渡部恒雄氏 「自身で平和守る覚悟を」

会員番号4781番 投稿日:2010/06/13 23:36

 6月12日北海道新聞夕刊に、渡部恒三議員の息子である渡部恒雄氏の文章が掲載されたので、全文を転載します。

(転載開始)

「鳩山前政権の問題提起」 東京財団上席研究員 渡部 恒雄

 日米同盟と沖縄基地のハンドリングを誤ったことが、鳩山由紀夫前首相の辞任の大きな原因の一つだったことは、政権交代により日本政治が新しい時代に入っていることを如実に示している。
 1960年代に岸首相が日米安保条約の改正とそれに対する抗議の声の中で辞任した後は、自民党中心の政権下で、日米の同盟関係維持は所与のものであり、争点となるようなものではなかった。
 実のところ、自民党時代が長く続いた理由は、それが東西冷戦構造と関係している。野党は非同盟中立を日本の選択肢として示したが、日本の現実的な選択肢は米国との同盟と自由主義陣営への参加以外に考えられず、国民はそれを選択した。
 そもそも自民党という政党は、社会主義に対抗して米国を中心とする自由主義陣営に参加するために、保守・自由主義の政党が55年に合同し結成された政党なのである。
 自民党時代が終わって登場した鳩山政権は、これまでの日米関係のバランスをより日本の自主性が高まる方向に変えようとし、具体的には普天間飛行場の代替施設を沖縄から県外に移設することで一歩近づこうとした。それ自体は、決して誤った方向性だとは思わないが、問題は米国側がその交渉に応じるかどうかの現実的な分析をせずに安易な交渉を始めたことが命取りになった。沖縄県民はそのような「中途半端な」鳩山前首相のハンドリングに怒り、国民の多くは、これまでの自民党政権では所与のものであった日本の対外政策に大きな不信感を持つことになったからだ。
 しかし、鳩山政権の問題提起により、これからの日本の政権は、単に日米同盟維持ということだけを唱えて、思考停止をしているわけにはいかなくなった。自国と地域の安全保障環境を損なわずに、同時に沖縄の負担を軽減していくという難しい二兎を追うことが求められる。沖縄県民の合意なしに、5月の日米合意を実行できないのはあきらかだからだ。
 実は、日米普天間移設合意と鳩山前首相の退陣会見には、今後の日本の方向性への大きなヒントがある。日米合意にある在日基地の日米共同使用という将来の方向性と、鳩山前首相の「日本の平和を日本人自身で作り上げていく」覚悟である。
 日米共同使用の先には、より自立的な日本の防衛の姿があり、それは反米的なものではなく、日米協調的なものとなろう。鳩山前首相の「米国に依存し続ける安全保障が50年、100年続いていいとは思わない」というのは、米国が5月に発表した国家安全戦略の、将来的に米国は信頼できる同盟国やパートナーに地域の安全保障の負担を分かち合ってもらう、という方向性と符合する。
 日本の安全保障政策の歴史的な矛盾の中で短命に終わった鳩山前首相のメッセージを真摯に受け取らなければならない。
 鳩山氏自身もまだまだやるべきことがある。元首相として、日米同盟と沖縄の負担軽減の方策を研究するための超党派の基盤をつくることだ。米国には、大統領任期中は不人気だったが引退後、「カーターセンター」というシンクタンクを立ち上げ、朝鮮半島の軍事的緊張を緩和し、ノーベル平和賞を受賞したジミー・カーターのような存在がいる。そうなって初めて、歴史は鳩山前首相の未完の試みを評価することになろう。

(転載終了)