「2161」 佐藤優(さとうまさる)・古村治彦(ふるむらはるひこ)著『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』(秀和システム)が発売 2024年10月24日

  • HOME
  • 「2161」 佐藤優(さとうまさる)・古村治彦(ふるむらはるひこ)著『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』(秀和システム)が発売 2024年10月24日

SNSI・副島隆彦の学問道場研究の古村治彦(ふるむらはるひこ)です。2024年10月24日です。


世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む ←クリックすると、アマゾンのページに進みます。

 今回は、2024年10月29日発売の佐藤優(さとうまさる)・古村治彦(ふるむらはるひこ)著『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』(秀和システム)をご紹介する。今回、ご縁があって、佐藤優(さとうまさる)先生と初めての対談を出版することになった。対談は7月中に行われ、アメリカ政治と国際政治について幅広く話すことができた。宗教の面からアメリカ政治を分析し、アメリカの衰退とグローバル・サウスの台頭を念頭に、国際政治に関する幅広い話題を取り上げた。これから世界はどうなっていくかについて考える際に参考にしていただけるものと確信を持っている。

『世界覇権国 交代劇の真相』から

以下にまえがき、目次、あとがきを掲載する。参考にして、是非手に取ってお読みいただきたい。

(貼り付けはじめ)

まえがき 佐藤 優

 本書は、私とアメリカ政治を中心に国際関係に通暁した古村治彦氏(愛知大学国際問題研究所客員研究員)との初の共著だ。古村氏は、私がとても尊敬する異能の知識人・副島隆彦氏の学風を継承する優れた専門家だ。国際問題の現象面だけでなく、その内在的論理を理解して、はじめて分析が成立するという点で私と古村氏は認識を共有している。
 本書の記述は、岸田文雄前政権時代の事象を中心に論じているが、現時点で特に改める事柄はないと考えている。なぜなら、現下国際政治ゲームにおいて日本が外交の主体的プレイヤーとして活動できる閾値(いきち)が狭いからだ。
 本書の特徴は、通常の国際政治学者が重視しない宗教に着目している点だ。この点に関して、9月27日の自民党総裁選挙で同党総裁に選出され、10月1日の衆議院本会議と参議院本会議で第102代日本国内閣総理大臣に指名され、就任した石破茂氏に特別の注意を払う必要がある。
 石破氏の履歴やエピソードを伝える記事はたくさん報じられているが、なぜか同氏の宗教に言及したものが少ない。宗教が個人の内面に留まっているならば、政治分析の上で考察の対象にならない。しかし、石破氏の場合は、信仰が明らかに政治に影響を与えるタイプだ。

 石破氏は自らの信仰を公にしており、キリスト教系のメディアにも登場している。
 《自民党総裁選の投開票が27日、東京・永田町の党本部で行われ、石破茂元幹事長(67)が第28代総裁に選出された。現在、自民党は衆議院で過半数の議席を保持しているため、石破氏が岸田文雄首相の後継として、第102代首相に就任することになる。
 同志社の創立者である新島襄から洗礼を受け、後に牧師となった金森通倫(みちとも)を曽祖父に持つ石破氏は、プロテスタントの4代目のクリスチャン。クリスチャンが日本の首相に就くのは、第92代首相を務めた麻生太郎副総裁(84)以来、15年ぶりとみられる。(中略)石破氏の父である石破二郎は、鳥取県知事や参議院議員時代に自治相(当時)などを務めた政治家。浄土真宗の仏教徒でクリスチャンではなかったが、金森以来、プロテスタントの家系の母が通っていた日本基督教団鳥取教会で石破氏は洗礼を受けた。幼少期は、同教会の宣教師によって始められた愛真幼稚園に通った。鳥取大学教育学部附属中学卒業後、上京して慶應義塾高校に進学。東京では日本キリスト教会世田谷伝道所(現世田谷千歳教会)に通い、教会学校の教師も務めた。》(9月27日、 Christian Today )

 石破氏が洗礼を受けた日本基督教団鳥取教会は、同志社系(組合派)だ。組合系にはさまざまな考え方がある。他方、石破氏が東京で通っていた日本キリスト教会世田谷伝道所は長老派(カルヴァン派)の教会だ。カルヴァン派では、各人は生まれる前から神によって定められた使命があると考える。どんな逆境でも試練と受け止めれば、必ず選ばれた者であるあなたは救われると教える。この教会で、石破氏は教会学校の教師(聖書の先生)をしていたのだから、聖書や神学についても勉強しているはずだ。
 学生時代に洗礼を受けた人でもその後はキリスト教から離れたり、信仰が薄くなってしまう人もいる、石破氏は信仰が強い方だと思う。現在も日本基督教団鳥取教会の会員だ。ちなみに私も石破氏と同じくかつてはカルヴァン派の日本キリスト教会に属していたが、現在は日本基督教団の組合派系教会に属しているプロテスタントのキリスト教徒だ。だから石破氏の信仰を皮膚感覚で理解することが出来る。
 キリスト教関係のメディアで石破氏は、2018年8月30日、渡部信氏(クリスチャンプレス発行人)と山北宣久氏(前日本基督教団総会議長)の取材でこんなやりとりをしている。
 《 ―― クリスチャン議員として、どのような思いで政治に向き合っておられますか。
私は、神様の前に自分の至らなさ、誤っているところをお詫び申し上げるようにしています。そして、「過ちを正してください」、「ご用のために用いてください」という思いでお祈りしています。
 ―― 特に政治家として強調したい点は。
ヨーロッパにしろ、アジアにしろ、米国もそうですが、同じ信仰を持つ人は多いはずです。にもかかわらず、世の中は争いが絶えない。いかに争いをなくしていくか。いかに互いが神の前には無力であることを共通認識し、自分だけが正しいという思いを持たず、弱い人のために働き、祈ることができるか。それをできるだけ共有したいと思っています。常にこの思いをもって、平和な世界を作りたいと考えています。
 ―― 世界にはさまざまな緊張が存在します。日本が韓国などと平和外交するためにはどうすればいいと思いますか。
韓国の近現代史、韓国と日本が過去にどういう関係にあったのかを知らないまま、外交努力をしても説得力がありません。慰安婦問題、領土問題など、一致できない点もありますが、共にやれることもたくさんあるはずです。韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政
権と共にできることは何なのか。これを考えていくことが重要だと私は思います。(中略)
 ―― 最後に、日本のクリスチャンに向けてメッセージを。
「共にお祈りください」とお願いをしたいです。》(2018年9月5日 、Christian Press)

 石破氏は、自民党員の選挙によって総裁に選ばれただけではなく、神の召命によって自民党総裁、内閣総理大臣になったと一人のプロテスタントのキリスト教徒として確信しているのだと思う。本書では、ドナルド・トランプ氏に長老派(カルヴァン派)の価値観が与えている影響の重要性について言及した。石破氏に関してもそのことが言える。11月の米大統領選挙でトランプ氏が当選すれば、宗教的価値観を共有する石破氏との間で興味深い外交を展開することができると思う。

 本書を上梓するにあたっては(株)秀和システムの小笠原豊樹氏、フリーランスの編集者兼ライターの水波康氏にたいへんにお世話になりました。どうもありがとうございます。

2024年10月2日、曙橋(東京都新宿区)の自宅にて、 佐藤 優
=====
『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』◆ 目次

まえがき(佐藤 優) 1

第1章 再選を大きく引き寄せたトランプ暗殺未遂事件 13

銃撃事件で明らかになった〝神に選ばれたトランプ〟 14
トランプ聖書は「アメリカが宗教で分断されることも辞さず」の表れ 19
トランプは自らの使命を明確に自覚した 25
トランプ暗殺未遂はディープステイトの画策 28
ディープステイトの正体とは? 33
老人いじめにならないようにトランプが賢く振舞った第1回テレビ討論会 38
中絶問題とLGBTQが大統領選の争点になる 41
トランプ政権の本質は雇用にある 48
USスチールの買収と中国への対応 52
民主党はエリートの党、共和党は庶民の党 54
平和への志向が希薄なアメリカ政治。だがトランプだけは平和を志向している 58
後退戦を展開するトランプの歴史的な役割 62

第2章 民主党の反転攻勢とアメリカで進む分断 67
バイデン撤退からカマラ・ハリスへの交代劇 68
ハリス旋風の陰で核のボタンの不安 74
国家権力を背景に仕事をしてきた弱点 80
異論を認めないハリスに外交はできない 84
ヒラリーがロールモデルだと世界戦争になる 88
民主党の副大統領候補は誰になるのか 92
内戦へと向かうアメリカの危機的な現実 96
内在する差別の実態と移民のリアル 103
苦しいアメリカ国民の生活と雇用 108
ペンシルべニア州で大統領選は決まる 113

第3章 ウクライナ戦争とイスラエル・ハマス紛争から見える世界の変化 117
イスラエル・ハマス紛争はいつ終わるのか 118
イスラエルは不思議な国 122
アメリカはウクライナを勝たせる気がない 126
日本のウクライナへの軍事支援は高速道路4キロ分 133
ハマスはネタニヤフが育てた 137
イスラエルは北朝鮮に近い 144
イスラエルの論理 146
イスラエルには多方面で戦争する力がない 150
イスラエルは反アラブにも反イスラムにもなれない 153
ユダヤ人は3つに分けられる 155
キリスト教シオニストは本質において反ユダヤ的 158
イスラエルとこの世の終わり 162
ユダヤ人理解には高等魔術が役に立つ 163

第4章 ドル支配の崩壊がもたらす世界覇権国の交代 169
ハマス最高指導者・ハニーヤ暗殺の影響 170
ヨーロッパで蔓延する反ユダヤ主義 176
中東全面戦争と核拡散の恐怖 179
アメリカ離れが進み、世界構造は変化する 184
アメリカの衰退でドル支配は崩壊する 189
トランプ再選後、世界はどうなるのか 195
平和を求めない戦後アメリカ体制の欠陥 199
失われた公共圏と共同体としての世界 204
グローバル・ノースが失う世界の主導権 209

第5章 米中覇権戦争は起きるのか 215
中国は次の覇権国になれるのか 216
世界は民主主義同士で争っている 220
揺らぐデモクラシー 224
変なのしか残らない先進国の選挙 228
今日のウクライナは明日の日本 231
日本外交の未来図 236

あとがき(古村 治彦) 241
=====
あとがき 古村 治彦

 今回、佐藤優先生との対談が実現した。佐藤先生には、拙著『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店、2023年)を2回書評で取り上げていただいた。そのご縁で、今回、光栄な機会をいただくことができた。佐藤先生に厚く御礼を申し上げます。
 対談は、2024年7月16日、25日、8月1日の3回行われた。私にとっては対談自体が初めてのことで、しかも、その相手が憧れの佐藤優先生ということもあり、1回目の対談は緊張しっぱなしであまり話せなかった。それでも、先生の温かいお人柄のおかげで、回を重ねるごとに緊張もほぐれて、自分らしく話すことができた。
 対談では、ドナルド・トランプ前大統領暗殺事件を手掛かりにして、宗教の面からアメリカ政治全体を分析した。私もごく一般的な知識しかない中で、必死に佐藤先生の話に食らいつきながら、政治学や国際関係論の知識で、私なりのアメリカ政治分析を披露した。また、大きな世界政治の流れについても、ウクライナ戦争、イスラエル・ハマス紛争を入り口にして、ユダヤ教やイスラム教の面から分析をすることができた。また、インテリジェンス関係のお話を伺うこともできた。対談を通じて、アメリカの衰退と世界構造の大変動が起きているという共通認識で一致した。
 私たちの対談は、様々に起きる事象についてどのように考えるか、分析するかについて、私たち2人の手法、方法論を明らかにしたものとなった。読者の皆さんが様々な事象について、自分なりに分析する際の手助けとなれば幸いだ。

 対談の期間中、そして、対談後に、アメリカ政治は大きく動いた。2024年7月21日にジョー・バイデン米大統領が大統領選挙からの撤退、再選断念を表明した。そして、同時に、カマラ・ハリス副大統領を大統領選挙候補者として支持すると発表した。8月上旬には慌ただしく、カマラ・ハリスが大統領候補に、ミネソタ州知事のティム・ウォルズが副大統領候補に決まった。
 8月19日から22日にシカゴで開催された民主党全国大会をきっかけにして、上げ潮に乗って、カマラ・ハリスが支持率を伸ばし、選挙戦を優位に展開しているというのが日米の主流派メディアの報道だ。ところが、重要な激戦州では五分五分、トランプがややリードという結果が出ている。主流派メディアの肩入れがありながら、ハリス支持は伸びていない。なにもこれは私の希望的観測ではない。アメリカ政治情報サイト「リアルクリアポリティックス( RealClearPolitics )」が各州レヴェルの世論調査の結果を集計し、それを大統領選挙の選挙人数に当てはめた結果では、10月1日の段階で、「トランプ281人、ハリス257人」となっている( https://www.realclearpolling.com/maps/president/2024/no-toss-up/electoral-college )。米大統領選挙はデッドヒートを続け、終盤に向かう。

 ウクライナ戦争の状況は大きく動いていない。ウクライナ側はロシア国内への攻撃を行っている。しかし、戦況を有利に展開出来ていない。9月中旬開会の国連総会出席に合わせて、ウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領は訪米し、バイデン大統領、ハリス副大統領、民主、共和両党首脳部、トランプ前大統領と会談し、「勝利計画」を提示したようだが、相手にされなかったようだ。ウクライナ情勢は停滞したままだ。
 イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、対談で佐藤先生と私が危惧したように、戦争を拡大させようとしている。ガザ地区でのハマスとの戦いに加え、レバノンでのヒズボラとの戦闘を激化させようとしている。9月17日にはレバノンのヒズボラのメンバーが使用していたポケベル(イスラエルが細工をして輸出)がイスラエルの遠隔操作により爆発し、12名が死亡し約2800名が負傷する事件が起きた。9月27日にはヒズボラの最高指導者ハッサン・ナスララ師がイスラエルの空爆によって死亡した。イスラエルは10月1日にレバノンへの地上攻撃も開始した。また、イエメンのフーシ派への空爆(9月29日)も開始した。アメリカで権力の空白が生まれている中で、イスラエルのネタニヤフ政権は、中東での戦争の段階を引き上げようとしている。世界にとって非常に危険な動きだ。

 日本政治は、岸田文雄首相が2024年8月14日に退陣表明してから、慌ただしく動き始めた。9月27日に、自民党総裁選挙が実施され、石破茂氏が高市早苗氏を破って総裁に選出された。主流派マスコミは、小泉進次郎氏が先行し、高市氏が激しく追い上げと報じていたが、最後の大逆転で、石破氏が勝利を収めた。岸・安倍系清和会支配の弱体化、自民党保守本流政治の復権、日中衝突の回避のために、まことに慶賀すべき結果となった。日本も少しずつ、アメリカの属国からの方向転換を図る動きになっていく。これは、対談の中でも詳しく触れた世界の大きな流れ、アメリカの衰退と中国の台頭、西側支配の終わりとグローバル・サウスの勃興に合致している。

 対談の終わりの雑談の中で、佐藤先生から「守破離(しゅはり)」という言葉について伺った。私は落語鑑賞を趣味としている。この「守破離」という言葉は、落語協会の二階の広間に額に入れて飾ってある。伝統的な芸道や武道で大事にされている言葉だ。「守破離」とは、「剣道や茶道などで、修業における段階を示したもの。『守』は、師や流派の教え、型、技を忠実に守り、確実に身につける段階。『破』は、他の師や流派の教えについても考え、良いものを取り入れ、心技を発展させる段階。『離』は、一つの流派から離れ、独自の新しいものを生み出し確立させる段階」(『大辞林』から)という意味だ。佐藤先生は神学、私は政治学や国際関係論という「型」を大事にしながら評論を行っている。
 佐藤先生は私に、「型がなければただの言いっぱなしですよ」とおっしゃった。佐藤先生は既に「離」の境地に達しておられるが、対談を通じて、改めて基本の大切さを私に教えて下さった。私も先生の言葉を肝に銘じて、型を大事に「守り」ながら、「破」「離」へ進んでいきたい。

 最後に、対談実現のために橋渡しをしてくださった、師である副島隆彦(そえじまたかひこ)先生に御礼を申し上げます。対談のアレンジ、調整を行い、まとめ役を務めた水波ブックスの水波康氏、全体編集を担当した秀和システムの小笠原豊樹編集長には大変にお世話になりました。記して感謝申し上げます。

2024年10月 古村 治彦(ふるむらはるひこ)

(貼り付け終わり)
(終わり)

このページを印刷する