「「本当に日本はギリシャのようになるのか」(EJ第2847号)」

投稿日:2010/07/02 09:02

「エレクトロニック ジャーナル」から貼り付けます。

(転載貼り付け開始)

2010年07月02日
「「本当に日本はギリシャのようになるのか」(EJ第2847号)」

 菅総理は頭の良い政治家です。しかし、どんな理由であれ、選
挙前に増税宣言をするのは不利です。それなのに彼はなぜ急に増
税論者になったのでしょうか。理解できないのは、菅総理が消費
税増税を口にすると、記者クラブメディア、テレビまで増税容認
の論調になってきていることです。
 財務省を中心として官僚や自民党の政治家、そして大手メディ
アが増税キャンペーンを張るときの根拠として必ず持ち出してく
るのは次の3つです。ひとつずつ検証してみることにします。
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       1.日本は深刻な財政危機である
       2.日本はギリシャのようになる
       3.子孫に借金を残すべきでない
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 第1は「日本は深刻な財政危機である」であるかどうかです。
 財務省は国と地方自治体を合わせた借金は、2009年3月末
に900兆円に達し、GDPの2倍近くになるといいます。
 これは議論のあるところですが、財政が危機的状況にあるかど
うかを見るひとつの指標は「長期金利」の動きです。
 「長期金利」というのは10年物国債利回りのことです。この
長期金利が上昇すると、まさに財政危機そのものです。ギリシャ
国債の長期金利は8・8%に上昇しているのです。日本の現状は
どうなのでしょうか。専門家の意見を聴いてみましょう。
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 日本国債利回りの低位安定が続いている。足元では、株式など
 のリスク資産から国債へのシフトが一層進み、6月10日時点
 で、日本の長期金利の指標となる10年物国債利回りは1・3
 %を切る水準にまで低下している。もっともこの低位安定は今
 に始まった事態ではない。1990年代末以降、10年物国債
 利回りは、景気の波を通じて2%を切る水準を維持している。
  ──国際通貨基金アジア太平洋局エコノミスト/徳岡喜一氏
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 長期金利が低位安定している理由は、いくつかありますが、一
番大きいのは、ストックベースでGDP比で約300%にも及ぶ
巨額の家計金融資産の存在です。これに関しては、日本金融財政
研究所の菊池英博氏の意見を聴くべきです。菊池氏は以前から一
貫してこの主張をされています。
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 財務省が煽る財政危機論にはトリックがある。900兆円近い
 借金の金額だけを宣伝し、日本政府が社会保障基金や特別会計
 の内外投融資など約505兆円の金融資産を持っていることが
 議論から抜けている。国の借金を問題にする場合、当然、資産
 を差し引いて考えなければならない。計算すると日本の国家の
 純債務は367兆円くらいで、他の先進国とそれほど変わらな
 い水準です。 ──菊池英博氏/『週刊ポスト』7/9号より
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 続いて第2の「日本はギリシャのようになる」について考えま
しょう。この論法は人に増税を訴えるときわかりやすいし、説得
力があるので、菅総理は今でも使っています。
 しかし、これはやめた方が良い。なぜなら、こんなことをいう
と、菅という総理大臣は本当に経済がわかっていないことを宣伝
してしまうからです。国際金融論が専門の相澤幸悦埼玉大学経済
学部教授は次のようにいっています。
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 そもそも日本とギリシャを同等に語る政治や行政の見識を疑い
 ます。         ──相澤幸悦埼玉大学経済学部教授
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 考えてみると、財政破綻する国が出ると「日本もそうなる」と
いうことが必ずいわれるのです。アルゼンチン、アイスランドの
ときもそういわれたのです。
 相澤教授のいわんとしていることはこうです。ギリシャはもと
もと経済力の弱い国です。そういうギリシャの国債を多くの国が
買っているのです。ギリシャ国債の外国人保有率は約70%なの
です。なぜ、彼らはギリシャの国債を買ったのでしょうか。
 それは国債に魅力があるからです。利回りは高いし、ユーロ圏
なので何かがあればEUが救うであろうと考えて、各国の金融機
関はギリシャの国債を買ったのです。
 これに対して日本はギリシャと違って、独自通貨を持っている
ので、もし財政危機に陥れば、市場で株や債券が売られ、円安に
なります。そうすると、輸出産業が活性化してマイナスとプラス
がバランスを取り、調整機能が働くのです。リーマンショックで
財政が破綻したアイスランドが何とか生き延びているのは、この
調整機能があるからです。
 最後に「子孫に借金を残すべきでない」について考えます。経
済評論家の上念司氏はこれについて次のように述べています。
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 日本の国債の93%は国民が買っている。ということは次世代
 に借金をほとんど残していないということです。わかりやすく
 するために、少子化がどんどん進んで、人口が1になったとし
 ます。最後の日本人は左手に借金、右手に国債をもっているか
 ら相殺できる。本当の借金は外国が持つ7%の日本国債で、純
 債務で見ると、国民一人20万円ほどの借金にすぎません。
         ──上念司氏/『週刊ポスト』7/9号より
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 といっても、日本の財政は多くの問題点を抱えていることは確
かです。しかし、今日明日を争う問題ではないのです。時間は十
分あるのです。増税を先にやって、財政再建に成功した国はない
のです。菅総理は、いまひとつ納得できない小野理論に乗って、
消費税の増税するハラのようです。いくら秀才でも何人かの専門
家の話を聞き、本をちょっと読んだ程度で経済や財政のメカニズ
ムがわかるとは思えないのです。─[ジャーナリズム論/51]

≪画像および関連情報≫
 ●田中秀征氏による菅政権批判
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  ──「最小不幸社会の実現」についてどう思いますか。
  政治家にとってそれは基本的な仕事だ。ただ、菅政権は「使
  うこと」や「配ること」に関心が集中するあまり、「稼ぐこ
  と」が二の次にならないか心配だ。菅首相、仙谷官房長官、
  枝野幹事長が分配を優先しがちな旧革新トリオであることが
  気がかりだ。   ──「週刊エコノミスト」6/29より
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(転載貼り付け終了)