【参院選】特別会計改革への6つの注文 松浦武志
「Infoseekニュース」の「内憂外患」から貼り付けます。
(転載貼り付け開始)
2010年07月09日 09時00分
【参院選】特別会計改革への6つの注文 松浦武志
「事業仕分け第3弾」で特別会計(特会)を51の勘定ごとに仕分けする、と報じられています。
私は6年前の拙著『特別会計への道案内』初版で勘定ごとの改革私案を示して以来、特別会計は勘定ごとに検討すべきと訴えてきました。また、今年4月には、東京市政調査会の『都市問題』誌上で、仕分け流に手直しした案(「我流仕分け」)も公表しています。
ですから、政府・民主党が取り組むことは大歓迎ですし、「仕分け第3弾」が、私案を超える内容となるよう願っています。
そこで、以下のツボを外さないで欲しいと注文を付けたいと思います。
1.「事業仕分け」はゴールではない、結果のフォローが大切 事業仕分けで「廃止」など厳しい宣告が出たのを見て、スッキリした人は多いでしょう。これは刑事ドラマでの犯人逮捕の爽快感に似ています。でも肝心なのは、犯人が、きちんとその罪状に見合った判決を受け、刑の執行によって罪を償うかどうかです。
事業仕分けでいえば、法人や事業を廃止する制度改革などのフォローがあって、予算が削減され、あるいは余剰資金の回収がなされてやっと完結するのです。
「仕分け第3弾」で特別会計や勘定が廃止されても実質が変わらなければ「骨抜き」です。また仕分け後も実際の処分が進まないなら、それは「やったふり」です。
ぜひ、仕分け結果をフォローし、その後の顛末まで公表して下さい。
2.物分り良くならないこと 官僚は担当分野のプロ集団です。政治家がその土俵に上ったら、大勢のプロ相手に勝てる訳ありません。長年続いた制度の綻びを正さなければならないときに、プロの官僚の言うことを物分りよく受け入れて、従来制度を前提とする土俵に乗ったら負けなのです。
消費税増税論は、これまでの制度が継続されるという(暗黙の)前提の上に成り立っています。時代に即した制度に変えることで別の解が出てくる可能性が封じられたら、国民負担増という選択肢しかなくなるのは当然です。
民主党は衆院選前に多くの課題について抜本改革のプランを示していたのですから、頑固にプランにこだわり、どうやって実現にこぎつけるかに全力を尽くすべきです。 名古屋の河村市長が市民税率を下げ、平均7%も職員給与を下げられたのは、自分の公約・理想にこだわり続ける頑固者だからです。
有権者は変化を望みました。民主党政権も物分り良くない頑固な政権でいて下さい。
3.特会仕分けの成否はお金をひねり出せるかどうか 特会改革は行政改革であり、同時に財政改革であるという本質を忘れてはなりません。
特会には、「無駄遣い」と、「過剰な貯め込み(いわゆる埋蔵金)」の弊害がありますが、 無駄遣い廃止は、財政支出というフローの改善効果があります。埋蔵金発掘は、ストックの有効活用による債務削減やキャッシュフロー改善という効果が見込めます。
財政の資金繰りが良くなって初めて、特会改革が成功したと言えるのであって、お金が出てこないのは「単なる看板の架け替え」と言います。
人も金も減らなかった省庁再編や特殊法人等の独法化と同じ轍を踏まないように。
4.財政全体のお金の流れを把握する 「埋蔵金論争」と、約10年前の財投改革の検証、つまり財投機関の効率化や自立化は進んだか、融資額は適切か、ということが表裏一体だ、と言われてピンと来る人は多くないと思います。実は、両者は財政投融資特別会計で結びついていて、特別会計の余剰資金(埋蔵金)は、年金など自主運用されるものを除き、大半は財政投融資特別会計に預けられ、その運用として財投機関に貸し付けられる構図なのです。
私が、拙著で「特別会計はいらない」という極論めいた表現を使ってきたのは、この例のように特会を使った複雑なやり取りがあるせいで、財政のお金の流れが見えない。限られた財政資金が今の時代にふさわしい適切な配分かどうか判断するには、それをスッキリ見えるようにする(財政の一覧性)べきと考えるからです。
もっとも、一覧化するだけでは、効率よい行政は実現できません。
今の特別会計改革では、例えば、道路、港湾、空港、治水などの旧特別会計は社会資本整備特別会計に統合され、各々は勘定になりました。その際、人件費や事務経費などは業務勘定という大きなドンブリに括り直されたため、各勘定、例えば道路事業の人件費や業務費用がいくらなのか見えにくくなりました。統合で不透明になったのです。
年に500万円もタクシーを使った職員がいるとか、何億円も剰余金があるとか、病理現象は個々の事業に潜んでいます。事業ごとの経理を明らかにすることも大切なのです。
全体の透明化と事業ごとの透明化の両方が実現してはじめて、財政全体の姿を把握でき、特別会計を改革したと言えるのです。
そうなれば、国会の予算審議でも予算費目や金額の是非を議論しやすくなり、国民も予算の使い方を監視しやすくなるはずです。
5.国民にお金を返す(効率よい政府に) この10年ほどで国債残高は2倍近くに増えました。政府支出が景気を下支えをしたかもしれませんが、経済成長につながる投資だったでしょうか。
財政民主主義の規律により政府の経済行為には法的根拠が要り、使途も支出手続きも予算や会計法などで定められた範囲に限られるため、政府は、社会や経済の動きに合わせて、自由自在な使途で機動的に経済行為を行なうことが難しい仕組みになっています。無駄遣いやコスト意識の欠落などは論外としても、経済活動は民間に任せる方が原理的に機動的・効率的なのです。政府が必要やむを得ない持続的・継続的な分野に集中することが効率よい行政につながり、社会全体も効率的な役割分担になると思います。
だから、とにかく政府がお金を集め、何もかも手広く政府の仕事にして、政府がお金を回す仕組みは好ましくないのですが、特別会計にはそんな巨大事業があります。
再保険の特別会計がなくなった自賠責保険は、一昨年、事故率の低下を受けて保険料を平均22%も下げました。ノーロス・ノープロフィットの原則ゆえです。ところが、特別会計で管理される国営保険、例えば労災保険は8.2兆円、雇用保険は6.3兆円、地震保険は1.1兆円ほどの積立金があるのに、積み立て不足と称して貯めこみを続けています。
この積み立て必要額は根拠が不明確な上、お金の大半は財投への長期預託、明白な蓄財です。また、社会資本整備の財源となるガソリン税は全国7千万台の自動車ユーザーに、航空機燃料税は航空会社に(JALだけで年間450億円!)高い負担を強いています。
各種保険料やガソリン税、航空機燃料税は、赤字企業でも低所得者でも容赦ない強制的な負担です。そうやって集めたお金は財投機関である官製法人が使ったり、費用対効果や需要を水増し予測された道路や空港に化けるのです。
国民の懐に少しでも多くのお金を残し、あるいは返して、民間の経済活動の割合を高める改革が必要です。
6.スケジュールをきちんと定め、先延ばししない 民主党は昨年の衆院選で「特別会計の総ざらい」を訴えましたが、特別会計検討チームが発足したのは今年の4月。チームは6月に提言をまとめて23年度概算要求に反映すると、野田財務大臣(当時副大臣)も明言していたのに、いつの間にか10月の「事業仕分け第3弾」に変わっています。これでは23年度予算の概算要求も済んでいて、特別会計の仕分け結果が概算要求に反映されるのは24年度にずれ込みます。
ズルズル先延ばしになる理由を、まず合理的に説明し、これからの特会改革スケジュールも改めて公表し、その通りに進めて欲しいものです。仮に、23年の通常国会でも特会法の改正案が提出されないとか、改正が6月までに施行されないとなれば、24年度予算も既存の特別会計のままで概算要求を組む、そうなれば2年の先送りになります。
改革が逃げ水のように先延ばしされることこそ「やるやる詐欺」と言うべきです。
結び. 菅総理の消費税増税論議呼びかけは、行革先行論から後退したような印象を受けます。
特別会計の検証も歳出全体の組み替え作業も進まないうちに、なぜ増税論議を進めたがるのか。政府が公開している特別会計の資産超過約100兆円、これが何故活用できないのか。公務員人件費削減など、民主党が提案してきた数々の歳出削減策や年金制度などの抜本改革のアイデアは、実現不能と決まったのか。
昨年夏、民主党は、「税金の無駄遣いの根絶」など歳出削減で9.1兆円、埋蔵金の活用や租税特別措置見直しなど歳入増で11.4兆円の計20.5兆円を捻出するとしていました。 歳出削減分だけでも消費税4~5%分の継続財源になるはずですが、いつ検討され、結果はどうなったのでしょうか。
本来の意味の「説明責任」を果たして欲しいと思います。
(転載貼り付け終了)