問題作を語る:番外ロボットアニメ編

相田英男 投稿日:2019/08/04 13:27

ーまた唐突に呼ばれましたけど、何ですか?今回はアニメの話とか?

(相田)最近京都のスタジオで痛ましい事件があったから、大した話でもないかもしれない。けれど、50歳以上の元アニメオタクからすると、看過できないニュースが出てる。以下に引用するよ。

(引用始め)

「メーテル」のイラストをヤフオクに無断出品 「銀河鉄道999」アニメーターの強欲ぶり
7/30(火) 5:57配信

 原作の連載から40年余りを経て、まさかのトラブルだ。テレビ版「銀河鉄道999」にも参加したアニメーターがメーテルのイラストを勝手にオークションサイトに出品。原作の漫画家・松本零士氏(81)が嘆くことしきりなのである。

 アニメーターの名は湖川友謙(こがわとものり)(69)。「巨人の星」などに関わった後、1978年の「宇宙戦艦ヤマト」の劇場版や、同年のテレビ版「銀河鉄道999」で作画監督を務めた。アニメ業界ではちょっとした有名人なのである。業界関係者が言う。

「70年代に活躍された方で、実は未だにファンクラブが存在しています。所属しているのは80人ほど。本人を交えて飲み会をやったり交流を深めているのですが、最近の湖川さんの行動には眉を顰めるファンも少なくないと聞いています」

 元ファンの男性に聞くと、「湖川先生は最近はあまりアニメの仕事はしておらず、実は3年ほど前から直筆のイラストを『ヤフオク!』に出品して荒稼ぎしているのです」

 実際にサイトを見ると、彼がキャラクターデザインを手がけたアニメ「聖戦士ダンバイン」のイラストなどが、毎月20点近く出品されている。

「1作品、3万円から5万円ほどで落札されています。デザインを手がけたとはいえ、著作権を持つはずのアニメの制作会社から、許可は得ていません。何より『銀河鉄道999』のメーテルなども彼の直筆で出品されているのです。価格は20万円がつくこともあります」

 数年前までは飲み会の代金すら払えないこともあった湖川氏は、急に羽振りが良くなったのだという。

「これまでに1千万円以上は稼いだのではないでしょうか。旅行に出たり、ブランドものの服も着るようになりました」

(引用終わり)

(相田)今回のニュースを見ながら、といっても、週間新潮の一つの記事が拡散しただけなんだけど、俺は静かに怒っている。「何だよ、みんな思い込みで無責任なコメントばかりしやがって」てさ。

湖川友謙ていえば、50代以上のアニメファンだった連中にとっては、宮崎駿に並ぶアニメの巨匠だ。アニメ界が誇るべき、数少ないレジェンドの一人だぜ。「アニメ業界ではちょっとした有名人」なんかじゃない。人物画だけ書かせるなら、宮崎駿よりも湖川の方が今でも遥かにうまいぜ。その湖川が、何でこんな不名誉な報道をされることになったんだ?

ーそりゃメーテルの絵を描いた色紙を、ヤフオクで売ったからでしょ?飲み代に困ってたのが、急に羽振りが良くなった、とかいう話ですよね。

(相田)確かに湖川が、松本零士に無断でメーテルを描いて、色紙を売るのは問題だぜ。そこは非難されても仕方ないだろう。でも、素行の悪いゴロツキの元アニメ画家が、松本キャラの色紙をネットでこっそり売って荒稼ぎしている、ていう記事の書き方は、あまりに無知すぎる。

メーテルの色紙が20万円で売れたのも、湖川の直筆画だからだろう。なんぼメーテルの絵だからといっても、無名の素人の上手な色紙を20万円で買う奴がいるか?単に絵が上手くて色紙を描いて売るだけで、一千万円稼げるなら、ちょっと絵が上手いなら誰だって売り出すだろう。

そうじゃなくて、湖川という巨匠の絵だから、一千万円も稼げるんじゃないかね?要するに、湖川氏のやった事は悪いんだけど、彼のアニメ界での業績に対する理解と尊敬が全く感じられないよな。湖川を非難する連中は。

俺が怒っているのはもう一つある。それは、湖川を非難する連中は、おそらく誰も「イデオン」を見ていない事だ。断言できる。

ーイデオンて、1970年代末にテレビ放映されたロボットアニメですね。映画も作られてますけど。

(相田)湖川が人物デザインして、作画監督としてリーダーだったアニメ作品だ。そして日本の全アニメ作品の中でも、最大の問題作でもある。俺は子供の時に本放映でずっと見ていた。そして未だにトラウマになって心に残ってるアニメだよ。庵野秀明もそうらしいけど。

ー僕は、相田さんより世代が後なんで良く知りませんが、何でも、「イデ」という名前の無限大の力で動くロボットがいて、地球くらいの惑星を最後の方でレーザー剣で、真っ二つにぶった斬ったとかで、有名ですよね。でも、最終回の前にテレビ放送が打ち切られて、中途半端で放送が終わったんですよね。

(相田)最初は、かの有名なリアルロボットアニメが人気になって、同じ感じのアニメが新しく始まる、とかいう噂で見始めたんだ。前半は意味不明なセリフがやたらと飛び交うだけの地味な話で、何話か飛ばしたけど、中盤から俄然盛り上がって来て見逃せなくなったんだ。後半になると登場人物がどんどん死んでいくし、それにつれてイデオンのパワーが際限なく上がって、遂には惑星をぶった切るんだよ。その時に、イデオンの主要パイロットが一人死んじゃうんだ。

この後どうなるんだ、と期待して次週見たら、その回はロボット戦はほとんどなくて、敵と味方の地味な話し合いが続くだけだった。その最後に、唐突に「今週でイデオンは終わりです。どうもありがとうございました」とかの、テロップが出てきて、それが最終回だったんだ。

「ええ〜〜、そんなのあるかよ!?」って、信じられなかったけど、本当にそれで放送は終わりだった。次週からは続きが見れないんだ。こんだけ話を盛り上げて、途中で終わるなんて、あまりに無茶苦茶だ、と、子供ながらに理不尽さが込み上げてさ。そのショックが大きくて、それからはアニメを見るのが辛くなって、俺は洋楽を聴くようになったんだ。

打ち切り後の最終回までの話は、その後に映画化されてオチが着いたらしかった。けど、俺的には脱力感が大きくて、映画は見れなかったよ。テレビ放映よりも、映画は作画のレベルが格段に良くなった、とは、雑誌で読んだ。その映画の原画を、一人でほとんど書いたのが湖川氏なんだよな。

ーイデオンの映画では、登場人物達が敵も味方も全員死んじゃうですよね。

(相田)登場人物達だけじゃなくて、地球人と敵側宇宙人の民族全てが滅亡するんだよ。イデの力で惑星ごと破壊されて。無茶苦茶なんだけど。

そもそも、どうして全員死ぬ羽目になるかというと、実は特に理由がないんだよ。驚くべきことに。イデオンというのは、謎の惑星の古代遺跡から発掘されたロボットで、よくわからない不可思議な力で動くんだ。その発掘現場に異星人の旅行者みたいなのが、たまたま通り掛かって、偶然に銃で撃っちゃってお互い数人死ぬんだ。

それがきっかけで、戦闘になって、主人公達地球人はイデオンを持って逃げる。でも敵側宇宙人の方が強力な武器を持ってるので、やられそうになると、その度にイデオンがパワーアップして、敵を倒すんだ。そんな感じで戦いがエスカレートしながら、敵も味方もどんどん人が死んでいく。遂には敵側が、惑星一つを破壊する最終兵器を持ち出すけど、イデオンも惑星をぶった切るから、最後は相打ちで全員死ぬんだな。

ーでも、そんな事になる前に、お互いに話あって和平交渉とかしないんですか?

(相田)何回も和平交渉をするんだけど、その度に交渉は決裂する。お互いに話を全く聞かないんだよな、これがまた。

テレビ放映の時は、お互いによく話をすれば、それで和解できる話じゃないのかな、と俺も思ってた。それで就職してから、映画版でどんな風に終わったのかを知りたくて、テレビ放映全話と映画まで、レンタルビデオで見直したんだ。でも、ビデオで見直した後で、子供の頃よりも、更に憂鬱な気持ちが込み上げて来たよ。

イデオンを見直してわかったのは、登場人物達の死に方があまりに悲惨なんだ。ただやられるだけじゃなくて、生き残った人物達を凄く後悔させるような死に方が、ひたすら続くのよ、敵も味方もだけど。テレビアニメだから、残酷なシーンは直接は出てこない。けれど、普通の大人向けのアクションドラマでも見られないくらい悲惨な、見ていて「うっ」と来るような、後まで尾を引く死に方ばかりだ。

悲惨な死の描写が続くのには理由があって、「イデ」というのが、無限の力を持つ神のような意思体なんだよな。それで、地球人と異星人のイザコザを見ながら、こいつらは両方とも宇宙の調和を乱す悪しき生き物だ、とイデが考えた。それでお互いを、恨みつらみが後まで続くような悲惨な殺し合いをさせて、怨念をどんどん積み上げて、自分達で絶滅させようとしていたんだ。

主人公達は、そんなイデの目論見に後半気が付いて、争いを避けようとするんだけど、既に遅く、怨念のぶつかり合いの中で、結局は全員が死んでしまう、というのがオチだったのよ。

ーう〜ん、そんな身もふたもない悲惨な話だったんですね。子供向け作品としては、ちょっと有り得ない、救いようのない設定ですね。

(相田)今のテレビアニメだと、絶対に許されない内容だよ。放映が打ち切られたから、全員死ぬ場面がテレビに出てこなくて、丸く収まったんだろう、と、今では俺も思える。けれども、本放送を期待しながら見続けた小さな子供には、あんまりな内容だったよ。

イデオンていうのは、哲学的とか宗教的とか当時は言われた。けど、俺がビデオを見直して思ったのは、人間がお互いに、自分の言いたい事だけ主張して、相手の立場や考えを全く受け入れようとしないから、結局はみんなでドツボにはまっていく、という話だったんだよな。端的に言えば。

でもさ、50歳を過ぎた今になってしみじみ思うけど、イデオンで語られた人間のあり方は、残酷な迄に事実だった。大人の人間は、お互いに、他人の話は誰も聞かないし、関心も無いよ。ただただ自分の立場を、ひたすらに、相手に押し付けるだけだ。ニュースを見てもわかるだろう?安倍首相と山本太郎は、お互いを理解しようとしないし、電力会社と反原発派は相容れないし、百田尚樹と内田樹は意見が反対だし、日本政府と韓国政府はお互いの主張を譲らないだろう?絶対に。

その結果として、数え切れない悲劇が周りで生まれているんだけど、「そんな事は誰も知った事ではありません」なんだよな。そういった世の中の真実が、イデオンにはあからさまに描かれている。だから、見ると憂鬱になるんだと思う。

そんな問題作に、湖川氏が作画リーダーとしてコミットしていたなんて、今ではほとんど誰も覚えていなくて、最早どうでもいい事みたいだ。この夏も、所謂セカイ系のアニメ映画の話題作品が、大ヒットしてる一方でさ。セカイ系の元祖も、エヴァンゲリオンじゃなくて、どう考えてもイデオンだぜ。だって、ちょっとしたボタンのかけ違いで、最後は人類が滅亡しちゃうんだから。

宮崎駿の一連のアニメ作品は、何十回も繰り返して地上波放送されるけど、イデオンの映画は、ほとんど地上波では見ないよな。作画、音楽、ストーリー全部が見事な出来栄えの感動作なんだけどな。

ーでもあの映画は、最終回を含めたテレビシリーズ最後の数回を纏めた話だから、誰も話についていけませんよ。テレビダイジェストの「接触編」まで含めたら、3時間を超えちゃうし。地上波でイデオンを、CM入れて4時間見続けるのは、やっぱり苦痛ですよ。

(相田)そしたら「NHKでイデオンを放送させる会」とかで、俺が参院選に立候補すればいいのか?

話を湖川氏に戻すと、俺が一番怒りを感じるのは、今ではアニメを「クールジャパン」とかの風潮で、世界に発信しようとかしてるんだろう?それなら、湖川氏のような大功労者を、何故もっと大事に扱わないんだよ。

本人は隠居して、単に昔の名声だけで生きてます、てな訳でなくて、未だにイラストをどんどん描いて、そのクオリティも以前とそんなに落ちてなくて、売ってお金も稼ぎたいと考えてるんだろう?それなら周りの連中が、何で、湖川氏を「マトモな形」で、世に出す事を考えないのかね。ちょっとイラスト描いてネットに出すだけで、一千万円稼げる位の市場価値が、湖川氏には今でもある訳だろう?

別に松本キャラじゃなくても、湖川直筆なら買うファンは大勢いるよ。俺もイデオンの直筆イラストなら、5万円くらいで是非色紙を買いたいぜ。

今の政府は、クールジャパンとかぶち上げて、税金を何百億円も使うみたいだ。けれども、あの湖川氏が生活に困って、ネットで色紙を売る状況まで追い込まれるなら、そんなのは全くの無駄金というしか無い。自民党代議士達の取り巻き連中に、税金を合法的にバラまくための新たなスキームに、アニメが使われてるだけだ。今回の湖川氏の報道から改めてわかったよ。

アニメ業界には、クリエイター以外は、マトモに商売出来る人材が未だにいない。湖川氏も性格に色々問題があるみたいだけど、アートセンスが高い人物なら、周りのマトモな連中が性格の悪さをカバーして、上手く商売に結びつけてやるべきだろう?「クールジャパン」なんだから。何の為に税金を何百億円も投入するんだ?吉本興業の上役達を通して、悪どいメディア業界連中の懐に大金を回して、最後は賄賂で受け取ろうという魂胆が、ミエミエなんだよ。

ー相田さん、珍しく熱いですね。

(相田)当たり前だ。イデオンが打ち切られた時の怒りを思い出すと、未だに熱くなるんだよ。

ーそれは、怒る相手が違うでしょう?

相田英男 拝