「1226」パラグ・カンナ著『ネクスト・ルネサンス 21世紀世界の動かし方』(古村治彦訳、講談社、2011年)をご紹介いたします。 古村治彦筆 2011年6月22日

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副島隆彦を囲む会・SNSI研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)です。

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・2011年7月17日(日)開催、「副島隆彦を囲む会」定例会(講師:副島隆彦先生、石井利明研究員)への、ご参加お申し込みはコチラ↓
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【目次】

第1章 巨大化する外交
第2章 これまでにないタイプの「外交官」の登場
第3章 条件つきのコンセンサス
第4章 戦争なき平和
第5章 新しい植民地主義-古い植民地主義よりもよいもの
第6章 テロリスト、海賊、核兵器
第7章 人権がきちんと守られる世界
第8章 必要な手段を採る
第9章 貧困根絶を目指す
第10章 私たちの地球、私たちの選択
第11章 新しい時代のルネサンス

【著者情報】

カンナ,パラグ(Khanna,Parag)

1977年インド生まれ。ニューアメリカ財団上級研究員。ブルッキングス研究所研究員も兼任。米国特殊作戦部隊のアドバイザーも務める。外交問題評議会(CFR)会員。世界経済フォーラム「若き世界のリーダー」の一人に選出。ジョージタウン大学外交学部にて学士号、修士号取得。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)にて博士号を取得。『ニューヨーク・タイムズ』『フィナンシャル・タイムズ』紙他多数の新聞に寄稿するほか、CNN、BBCなど世界中のテレビにもしばしば出演 http://www.paragkhanna.com/

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本日は、「今日のぼやき」広報ページをお借りしまして、私が翻訳をしました、パラグ・カンナ著『ネクスト・ルネサンス 21世紀世界の動かし方』(古村治彦訳、講談社、2011年)を読者の皆様にご紹介いたします。

原題は、How to Run the World: Charting a Course to the Next renaissanceです。著者のパラグ・カンナは、1977年生まれの34歳。本作はカンナ氏の第二作となります。彼のデビュー作『「三つの帝国」の時代 アメリカ・EU・中国のどこが世界を制覇するか』(玉置悟訳、講談社、2009年)は、副島隆彦先生が帯に推薦文を書かれている本で、皆さまの中にもお読みなった方が多くいらっしゃると思います。

原著は2011年1月に発売になり、その少し前から翻訳作業はスタートしました。途中、東日本大震災が発生し、予定が少し狂ってしまいました。このように本が刊行できたことは訳者として大変な喜びです。また、カンナは大震災発生後、日本の読者の皆様のために丁寧な前書きを書いて送ってくれました。「日本は必ず復活できる」「日本は世界で最初にその一日を迎える国だ。日本は常に世界が経験したことのない不幸な出来事に直面してきたがそれらを乗り越えてきた」という前書きの内容は、読者の皆様に対する激励になっています。

カンナの第二作の『ネクスト・ルネサンス』について簡単にご紹介したいと思います。

本書の中で、カンナ氏は、21世紀に入った現在が1000年前の中世時代によく似ていると主張しています。特に、アメリカの力(パワー)が衰退し、世界を支配する超大国がない状況、並びに国民国家の力が落ちてきている状況に置いて、様々なアクターが世界統治のために能力を発揮し、活躍していると主張しています。そのアクターは多岐にわたり、トヨタやGEのような多国籍企業、NGO(非政府組織)、大学、教会、各都市、ハリウッド俳優やロックシンガーのような有名人たちが挙げられます。簡単に言うと、これまでアメリカが支配してきた国家を中心にして動いてきた世界が崩壊し、個人や団体が世界規模で能力を発揮し、世界を動かしているということになります。

カンナは、現代世界を動かすのは「外交(diplomacy)」だと主張します。そして、これからの外交は、これまでの外交官たちが独占してきた古い外交ではなく、新しい外交が行われるべきだと主張しています。それが「メガ・ディプロマシー(Mega Diplomacy、巨大化する外交)」という考え方です。これは、これまで外交の世界に関与できなかった多くのアクターたちが分業して外交に参加し、世界を動かしていくというものです。有名人が世界規模の諸問題を世界中に提起する、あるいは、NGOや多国籍企業が問題解決のために動くというものです。

現在、アイフォンやアイパッドを使えば世界中どこにいても人々とつながり、コミュニケーションがとれる時代となりました。こうした技術の進歩によって、外交は、多くのアクターたちに「開放され」ました。カンナは一般の私たちも外交官のような働きができると主張しています。中東での民主化の動きやウィキリークスなどはこうした時代の象徴と言えるでしょう。

カンナは、「テロリズム」「人権」「貧困対策」「環境保護」といった多くの国際問題に対処するために公的機関と民間部門の協働の重要性も主張しています。これがメガ・ディプロマシーの考え方なのですが、外交に、これまで外交に参加できなかったアクターたちが参加することで、世界が直面する諸問題を解決しようということなのです。こうした公的機関と民間部門の協働は、外交だけではなく、様々な場面で必要となってきています。今回の東日本大震災では、公的機関、具体的には政府や地方自治体だけでは災害後の救援や復興に限界があること、民間の力、多くの団体や個人の参加が必要であることが明らかになりました。「政府が何でもやってくれる」「民間が出る幕ではない」という、これまで日本でよく聞かれた考えは時代遅れのものとなりました。これは世界的傾向でもあります。

そのことをカンナは本書『ネクスト・ルネサンス』で書いています。

本書『ネクスト・ルネサンス』の中で、重要なカンナの主張に「国境線を引き直す」というものがあります。世界の多くの国々は植民地から独立しました。その際、旧宗主国によって恣意的に引かれた境界線を国境線としました。この国境線が中東、アフリカ、中央・南アジアの各地域の紛争の原因となり、これらの地域に存在する国々を苦しめているのが現状です。

これに対して、カンナは国境線を引き直す、もしくは国内の不安定要因になっている少数民族は独立させるべきだと主張しています。スーダン南部のキリスト教徒、トルコ、イラク、イランに住んでいるクルド人、アフガニスタンとパキスタンの国境地域に住んでいるパシュトン人といった人々は国家を持つべきだと主張しています。カンナは常々、世界は300の国々に分かれれば平和になると主張しています。また、「国境線などよりも、鉄道と石油や天然ガスのパイプラインで国々をつなぐことが重要だ」とも主張しています。

副島隆彦先生が出された中国に関する本の中で、高速道路や鉄道、石油のパイプラインを中国から内陸の中央アジア諸国につないでいる様子、中国の西部(内陸部)開発の様子が写真付きで描かれています。国境線をめぐって不毛な争いをする時代は終わりつつあり、鉄道、高速道路、パイプラインでつながっていく時代になっているということが本書『ネクスト・ルネサンス』を読むと良く分かります。

これまで私が書いてきました『ネクスト・ルネサンス』の内容の紹介を読んで、「リベラルで理想主義的な(空想の)話か」と思われた方々も多いと思います。しかし、カンナのポジションを考えるとあながち夢想家の本とは言えません。カンナは現在、ニューアメリカ財団の上級研究員をしています。またブルッキングス研究所の研究員も兼任しています。

彼は、外交評議会(CFR)の会員でもあり、世界経済フォーラムが選ぶヤングリーダーでありダボス会議には毎年出席しています。若き世界エリートの一人であると言えます。本書の訳者あとがきでも書きましたが、カンナはオバマ大統領の選挙戦の時の外交政策立案チームに参加していたこと、またCFRの会員であることから、ズビグニュー・ブレジンスキーとの関係が深いと考えられます。この点から、彼が本に書いて発表することは、ただの理想論や空想の話ではなく、アメリカの外交政策や世界の将来のための実現可能な提案なのです。


カンナ:ダヴォス会議に出演した時もこまめに動画配信を行う

カンナはこれまで世界100カ国以上を実際に訪ね、様々な人々に会い、話を聞いて自分の知識を構築しています。そうした現実に即した知識に基づいて本書『ネクスト・ルネサンス』は書かれています。この本は、一言で言うならば、「リアリスティック(現実的)なリベラルである若き世界エリートの世界を動かすために提案した青写真・設計図」ということになります。世界がこれからどのように動いていくのか、その時に自分はどのように動けば良いのかということについて大変示唆に富んだ本です。是非、手にとってお読みください。よろしくお願い申し上げます。

(終わり)

・2011年7月17日(日)開催、「副島隆彦を囲む会」定例会(講師:副島隆彦先生、石井利明研究員)への、ご参加お申し込みはコチラ↓
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