村上篤直×橋爪大三郎=対談 〈人間・小室直樹〉を探す旅へ

1094 投稿日:2018/11/07 13:51

読書人紙面掲載 特集
更新日:2018年10月26日 / 新聞掲載日:2018年10月26日(第3262号
村上篤直×橋爪大三郎=対談
〈人間・小室直樹〉を探す旅へ
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昭和と平成を駆け抜けた稀代の社会学者・小室直樹。多くの著作を残し、社会学者の橋爪大三郎をはじめ、宮台真司、大澤真幸、副島隆彦ら今、日本の社会学研究の最前線で活躍する多くの弟子たちを輩出した彼の生涯を村上篤直氏が上・下巻一五〇〇頁超にわたり綴った『評伝 小室直樹』がミネルヴァ書房から刊行された。

過激な発言ばかりが注目される小室直樹の実像、学問の真髄とは? 小室と面識がないにも関わらず綿密な取材を重ね、これほどの大著を書き上げた村上とは何者か。本書刊行を機に伝説の「小室ゼミ」で塾頭を務めた橋爪氏と村上氏に対談をお願いした。
(編集部)

目 次
第1回
奇跡のような評伝
2018年10月26日
第2回
小室直樹の著書に命を救われる
2018年10月27日
第3回
真面目な近代人としての共通点
2018年10月28日
第4回
小室直樹本人さえも知らない小室直樹像
2018年10月29日
第5回
会津藩士の血脈
2018年10月30日
第6回
「学問をしている人」
2018年10月31日
第7回
「社会科学の復興」を合言葉に
2018年11月1日

第1回
奇跡のような評伝
橋爪 大三郎氏
橋爪 
 本書は上・下二巻で各巻七〇〇頁を超える大変なボリュームです。これだけ膨大な原稿になりそうになったら、ふつう、編集者が黙っていないでしょう。「四六判で四〇〇頁以内にしてください」と注文が入るはずだ。それが今回、著者の情熱そのままの分量で出版になった。ミネルヴァ書房は偉い、とまず言いたい。小室直樹博士をテーマにするなら、中途半端でなく、きちんとした形で出しましょうと、出版社が覚悟を決めた。その思い切りが功を奏して、素晴らしい本になったと思います。
村上 
 ありがとうございます。出版社のお力添えのおかげで素晴らしい本に仕上げていただきました。それに、この本は自分ひとりの力だけでは到底書き上げることは出来なかったわけで。担当編集の水野安奈さんの叱咤激励をはじめ、多くの方に支えていただき完成に至りました。ただ、当初の予定では「二五〇から三〇〇頁くらいの内容で」と言われていたのは事実です(笑)。
橋爪 
 これだけ分厚い二冊本ですが、各冊が一五章ずつにまとめられているでしょう。これが読むのに、絶妙なバランスなんですよ。それに、小室先生の生涯を時系列に追ってはいるのだが、単なる一本道ではなくて、小室先生が少年時代を過ごした会津でのエピソードとか、京大に進学して以降の学業に勤しむ姿、破天荒な私生活、編集者との交流、などなどのテーマがうまく切り替わっていく。そもそも誰の人生だって、時系列ではうまく語りきれないいくつかのテーマがあるわけで、そこをバランスよく、巧みな筆致でうまくかき分けている。

そして各章の長さ。長すぎる章もなく短すぎる章もなく、うまく釣り合いがとれている。丹念な取材が掘り起こしたエビデンスも盛り沢山で、資料価値も極めて高い。まさに奇跡のような本だと言えますよ。
村上 
 本書を読んでいただく方には小説を読むような読み物を楽しむ感覚で読んでもらいたいと思いながら筆を進めました。小室先生ご自身がまさに物語の主人公のような人物ですから。少年時代から片鱗をみせる破天荒さも面白いし、御本人は茶化して自分のことを語っていらっしゃいましたが、その反面とても生真面目な顔をもっていらっしゃる。そんなギャップもまた面白い方なんですよね。

小室先生の人生を多くの方に知っていただきたいので読みやすい構成という点は心がけました。章の長さ然り、文体然り。それに改行も多くしたんですよ。決して小室スタイルを踏襲したというわけではないのですが、読みやすさを意識したら自然とこのような内容、形式になりました。
橋爪 
 村上さんのご本は、小室博士の経歴をトレースするだけではなくて、博士がのこした著作のそれぞれに記されたメッセージをしっかり正確につかまえている。これは本当に容易ならざることです。『評伝 小室直樹』を書くのに、ここまで深く小室博士の内面に分け入り、しかも細かなディーテイルをおろそかにせず、隅々まで相当のエネルギーをつぎ込んでいるのが伝わってくる。小室先生もさぞお喜びになっていることでしょう。

これだけの内容の書物は、言うまでもないことですが、書きたいと思っても一朝一夕で書けるものではありません。だからこそ、この仕事をなし遂げられた作者の村上さんも、極めて稀有な存在だと言えます。本書を手にした読者の皆さんは、小室博士その人に驚くと同時に、博士と一面識もない村上さんがなぜ、これほどの情熱を傾けてこれだけの大長編を書くことになったのだろう、と不思議に思うことでしょう。
第2回 小室直樹の著書に命を救われる >