ハインラインについて

ヒガシ(2907) 投稿日:2013/03/01 23:19

SF作家のハインラインは重要だと思います。
副島先生もぼやき1116で以下のように述べていたことを最近改めて気が付きました。

(引用開始)

それで、あと一つ大事なのは、このロバート・ハインラインという小説家がいるんです。ものすごく重要なんです。ハインラインは、「スターシップ・トゥルーパーズ」という映画があるんです。ものすごくいい映画だと思う。

 出てくるのは白人ばかりで、米軍みたいなやつがどこかの星で巨大になった昆虫類と戦う映画なんだけどね。勇敢な軍人たちというのが出てきてね。このロバート・ハインラインというのはリバタリアンなのかなんだかわからない、おもしろい作家でね。

 あの中に出てくる軍人たちの様子が、今の海兵隊が凶暴化して実行に移す人間たちと非常にダブるんです。だからロー・アルチチュード・コンフリクト(low-altitude conflict)というのかな。だから低い緊張関係の争いということをやろうとしていくわけです。

(引用終了)

最近までハインラインはどんな人かよく知らなかったのですが、学生のとき読みたかった彼の小説「夏への扉」を(40歳後半の)昨年に今更ながら読んでみました。
SF小説としてなかなか面白かったのですが、それよりその内容が、ジョブズとゲイツの争いを思わせ、そのドラマを先取りしたような内容だったことが驚きでした。

主人公は、軍の特許のない機密技術や、その他の技術を組み合わせて、文化女中器(ハイヤード・ガール)という、自動掃除機のようなヒット商品を発明し、儲けたのですが、信用していたパートナーに裏切られて、その特許を含め乗っ取られ、会社を追い出されます。失意のあと、タイムマシンなどを利用して仕返しし、発明品を取り戻し、よりよい商品を世に出します。

文化女中器は、さまざまな借物の技術を組み合わせたもので自慢のできる発明ではなかったとされており、まさにiPhoneやipadが、独自の技術というより、日本製部品などの組み合わせで作り上げた産物であるのと同じです。ジョブズは、ビル・ゲイツにOSのアイデアを盗まれたり、自分の会社から追い出された後、カムバックしたりしています。

現代の主要な先進技術商品である半導体、パソコン、インターネット、GPS、スマホなどは、基本的には軍が開発した技術をもとにしています。もともと軍関連の研究機関がカルフォルニアのシリコンバレーにあって、そこに集まった民間のベンチャー企業などから、ハイテク商品が世界に拡がるという構図が、この小説から読み取れる気がしました。

似たような考えを持った人はいるようで、ネットをみると、岡田斗司夫氏が、「ドラッカーよりもハインラインを読め」といった有料動画を配信しているようです。
ジョブズなどの企業家たちは、ハインラインを読んで育ったので、彼の小説を読むとアメリカの今後のビジネス動向がわかるということを述べているようです。

余談ですが、岡田氏やウィキペディアによると、ハインラインの「宇宙の戦士(スターシップ・トゥルーパーズ)」や「月は無慈悲な夜の女王」という作品は、日本の人気アニメ機動戦士ガンダムにも影響を与えています。

「月は無慈悲な夜の女王」というハインラインの作品は、アメリカの人気SFのランキングでも上位でリバタリアンSFとしても評価が高いようです。

それで、この「月は無慈悲な夜の女王」も最近読んでみました。
2070年代頃の未来を描いているのですが、デ・ラ・パス教授という革命家の老紳士がいて、(もしかしてチェ・ゲ・バラを参考にしたのか?)、合理的無政府主義を主張します。地球政府の隷属から月世界の住民を(7月4日に)独立させようとするのです。

教授と組んで革命運動に加わる主人公マニーは、ゴンピュータ技師(今でいうハッカーか)で、政府の(スーパー)コンピュータをマイクという人格を持つに至るコンピュータに育てます。
月世界の住民たちは、多夫多妻制のような地球とは異なる独自の家族制度をもっていたり、
裁判は、専門の裁判官ではなく、当事者の住民同士が選んだ素人の住民を裁判官に選んで行ったりします。
コンピュータの力を得て、マスコミ情報を操作して世論を形成したり、地球政府を惑わしながら、主人公たちは計画的に仕掛けた革命を実行していくという、興味深い未来社会を描いています。
地球では、中国やインドがアメリカに対抗できる政治力をもっています。

ウィキペディアによると、ハインラインは、海軍出身で、同じ海軍出身のアイザック・アシモフと出会っています。
アーサー・C・クラークと3人でSF界のビッグスリーと言われているそうです。

もちろんSF作家として有能な人なのでしょうが、おそらく軍産複合体のプロパガンダ要員(軍の計画を大衆化し地ならしして、行いやすくする役割をもった人)であったのではないかと想像しています。軍、CIA、NASAの情報に詳しかったのでしょう。
(最近ではアフリカ各国などで起こるような)革命も、軍やCIAが仕掛けるのでしょうから、革命のしくみにも詳しい人だったのでしょう。
それにしても現代の「革命」は、支配層に対抗する運動というより、皮肉にもアメリカが他国支配のために利用する手段のように思えます。

クラークもキューブリックと組んで「2001年宇宙の旅」という作品を生んでいるので、怪しい人です。キューブリックが月面着陸映像を捏造したといわれていますからね。

「月は無慈悲な夜の女王」のあとがきなどによると、
彼の作品の「宇宙の戦士」は右翼的、「異性の客」はヒッピーのバイブルとも言われリベラル、「月は無慈悲な夜の女王」はリバタリアンSFの代表のように評価されているようです。

彼自身がどのような思想の持ち主かは、私がみた資料からはよくわかりません。彼の伝記が訳されることを待望します(英語が読めないので)。
(このリバータリアニズム掲示板[6]ロバート・A・ハインラインの伝記について参照)

私は行けませんが、3月3日に、藤森かよこ先生が講演されますね。
アイン・ランドもこれから読んでみたいと思っています。

私はミルの「自由論、ミル自伝」(岩波文庫)、ロックの「政府二論」の一方、ベンサムの「道徳と立法の諸原理序説」(中央公論社の世界の名著で完全訳ではない)は読んだことがあります。

個人的には、功利主義という法律的にも道徳的にも徹底した理論を生み、近代経済学にも影響を与えたベンサムの思想が好きです。

「道徳と立法の諸原理序説」に素朴な快楽の計算方法も書かれていていますが、これらの理論は、現代の(特にアメリカの)法律学、経済学、社会学、心理学などにも大きな影響を与えていると思います。

現代の英米哲学は、イギリスの功利主義の伝統をもとに、分析哲学、論理哲学、プラグマティズムなどを発展させ、それがコンピュータの原理の発展にもつながっているようです。
思想が空論に終わらず、科学技術、法律・政治経済政策の実践に結びついているのは、英米哲学のすごいところです。

英米哲学が生活に結びついているアメリカ社会とリバータリアニズム(ベンサマイト)の相性もよいのだろうと思います。

ちなみに、リバータリアニズムのベンサマイトについて、副島先生の著作には説明があるのですが、それ以外に他の本などで説明を見かけたことがありません。残念です(英語ではあるのかもしれませんが)。