「1334」新刊を二冊紹介します。権力者共同謀議という合理的選択で概ね、歴史は動いてきたから、私たちは世界の支配層の行動原理、思想、そして企業活動に現れる彼らの「合利的」な動きを理解しなければならない。2012年10月1日
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副島隆彦を囲む会の中田安彦(アルルの男・ヒロシ)です。今日は2012年10月1日です。
2012年11月3日(土曜日)に、「副島隆彦を囲む会」定例会・副島隆彦先生の講演会を開催します。講師は副島隆彦先生、松尾雄治(まつおゆうじ)研究員です。
皆様、是非お越し下さい。
・2012年11月3日(土曜日)の「副島隆彦を囲む会」定例会へのお申し込みはコチラ↓
http://soejima.to/cgi-bin/kouen/kouen.html
9月下旬に二冊、私達の学問道場関連の書籍が出ました。一冊目は、副島先生の『陰謀論とは何か~権力者共同謀議のすべて』(幻冬舎新書)という本で、もう一冊が私の『世界で暗闘する超グローバル企業36社の秘密』(ビジネス社)という本です。
・上記の本のお申込は、下記の「学問道場内、1セット4冊頒布コーナー」でも取り扱っております。↓
https://www.snsi.jp/shops/index#book
この2つが同時に出たということはなにか意味があるかといえば、特に意味はありません。ただし、この二冊がともにここ数年の私達学問道場の大きな共通理解である「権力者共同謀議」の理論(あるいは仮説)に基づいて、「この人類の歴史は世界の金融・経済を大きく上から支配している人々の利益に基づいて多かれ少なかれ動かされてきた」とする前提で、書かれた本です。
副島先生の『陰謀論とは何か』と言う本では、この「権力者共同謀議理論」(いわゆる、コンスピラシー・セオリー)について、(この分野については知識を持っていない女性)編集者との対話で始まり、この理論が特に戦後の世界の論壇においてどのように出来上がっていったかを解き明かしています。
一方、私の本のほうでは、この「権力者共同謀議理論」を前提にし、世界経済を動かすグローバル企業の行動原理について、その歴史を詳しく企業の分野別に解説するスタイルをとっています。
いわば、世界の歴史は、権力者の共同謀議にもとづいて、彼らにとって合理的(=利益につながる)になるようにうまくコントロールされてきており、現在も世界覇権国アメリカの政治・経済・金融を担当する側の人間は、自分たちの覇権を維持するために合理的に戦略を打ち出してきているということです。
どうも、一般の知識人というものは「謀略史観」というものに相当なアレルギーがあるらしく、少しでも陰謀史観、謀略史観というものの匂いを感じると、それを批判しないでは済ませられないということのようです。例えば、最近、朝日新聞にジャーナリストの佐々木俊尚と言う人が、例の話題になっている孫崎享氏の『戦後史の正体』という本の書評を書いた。この人はIT系のジャーナリストで詳しい経歴はよく知らないのだが、次のような書評を書いている。
(引用開始)
ロッキード事件から郵政民営化、TPPまで、すべては米国の陰謀だったという本。米が気に入らなかった指導者はすべて検察によって摘発され、失脚してきたのだという。著者の元外務省国際情報局長という立派な肩書も後押ししているのか、たいへん売れている。しかし本書は典型的な謀略史観でしかない。
日本の戦後史が、米国との関係の中で培われてきたのは事実だろう。しかしそれは陰謀ではなく、米国の一挙手一投足に日本の政官界が縛られ、その顔色をつねにうかがいながら政策遂行してきたからに他ならない。
佐々木俊尚の書評『戦後史の正体』(朝日新聞・2012年9月30日))
(引用終わり)
そういえば、中国で世界金融史の本が売れたときも、似たような書評がイギリスの『フィナンシャル・タイムズ』に載った。(日本では『ロスチャイルド、通貨強奪の歴史とそのシナリオ 影の支配者たちがアジアを狙う』という変なタイトルで出ているが原題は『通貨戦争』)
さて、ここで佐々木は謀略史観を批判している。言い方を変えれば彼は陰謀史観を批判しているわけである。ところがそのすぐ後に、「しかしそれは陰謀ではなく、米国の一挙手一投足に日本の政官界が縛られ、その顔色をつねにうかがいながら政策遂行してきたから」と述べている。孫崎『戦後史の正体』という本はまさに佐々木が評するような「米国の一挙手一投足に日本の政官界が縛られ、その顔色をつねにうかがいながら政策遂行してきた」ということを論述している本である。
佐々木がその事を否定しているわけでもない。佐々木は陰謀史観をどのようなものとして理解しているのだろうか。それとも佐々木はこの本を全部読んでいないのか?
また、最近、陰謀史観を批判する論陣を張っていて有名な中には池田信夫という人がいる。この人は、通信政策に詳しい学者だが、最近では歴史学や原発政策などについても発言するようになっている、わかりやすい御用学者のような人であると私は見ている。
その池田が、孫崎本を意識して、「チープな陰謀論」と述べた上で次のようにブログで語っている。
(引用開始)
日本が戦後60年以上も対米従属を続けてきたのは、アメリカの陰謀のせいではなく、心ならずも続いてきた対米従属が合理的戦略だったからだ。これは日本が代わりにソ連に占領されていたらどうなったかを考えれば明らかだろう。日本を共産主義に従属させるには強圧的な権力が必要だが、自由経済に誘導するのに陰謀や工作は必要ない。人々はおのずから自由で豊かな社会を望むからだ。
「対米従属という合理的戦略」
http://ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51811945.html
(引用終わり)
この池田信夫のコメントの場合、佐々木俊尚のような、「米国の一挙手一投足に日本の政官界が縛られ、その顔色をつねにうかがいながら政策遂行してきたから」という認識はもはやなく、望んでそのように動いてきたということのようである。
確かに池田の言うとおり、冷戦時において日本がソ連ではなくアメリカを選んだのは合理的選択だったとは言えそうである。
ただ、問題はソ連崩壊後である。共産主義が崩壊したあと、実は日本の外務官僚の対米従属は悪化している。池田の言う合理的とは、誰にとっての合理的かといえば、日本の政治家・官僚・財界といった支配層の合理性である。特に官僚はその権限の源泉を対米従属をしていることに見出している
傍証となる話がある。かつて、評論家の宮台真司は、中曽根康弘のブレーンだった東大教授の佐藤誠三郎から、「宮台くん、国内であれこれロビイングをやるのは無駄だよ。米国にコネクションを作って、米国から物を言わせれば、10年掛けて変わらなかったものが一日で変わるよ」と言われたそうだ。民主党の福山哲郎との対談本(『民主主義が一度もなかった国・日本』)に書いてあった話だ。
つまり、対米従属することは、官僚機構にとってはまさしく「合理的選択」だったのである。だから、池田信夫は「官僚にとって対米従属は合理的選択だった」といえば間違いではなかった。しかし、官僚機構にとっての合理性と一般大衆にとっての合理性がいつも同じとは限らない。官僚機構の合理性は権限の維持と組織の拡大である。これは基地・領土問題にしろ、経済問題にしろ、問題が存在し続ける事によって得られる権限の含み益(廣瀬哲雄氏による表現)のようなものだ。
その官僚の合理的選択について隠蔽したい時に最も有効なのが、「これは陰謀史観だ!」という脅し文句なのである。頭のいい国民はそろそろそのことに気づいてきた。
どうも、陰謀という言葉に日本の言論人はアレルギーがあるようである。それは戦前からのユダヤ陰謀史観(親ユダヤ論と表裏一体)の影響がある。特定の人種にすべての要因を押し付けるような言論は乱暴であるというのだろう。過去にハンナ・アレントは、そのような意識からか、特権的なユダヤ人の金融業者とそれ以外の貧しいユダヤ人を分けるような言論を行なっていた。
佐々木の書評の話に戻ると、佐々木は「米国の一挙手一投足に日本の政官界が縛られ、その顔色をつねにうかがいながら政策遂行してきた」という事実は認めており、これを彼は「陰謀」であるとは呼ばないのである。
しかし、陰謀という言葉は刑法上の共同謀議(コンスピラシー)と同じ意味である。米国の一挙手一投足に縛られることを決断した外務省の官僚組織や政治家、財界人は多かれ少なかれ、そのような意思決定を「共同謀議」として決議している。あるいはあからさまに公式に決定している場合もあるだろう。それを陰謀=共同謀議と言わずして何を陰謀というのだろうか?
副島や私のいう、「権力者共同謀議理論」というのは一般的にそのような共同謀議は当たり前に存在するという観点で、世界の歴史や日本の政治史をみてゆくべきだろうという意志の表明である。
そのような共同謀議は存在しないという人はまさかいないだろう。会社組織でも密室の会議というものがあったりするし、官僚機構でもマスコミに全ての会合が公開されているわけではないから、当然に密室の決定というものがあり、数十年経って真実が明らかになる場合もある。
そもそも歴史学というものはのこされた一次資料だけを元に構成されたものであり、歴史を積み重ねる過程において勝者にとって都合が悪い資料はつねに改ざんされ、破壊されてきた。宗教の歴史を見れば分かるように、キリスト教ローマ教会での公式教義では、イエスには妻はいないことになっているが、実際はどうかわからない。その上、妻の存在を示唆する文書も最近出てきた。キリスト教では異端とされる教義、考え方のことを現在の論壇では陰謀論と呼ぶのである。権力者が気に食わないものといってもいい。
共同謀議という言葉が難しければ、「談合」(コルージョン)といえばいい。誰だって談合を暴かれるのは嫌だろう。しかし、談合はつねに存在しているし、今も政局がらみではそんな話はよくあることだ。
歴史を創るというのは個人の家庭生活のようなものとは違い、例外はあるが、行動する権力者、登場人物などのアクターは合理的に自らの生存(サバイバル)と利益の拡大(プロフィット・マキシマイゼーション)を目指して、動いて決まる。
この立場が「合理的選択論」(ラショナル・チョイス・セオリー)とされるものであり、歴史学者の中にもこれを用いて論じる人もいる。権力者共同謀議とは、権力者同士が国家レベル、あるいは世界レベルにおいて、「談合」を行なっている、世界レベルでの料亭政治を行なっているというだけの話であり、何かおどろおどろしいものであるというのは何かの錯覚である。そのように思わせたい人達がいるのだろう。例えば、朝日新聞とか読売新聞とか日経新聞とか。
きっと、権力者共同謀議理論を謀略史観とか陰謀論とか言うふうに吐き捨てるような今回の朝日新聞に載ったのような類の書評は、書いた側である佐々木氏も、自分がまさにその思考原理で論じているのすらも気づかないのかもしれない。
ひたすら「陰謀論への賛同者」呼ばわりされることによって、権力側(まさにその共同謀議の主体)である朝日新聞というメディア(第4権力)から仕事が来なくなることを恐れているのだろう。権力者に逆らう思想は、危険思想になるものだからだ。顕教(けんきょう)を批判する立場は密教としてなら許されるが、それ以上走ると異端として弾圧される。
以上、陰謀論、権力者共同謀議理論、合理的選択論という3つの呼び名で呼んできたが、これらは理論的な枠組みであり、現実の特定の出来事がその理論に当てはまっているかどうかはその都度考えればいいことなのだ。
今回の副島本では、都市伝説としか呼べないようなまだ根拠が充実に出ていないレベルの陰謀の話(地震兵器説)から、アメリカの国家戦略であると位置づけられるが、一般メディアはそれを陰謀論とみなしてしまうようなレベルの話(イラク戦争陰謀説や、冷戦やらせ説など)までいろいろなケースが取り上げられている。
一方、権力者共同謀議理論の日本の国内外における歴史やその流れについても簡単ではあるがまとめられている。これを読むと、日本の太田龍、ベンジャミン・フルフォード、宇野正美と言う人たちがどのように出てきて、一般社会に接触し、そしてどのように離れてファンタジーの世界にまた離れていったのかがよく分かる。
副島本では、いわゆる陰謀論の中でも極北(きょくほく)と言われた、デイヴィッド・アイクらの主張する「世界権力者=爬虫類宇宙人説」については、”癒し系陰謀論”と大胆に論評している。確かにこの種の宇宙人が地球を救いにやってくるという話は三文SF小説のような話であり。ファンタジーであり、スピリチュアルである。この種の議論を、最近、よく新聞に書籍広告を出している大きな新興宗教が日本でも取り入れているのは、ある意味では顧客ニーズに沿ったものなのだろう。
そのような癒し系、スピリチュアル極北の「勝手にやっててください的」な陰謀論というものは、さておき、現実の世界において、権力者の共同謀議というものは存在する、ということはなんとなく理解していただいていると思う。権力者は嘘をつくものだ。
その共同謀議は合理的なものである以上、実際の世界権力者層の行動にその片鱗がうかがえるという仮説を立てていくことには意味がある。
そのような仮説の積み重ねによって世界を読み解くわけである。そのためには彼らの持つ世界観を知らなければならないし、戦略を知らなければならない。副島の『世界覇権国アメリカを動かす政治家と知識人たち』や私の『ジャパン・ハンドラーズ』や『世界を動かす人脈』のような本はその考え方で書かれたものだ。
で、今回、私がビジネス社から出すことになった『世界で暗闘する超グローバル企業36社の秘密』も同様で、世界権力者層の思惑が現れる媒体であるグローバル企業の歴史と行動原理を個別企業を通じてみていくことで、今の世界を読み解こうという試みである。去年出した『権力者図鑑』シリーズが個別の人物に光を当てたものだとすれば、今回の『世界で暗闘する超グローバル企業36社の秘密』は、それを業種別の企業の視点から見たものである。
結局、権力者共同謀議理論というものを知らしめていくためには、実際に事例に即して説明することや、極端なユダヤ人種陰謀史観や、宇宙人陰謀説などの「雑音(ノイズ)」を排除していくという覚悟もまた必要ではないかと思う。日本において権力者共同謀議理論を紹介するのに大きく尽力した太田龍などはこの点を曖昧にしていたのがよくない。
また、かつては911事件の真相究明やヤクザ・リセッション論など真剣に言論活動を行なっていた、ベンジャミン・フルフォードも、もはや「ソースは自分だけ」というような彼自身の脳内妄想としか思えない「架空のイルミナティとホワイトドラゴン結社の戦い」などというストーリーに逃げ込んでいるので、彼の言論ももはや聞くに値しないと思う。フルフォードの言論が過激化したのは、精神世界系言論界の住人である中丸薫の影響が大きい。知らない間に抜けられなくなったのかもしれない。そもそも、フルフォードは、イルミナティの秘密を暴く前に、彼の出身国であるカナダの政治・経済のタブーを暴くべきである。あとはリチャード・コシミズと言う人もいるが、この人の議論をまともに受け取っている人は権力者共同謀議理論を受け入れる人でも、あまり多くないのではないか。だって、彼のブログ巫山戯(ふざけ)ているのがみえみえですし。
今回の副島本はそのような過去に権力者共同謀議理論としての陰謀論とファンタジーとしての陰謀論をごちゃまぜにしていたこれまでの陰謀論業界への決別の書である。スピリチュアル的な陰謀論と合理的選択論に基づく、権力者共同謀議理論の峻別である。前者は新興宗教によって引き取られたのはちょうどいいタイミングだった。
ただし、歴史を読む側が、「権力者共同謀議」という考え方を前提にして持っていても、何がその共同謀議かを見極めるのは、結局は個々人の責任である。何でもかんでも陰謀であると決め付けるのもまた良くない。なぜそれが共同謀議になっているといえるのか、自分の力で説明できる様になる必要がある。ローマ教会は強固なドグマをこしらえて人類を支配してきたのは醜い話だが、それに対抗する側も独善的であってはならないということでもある。
権力者共同謀議理論というのは歴史の読み方の一つであり、政治・経済の出来事の予測を行うための一つの手段である。主流派の歴史学者は公式史観に従う。それに対する反撃、一種の修正主義(リビジョニズム)というものである。学者は修正主義という言葉を陰謀論並みに嫌がる。しかし、一般の読者はそのような心配もする必要はない。
その道具をうまく使うことは推奨されることはあっても批判されるようなものではない。
なお、私の『世界で暗闘する超グローバル企業36社の秘密』(ビジネス社)で取り上げた企業群は以下のとおりです。企業ランキングはフォーブス、フォーチュンの資料を利用し、企業の歴史については、過去・現在の英字紙(フィナンシャル・タイムズやエコノミスト、ニューヨーク・タイムズなど)や英語で発刊されている企業名鑑、内外のシンクタンクの資料などを駆使しました。これで主要なグローバル企業の歴史と最新動向が分かります。企業レポートについては、続編をこの学問道場サイトでも載せていきたいと思います。
◯『世界で暗闘する超グローバル企業36社の秘密』(ビジネス社)で取り上げた企業群
<ゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレー、バンク・オブ・アメリカ、ロスチャイルド(パリ・オルレアン)、ドイツ銀行、中国4大銀行、BP、ガスプロム、シェブロン、中国3大石油企業、BHPビリトン、リオ・ティント、ヴァーレ、ジャーディン・マセソン、グレンコア、GE、アレヴァSA、ボーイング、サムスン、ニューズ・コーポレーション、GDFスエズ、サウジ・ビンラディン・グループ、アンハイザー・ブッシュ・インベブ、ウォルマート・ストアーズ、タタ財閥、トルコ四大財閥>
・上記の本のご注文は下記「学問道場内、1セット4冊頒布コーナー」でも取り扱っております。↓
https://www.snsi.jp/shops/index#book
・2012年11月3日(土曜日)の「副島隆彦を囲む会」定例会へのお申し込みはコチラです。↓
http://soejima.to/cgi-bin/kouen/kouen.html
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