あまりにレトロな日英最強バンド対決

相田英男 投稿日:2018/06/28 22:27

相田英男です。
掟破りの投稿ですが、何卒ご容赦下さい。

副島系掲示板は、自分が真剣に向き合った内容について書くべきと思ってます。
今回の内容は、かなり真剣に考えました。

ロックの固有名詞が頻出しますが、いちいち解説すると、文章量が3倍くらいに増えそうなので、わからない用語は、ウィキペディアでとりあえず御参照下さい。機会があればアルバムを聴かれて、こんな世界があるのか、と体験されるのも良いかと思います。ただし、万人受けする音楽ではない事だけ、ご承知下さい。

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題目:あまりにレトロな日英最強バンド対決
1. 伝説の邦楽ロックバンド、その名はジャックス

(相田)よう、今度もすまないねえ。

ー別にいいですけど、ここ掲示板が違いやしませんか?

(相田)いいんだよ。今回は技術じゃなくて音楽の話だから。毎日、仕事に行く途中で、i-Pod でロックをいつも聴いてるんだ。それで、最近あっと気付くことがあってさ。どうしても話したいんだけど・・・

ー相田さんはガラケー持ちだから、スマホじゃなくて未だにi-Podなんですね。そもそもここは、音楽掲示板ですらないんですけど。

(相田)前のグレッグ・レイクの投稿では、今回限りとか言ったけどやっぱりさ・・・

ーしょうがないですね。それで話したいロックのネタは何なんですか?

(相田)ジャックス、って知っているか?

ー ・・・・・・・

(相田)絶句してるけど、どうやら知ってそうだな。

ーまた、よりによって・・・。山下達郎でも、桑田佳祐でも、忌野清志郎でもなく、ジャックスですか?

(相田)あの早川義男が、ボーカルで歌ってたジャックスだよ。

ーでもジャックスの活動期間て、1967年から68年ですよ。相田さんの年代で、ジャックスなんか知る訳ないでしょう?

(相田)俺が産まれて物心つく頃には、もう解散してたバンドだからな。でも出したアルバムも、たったの2枚だけだから、すぐに聴き終わるし、話もしやすいんだよな。

ー・・・それで、なんで今頃ジャックスなんか持ち出すんです?

(相田)音楽評論家で、松村雄策(まつむらゆうさく)さんているだろう?ビートルズのファンで、渋谷陽一と雑誌(ロッキングオン)で長年対談してた人でさ。

ー僕等の対談もあれのパクリですからね。あちらは二人で、こっちは一人でやってますが。

(相田)その松村さんがエッセイで、ジャックスについて書いてたのを、大学時代に読んだんだ。そこで松村さんは「ジャックスは、オリジナリティーに溢れた、日本のロックバンドの草分けだ。特に早川義男の歌がすごい」と書いていた。それを読んでずっと気になったんだ。

それから数年後に、廃盤になってたアルバム「ジャックスの世界(1968年)」、「ジャックスの奇跡(1969年)」の2枚が、CDで再発されたんだ。で、早速俺はCDを買って聞いたんだよ。会社の独身寮で、音楽好きな同期入社の友達と二人でさ。

ーで、どうだったんです?

(相田)どうしたもこうしたも、最初の一曲目に流れてきたのが、あの「マリアンヌ」だろ。想像を超えた異様な歌と伴奏が、あまりに衝撃的でさ。寮の狭い部屋で、友達と二人で顔を見合わせながら、「ちょっと、これ、すごすぎるよな」と、呆れたことを思い出すよ。それ以来、二度と聴くことは無かった。早川の怨念の世界に引きずり込まれそうで、正直怖かった。

俺も買ったアルバムを、中身がしょうもないから聴かない事は何度かあった。けど、恐怖を感じて聴くのをやめたのは、ジャックスだけだったよ。

ー「ジャックスの世界」を最初に聞いて、衝撃を受ける人って、多いみたいですね。ハマる人と、二度と聞かない人と、パターンが別れるみたいですけど。

(相田)俺の場合は後者だな。「こんなの勘弁してよ」て、流石に思った。それで、そのまま20年以上経ったんだけど、この間ネットで「ジャックスの世界」のレビューを偶然見かけたんだ。「時代を超えた傑作だ」とか、そこには書かれていた。「やっぱりそうなのかな?」と、俺も思い直したんだ。

それで、しまっていた棚の奥から、CDを2枚引っ張り出して、聞いてみたんだよ。20何年ぶりに、清水の舞台から飛び降りる気持ちでさ。

ー今度も、やっぱりオカルトの世界でしたか?

(相田)それが、思っていたよりも、聴きやすい曲ばかりだったよ。早川の怨念に満ちた歌の迫力は、やっぱり凄まじい。だけど、楽器の演奏がとても上手いと思った。以前は、早川の声に圧倒されて、伴奏の良さに気付かなかったんだ。

50年前のアルバムだから、演奏技術は今のバンドの方が格段に上だよ。でもジャックスは、楽器の出す音が上品で、とても気が利いた演奏だと思った。特に、木田高介(きだたかすけ)のドラムは上手いよな。

それに楽器が、きちんとした旋律に従う演奏じゃなくて、アドリブ(即興)をかなり入れてるんだ。早川の歌は迫力は抜群だけど、旋律があるような無いような、ヘタウマ系の歌だろう?そのヘタウマの早川の歌を引き立てるのに、アドリブの伴奏がすごく機能していると感じた。演奏も歌も不安定だけど、全ての曲がバランスの取れた上品な音楽に仕上がっている。あの早川の歌の伴奏で、アドリブ演奏でここまで曲をまとめるのは、演奏者が相当に上手くないと出来ないと、俺は思う。

ーへえ、今度はベタぼめなんですね。

2. キング・クリムゾン ー 最強のアドリブ集団

(相田)それで気がついたのは、俺がよく知っている、有名な洋楽バンドの演奏に、ジャックスは似ているんだよな。

ー当時流行っていた、サイケデリック系のバンドの先駆けだって、よく言われるみたいですね。ベルベット・アンダーグラウンドやドアーズとかの。

(相田)俺はベルベットもルー・リードも聞いたこと無いんで、よくわからないんだ。情け無いけど。ドアーズも曲は聴いてない。バル・キルマーが主役してた映画(1991年)をテレビで観ただけだよ。映画はとても良かった。オリバー・ストーン監督だったよな。

ーメグ・ライアンのヌードが見れますからね。

(相田)そっちの話じゃ無いよ。それで、サイケデリックバンドとは、ちょっと違う有名なバンドに、ジャックスは近いと俺は思った。それはズバリ、英国がビートルズ、レッド・ツェッペリンと並び誇るバンドの、キング・クリムゾンだ。

ーえええ~~~?あの、プログレッシブ・ロックの頂点に君臨する、キング・クリムゾンですか?そもそも、グレッグ・レイクと早川の歌って、全然似てないでしょう?

(相田)そりゃあたりまえだ。グレッグ・レイクと早川じゃ、歌の上手さは月とスッポンだ。でも、クリムゾンのスタジオアルバム(全部で7枚、ここでは1970年代前半まで)の中で、グレッグ・レイクが歌っていたのは、最初の2枚だけだ。仕方ないから3枚目からは、リーダーのロバート・フリップ(ギタリスト)が、ベースを弾く奴に取り敢えず歌わせて、しのぐ。けどそのベースも、アルバム毎にコロコロ変わるから、歌唱力には最早こだわらなくなるんだよな。後半のクリムゾンは。当時の日本で知られていた、メジャーな洋楽バンドで、一番歌がヘタなのが後期のクリムゾンじゃないか?あ、ピンク・フロイドのロジャー・ウォーターズの、歌のヘタさもいい勝負かもしれない。

その代わりに3枚目からのクリムゾンは、純粋に楽器の演奏力で勝負する。それも普通に弾かないで、楽器間のアドリブ合戦の様相を呈するようになる。俺がジャックスと似ていると思うのは、こっちの方のクリムゾンだ。グレッグ・レイクが抜けた後の。

ークリムゾンといえば、何と言っても、ファーストアルバム(クリムゾン・キングの宮殿、1969年)が大傑作として、あまりに有名ですよね。華麗なストリングス (本当はメロトロンというテープ装置)を使った、クラッシックの様式美で完成されたイメージがあります。この間亡くなった西城秀樹が、ライブで歌っていたとかで話題になった「エピタフ」も入ってます。

(相田)俺が中学生の頃に、テレビで西城秀樹のツアー特集をやってて、「ヤングマン」なんかと一緒に、「コンフュージョン ウィル ビイ マイ エピタフ」て歌ってるのを、見た記憶がある。「こんなのやるんだ」と感心したのを覚えてるな。

まあ、クリムゾンを聴く人間が100人いたとすると、ファーストアルバムしか聞かないのが、およそ90人だよな。その次のセカンドアルバム「ポセイドンのめざめ(1970年)」まで聴くのが、あと8人、残りの3枚目以降のアルバムまで聴くのは、100人のうちの2人くらいじゃないか?後半の方が、本当のクリムゾンなんだけどさ。

かくいう俺も20代までは、クリムゾンはファーストアルバムしか、ちゃんと聴いた事なかった。クリムゾンのラストアルバムは「レッド(1974年)」だ。評論家の渋谷陽一が、昔ロッキング・オンで「レッド」を、「親の薬代を削ってでも買って聴くべき、傑作アルバムだ」と、書いてたんだ。高校生だった純朴な俺は、渋谷の話を真に受けて、「レッド」のLPレコードをわざわざ買って、家で聴いた。貧乏高校生で金も無いのにさ。そしたら、単調な演奏が延々と45分間続くだけの、全然盛り上がらない内容で、がっくし来た記憶がある。せっかく買ったから、我慢して何回かは聴いた。けども、お経を聴いてるような気分から、どうしても抜け出せなかった。そのまま実家にレコードを置きっ放しにしてたら、どっかに行っちゃった。

「ファーストアルバムは凄いけど、後期のクリムゾンって、クソしょーもないバンドだな」としか、当時の俺には思えなかった。歌もヘタだったし。それでも30歳を過ぎてから、CDで「レッド」を聞き直すと、「ああ、そうか」と、良さがわかって来たよ。後期のクリムゾンの良さは、わかりやすい旋律や強烈なリフレインじゃないんだ。楽器のアドリブの細かな音の掛け合いと、重なりの変化を地味に楽しむんだよな。俺も20代になって、ジェフ・ベック(ギタリスト)の「ブロウ・バイ・ブロウ(1975年)」とかの、歌のない、楽器だけのアルバムを聴くようになったから、わかったと思う。

やっぱり「親の薬代を削ってでも聴け」と言った、渋谷陽一は偉かったと、後から思ったよ。中学生にELPの「展覧会の絵」は聴けても、高校生が「レッド」を聴くのは、さすが無理があったな。

3. 木田高介 ー 神業のマルチタスク

ーそれでジャックスに話を戻しますが、そんなにクリムゾンと似てますか?

(相田)アマゾンの「ジャックスの世界」のレビューにも、「演奏がクリムゾンを思わせる」という指摘があったから、俺だけの思い込みじゃないと思う。まずは、どっちのバンドもドラムが上手い。マイケル・ジャイルズ、イアン・ウォーレス、ビル・ブラフォードと、太鼓の達人が続くクリムゾンは別格だけど、音のセンスの良さなら、木田高介も引けを取らないレベルだ。木田高介は、東京芸大の打楽器課を卒業してるんだよな。そりゃ上手い筈だわ。

ーでもドラムが上手いのは、プロだから当たり前ではないかと思いますが?

(相田)その木田高介だけど、ドラムだけじゃなくで、フルートやサックスとかの管楽器や、ビブラフォンなんかの鍵盤楽器も弾くんだ。2枚目の「ジャックスの奇跡」になると、木田はドラムを後から入った角田(つのだ)ひろに任せて、自分は管楽器と鍵盤楽器だけの専門になる。この木田の管楽器がまた上手い。この時の木田は、何とまだ10代だった。メンバー全員が未成年の、才気溢れる若者達だったんだな。

早川義男の歌は、旋律らしきものがほとんどない、情念だけの唱法だろう?ある意味、詩の朗読というか、よく言えばボブ・ディラン的な、単調な歌い方だよな。日本人なら中島みゆき系か?その単調な早川の歌に、木田の管楽器やビブラフォンが華やかさを加えるんだ。それも単純なリフレインの繰り返しじゃなくで、木田はアドリブで音をコロコロ変える。そのアドリブが、すごくセンスがいい。バンドの音に木田のアドリブが、深みを与えてるんだ。

一歩間違えると、中島みゆきのダサイ世界に落ちそうな早川の歌が、オシャレで洗練されて聴こえるのは、木田のアドリブ演奏とアレンジの見事さだと思う。

それでクリムゾンの方も、専門の管楽器奏者が、いつもメンバーにいたじゃないか?

ーああ、そうですね。イアン・マクドナルドとメル・コリンズが、サックスとかフルートとかやってましたね。バイオリンしか弾かないデビッド・クロスもいましたよね。

(相田)バイオリンしか弾かないレギュラーメンバーがいるロックバンドなんて、前代未聞だよな。彼等の、ロックでは普通使わない、特殊楽器を演奏するプレーヤーを入れるのが、クリムゾンのスタイルだ。特殊楽器のアドリブを入れて、演奏の深みを増すんだよ。クリムゾンは最初からそうだった。そうすると、ジャックスでの木田高介の役割は、イアン・マクドナルドやメル・コリンズと同じなんだと、俺は思う訳よ。

早川義男の強烈な歌に最初はビビらされるけど、よくよく聴くと、ジャックスのスタイルは、キング・クリムゾンの演奏と同じなんだ。しかも、クリムゾンのデビューは、ジャックスが解散した1969年だからな。クリムゾンの前に、同じスタイルのバンドが日本にいたんだ、と思うと感慨深くてな。別にクリムゾンが、ジャックスの真似した訳じゃないだろうけどさ。

ー確かに、「堕天使ロック」の後半にある木田のサックスを聴くと、「アイランズ」(クリムゾンの4枚目のアルバム、1971年)でメル・コリンズが吹くサックスに、似ている気がします。

4. 変な邦題はさっさと直せ

(相田)そうすると「マリアンヌ」の異様な演奏も、クリムゾンのファーストアルバムの、「21世紀の精神異常者」みたいなもんかな、とか、今になって思えるんだよな。

ーもう今は「21世紀の精神異常者」って、書いたらダメなんですよ。「21世紀のスキッツォイド・マン」て言うんだそうです。怒られちゃいますよ、相田さん。

(相田)一体なんで、そんなツマラン事を気にして、あの名曲の邦題を変えるんだ?何が「スキッツォイド・マン」だよ。精神異常者を精神異常者だと、はっきり書いてどこが問題なんだ?

そんなの考える前に、アルバムの邦題の方を何とかしろよ。何が「ポセイドンのめざめ」だよ。wake を「目が覚めた」とか訳しやがって。本当の意味は「航跡」だから、「ポセイドンの航跡」が正解なんだろう?

5枚目の「太陽と戦慄(1973年)」も、さっさと変えるべきだ。英題直訳の「ひばりの舌」の語感が悪いなら、そのままカタカナの「ラークス タングス」で、いいじゃないか。ジャケットの絵が太陽だからとはいえ、いくらなんでも「太陽と戦慄」という、英題と全く違う名前はやめろ。クリムゾンのリーダーのロバート・フリップが来日した時に、渋谷陽一のライバルだった評論家の今野雄二(こんのゆうじ)が、邦題の意味をフリップに告げ口した。そしたらフリップが、呆れて絶句したらしいじゃないか。全く恥ずかしいぜ。

ーその次のアルバムの「暗黒の世界(1974年)」も、凄い邦題ですよね。英題は「スターレス アンド バイブル ブラック」ですけどね。

(相田)「暗黒の世界」て、またおどろおどろしい語感だよな。まるで、早川義男が10人集まって、アカペラで歌うような内容を想像するな。でも意外に、キャッチーで聴きやすい曲が多いんだよな。曲の構成もクリムゾンにしてはゆるいし。後期のクリムゾンでは俺は、この「暗黒の世界」が一番好きだな。「太陽と戦慄」と「レッド」の方が完成度は高いけど、この2枚は何回も聴くと疲れるからな。

こっちもせめて英題を直訳した、「星無き聖書の闇」とか、気の利いた邦題に、早く変えて欲しいぜ。「暗黒の世界」はあんまりだ。悲しいけど、クリムゾンのアルバムの邦題は、ほとんどが外れだ。

ー僕は、ピンク・フロイドのリーダーだった、ロジャー・ウォーターズのソロアルバムの「死滅遊戯(1992年)」の邦題を変えて欲しいです。英題ままの「アミューズド トゥ デス」でいいじゃないですか。せっかくジェフ・ベックがギターを弾く、カッコいい曲も入ってるのに、あの邦題だと・・・

(相田)ロジャー・ウォーターズが、黄色のボディスーツを着て、ヌンチャクを振り回す姿が目に浮かぶよな。「ロジャーの長いアゴに、ヌンチャクが当たると痛いだろうな」とか想像すると、曲に入り込めないよ。「曲の途中で、ボーカルが「アチョー」とか叫んだら、どうしよう」とか、気になって仕方ないぜ。俺たちはあの映画を、水野晴郎の水曜ロードショーで繰り返し見てるから、黄色のスーツが一生目に焼き付いてるもんな。映画を知らない若い世代の人達は、関係ないだろうけど。

5. 最強の邦楽ロックバンドはこう作れ

ーで、話が長くなりましたが、結局何言いたいんですか、相田さん?

(相田)要するに、今回ジャックスを聴いて改めて感じたのは、日本語でロックを歌う可能性だよ。

ジョン・レノンが撃たれる少し前から、洋楽ロックにハマった俺には、日本人がまともなロックをやれるなんて、不可能としか思えなかった。だって、郷ひろみや西城秀樹とか、ジャニーズならあの頃はフォーリーブスか、彼等アイドルがテレビで歌う海の向こうで、レッド・ツェッペリンやら、ディープ・パープルやら、ELPが演奏してるんだぜ。こっちでかかる曲は天地真理(あまちまり)で、向こうはピンク・フロイドの「原子心母(1970年)」とかさ。あの頃の、70年代の英米と日本のロック、ポップスのレベルの、彼岸の差は、どうしようもないと思えた。

今、邦楽ポップスをやってる若い音楽家達は、洋楽より自分達の曲が劣っているとか、あまり思わないだろう。邦楽のレベルが上がったんじゃなくて、洋楽のレベルが前より下がったんだけど。

それでも、邦楽の歌手達が歌う詞は、今でも俺には意味がさっぱりわからない。日本語の歌詞なんだから、ちゃんと意味があるんだろうと思う。でも、個々の単語は聞き取れても、全体の詞の内容が全く頭に入らない。

俺が単に、流行りの歌について行けないだけかもしれない。けど、昔の忌野清志郎の歌詞は非常によくわかるよな。「雨上がりの夜空に」とか「ボスしけてるぜ」とかさ。あまりに歌詞がわかりやすかったせいで、原発反対ソングが社会問題にまでなっちゃったけど。

その清志郎が、以前にタイマーズで「今の連中は、英語だかなんだか、さっぱり意味がわからない曲ばっかり歌いやがる」と訴えたことがある。今でも状況は全く変わらない。誰も変えようとしないんだよな。

ーあれは、自分じゃなくでゼリーという別人だと、清志郎が言ってましたよ。

(相田)清志郎によく似たやつが、タイマーズで歌ってるんだよな。

それはともかく、日本人がロックを歌うなら、日本語のわかりやすい言葉でメッセージを発するべきだと、俺はずっと思う訳よ。歌詞の内容に意味が無いなら、所詮は洋楽の劣化コピーにしか過ぎないじゃん。

しかし、俺も今になって気付いたのが情けないけど、日本語でロックを歌うバンドの、理想の一つと思える形が、実は50年前に既に存在してたんだ。早川義男という、清志郎を上回る情念とメッセージを発する歌い手と、一人でキング・クリムゾンをやってしまう木田高介の音楽センスが併さった、ジャックスというバンドが。

清志郎の唱法は、黒人歌手の歌い方を日本語に置き換えたもので、リズミカルで軽快だ。対して早川の歌は、東アジア土着系の、どす黒い、重い情念に満ちている。演歌系と言ってもいい。どちらかというと早川の方が、日本人には訴える力が強いと思う。その早川の強烈な情念を、高度なセンスの演奏で美しい曲にまとめるのが、ジャックスだ。彼等が伝説のバンドといわれる理由も、わかるよ。

清志郎以降の歌い手で、歌に力があると俺が思えるのは、ブルーハーツの甲本ヒロトくらいだよな。ただ、ブルーハーツは演奏があまりに単調すぎる。「トレイン・トレイン」が入ったアルバムは、最初の何回かは楽しく聴けるけど、回数を重ねると飽きるのが早いんだよな。甲本のバックの演奏が、ジャックスくらい気が利いていたら、曲の深みが全然違うだろうけどな。

だから話は簡単で、まずは、強烈な日本語のメッセージを歌えるボーカルを見つけることだ。清志郎みたいに作曲は別に出来なくてもいい。早川は作詞さえも、他の女性にやってもらってたらしいから。次に、音大出てるけど、イマイチ芽が出ずにくすぶってる、腕の立つ演奏者達を集めて、バックに付ける。そして、歌に併せてアドリブで演奏をやらせれば、凄いバンドになるんだ。このわかりやすい(!!!)方法論を提示したのが、ジャックスの偉大な功績だよ。

今だったら、例えば椎名林檎の歌い方を過激にさせて、バックにジャズミュージシャンのアドリブを入れたら、面白くなりそうな気がするな。彼女は、ジャックスを相当聴いてるだろうし。当然だけど。

ー・・・・なんか最後の方は、話がだんだんテキトーなりましたね。でも、音楽性は高度かもしれないけど、そんなバンド、果たして売れますかね?相田さんみたいな偏屈なリスナーしか、レコード買いませんよ。今は配信だっけか?

(相田)確かにそれは大問題だ・・・・・。どんなに屁理屈をこねた処で、ポップスは売れなきゃおしまいだからな。ジャックスがアルバム2枚で解散したのも、全く売れなかったからだもんな。レコードの枚数自体が少ないから、凄いプレミアがついたんだよな、ジャックスは。

ーあと、あんまり尖った奴ばかりバンドに集めても、仲悪くなるんじゃないですか?人間関係最悪で、すぐに解散しそうですけど。

(相田)だからクリムゾンは、アルバム一枚作る度に、フリップ以外のメンバーを総取っ替えしてたんだろう?「レッド」になると、フリップも流石に疲れてきて、一回クリムゾンを解散しちゃうけど。まあいいじゃん。いまのバンドみたいに、女性タレントと不倫して話題になるより、真面目に音楽やって歴史に名が残れば。花の命は短くとも、さ。

ー・・・・最後にまだ何か言うことあります?

(相田)ロックを聴く奴はリベラル系の左翼と相場が決まってるけど、「右の方にも真面目に音楽を聴くのが居るぜ」、てのを言いたかったのかな、俺は結局は。

ーそれなら前に、黛敏朗(まゆずみとしろう)さんという、偉大な右翼の音楽家がいらっしゃったじゃないですか。

(相田)いいや、あいつと一緒に扱われるのは、やっぱり俺は嫌だな。

ー向こうも墓の下で、同じように思ってますよ。

相田英男 拝