別に淋しくはないよ
ニュースを見て、まず「ああ、そうか」とだけ、僕は思った。
色々と心に込み上げてくるかも、と、前から予想していた。が、そうでもない。
多分僕が、2日に一度くらいの間隔で、ジェフの曲を聴いているからだ。大学時代から、ほとんど空気のように、ほぼ毎日、僕はジェフの曲に接している。ジェフは、僕の周りにずっといる人なのだ。だから、寂しさはあまり感じない。僕が死ぬまで、これからもずっと横にいるだろう。
そう思うと、親兄弟よりも、ジェフはずっと私の身近に居続けた人なのだ。死のうが生きていようが、関係ない。曲が流れてさえいれば、ジェフは僕の横にいる。彼の思いを、ごく自然に、曲から感じることが、僕にはできる。
そういうギターを弾く人だからだ。彼のファンは、全員がそう感じるだろう。
ジェフの人生を振り返ると、はっきり言って、不条理の縮図である。「あれだけの才能と能力があるのに、なぜ世間では評価が低いのだろう?商業的に大成功しないのだろう?」と、最初の頃は、僕はずっと疑問に思っていた。結局わかってきたのは、本物の才能を持つ「オリジナル」は、世の中では成功しない。どちらかというと、周りから疎んじられる、という事実だ。
「オリジナル」のトガった個性は、周囲をグサグサ突き刺したりして、傷つけることが多い。なので「普通の人」には扱いにくいのだ。そんな「オリジナル」を離れて観察している、能力の低い連中は、「オリジナル」が生み出す唯一無二の「作品」を、ちゃっかりと借用して、ダサいアレンジを加えて発表する。そうして得られたヒット商品から、周りの連中が、大金を儲けるのである。
ダサいアレンジでも、世間一般では、誰も目にも耳にもしたことがない「モノ」ならば、素晴らしく見えたりするのだ。世の中にに溢れるほとんどは、そのような「モノ」である。経済的合理性からは、そのような「モノ」を(パクリとも言うが)次々と作り出すのが、大正解であろう。ネットの世界でも、大勢見かける連中だ。「少しでも、他人よりも先んじて、セコく金を儲けよう」そんなセコさのアピールが、近代資本主義社会の常識だ。セコさの集団だ。
ジェフ・ベックこそは、そんな経済的合理性の、対極にいる人である。彼こそが真のオリジナル。しかし、世間的な成功者から見ると、ジェフ・ベックは単なるバカである。「あれだけの才能を持ちながら、成功を掴めていない。何とモッタイない」と、なるのであろう。
でも、私のような、世間的な一般人とは、到底いえない人間にとって、ジェフ・ベックはどうしても必要な人だった。「合理的な生き方なんか、どうでもイイじゃん。そんな生き方をしてる連中には絶対に見えない、素晴らしい宝物が、道端にたくさん落ちているじゃないか。それを拾って集めていけば、俺達も多分、幸せになれるゼ」
そんな癒しのメッセージを、ジェフの曲から僕はいつも感じる。そしてこれからも、僕の横には、ジェフがずっと居続けるだろう。なので、あまり寂しくはないよ。
僕の中でのベストアルバムを挙げるなら、やっぱり「ラフ アンド レディ」である。最初に自分で買ったCDがこれだった。だから、ではなく、このアルバムでの演奏が、ジェフのベストだと思う。16ビートのリズムで、全曲押し切っているのは、このアルバムと「ブロウ バイ ブロウ」の2枚だけである。もうひとつの理由は、アレンジに他人を使っていないアルバムは、この「ラフ アンド レディ」だけだからだ。自身がアレンジを手がけたこのアルバムこそが、ジェフのエッセンスが一番凝縮されている作品だと思う。
つい最近まで、ジェフはライブも続けていたようなので、新たな音源がこれからも、継続して発表されるのだろう。それを楽しみにしたい。