是枝裕和(これえだひろかず)監督作品を見て

5670 投稿日:2010/11/28 20:19

「誰も知らない」
これは私が沖縄市に住んでいた頃、公開されたフィルムです。主演の柳楽優弥(やぎらゆうや)が主演男優賞を獲ったり、この作品自体もキネマ旬報で1位になっていますからご存じの方も多いでしょう。
那覇で見損ね、どうしても見たくて、今はなくなっていますが名護シアターという沖縄本島北部の映画館で見ました。往復の高速代金とガソリン代、駐車料金、入場料でかなり散財しました。が、その甲斐あってか傑作でした。

時間の経過がこの映画の見せ所です。
最初と最後で次男坊の顔つき体つきが違っています。かなりのリアリティです。いっぺんに撮影せず、何回かに分けて撮られたと云うことですが、それだけに作り手の本気度を感じます。
母親に新しい彼氏(旦那)が出来、子ども4人をほったらかして出て行ってしまいます。何とか生活して欲しいので、機会あるごとに長男にお金を渡しに来ようとしますが、続きません。長男が「お母さんは帰ってくる」と下の子たちに言い聞かせているものの、それぞれ成長して長男の嘘を見破ります。

‘こういう映画が見たかった’と手を叩きたくなります。
クリスマスケーキを安く手に入れるために、投げ売りが始まるのを待っているとか、カップ麺の残り汁をご飯に浸して食べるシーンなど説得力を持っています。
良くできた映画です。私は日本映画の記念碑と言って良いくらいだと思います。

「幻の光」
それぞれ子どもを抱えた男女が再婚で一緒になり、落ち着くまでを描いた映画です。
監督の処女作、また江角マキコの初主演作品です。
江角マキコ演じる女の元の亭主が自殺する以外は特に大きな事件もなく、淡々と話は進みます。だからといって決して退屈な話ではなく、味わいのあるものに仕上がっています。
欠点としては江角の生活感の無さでしょうか。元々モデルで顔もスタイルも美しい。普通の主婦に見えません。漬け物にするであろう大根を洗いながら近所の人と挨拶を交わすシーンなどで、嫁ぎ先である能登に溶け込ませようという意図は見えますが、空振りに終わっています。私は殆どTVをつけませんが、1度「ショムニ」という彼女主演のドラマをたまたま見ました。やっぱり容姿が奇麗で、周りの女優とは明らかに違う。OLに見えません。手足が長いのです。調べてみると彼女は身長170cmなので、やはり相方には183cmの内藤剛志(たかし)でないと釣り合いがとれなかったのでしょう。
撮影場所を捜すのに時間をかけたのではないかという感じがします。能登の季節感、風俗とかそういったものを出そうと苦心しているなと思いました。

「歩いても歩いても」
力作です。見て約1週間経ちますが、心の中で反芻しています。
さりげない登場人物たちのやりとりが巧く描けています。「幻の光」よりも更に監督の力量がついてきたな、と感じさせます。前述の江角マキコの様に、浮き上がった存在がいません。
長男の法事に故郷に戻ってきた妹一家、弟一家、両親が接する2日間と、短い後日譚だけの話ですが、人物各々の悲喜こもごもが良く出ています。
夏川結衣(ゆい)が非常に上手い演技をしています。阿部寛(ひろし)演じる弟の妻役です。初婚ではなく、先立たれた夫の連れ子を持ち、夫の家族に後ろめたさを感じている。それだけに気をつかって義理の両親、姉の家族に溶け込もうとしている姿がよく表現されていました。

最近、映画誌などに目を通していないので分かりませんが、是枝監督は小津安二郎を意識しているのではないか、と思います。日常的な描写から登場人物の心情を描き出そうとしているところから想像しました。

是枝監督は、「下妻物語」「嫌われ松子の一生」を撮った中島哲也監督と共に、期待している監督です。※中島監督の「告白」は今ひとつという評判ですが…(なんでかなさん、感想を投稿していただけると幸いです。)