「1451」【中国を理解する】『野望の中国近現代史 帝国は復活する』(ビジネス社・刊)(原題:Wealth And Power:China’s Long March to the Twenty-First Century)という本を紹介します。中国の近現代史を正しく理解しなければ、日本は中国の台頭に向き合うことは出来ない。2014年5月25日
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副島隆彦を囲む会の中田安彦です。今日は2014年5月25日です。
今日は、中国の今を理解する上で欠かせない一冊を紹介します。この本は古村治彦・SNSI研究員が心血を注いで翻訳した一冊です。
その本は、米国の中国史研究家のオーヴィル・シェルとジョン・デルリーという2人の学者が共著で2013年に発表した、『野望の中国近現代史 帝国は復活する』(ビジネス社・刊)(原題:Wealth And Power:China’s Long March to the Twenty-First Century)という本です。
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この本の内容は著者2人が、本書の第一章で次のように簡潔に述べています。
(引用開始)
過去150年間に展開された中国近現代の政治史において、中国は自強(self-strengthening)のために絶え間ない努力を続けた。それはより大きな、そして破壊的な波が次々と海岸を襲うようなものであった。このような絶え間ない大変動を理解するために、私たち著者は、時代を代表する11名の知識人、指導者、改革者、革命家たちを取り上げる。彼らは時代に水先案内人の役割を果たした。私たちが取り上げる時代は、19世紀初頭から現在までである。本書で取り上げる人物たちは、中国近現代史のドラマにおいて、思想家、因習打破主義者、指導者として重要な役割を演じた。私たち著者は、本書で取り上げる11名の人物たちが、読者にとって曖昧で、よく分からない、なじみの薄い中国史を身近に感じるための手助けをしてくれるだけでなく、世代を超えて中国の知識人や指導者たちが繰り返し追い求め続けたテーマを浮き彫りにしてくれる。そして、これを理解することで、世界で最も重要な国の一つである中国が近代へと進む苦闘の道のりの中で、一貫して何を語ってきたかが明らかになる。
『野望の中国近現代史』(14ページ)
(引用終わり)
このように、このシェルとデルリーの2人の米国の中国学者が書いた本は、中国の近現代史の悲劇と世界大戦という大戦争を経て改革開放経済、そして現在の経済大国になり、やがて地域覇権国として復活しようとする中国について、その近現代を代表する11人の主要人物を軸に取り上げた、中国の改革者列伝です。
中国の台頭については、とかく米国との対決という視点で書かれた、中国に対してはじめから批判的な本がある中で、このように中国人の知識人たちが何を考えてこの200年近くを生き抜いてきたのかについて取り上げた本は珍しいと思います。中国の亡命知識人と日本の知識人は数多くの接点を持つにもかかわらずこれは意外なことです。
昨今は反中・嫌韓ありきのネット右翼向けの中国・韓国本ばかりが書店で並んでいますが、この本は値段は少し高いですが、そのような「ストレス発散」には役に立っても、実際には何の知識も得られない本とは全く違います。
実際の今の中国のエリートが何を考えているかを理解するため非常に有益な本であり、日本人の政治家や一般庶民が中国の人々と接していく上で必要不可欠な基礎知識を網羅していると言ってよいでしょう。
ぜひ、書店でお求め下さい。急いでこの新刊本の内容を紹介したかったので、詳しい内容は要点を簡潔にまとめた訳者あとがきの紹介だけにとどめたいと思います。
以下に目次と訳者あとがきを転載します。目次では第2章ー第14章では、各章の中心となる人物の名前が記載されています。
(転載開始)
目次
第1章 はじめに:富強(Introduction: Wealth and Power)
第2章 行己有恥 魏源(ぎげん Humiliation Wei Yuan)
第3章 自強 馮桂芬(Self-Strengthening Feng Guifen)
第4章 中体西用 西太后(せいたいごう Western Methods, Chinese Core Empress Dowager Cixi)
第5章 新民 梁啓超(りょうけいちょう New Citizen Liang Qichao)
第6章 一盆散沙 孫中山(そんちゅうざん、A Sheet of Loose Sand Sun Yat-Sen)
第7章 新青年 陳独秀(ちんどくしゅう New Youth Chen Duxiu)
第8章 統一 蒋介石(しょうかいせき Unification Chiang Kai-Shek)
第9章 革命は晩餐会ではない 毛沢東Ⅰ(もうたくとう Not a Dinner Party Mao Zedong, Part I) 0
第10章 不破不立・創造的破壊 毛沢東Ⅱ(Creative Destruction Mao Zedong, Part II)
第11章 白猫黒猫 鄧小平Ⅰ(とうしょうへい Black Cat, White Cat Deng Xiaoping, Part I)
第12章 動乱 鄧小平Ⅱ(Turmoil Deng Xiaoping II)
第13章 入世 朱鎔基(しゅようき Entering the World Zhu Rongji)
第14章 没有敵人 劉暁波(りゅうぎょうは No Enemies, No Hatred Liu Xiaobo)
第15章 結論:復興(Conclusion: Rejuvenation)
訳者あとがき
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訳者あとがき
本書『野望の中国近現代史 帝国は復活する』は、二〇一三年七月一六日に刊行された、Wealth and Power: China’s Long March to the Twenty-first Century (Random House, 2013)の邦訳である。原著で四九六ページにもなる大部である。本書はこれを全訳したものである。
本書『野望の中国近現代史 帝国は復活する』は、清朝末期の第一次アヘン戦争(一八四〇―一八四二年)から現代までの中国近現代史において活躍した、一一名の政治知識人や政治指導者たちを各章で取り上げた、「人物評伝」となっている。それぞれの章では取り上げた人々が活躍した時代や出来事が詳述されており、近現代史を歴史の流れに沿って学ぶこともできる。歴史書のタイプには、編年体(出来事を年代順に記述するスタイル)と紀伝体(個人について詳しく記述するスタイル)の二つがあるが、本書は両方の良いところをミックスさせたスタイルとなっている。本書は、それぞれの時代の人間模様を楽しむことができる、歴史大河ドラマでもある。そして、この一冊を読むことで中国近現代史を理解することができる。
本書で取り上げられているのは、時代順に魏源、馮桂芬、西太后、梁啓超、孫文、陳独秀、蒋介石、毛沢東、鄧小平、朱鎔基、劉暁波といった人物たちである。それぞれがそれぞれの立場や考えに基づいて中国の近代化を目指した「改革者(reformers)」として描かれている。西太后と言えば、残虐な女性として日本でも良く知られた存在であるが、本書では為政者、改革者として、日本ではあまり知られてこなかった面に光を当てている。また、魏源、馮桂芬、梁啓超、陳独秀といった人々のことは高校の世界史で通り一般のことは習うが、改めて彼らの業績を知ることができる。
著者シェルとデルリーは、本書『野望の中国近現代史 帝国は復活する』の中で、ユニークな主張をいくつも行っている。著者たちの大きな主張は、「中国近現代史を通じて、中国人が求めたものは、富と力、“富強(wealth and power)”であった。中国人は、第一次アヘン戦争の敗北から続く苦難の歴史を通じて、“恥辱(humiliation)”の感情を培養してきた。そして、この恥辱の感情を中国の偉大さの“復興(rejuvenation)”を実現するための原動力とした」。「富強」と「恥辱」と「復興」こそが中国近現代史を貫くキーワードになっているのである。
また、本書のユニークな点として、孫文(第六章)が提唱した「政治的保護(political tutelage)」という概念を紹介している点が挙げられる。この政治的保護という考えは、「中国人は長い間封建制度の下で統治されていたために、民主政体(democracy)を受け入れる用意ができていない。従って、賢明な指導者の下で、中国人を長い年月をかけて鍛え上げ、準備ができたところで、民主政体を導入するようにすべきだ」という考えである。孫文は中華民国の臨時大総統になり、三民主義を主張し、その中で民主政体の導入を唱えた人物であったが、現実的には、エリート主義であり、中国人に民主政体は時期尚早だと考えていた。そのために考え出されたのが政治的保護という考えである。そして、この政治的保護という考えは、現在の中国共産党も堅持している。
西洋諸国では、民主政治体制の導入と経済発展はセットとして考えられるが、実際には、民主政治体制を導入したからと言って経済発展が必ず起きるものではない。民主政体の導入によって、統治能力が下がったり、内戦が起きたりして、人々が塗炭の苦しみを味わっている発展途上国は数多くある。現在の中国では民主政治体制と経済発展を切り離して考えており、それが成功を収めている。この点は孫文が現在の中国にまで及ぼした大きな貢献の一つである。
更には、毛沢東(第一〇章)、鄧小平(第一一章)を通じてユニークな主張は、ずばり、「文化大革命がなければ、後の経済改革はなかった(no Cultural Revolution, no economic reform)」というものがある。これは、鄧小平が始めた「改革開放(reform and opening up)」がスムーズに進んだ理由の一つが、毛沢東による文化大革命によって中国の伝統文化や習慣が一掃され、改革開放を邪魔する要素がなくなっていたというものだ。毛沢東の行った大規模で徹底的な破壊を、鄧小平は経済発展につなげることができた。著者であるシェルとデルリーは、この破壊から建設への過程について、「創造的破壊(creative destruction)」(経済学者ジョセフ・シュンペーターが使った表現)と呼んでいる。文化大革命の悲惨さや破壊の凄まじさが強調されることが多いが、著者たちは創造的破壊という側面に光を当てている。
二〇一〇年八月一六日に『エコノミスト』誌に掲載された記事「こんにちは、アメリカ:中国経済が実質的に日本を追い抜く(”Hello America China’s economy overtakes Japan’s in real terms”)」によると(http://www.economist.com/node/16834943)、 一八二〇年の段階、中国は世界の総GDPの三〇%を占めていた。それが一八七〇年には一〇%代後半にまで急落してしまった。中国が世界の一九世紀まで世界の超大国であったことは数値で裏付けられている。本書『野望の中国近現代史 帝国は復活する』でも描かれているように、世界の超大国の地位を失ったことで、中国人は「大国としての地位を回復したい」と望み続けた。中国共産党は、「平和的台頭・和平崛起(peaceful rise)」をスローガンにして、中国を大国として再び登場させようとしている。現在、中国は経済規模で日本を抜き、アメリカに次いで世界第二位となっている。本書は、どうして中国が大国を目指しているのかという疑問に明快な答えを与えてくれる。中国は、「復興(rejuvenation)」の道を着実に進もうとしているのだ。
現在、日本では近隣の中国や韓国に対する反感や嫌悪が蔓延し、書店に行けば嫌中・嫌韓本が数多く並べられている状況だ。日本は衰退の過程に入っているのに、すぐ隣にある中国が大国として台頭しようとしている状況に日本人の多くは恐怖感を持っている。このような時期に中国に関する本を出すというのは、商売(売り上げ)のことを考えれば賢いことではないかもしれない。しかし、冷静になって考えてみれば、中国や韓国は、日本にとってこれからも重要なお隣さんであり、ビジネスの相手である。ただ怖い、嫌いとだけ言って目と耳を塞いでいれば済むというものではない。
対外関係(外交)においても、ビジネスにおいても、一般的な人間関係においても、まず大事なのは相手を知ることである。どうして相手がこういう態度に出るのか、自分たちにとって不可解な対応を取るのか、その理由を知るためには、相手の考えを知らねばならないし、相手の歴史を知ることが重要となる。『野望の中国近現代史 帝国は復活する』を読むことで、中国の近現代史に関する知識が増え、読者の皆さんの中国に関する理解が深まり、中国の台頭をただ恐れるのではなく、冷静に観察し、国際関係の進む方向や将来の国際関係の形について考えることができるようになる。このことを私は確信をもって断言する。
本書の構成と内容同様、オーヴィル・シェル(Orville Schell)とジョン・デルリー(John Delury)の著者二人も大変ユニークな経歴の持ち主だ。二人は、ニューヨークにあるアジアソサエティ(一九五六年にジョン・D・ロックフェラー三世が創設)に関係するヴェテランと若手のアジア専門家である。彼らが本書『野望の中国近現代史 帝国は復活する』を出版した背景には、アメリカ国内にもある中国脅威論に対して、中国の行動原理とは何かを説明しようとした出版されたものであることは間違いないところだろう。
オーヴィル・シェルは、ハーヴァード大学でジョン・フェアバンクとエドウィン・ライシャワーの指導の下で、東アジアの歴史、文化、政治で学び、一九六四年に学士号を取得。一九六七年にカリフォルニア大学バークレー校大学院に入学し、博士号候補生(Ph.D. candidate 博士論文提出以外の全ての課程を修了した学生)となる。その後、ベトナム反戦運動に影響を受けて、反戦運動に参加し、ジャーナリストになる。『ニューヨーカー』誌や『ニュー・リパブリック』誌の特派員を務め、母校カリフォルニア大学バークレー校ジャーナリズム専攻大学院長を務めた経験を持つ。現在アジアソサエティ米中関係センター所長を務めている。ダボス会議(世界経済フォーラム)の常連でもあり、外交評議会(CFR)の会員でもある。
ジョン・デルリーは、イェール大学で中国近代史を専攻し博士号を取得した。これまでにブラウン大学で歴史学、コロンビア大学で政治学を教えた経験を持つ。アジアソサエティ米中関係センター副所長を務め後、現在、韓国の首都ソウルにある名門・延世大学の准教授を務めている。朝鮮半島ウォッチャーとしても様々なメディアでに登場し、これからの活躍が期待されている新進気鋭の若手研究者である。
本書訳出にあたり、ビジネス社の岩谷健一氏には大変お世話になりました。記して感謝申し上げます。
二〇一四年四月 古村治彦(ふるむらはるひこ)
(貼り付け終わり)
以上です。ぜひ、中国を理解するために、お読みください。
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