「代表選:雇用重視を掲げ雇用悪化推進の菅直人氏」
「植草一秀の『知られざる真実』」から貼り付けます。
(転載貼り付け開始)
2010年9月 2日 (木)
「代表選:雇用重視を掲げ雇用悪化推進の菅直人氏」
政府の活動とGDPの間の関係は次のように理解できる。
いま、プールに500の水が入っているとする。ここから水を150抜き取ったあとで、200の水を注入したとする。水の量は550になる。
元に戻して、同じく150抜き取るけれども、注入する水を180にすると、水の量は530だ。
これとは別に、やはり元に戻してから150抜き取り、220注入したら水の量は570になる。
上記の三つの例では、
①150抜き取り200注入=50の注入超
②150抜き取り180注入=30の注入超
③150抜き取り220注入=70の注入超
の違いがあるわけだが、結果としての水の量は
①550
②530
③570
である。
読者はすでに気付かれていることと思うが、
①50、②30、③70の注入超が財政赤字を意味している。
抜き取る水が税や社会保障負担などで、注入する水が財政支出だ。
財政活動を含めた経済活動規模が、
①550,②530,③570である。
菅直人氏が「雇用、雇用、雇用」と唱えるが、
雇用量の全体は、経済活動規模によって決まる。
①550、②530、③570の経済活動規模は、そのまま雇用量を意味している。経済活動規模が大きくなれば雇用量は拡大し、経済活動規模が小さくなると雇用量は縮小する。
ある年の雇用量が上記①のケースに該当して①550だったとしよう。
翌年の経済活動規模、雇用量は財政赤字を①50から②30に圧縮する場合、②530に減少し、③70に拡大する場合、③570に拡大する。
これは財政以外の他の条件が不変の場合の数値になるが、政策の効果を考えるときには、他の条件一定で考えなければ分かりにくくなる。
2010年度の財政赤字は予算書の上では44.3兆円だが、2009年度第2次補正予算のうち、4兆円分が2010年度に入っての執行であるので、2010年度の実際の財政赤字は48.3兆円になっている。
したがって、2011年度予算編成においては、国債発行金額を48.3兆円にしたときに、景気への影響が中立になる。
48.3兆円よりも大きくすれば景気刺激予算、48.3兆円よりも小さくすれば緊縮予算になる。
菅直人氏は2011年度予算の財政赤字を44.3兆円以下にとどめる方針を示している。つまり、4兆円の緊縮予算を編成する方針を示しているわけだ。
財政活動がGDPを1%弱押し下げる効果が生まれると予想される。
菅直人氏はNHK「ニュース9」に出演して、緊縮財政にはしていないと発言したが、これは事実に反している。財務省の官僚が、2011年度財政赤字が2010年度当初予算の財政赤字と同額だから緊縮財政ではないと説明し、それを鵜呑みにしたのだと思われる。
「雇用、雇用、雇用」と叫びながら緊縮予算を組むことは、南へ進むと言いながら、実際には北に進路を取っているようなものなのである。
財政政策以外の政策手段に金融政策と構造政策があるが、いまの状況では金融政策は効かない。経済学を理解していない経済学者が激増しているが、最近の論壇では野口悠紀雄氏がまともなことを述べている。つまり、ゼロ金利=流動性のわな状況にあるときには金融政策は有効でなく、財政政策しか有効でない。これが正しい。
構造政策は経済の効率を高める政策で重要だが、短期で効果を発揮する奇策はない。
「雇用、雇用、雇用」と叫ぶのなら、経済活動を拡大させる具体策を伴わないと、まったく無意味であるか詐欺になる。
北半球を航海する船の船長が、暖かいところに向かうと乗客に宣言しながら、北極に向けて船を操舵しているようなものだ。
何も分からない乗客は暖かいところに行けるものと思ってしまうかも知れないが、一番大事なことは、この船長がどちらの方向に船首を向けて航海しているのかを知ることである。
菅直人氏が政策の筆頭に挙げたのが「雇用」で、「第一に雇用、第二に雇用、第三に雇用」というのが、代表選に向けての政策の第一の柱だそうだ。しかし、具体的な政策の中身は、明らかに雇用を減少させる政策になっている。
これが菅直人氏の実情だ。こんな船長が操舵する船に乗ったら、全員凍死は必至だろう。すでに、乗客の多くが凍傷にかかり始めているのだ。
乗船3ヵ月で、幸いなことに乗客の意向によっては、船長を交代できる機会がやってきた。船長を代えずに航海を続ければ一菅の終わりだ。
菅直人氏選対には経済学を理解する人が一人もいないのだろう。財務省職員は法律や行政に詳しいが、経済学は完全など素人である。
船長を交代しないと、小泉政権のときとまったく同じで、地獄に連れて行かれてしまうだろう。
(転載貼り付け終了)