決死の戦場に等しい東電福島原発事故現場:権限委譲するしかない

黒瀬 投稿日:2011/05/31 03:49

ブログ「新ベンチャー革命」より。

筆者は技術経営コンサルタントの山本尚利(やまもと・なおとし)氏。
1970年 東京大学工学部船舶工学科卒業。石川島播磨重工業(株)にて造船設計,新造船開発,プラント設計,新技術開発などを担当する。1980年 SRIインターナショナル(スタンフォード研究所)東アジア本部に入り,以降コンサルタントとして企業戦略,事業戦略,技術戦略などのコンサルティングを行なう。2000年 SRIから独立し(有)ISP企画代表取締役となる。

詳細なプロフィール
http://www.techno-con.co.jp/author/yamamoton.html

(転載開始)
新ベンチャー革命2011年5月30日 No.376
http://blogs.yahoo.co.jp/hisa_yamamot/24786964.html

タイトル:決死の戦場に等しい東電福島原発事故現場:権限委譲するしかない

1.東電福島事故現場の関係者は決死で現場に踏みとどまった

 本ブログNo.175(注1)で、東電福島原発事故対応に関して、事故機のある第一原発所長の吉田昌郎氏について取り上げました。本ブログでは、東電本店の対応も日本政府の対応も評価していませんが、唯一、事故現場関係者を評価しています(注2)。

 この現場を仕切っているのは誰だろうというのは、事故直後から、気になっていました。

 事故現場は、命懸けで人事を尽くしていると思います、だから、致命的破局事故(原子炉自体の大爆発)が起きていないと言えるでしょう。

 3.11大地震・大津波で供給電源を失い、非常用電源も失い、地震直後の現場はまさに万事休すだったはずです、にもかかわらず、東電現場関係者は命を賭けて、現場に踏みとどまっていました。

 これを可能にしたのは、ひとえに吉田所長の人望とリーダーシップにあったことは明白です。こういうとき、現場管理者が逃げ出したら、現場の統制は取れず、メチャクチャになって、クモの子を散らすように全員逃避していたはずです。

2.船長は最後まで、船に残るのが船乗りの掟

 筆者はもともと造船屋ですから、船乗りの掟を知っています。船も非常に危険な乗り物ですから、常に緊急事態が発生します。そのため、船内の乗員社会は、一般社会と異なり、徹底した階級社会となっています。さもないと緊急時に統制がとれなくなりますから。そして、船長には全権が与えられています。その代り、全責任も負っていますから、万一、船が遭難したとき、船長は乗員全員が避難するのを見届けた後、最後の一人となるまで、船に踏みとどまります。船乗りの世界では、船長が部下を見棄てて先に逃げたらそれは一生の恥です。

 気骨ある船長は、どうせ限られた人生、恥を背負って生きるくらいなら、死んだ方がましという人生哲学をもっています。

 昔、出光興産(亡き父の勤務先)所属の内航向けの小型石油タンカーが瀬戸内海にて他船と衝突炎上して遭難した際、その船長は乗員全員を救命ボートに乗せて、自分は燃え盛る自船に居残り殉職しました。当時の出光佐三社長は、この行為に大変感激し、その家族に殉職船長が生きていた場合と同じ水準の給与を定年まで払い続け、さらに、その子息を無条件に出光に雇用しました。

3.船乗り精神は軍人にも通じる

 さて、本ブログのテーマは米国戦争屋およびそのロボット・悪徳ペンタゴン日本人です。

なお、上記、米国戦争屋およびそのロボット・悪徳ペンタゴン日本人の定義は、本ブログのNo.225の注記をご覧ください。

 筆者の元勤務先である米国シンクタンク・SRIインターナショナルは、研究開発プロジェクト予算の大半を国防総省(米戦争屋の配下)からもらっており、ペンタゴンの近くにワシントン事務所を持っていました。その関係で、筆者は頻繁にワシントンDCを訪問、米国の軍人精神とは何かに触れる機会がありました。

 上記、米戦争屋は戦争をビジネスとする米国覇権主義者集団ですから、軍人精神の徹底化をことさら重視しています。とりわけ、戦争時の戦闘最前線の軍人には、命を賭けて最前線の戦線を防衛してもらう必要がありますから、ペンタゴン制服組には軍人精神教育を徹底的に行うわけです。

 したがって、彼ら戦争屋や軍人がミッションという場合、それは、命を賭けて遂行する軍事任務を意味しています。

4.吉田所長はミッション遂行型人間だったようだ

 3.11事故以降の東電事故現場の動きを観察してきた限りでは、吉田所長は、上記、ミッション遂行型人間ではないかと推察されます。

 なにしろ事故機が4基もありますから、一難去ってまた一難と次々と重大危機が襲ってきました。現場は汚染水の流出で高濃度放射能に満ち満ちており、油断すれば命の危険があります。にもかかわらず、黙々と冷静に対処してきたのは確かです。右往左往と大騒ぎしていたのは、東電本店と原子力安全・保安院とマスコミです。“船頭多くして船山に登る”を絵に描いたような光景が毎日、テレビ中継を通じて、全国の茶の間に伝えられました。

 一方、事故現場では、吉田所長の采配で、コツコツと炉心燃料の冷却作業を続けてきました。この吉田所長タイプは、だまってオレについてこいというような独断専行型となりがちですが、非常時や緊急時に本領を発揮しますので、まさに適材適所だったわけです。

 原発事故発生時、東電には稀な吉田氏のような人物が所長をやっていたのは、日本国民にとって、不幸中の幸いでした。

 マスコミ情報によれば、吉田所長は、平気で上司に楯突いたり、上司を批判したりして、困り者の一面をもっていたそうですが、だいたい想像がつきます。

 大阪府出身とのことで、大阪人的メンタリティの人間が東電に入ると違和感があるはずです。

 そういう筆者も、IHI時代、東電向けプロジェクトをいくつも手がけ、東電袖ヶ浦火力や東扇島火力の建設現場に入りびたりでしたから、だいたいわかります。

5.戦場のような厳しい現場の実権者はかならずしも、地位で決まらない

 東電の発電所現場に限らず、官庁や日本企業の現場で実権を握るのは、そこで実質的に必要とされる人間であって、かならずしも、地位や年功序列では決まりません。吉田所長の場合、単に地位の高い人ではなく、もともと実権者であり、たまたま幸運にも、所長だったということでしょう。大袈裟に言えば、これで、日本は救われた面もあります、下手すれば、原子炉大爆発寸前だったわけですから。

 さて、私事ですが、筆者もIHI時代に東電発電所建設現場(一種の戦場)とやりとりしていたとき、IHI内にて上司に楯突いたり、批判したりしていました。

 あるとき、IHIプラント事業本部の幹部から、キミは東大卒のエリートだが、組織の統制を乱す反逆児であり、上司を面前罵倒するような人物を課長するわけにはいかないと告げられたことがあります。しかしながら、現場でトラブルがあると、東電建設現場からは真っ先に筆者(まだ課長ではなかった)にお呼びがかかってきました。

6.現場に求められるのは臨機応変の問題解決力

 東電事故現場は、毎日が戦場であり、修羅場であることは容易に想像がつきます。しかも事故機が4基もあり、かろうじて助かった5号機、6号機も決して安泰ではありません。原発プラントの最大の難点、それは、放射能が邪魔して、思うように事故現場に近づけないので、修理もできない点です。この点は、他の発電プラントとは根本的に異なります。

 さらに、東電福島事故現場は、世界中の原発では起きたことのない未知の領域に入り込んでいますから、一瞬先は闇なのです。

 次々と起こるトラブルに、できる範囲で、速やかに対処しなければなりません。吉田所長はマーフィ―の法則(注3)通り、事故機の安全不備にとっくの昔に気付いていたはずで、これまで、本店に老朽機安全強化の改造を申請してきた可能性があります。おそらく、原発技術に疎い東電経営者は受け付けなかったのでしょう、だから、同氏からみれば、案の定、こんなことなったと、本心では、原発無知の東電経営者に対し、はらわたが煮えくりかえる思いでしょう。にもかかわらず、同氏は、居直らずに踏ん張っているわけです、それは、彼が逃げ腰の本店幹部に向かってテレビ会議で『もう、やってられねー!』と暴言を吐いたというエピソードから十分にうかがわれます。官僚的な東電エリートはざっくばらんな大阪人メンタリティの吉田所長を到底、受け付けないはずです、これはこれで、わからないでもありませんが・・・。

 いずれにしても、このような緊急局面において、単に、学歴エリートだけが売りの人は、まったくリスク対処できないのみならず、逆に現場の足を引っ張るのが関の山です。

 今回の事故は、東電経営者が原発というものの正体を正しく認識できていれば簡単に防げた事故ですが、残念ながら起きてしまったことなので、今は、現場に権限委譲するしか選択肢はありません。ここで、権限委譲とは、問題解決を現場に任せるが、最終責任は経営者が取るという意味です、誤解なきように。

 東電本店も原子力安全・保安院も、何か不都合があったら、現場のせいにして自己保身に走らないようにお願いします。

注1:本ブログNo.344『東電福島原発事故現場:やはり吉田昌郎所長個人の剛腕で仕切られていた』2011年5月28日
http://blogs.yahoo.co.jp/hisa_yamamot/24746772.html

注2:本ブログNo.344『命がけで踏ん張る東電福島事故現場:世界にとって驚異であり、脅威でもある』2011年4月18日
http://blogs.yahoo.co.jp/hisa_yamamot/24017890.html

注3:マーフィーの法則、ウィキペディア参照

ベンチャー革命投稿の過去ログ
http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Oakland/1386/melma.htm

テックベンチャー投稿の過去ログ
http://www.elmstadt.com/news/techventure.html
http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-PaloAlto/8285/column-top.html

(転載終了)