「144」 2025年5月 ガヴァーネス 女家庭教師①

ガヴァーネス(女家庭教師)という言葉の重要性について

副島隆彦です。 今日は2025年5月31日です。

今日はふーっと思いついたんですが、governess ガヴァーネス と言う英単語がある。これはものすごく大事な言葉なんです。今回はこの言葉(コトバ)に集中させて他のいろんなことをまとめていきます。

簡潔に、これは(住み込みの)女家庭教師という意味です。実はこのコトバがわからないと、ヨーロッパ人、特にイギリス人、そしてそれが文明として北アメリカに移っていったアメリカ白人たちのことがわからないんです。ここをギュッと日本人が理解すると、ものすごく重要なことにたくさん気づきます。こういうことを私はコトバ研究学者として日本人に伝えていかなきゃいけない。

今日のぼやき、広報ページ「2151」で小説『嵐が丘』について話したときにも、ちょっと触れています。ガヴァーネスというのはですね、例えば、1964年作のディズニー映画「メリーポピンズ」の主人公のメリーという女性がそうです。ジュリー・アンドリュース(1935-、89歳)という、面長の美人の女優が演じた。映画では、主人公のメリーが黒い大きなこうもり傘を持って、黒詰めの質素な洋服を着て、風の中から降り立つんですね。そしてなんとかその家に雇われて、男の子の家庭教師をやる。原作はイギリスの児童文学で、1930年代のロンドンを舞台とするパメラ・リンドン・トラヴァース(1899-1996)の小説「メアリー・ポピンズ」(1934年作)です。イギリス英語ではメアリー・ポピンズ。王女メアリーのメアリー。アメリカのディズニー映画だから、メリーになりました。最後には、主人公のメリーがまたコウモリ傘を広げて風に乗って飛んでいきます。もう細かいあらすじは説明しませんが、大ヒットしました。ものすごく重要な映画です。この主人公メリーが、ガヴァーネスなんです。

もう一つ大事な映画があって、同じくジュリー・アンドリュース主演の映画「サウンド・オブ・ミュージック」(1965年公開)なんですね。これも長く大ヒットして、その後の1970年代を代表する映画になりました。舞台はかつてのオーストリア=ハンガリー帝国のザルツブルグ。海軍大佐だけど伯爵でもある、数年前に妻を亡くした男の人のお屋敷に、マリアという女性が家庭教師として住み込みで雇われるんです。彼女が、ガヴァーネスなんです。

1938年からオーストリアにドイツ軍(ナチス)が攻めてきた。オーストリアのウィーンまで同じドイツ人なんですよ。ベルリンを中心にしたプロイセン王国が、1871年からドイツ帝国になっていくのね。そのドイツに負けちゃってどんどん追い詰められていったのがオーストリア=ハンガリー帝国です。映画の最後のシーンでは、お父さんと子どもたち7人と女家庭教師のマリア(その時には大佐の妻になっている)が、オーストリアからスイスの山を越えてアメリカに亡命していくんですね。あらすじはみんな知っているから、この話もしませんが、伯爵に雇われて、お屋敷で住み込みで働いていた女家庭教師ガヴァーネスというのが、ものすごく大事でね。

その貴族さまの大きなお屋敷には、女中頭をはじめ10人以上が雇われているんです。飯炊き女たちも入れてね、あと下男たちや庭師たちがいます。庭をきれいにするために何人か必要だから。年がら年中、庭とか林みたいなところをきれいにする係。

◾️海外で働く日本人庭師
日本人も、戦前はずっと、庭師としてカリフォルニアを中心に雇われていたんです。ガーデナーというんです。そこでメキシコ人を2~3人使って、日本人が庭師長をやるわけね。この話も今日は多くはしませんが、例えば例の映画人たちの間で、ヨーダさんという有名な人がいました。ロープ一本を手につかんで、パンパンパンパンって、そのロープを大きな木に引っ掛けながら自分だけで上に上がっていった日本人の庭師。ジョージ・ルーカスたちが、それにびっくりしたんです。このヨーダさんが、「ヨーダ」としてスピルバーグとルーカスの映画「スター・ウォーズ」に出てくる。映画では、いかにも悟りきった仙人様の「ヨーダ」になった。当時の日本人も真面目で一生懸命働くし、元気いっぱいな人たちがいたんですね。もうその話もしません。

◾️家庭教師
ガヴァーネスに話を戻すと、実はこのガヴァーネスはね。質素な身なりをしていて、貧しいんです。そのお屋敷のメイド、女中と同じ階級で、同じご飯を食べてるんです。使用人の部屋で、みんなでご飯を食べてるのね。それで、いじめられたりするんです、女中たちに。

それでもこのガヴァーネスは教育を受けているんです。それで学校の寄宿舎、ドミトリーっていうのがまた大事でね。女たちのための寄宿舎もあって、そこでの暮らしも貧しかったらしいんだけど。日本で言えば、戦前の明治大正時代の女子中学校みたいなね。そういうふうに教育を受けているから教養があるんですね。そういう女性が修道院にいたりします。修道院が学校だったりします。だから「サウンド・オブ・ミュージック」では、主人公のマリアは偉い女修道院長から、「あなたは外の世界に出ていきなさい。あなたは、修道女として神に仕えながら、この修道院だけで終わっていってはいけません」と諭(さと)されて、修道院から出ていくんですね。質素な身なりのままで。で、紹介先であるその屋敷で住み込みで働きます。チューターという言葉がありますが、家庭教師という言葉の基本用語です。当時のチューターは主に男性で、通(かよ)いで教えます。

私も大学時代はチューター、家庭教師をやってご飯を食べていたから。大学生でも親に頼りたくない子たちは家庭教師の職を見つけてね。月3万円5万円稼いで生きてる。月20万稼いで、それで親の世話にならないで生きてるっていう東大生なんか、今もいると思いますよ。だから、貧しい問題は表面に出して言っちゃいけないことになっててね。当時はいろんな銀行のたくさんの支店に掲示板っていうのがあって、そこに「家庭教師します」って書いていいことになっていて、あと電話番号と。それで住宅地の家庭教師の職を見つけたんですよ。世田谷とか杉並なんかもそうでした。まあいいや。

ところが本当のことを言うと、そのチューターというのが大事で。ヨーロッパ最大の大思想家のエマニュエル・カント(1724-1804)とか、フリードリヒ・ヘーゲル(1770-1831)なんかも40歳ぐらいまでチューター、家庭教師なんです。大論文を書いて認められるまでは大学の講師か、または講師になる前は、金持ちの家に雇われる家庭教師です。当時は主に学のある男が、通いでやりました。そのこともあまり言わないことになっていますが、それが真実。

だから家庭教師という商売が、知識階級を作ったんです。家庭教師をして生活の収入を得て、偉い学者や知識人になっていった人が、もう何十万人どころじゃなくているのね。知識人階級を支えた読書人階級もね、そういう人たちなんです。頭のいい人たちなんだけど、ただ環境からいうと恵まれないんですね。金持ちの家の子じゃありません。ここをね、本当に切開する、切り開かないと日本人が世界を理解したことならない。日本と世界がつながっているんだということを理解する必要が、今あるんです。だから副島隆彦が存在するの。本当のことを書くからね。

その中で、ほとんど理解されていないのが、この女家庭教師、ガヴァーネスなんですね。このガヴァーネスの重要性をとにかくみんなに分からせたい。ガバネスは頭がいいんですよ。文章力があって文章を書けます。いろんな理科系の物理学や数学はやらないけど、知識がある。いや算数はちゃんとできたと思う。頭のいい子だから。そして、家庭教師で雇われて、その家の子どもたちに教えるんですね。いろんな学科を。教養も身につけさせるんですね。小説も読んであげる。歌も一緒に歌って。あと、しつけをするわけです。

◾️実在のモデル
それが「サウンド・オブ・ミュージック」の中に出てきますね。実際のマリアとトラップ家の人たちは、1938年にドイツに併合されたオーストリアから逃れて(イタリア→スイス→フランス→イギリス→)アメリカに渡って。マリアと再婚してから3人の子ども生まれているから、子供は10人(亡命時、長男は27歳、長女25歳………5女が17歳)になっていた。1940年に大手プロダクションがプロデュースして「トラップファミリー合唱団」として全米を演奏旅行したんです。チロリアン(オーストリアのチロル地方の民族衣装)のね、エプロンをしたような恰好で、髪は三つ編みにして、山の民(たみ)の格好で歌を歌って。そしてオーストリアを助けてください、というね。そういう実在のモデルが本当にいたんです。

お父さんはですね。真実は海軍少佐で。イタリアの一番北のアドリア海の奥にトリエステという都市があってね。私は行ったことがないんだけど、このトリエステがオーストリア領なんですね。そこの潜水艦の艦長をしてたんですね。だから海軍少佐なんです。貴族ですけど。で、その人がヒットラーのナチス、ドイツ帝国を嫌がってアメリカに逃げたわけですね。

◾️亡命外国人
私の家のそばにもね。1979年のイランのホメイニ師が起こした革命で、追放されたパハレという国王がいてね。パハレビ朝の。元々は軍人上がりが作った王朝なんだけどね。その家来だったイランの大佐ぐらいの人だと思うけど。その人がアメリカに亡命したあと、日本に来て住んでいるという人がいます。そういう人がいるんですね。インド系の人たちもいます。アメリカ人なんだけど元はアメリカ人ではありません。そういう人が今、どんどん日本に移り住んできてますね。

◾️華の都が、ウィーン→パリへ
だからそれでね。オーストリア=ハンガリー帝国というのは、もとの神聖ローマ帝国です。これもね、日本人がわからない。ホーリーローマンエンパイアって言うんですね。神聖ローマ帝国が古代ローマ帝国の後継なんですよ。だから当時のウィーンが、ヨーロッパ全体の帝都なんですね。エンパイア、帝国の首都なんですね。今はまだアメリカ合衆国が世界の帝国で首都がワシントンDC、っていうのと同じことです。それぐらい強かった。ウィーンは立派なところで、ずっとパリと同格だったんです。17世紀18世紀19世紀になるとパリの方がドカーンと豪華に豊かになってね、超高級売春婦みたいな人たちもみんなパリにいて、オペラの中で描かれていくわけですね。「椿姫」とか。

◾️椿姫の真実
「道を踏み外した女」というのは、「ラ・トラヴィアータ」というんだけど。これは椿姫の原文のタイトルですね。彼女が、真面目な純朴な男の子というか青年と真剣に愛し合った。しかしこれも言っちゃいけないことになってるんだけど、その真面目な青年のお父さんやら友達たちも、実は椿姫と寝てるんですよ。だからもう分かるでしょ。でもこのことを一言も言わない。だから「椿姫」を皆なんとなく知っているだけで、日本では本当の理解ができてないんですよ。金持ちの男たちがみんな椿姫と寝てるんですよ。それで、彼女と真剣に愛し合っちゃった青年の悲劇ってわかるでしょ。

父親から、「お前のせいで私の娘が、すなわちお前の妹がちゃんとした結婚ができない」と説得されて、青年は身を引くのね。椿姫は、最後は結核で死んじゃうんだけど。それが超高級売春婦である椿姫の話ですね。

(作成途中。つづく)

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