝に銘じて、徹底的に用心して対応すべきである。日本は、集団的自衛権の行使に踏み切ってはならない。断じてならない。集団的自衛権のことを、英語で、Collective Self Defense(コレクティヴ・セルフ・ディフェンス)という。これを「行使する」とは、日本軍(自衛隊)がアメリカ軍と共同軍事行動に出ることを意味する。
国の自衛権 Self Defense Right とは、この地球上のすべての国家が当然に自然に持ち、手放すことのできない、奪われることのできない固有の権利(インエイリアナブル・ライト)である。このことははっきりしている。そうすると、この自衛権(国防権)の集団的行使とは、日本が「同盟国」(ally)と共同で戦闘行動を行うことである。もっと簡単に言えば、日本軍(自衛隊がやがて憲法改正により改組されて、国防軍あるいは、国軍になる)が、アメリカ軍と本格的に共同で軍事行動をすることをいう。
このことは、いよいよ自衛隊が日本領土外で動き出す、ということである。アメリカ軍と共同実戦行動をとるということだ。それこそ、まさにアメリカの思う壷である。この私でさえ、もうほとんど騙されるところだった。国家としての日本の集団的自衛権の行使とは、日本の自衛隊が特定の外国と戦う、すなわち外国との戦争に突入することを覚悟して、アメリカ軍と一緒に本格的に行動する、ということだ。日本軍が日本領海の外側の公海や外国の領土で戦闘行動に出ることを、国民の多数意思として是認する、ということだ。
もっとはっきり書こう。アメリカは、日本を中国と対立させ、中国にぶつけるつもりである。日中を分断して、いがみ合わせる。それで、「漁夫の利」を得ようと考えているのである。これこそは、二一世紀初頭のアメリカの対日戦略である。これを「分断して支配せよ!」戦略と言う。「分断して支配せよ! Divide and rule! 戦略」については、後述する。
日中は絶対に戦ってはならない、同じアジア人同士ではないか。ところが、一方で、すでに、日本国内には新たな合意ができつつあるように見える。今の日本人の八〇パーセントは、自衛隊あるいは別個の新たな派兵部隊による国連主導の国際平和維持活動(PKO)への参加を、やむを得ないこととして認めつつある。この流れを変えることはできない。しかし、このことと、「集団的自衛権の行使」とは別ものである。絶対に違う。
それを意図的に混同させようとする人々がいる。私は、ずっと考えていた。昨年(二〇〇〇年)の秋あたりから、ずーっと考え込んでいた。どうもオカシイ、と感じてきた。その経緯を書く。
昨年(二〇〇〇年)一〇月一一日に、アメリカで、新たな対日戦略報告書が発表された。それは「 米国と日本――成熟したパートナーシップに向けた前進」という名の重要論文である。
この論文は、きわめて重要なのだが、突きつめて解説すれば次のようになる。
アメリカ(の対日政策担当者たち)は、次のように結論づけた。日本が自力で憲法改正に向かおうとする最近の流れを承認してもよい。いや、むしろアメリカはそれを好意的に受け止め、後押ししよう。日本国民は、多数意思で、現行の憲法第九条を改正して、「日本は国軍(国防軍)を持つ。自衛のための戦争は、あらゆる国家が本来持っている権利である」という条文を持つことになるだろう。ストロングジャパン 強い日本)になりたがっている今の日本人の不満を汲み取ってやろう。しかし、その際、新たに編成される日本国軍は、これまでの自衛隊同様に、駐留アメリカ軍の指揮下になければならない。
そして、新たに合同軍として動く必要が生じたときには、同盟軍(アライズ・フォース 連合軍とも言う)となり、これが「集団的自衛権の行使」である。
つまり、日本が、アメリカの意思から離れて独自で動くことまでは絶対に許さない、と密かにアメリカの日本管理対策班(ジャパン・ハンドラーズ)たちは考えているのである。そして、やがてアメリカ軍が台湾海峡有事の際に中国軍とぶつかることになるときに、日本軍を道連れにする計画である。
彼ら対日戦略官僚たちは、今の日本人が、アメリカのやり方に対して、多少イラついてきていることをよく知っている。日本国内には薄く広く反米(嫌米)感情が広まっている。アメリカにずいぶんと痛めつけられた、と感じている。その一方で、日本人はどうやら、国際社会に向かって、自分の声で発言を始めたがっているようだ。どうやら、敗戦後の五五年間にわたる、アメリコントロール)に対する不満が出てきつつある。この不満を上手にカによる監視と教育と統制(押さえ込み、別のはけ口へ導くために、今度の対日戦略論文が作成されたのである。
その本当の隠された意図は、ただひとつ、日本を中国にぶつけろとい点にある。
アメリカは、日本国内に反中国感情を高めて、中国と対競争させて、アジア人同士でいがみ合わせるつもりである。そうやって日本人の反米感情を巧妙にそらす策略である。一挙両得である。
だから、私たちは、今度の新たな悪賢いアメリカの手に乗ってはならないのだ。同じアジア人同士で戦ってはならない。東アジア(東洋人)は団結しなければならないのである。その一方で、たしかに中国も次第に強引な反日になりつつある。アメリカが裏からけしかけているからだ。それでも、あんな、今の横柄な態度の中国政府であったとしても、日本は中国と本気でケンカしてはならない。
日本は、一九七八年の日中平和友好条約調印以来の四次にわたる政府借款(政府開発援助)で、合計六兆円も援助している。それなのに、「ありがとう」とも言わず、「評価する」と言う、そういう連中である。しかし、それでもなお、日本は中国と真剣に話し合いを続けて、日中両国で東アジア地域(リージョン)全体を率いていかなければならないのである。
アメリカは、中国に対して厳しい態度に出ることに決めた。国際社会に引きずり出す(たとえば、WTO加盟や国際特許条約への加盟)一方で、中国再封鎖(リコンテインメント・オブ・チャイナ)にかけて締めつけようとしているのである。
私たちは、世界覇権国アメリカの新たな企みに乗せられてはならない。日本は、「集団的自衛権の行使の是非」の議論の姿を借りた、アメリカからの意図的な攻撃の裏を読まなければならないのである。
アメリカは、再び新たな罠(試練)を、私たち日本国民に仕掛けてきたのである。この私でさえ、もう少しでアメリカに編されるところだった。
<日本の官僚たちの抵抗>
この新たな重要な対日戦略論文「米国と日本――成熟したパートナーシップに向けた前進」
は、アメリカ国防大学の国家戦略研究所が二〇〇〇年一〇月に発表したものであり、英文ではThe United States and Japan; Toward a Mature Partnership(INSS Special report,October 11,200)である。この原文は、インターネット上でも読むことができる。
それは『朝日新聞』の記事によれば次のような性質のものである。
(記事の引用開始)
集団的自衛権行使を 米専門家グループ、対日政策提言
【ワシントン11日=加藤洋一】米国のアーミテージ元国防次官補ら超党派のアジア専門家のグループが十一日、来年の新政権発足に向け対日政策の指針となる報告書を発表した。日本重視の姿勢を明確に打ち出す一方、日本政府が集団的自衛権の行使は現行憲法下では許されないとの立場を取っていることは「同盟協力の制約になっている」と指摘、政策転換を求めている。沖縄に駐留する海兵隊の訓練をアジア太平洋全域に分散することで、地元の負担をさらに軽減する考えも示している。
このグループにはアーミテージ氏やウォルフオビッツ元国務次官補ら共和党系の元政府高官に加え、クリントン政権で日米安保「再定義」を手がけたナイ元国防次官補、キャンベル同代理ら民主党系の専門家も参加している。提言は、次期政権の政策に大きな影響を与えると見られている。 (『朝日新聞』二〇〇〇年一〇月一二日付)
(記事の引用終わり)
この解説記事からも、集団的自衛権の行使に日本政府が踏み切ることを、アメリカ側が暗に、強く推し進めようとしていることがわかる。この新聞記事の中にも、「集団的自衛権の不行使は同盟協力の制約になっている」とアメリカ側の意思をはっきりと書いてある。
それに対し、現在の日本国政府の姿勢は、内閣法制局長官による明言として、長年、次のように報道されている。
(記事の引用開始)
自衛隊の国連軍参加 19日の衆院予算委での法制局長官見解
国連軍への自衛隊参加問題に関する工藤敦夫内閣法制局長官が示した政府見解は次の通り。
一、国連憲章に基づく、いわゆる正規の国連軍へわが国がどのように関与するか、その仕方、あるいは参加の対応については現在まだ明確に言う段階でない。ただ、考えられる思考過程というか、研究過程をいうと、自衛隊についてはわが国の自衛のための必要最小限度の実力組織である。従って憲法九条に違反するものではない。
一、こういった自衛隊の存在理由から出て来る武力行使の目的を持った海外派兵というものは一般に自衛のための最小限度を超えるから許されない。自国と密接な関係がある国に対する武力攻撃に対し、自国が直接攻撃をされていないにもかかわらず実力をもって阻止する集団的自衛権はわが国は国際法上、持っているとしても、その権利行使は憲法九条の下では許されない (後略。文中傍点は著者による。『読売新聞』一九九〇年一〇月一九日付)
(引用終わり)
さらに、歴代法制局長官は同一見解を堅持している。
(記事の引用開始)
憲法解釈に堅いガード ガイドライン見直し巡り内閣法制局
六月初旬に中間報告が公表される日米防衛協力のための指針(ガイドライン)の見直し作業をめぐり、大森政輔長官ら内閣法制局幹部が「憲法解釈は変更できるものではない」という固い姿勢をとっている。(中略)内閣法制局は、憲法九条、とりわけ、集団的自衛権の行使については厳格な解釈を貫き、それが自衛隊の海外での活動などをある程度抑制する役割を果たしてきた。(中略)湾岸危機当時の一九九〇年、国際協力のための自衛隊派遣が論争になった際にも、「米軍などと武力行使の一体性があるものは、集団的自衛権の行使にあたる」とし、自民党内にあった派遣容認論を突っぱねた。(『朝日新聞』一九九七年五月三一日付)
(引用終わり)
この内閣法制局の態度に対して、「官僚ごときに一国の重要な外交および国際法上の行動基準を決めることができるのか」という非難と批判が現在日本国内に沸き起こっている。この内閣法制局長官の考え方は、大蔵省(現・財務省)と防衛庁の内局(背広組。実は財務省と警察庁からの出向官僚たち)および防衛施設庁の官僚たちも共有している。なぜ、日本の官僚たちは、まるで大勢に刃向かうように、政権政治家や保守派の言論界にさえきわめて不評であるこのような態度に、あえて出続けているのであろうか。ここを私たちは真剣に考えなければならない。
政治家や国際派財界人や防衛庁の制服組(防衛大学出の軍人)のトップから激しく嫌われているにもかかわらず、なせ日本の官僚たちは「集団的自衛権の行使は日本国憲法に照らして許されない」という奇妙な理屈にこれはどにこだわり、しがみついているのであろうか。その理由を、私たちは考えなければならない。
ここでは、「官僚たちがまた悪いことをしている」という、常套句は通用しないのである。日本の官僚たちは、どうやら必死でアメリカからの要求と脅迫に防戦し、抵抗しているのである。
私は、防衛庁広報課に一九九〇年一〇月に沖縄の嘉手納基地や普天間基地などの見学に連れて行ってもらったことがある。そのときにこの問題の内側の実情に鋭く気づいた。
この私の書き方は、防衛庁自身も予期しないものであろう。私は、鋭くすべてを見抜くのである。防衛施設庁が、在日アメリカ軍の全国各地の司令官たちからどれはど、やいのやいのと、あれこれの金銭要求を突きつけられているのかがほのかに見えた。アメリカ政府は日本の官僚たちに激しく圧力をかけて、お金(思いやり予算という)をせびっているのである。
そんなことは日本の新聞にはまったく書かれない。日本は、情報・言論統制国家である。とりわけ、国家の外交上の重要問題にかかわる大切なことは一切報道されない国である。
日本の官僚たちのアメリカヘの強固な抵抗線がここにある。官僚たちは一言も説明や弁解を日本国民にしない。必死に悪役に甘んじている。なぜアメリカが今頃になって急激に「集団的自衛権を行使せよ」などと言いだしたのか。それは、前述したとおり、日本を中国といがみ合わせ、国際社会の荒波に叩き込もうという作戦に出ているからである。
これだけ金融・経済の場面で体力を落とした日本国が、今度は軍安全保障の場面で世界の荒波の中へ叩き込まれようとしている。私たちは、立派で勇ましい一等国民のふりをして、おだてられて国際社会の揉め事紛争の中に、バカ面下げて、のこのこと出ていくべきであろうか。それよりはむしろ、今こそ慎重に国内に立て籠るという考え方(「「立て籠り国家戦略」もあるのではないか。これが、果たして卑怯者呼ばわりされることであろうか。
<アメリカに対する日本の防御線>
最近、親米派や国際派を自認する保守派知識人・学者を名乗る人々が再び、声高に「国際社会で孤立しないために、日本は集団的自衛権の行使に踏み切るべきである」とか「日米同盟を危機にさらしたり、漂流させたりしないために、アメリカ軍との共同行動に踏み切るべきだ」と盛んに勇ましいことを言い出した。
この人々は何か大きく勘違いしている人たちではないか。この人々こそはまさしく、アメリカの手先ではないのか。私は、真っ向からこの種の言論学者たちと闘うことに決めた。
反戦平和こそは、民衆の願いである。すべての歴史を通じて、国民大衆は戦争を嫌い、平和を希ってきた。インテリや理論家を自称する者たちはど、新奇な考えにとらわれて、ふっと時代の熱病にかかって人類の永遠の理想をかなぐり捨ててきた。私は今こそ、反戦平和派に戻る。陳腐なる日本の「反戦平和リベラル勢力」自身が、今や蔑み投げ捨てようとしているボロボロになった反戦平和の旗を拾い上げて、再び高く掲げようと思う。
アメリカがいちばん嫌なのは日本の国民大衆が、駐留アメリカ軍の存在や戦争のきな臭さに対して具体的な反対決議や行動を行うことである。駐留アメリカ軍基地の撤去・返還の決議である。アメリカ政府は、世界覇権国(世界帝国)であるから、日本の政治家や官僚トップ指導者層を上から殴りつけ、屈服させることは簡単である。だから、日本はアメリカの属国(従属国)の一つなのである。属国のことを同盟国、あるいは友好国とも言う。これは、私が唱導してきた大理論だ。ところが、その属国の一般民衆までもは、アメリカの支配層といえども、いちいち説き伏せることはできないのである。
アメリカがいちばんおそれるのは、たとえば沖縄の県議会や市議会で駐留アメリカ軍の撤退や基地の早期返還の決議を次々に出されることである。米軍兵士による少女強姦事件のような象徴的な出来事があるたびに、日本国内に反米感情が沸き起こる。最近も沖縄で再び起きた。たとえば、日本の大きな港を抱えたある市が「この港には、アメリカの軍艦の寄港を許さない」と市議会で決議したり、県知事や市長たちが見解を発表したりする。それをアメリカ政府はどれほど嫌がり、恐れることか。日本対策班の責任者たちは泣き出したくなるのだ。
その若手の現場責任者が、マイケル・グリーン氏である。だからこそ、だからこそ、ここが日本のアメリカに対する防御線であり、抵抗線である。
外交問題や国際政治問題で、専門家ぶる人々はいまこそ自らの頭を疑え。自らの理論を疑え。何をもって、自らを言論人や知識人と自惚れたか。長年にわたって積み重ねたその思考や論理こそはまさしくアメリカの思う壷にはまった、愚かなる人生態度ではないか。そうではないと、私に正面から反論できるか。このように書く私は、みなさんからしてみれば奇矯で偏屈な反米主義者に過ぎないのか。私こそは、みなさんが渋々認めるアメリカ現代政治諸思想の研究の第一人者ではないか。
アメリカ政府が具体的に要望していることはなにか。それは、アメリカの艦船が日本の主要な港に自由に出入り(寄港)できること。戦闘爆撃機Flフアイティング・ファルコン)が日本国内の道路に不時着できること。それから、ソウルの北方に駐留しているアメリカ軍三万七〇〇〇人(ダグラス・マッカーサ上万帥が率いたアメリカ陸軍師団の流れである)の家族二〇万人を緊急にハヮイやグアムに避難させるために、日本航空や全日空の飛行機一〇〇機を強制的にチャーターできるようにすることである。日本政府の金で。
だから、私はアメリカ政府の強引な要求に必死で抵抗している日本の対米交渉官僚たちの苦しみを理解したい。たとえ、台湾海峡有事が勃発するとしても、それは中国軍とアメリカ軍に激突させればいいのである。それは日本軍は領土・領海か歩も外に出てはならない。外に出て中国軍とわずかでも交戦すれば、国家間戦争である。日本は、病院船と補給船だけを出して、ひたすらアメリカに貢(みつ) ぎ続ければよいのだ。それを、後方支援活動(ロジスティカル・サポート)と言う。こんなものは安いものである。
中国は日本がアメリカの下働きをするからといって、本気で怒ることはない。中国の政府高官の中にも、事情がわかっている賢明な人々がいる。いやすべての東アジア諸国の指導者たちがアジア人同士で戦ってはならないという優れた知恵を持っているのである。
アメリカが狙っているのは「分断して支配せよ」という、古代ローマ帝国が築き上げた属国同士を互いに対立反目させ「分断する」することで、帝国の秩序を保とうとす分割統治」という世界支配戦略である。これに乗せられてはならない。同じく、中国の若者たちを、アメリカが反日でけしかけようとしているのが透けて見える。私たちは、遠い歴史に照らし出された人類の知恵から学ぶべきである。
<アメリカ追従の集団的自衛権行使は自殺行為>
だからこそ、私は集団的自衛権の行使に踏み切るべきだ論に強く反対する。たとえ、この私の態度表明が、かつての頑迷なリベラル護憲勢左翼陣営)の主張と見まごうばかりのおかしな反体制言論であるように受け取られても仕方がない。私は微妙に態度を変えたのである。
私は憲法改正賛成派である。日本は自立国家とならなければならない。日本国が、自力で自国を守り、国家としての本当の独立を達成し、自立戦略をとっ国際社会で名誉ある地位」を獲得できることを強く願う。当然、国軍はアメリカ軍の指揮下から脱せねばならない。そのために私は、僣越なが民間人国家戦略家」を名乗ってきた。あらゆる場合を想定した、数百個にも及ぶさまざまな国家戦略を練りつつある。この私が編されると思うか。
本物の日本の愛国派および保守派の人々に対しては、改めて次のように提言することもできる。あの吉田茂元首相が、本当は裏側で共産党や社会党左派の人々と手を組みながら反米デモ(たとえば、六〇年安保闘争)を組織させ、故意に日本民衆をアメリカにけしかけたように。それを対米交渉のカードとして使った。国内の反米運動を自分たちを守る防壁にした……と。表面上は、政敵の岸信介を追い落とした。こういう手はいかがでしょうか。このような提言もできるのである。
続けて、先述した、対日戦略論文についての新聞記事の残りを以下に載せる。
(引用終わり)
報告書はまず朝鮮半島や台湾海峡の情勢が不安定であることを指摘し、日米安保関係は
「これまで以上に重要性を増している」とし、強化の必要性を強調した。
両国の同盟関係は単に「負担の分かち合い」にとどまら力を共有する時が来た」とし、集団的自衛権の行使のほか、有事法制の制定、国連平和維持軍(PKF)本隊業務の参加凍結の解除、情報面での協力の強化などを提唱している。
沖縄については、日米特別行動委員会(SACO)合意が目指す基地再編」「統合」「削減」に加え、海兵隊の施設や訓練を「アジア太平洋地域に分散する」という新たな目標も模索すべきだとの考えを打ち出している。この日、会見したアーミテージ氏は、最終的には駐留軍の規模削減につながると見ていることも明らかにした。
経済面では構造改革に向けた一層の努力を求めているはか、短期的には財政・金融面での景気刺激策が必要だとしている。 (『朝日新聞』二〇〇〇年一〇月一二日付)
(引用終わり)
このように、朝鮮半島や台湾海峡の有事を前提としたアメリカ政府の日本に対する、さまざまな尻叩きはすでに始まっている。おそらく、あと半年もせずに、日本国政府の方針の大変更として「日本は集団的自衛権の行使に踏み切る」という政府発表がなされるであろう。現に、二〇〇〇年末には、自民党橋本派内のおかしな「研究会」が、「集団的自衛権の行使」を発表した。あわせて、有事法制(日米防衛協力のためのガイドライン法)の再度の改正・強化の作業が進展するであろう。この事態は、なし崩しで進んでいくように見える。だから、ここまで書いてきた私の言論など、なんの有効性も持たない、ただのひねくれ者の言説として、わきにどかされるであろう。
だが、しかし、私がここにはっきりと表明した反戦平和、中国とぶつかってはならないとする態度は、読者諸君の胸に深く突き刺さり、有識者たちの脳を激しく揺さぶってゆくであろう。私は、急速に九〇度左旋回したのである。日本国民はいざとなったら、団結せねばならないし、団結するのである。これまであまりに、安全保障(交・軍事)をめぐる問題でアメリカに手玉にとられて国論を分裂させられてきた。それが政党間の基本対立軸にまでなってきた。そのように仕組まれてきたというべきだ。私たちは、今こそドイツに見習うべきである。あのドイツは、外交・安全保障で国論は統一している。
真の愛国者とはどのようなものであるかを、これからのささやかな言論戦の中で私が身をもってお示ししよう。
*
このようにここまで序章として書いた。以下の各章は私がこの一年半の間に発表してきたアメリカ政治分析である。それと連動する世界各地域の国際情勢の分析である。世界の激しい動きを、同時並行的に書いた。これらをまとめた後に、この序章を書く心境に至った。時代の荒波に洗われて、私たち自身も、日下大きく揺り動かされているのである。波に飲み込まれてたまるか。
二〇〇一年三月
副島隆彦
(転載貼り付け終わり)
以上です。私は、この文章を読んだ時、恐ろしい衝撃を受けました。
この文章に出てくるマイケル・グリーンは、いまや若手ではなくアーミテージについでナンバー2の「日本政界工作担当」になっていますし、その子分も当時(2001年当時)は長島昭久だけでしたが、今や小泉進次郎や自民党の複数の若手議員にまで広がっています。
2003年ころのマイケル・グリーン(中央)