横道世之介
新聞連載小説をリアルタイムで読み、単行本が出て再読しました。
実は、単行本ではかなり改編されていました。連載時は世之介が、将来鉄道事故にあって死ぬんだろうな、と匂わせて終わり(駅のホームで、風に飛ばされた女の子の帽子を危うくキャッチするのがラストシーン)ですが、本では死後の祥子と世之介の母のやりとりで締めくくりになっています。
新聞連載の方が私は好きです。
まあ最後まで付き合ってやるか、みたいな気持ちで観に行きました。
小説をすべて映像化することは困難であり、ディテールをかなりカットする必要があるのですがが、脚本が原作のエッセンスをうまく掬(すく)っていたと思います。バブル期にバブルとは気付かないで過ごした懐かしさに溢れています。
愛を告白した祥子が照れてカーテンに隠れてしまい出てこないという場面が小説のクライマックスです。それまで存在感の薄かった祥子が読者を引きつけます。2010年度の本屋大賞3位でしたが、小説のファンは恐らくこの場面がお気に入りでしょう。蜷川幸雄監督「蛇にピアス」(評論家に映画を舐めるなと酷評されたし、確かに観られたシロモノではなかった)で、既に高良健吾(世之介役)と共演し、ヌードまで披露してしまっている吉高由里子が祥子役だけに初々しさが出るか心配だったが無難にこなしています。上手い役者です。
主役の高良健吾が達者になったと思います。男を手玉に取りながら世を渡っている千春役の伊藤歩が上手かった。この人が10代の頃から私は注目しているけれど(岩井俊二監督「リリイシュシュのすべて」)、輝く脇役に成長しました。
この映画とは関係ないが深津絵里も子役の頃から見てきた女優。周りの子役達よりも一枚上手で光っていました。そういう原石を見つけるのも映画の楽しみです。
佳作です。