「政治の劣化」

投稿日:2010/06/22 07:16

「池田香代子ブログ」から貼り付けます。

(転載貼り付け開始)

2010年06月18日00:00 カテゴリ社会・世界情勢
「政治の劣化」

 日本と韓国韓国海軍のコルベット「天安」沈没問題については、5月10日、22日、24日、29日と4回もとりあげました。またしても、なのですが、今回はちょっと違った視点から。

この問題は、国連安保理にもちこまれたところで、暗礁に乗り上げたかっこうです。安保理そのものが記録もとらない非公式のかたちで、もしもこれがほんとうに深刻な国際問題なら、こんなことはありえません。拳をふりあげた韓国の体面を重んじて、とりあえす安保理でとりあげたことにした、というのが実情でしょう。

アメリカの原子力潜水艦と衝突・大破、原潜も沈没、というシナリオはないとしても、北朝鮮の魚雷攻撃という合同調査団の結論には、いまなお異論が続出しています。中国とロシアは、この論争に巻き込まれたくなさそうですし、北朝鮮は異例の記者会見ででっちあげと主張し、独自の調査団を派遣したいと言って、韓国に断られています。

「独立系メディア『今日のコラム』」というサイトにいろんな異論がまとまっていますが(こちら)、たとえば韓国系アメリカ人物理学者ソ・ジェジョンさんの疑義は説得的です(こちら)。けっきょく、「天安」はなんらかの表沙汰にするわけにはいかない後ろめたい行動中に座礁などの事故を起こしたか、やはり公表することがはばかられるほどのドジを踏んだか、あるいはその両方が重なって沈没した、というところではないでしょうか。調査団の報告書が、事故発生時からの記述しかないのが、それを裏付けているように思います。

海難事故調査では、事故にいたる艦船の動きを、位置・方向・速度など、事細かに跡づけます。おととし、海自のイージス艦「あたご」が千葉の漁船清徳丸とぶつかって沈没させ、吉清(きっせい)治夫さんと哲大(てつひろ)さん親子が亡くなった事故では、連日の報道が2隻の動きを詳細に伝えていたように、事故直前の船の動きをしめすデータは事故原因の究明にきわめて重要です。なのに、調査団報告には、それがそっくりないのです。これでは、報告を信じろというほうが無理です。「天安」には、事故までの動きを公表できないなんらかの事情があると見るしかありません。

なのに、李明博大統領は報告書を踏まえて、戦争記念館のようなおごそかな場所で、いかめしくも沈痛な演説をし、北朝鮮を強く非難しました。なにしろ休戦状態の朝鮮半島です。どうなることかと気を揉んでいたら、なんのことはない、直後の統一地方選挙に向けたキャンペーンだったらしいではありませんか。ところが選挙は、北との軍事的緊張を煽り、「断乎決断」の姿勢を見せて断然有利と見られていた与党のボロ負けでした。韓国の市民は選挙キャンペーンに乗せられなかったのです。戦争などするものではない、という健全で理性的な判断が、李大統領に「ノー」をつきつけた。おみごとです。そもそも「天安」沈没が大統領の選挙目当ての陰謀だった、などと言うつもりは毛頭ありませんが、事故ないし事件を政治利用して政局を政権有利に運ぼうとしたところは、911事件とよく似ています。「天安」沈没「事件」は、韓国の失敗した911だった、私はそう考えています。

韓国の市民社会が成熟度を示したのにひきかえ、日本はこの事故を北朝鮮の脅威と決めつけて、米海兵隊基地を辺野古に新設するという決定に利用しました。その行動のす早かったこと。鳩山さんなどは、まさに飛びついた、という感じでした。いやでもなんでも辺野古と言わざるを得ないところに追い詰められてしまったので、「北の脅威」はそれを正当化する恰好の口実に見えたのでしょう。それだけ、ご自身内心では辺野古案に納得していないし、忸怩たるものがあったのではないでしょうか。そして、閣僚たちがこの事故を何度も引き合いに出しては「北朝鮮のしわざ」とアナウンスすることで、既成事実化してしまいました。メディアも世論も押し黙っています。まるで、政府の判断に納得したかのように。新しい海兵隊基地を、自分のふところを痛めずに手に入れたいアメリカは、日本の政治家や市民社会のこのていたらくに、きっと陰でほくそ笑んでいることでしょう。

韓国では、政治家が突発事故を政治利用しようとしたのを、市民の成熟がはねかえしました。政治の劣化を、市民が選挙をつうじて却下したのです。それにたいして日本の社会は、北朝鮮のしわざという政治家の見方をまかり通らせてしまいました。政治の劣化をはねつける市民力が見あたりません。市民はその政治リテラシーにふさわしい政治しかもちえません。もうすぐ参議院選挙だというのに、うすら寒くなります。

今のところ私は、今回に限っては北朝鮮は濡れ衣を着せられたと考えていますので、北朝鮮としてはとんだ災難ということになるわけです。そんな北朝鮮が南アのサッカー世界大会で、強豪ブラジルから1点をあげました。北朝鮮チームにたいして、また鄭大世(チョンテセ)さんら、Jリーグで活躍する北朝鮮ナショナルチームの選手たちにたいして、おしなべて日本のメディアも人びとも純粋にあたたかい声援を送っているのはいい眺めだなあ、と思っています。ここには、スポーツを介して市民社会の成熟が見られる、と思いたいものです。

(転載貼り付け終了)