「築地市場移転という壮大な生体実験テーマ」
「永田町異聞」から貼り付けます。
(転載貼り付け開始)
2010年08月20日(金)
「築地市場移転という壮大な生体実験テーマ」
若いころ、「桜の樹の下には屍体が埋まっている」という梶井基次郎の美的感受性に、うちのめされたことがあったが、「魚河岸の下にはベンゼン、シアン、ヒ素が埋まっている」ではシャレにもならない。
発がん物質のベンゼン。青酸カリの主成分であるシアン。和歌山毒カレー事件のヒ素。その他、鉛などの重金属。
戦慄すべきそれらの毒物がしみこんだ土地の上に、首都圏の台所、築地市場を移転させるというのだから、狂気の沙汰である。
東京都が計画している豊洲への移転。予定地である東京ガス跡地は、かつて石炭から都市ガスをつくっていたところだ。
ガス生成の副産物である有毒物質が垂れ流され、長年にわたり土にしみ込んだ。コンクリートやアスファルトで地表を固めたら、地中の有毒物質が外に出てこないというのはシロウト考えで、何がしかの圧力がかかると地下汚水は噴水のように湧きあがってコンクリートを貫通し、地上に滲み出すものらしい。
当然、地震で液状化現象が起これば、もう市場は店じまいしか選択肢はなくなるというわけだ。
以上はほとんど、元通産省地質調査所主任研究官、坂巻幸雄氏の受け売りである。
ネットでインタビュー動画をノーカット、編集なしで配信し続けている岩上安身氏の質問に答える坂巻氏の説明があまりに淡々として冷静、かつ説得力があったので、ぜひ動画 を見ていない方にお知らせしたいと思ったのである。
それにしても、いくら引越しすればお金が儲かると言われても、自分の住まいを、毒物で汚染された土地に定めようという欲ぼけた人がいるだろうか。
都心の一等地、築地は、大掛かりな建築物を大手ゼネコンに建てさせ、再開発することで兆がつく利権となる。
そして、広大な埋立地である豊洲に市場を移すことでほくそ笑むのは、大量の食品を仕込む大手スーパーや外食産業、それら大口顧客に直接売りさばく年商1000億円前後の「大卸」であろう。
包装加工施設や荷捌き場、集配スペースを確保することにより、卸と量販店が一体となった巨大物流センターができあがる。
ちなみに大都魚類(東証2部上場)という卸は、今年3月期1480億円の売上を計上。東都水産(東証1部上場)は同期1410億円の売上である。
一時はこの2社とも、ゴールドマンサックスが第2位の株主に名を連ねていたらしいが、最近のデータを見た限りでは見当たらない。
平成20年11月13日の参院財政金融委員会で、大塚耕平議員(現内閣府副大臣)が築地市場について質問したさい、ゴールドマンサックスが築地市場移転にからむ利権を狙っているのではないかと思わせるやりとりがあった。
大塚 「築地の移転問題は単なる移転問題ではないと思っております。伝統的なセリにもとづく市場のメカニズムを解体するなど何らかの意図があることも想定されます。豊洲における卸売業者、現状七社は三社に限定される方向にあると聞いておりますが、その三社と想定される卸売業者の大株主には外国資本が徐々に入ってきております」
大塚議員が言う外国資本とはもちろん、ゴールドマンサックスのことだ。
これに対する平尾農水省総合食料局次長の答弁では、大都魚類の大株主は一位がマルハニチロホールディングス、二位がゴールドマン・サックス・インターナショナルになっていた。
大塚議員の質問にもあるように、築地市場の卸業者は、水産物に限れば、前記二社を含め七社ある。
そこから仕入れて小売など、小口の買付人に販売するのが築地に750ほどある「仲卸」で、いわば彼らが築地の賑わいを演出してきた。高級料亭向けの食材の目利きとしても重宝されている。
外国からの観光客も増えてきた築地という場所への愛着。コスト負担がのしかかる豊洲移転。仲卸業者にすれば、このままこの場所で営業したいというのが本音だろう。
しかし、大塚議員が「平成十八年四月の市場整備基本方針では、仲卸業者数の大幅な縮減を図ることが盛り込まれております。電子取引の導入、仲卸の目利きによる競りの廃止が想定されております」と指摘したように、このまま計画が進めば、仲卸にとって厳しい事態が待ち受けている可能性はある。
米国発の金融危機でゴールドマンサックスがいったん手を引いたとしても、築地の閉鎖を機に、卸→仲卸→小売という日本独特の流通システムを解体して、寡占化で利益をむさぼろうという米国資本と日本の利権勢力の思惑は健在である。
今後、知らぬ間に米資本が大手卸の株主上位に食い込んでくることは十分予想される。
さて、もっとも肝心なのは豊洲への移転で食品の安全性が保てるかという問題であり、その話に戻ることにしよう。
驚くべきは、豊洲・東京ガス跡地の安全性に対する東京都の認識がいい加減で、対策や議論が荒っぽいことである。
東京都は豊洲新市場予定地で土壌汚染処理実験を実施し、ことし3月に「中間報告」を発表したが、これがとんでもないシロモノだった。
「確実に汚染物質を無害化できる」と結論づけているにもかかわらず、実験前の汚染濃度を隠し、実験後の数値だけを公表するという、人をバカにしたような内容だった。これでは対策の効果がどれだけあったのか分からない。
坂巻幸雄氏は次のように指摘する。
「私が強調したいのは、知らないうちに微量の汚染物質が繰り返し体のなかに取り込まれていく怖さです。都は、データがない、危険と証明されていないから安全と見なすと言いますが、大規模施設の建設にあたるゼネコンや、流通機構を握って大きな利益を手にする人たちがリスクの当事者でなく、生活者が否応なくリスクにさらされることが問題です。これでは壮大な生体実験というほかないでしょう」
都心の魚河岸の賑わいと風情にこそ、人は魅力を感じ、観光客も来る。
地下にベンゼン、シアン、ヒ素をためこんだ、巨大物流センターのような施設に、きめ細かな日本の食文化を養っていく役割が果たせるだろうか。
(転載貼り付け終了)