「ジブチ海軍基地の建設と抗議や怒りを忘れた共産党の対応を暴露する」

投稿日:2010/08/01 06:57

2010.8.1. 直木明
「ジブチ海軍基地の建設と抗議や怒りを忘れた共産党の対応を暴露する」

 0九年三月、多くの反対があったにもかかわらず、「海賊対処」行動だと強弁して自衛隊は、アフリカのソマリア沖に護衛艦二艦を、さらに五月からはP3C哨戒機二機を派遣してきた。そして六月十九日、政府は「海賊対処法」に基づく対処要項を閣議決定した。
 今年の七月十六日、二十三日にその時限立法が期限切れを迎える事を受けて、民主党政権は一年延長を決めただけでなく、ジブチに自衛隊初の「海外基地」建設を始めている。この前後からやっとマスコミ報道は解禁されたようだ。しかし民主党やマスコミは、その後も海外軍事基地建設を周知させる義務を果たさず、ほとんどの労働者・市民はこの重大な事実を知らない。普天間基地移設をめざしている共産党と社民党等の沈黙は不可解だ。
 自衛隊の変質ともいえるこの件については、世界は機敏に反応した。四月二十三日、フランスのAPF通信が「日本が初の海外軍事基地を新設」と題する配信を行ったのを皮切りにロシア等も報道を始めた。既に世界においては五月段階で大いに問題視されていた。しかし日本では、五月十一日に後述する岩上安身氏が岡田外務大臣に質問した事を除けば極めて少数のブログが発表されていたに過ぎない。新聞業界では岡田外務大臣に対する質問を一切報道しなかった。これは、まさに記者クラブが仕切る新聞マスコミの犯罪である。
 七月十日、私は抗議行動の一環として、共産党と社民党の両党に対して、ジブチの軍事基地建設になぜ抗議しないのか、また既に公式見解を出しているなら送付をお願いしたいとのメールを発信した。三十一日の時点で三週間が経過したがいまだに何の返事もない。
 こうした両党の対応には、彼らの常日頃の言動はともあれ、反戦平和を真剣に考えているかについて、疑問を呈せざるをえないものがある。

「しんぶん赤旗」での初めての海軍基地の建設報道

 一0年七月二十三日の「しんぶん赤旗」は、「社会リポート」として、「自衛隊、初の海外基地建設」の表題を持つ記事を、十四面に掲載した。つまり政治面でなく社会・総合面に載せたのである。どうしてこのような取り扱いとなるのだろうか。全く分からない。
 この取り扱いにジブチ海軍基地の建設に対する共産党の立場が端的に示されている。この問題には、ただちに全国的かつ政治的な対応が必要な事は明らかなのに、共産党は問題を全面的に明らかにしょうとはしておらず、こうした姑息な対応になってしまうのだ。
 では問題の「赤旗」の記事を引用する。

 「ソマリア沖海賊対処」口実に ジブチに「軍事拠点」
 17日、ソマリアの隣国、ジブチで、セレモニーが行われていました。自衛隊にとって初の海外基地建設の「起工式」です。
 「海賊対処法」によるソマリア沖での「海賊対処活動」の長期化に備え、42億円をかけて自前の基地をジブチに建設します。
 滑走路はジブチ空港のものを利用しますが、防衛省によると、「事務所及び駐機場の設置」、「大型倉庫」という名の格納庫、「航空機を離着陸させるのに必要な施設」と「必要な附帯設備」などの基地機能を備えています。

 誇らしげに
 起工式にはジブチ共和国の国防大臣などの政府関係者や駐在米国大使らが招待されました。防衛省を代表して現地派遣部隊の責任者、木村康張・派遣海賊対処行動航空隊指揮官(1等海佐)が、基地の概要と建設の意義を誇らしげに報告した、と見られます。
 防衛省はジブチ基地を「活動拠点」と強弁します。
 「海外初の基地と言いたくないはず。『拠点』は意味のない言い訳だ」と指摘するのは軍事ジャーナリストの福好昌治氏。アメリカ、フランス、ロシアなどの海外メディアはいっせいに「自衛隊、初の海外基地をアフリカに」と報じています。
 陸上自衛隊は「基地」を「駐屯地」と表記し、航空自衛隊と海上自衛隊は「基地」が正式名称。ソマリアの海賊対処は海自が主力でもあり、「基地と呼ぶのが自然だ」(福好氏)。
 陸上自衛隊もイラクではイラク駐屯地とはせず「宿営地」としました。海外での武力行使を禁じる憲法9条の建前から、軍事作戦のイメージを避ける方便です。

 米軍の要求
 しかし、42億円をかけてつくる「活動拠点」は明らかに軍事基地です。
 なぜジブチに海外基地を造るのか―。海自幹部が明かします。「米軍からの要求ですよ」。自衛隊は現在、ジブチ空港に隣接する米軍基地に間借りしています。政府筋も「(米軍から)独自施設を求められている」としています。
 日本はジブチと、自衛隊の現地での「駐留活動」を法的に保障する「地位協定」(交換公文)を締結しています。防衛大学卒で外務省幹部経験者の森本敏拓殖大学教授は、昨年6月の参院外交防衛委員会の参考人質疑でこう述べています。
 「自衛官がジブチの町で傷害事件を起こしても日本が裁判権を全部行使できるようになっている。在日米軍が享受できる特権よりもはるかに日本にとって有利。この協定をモデルに各国と結ぶことができれば、非常に良い協定の基礎ができた」

 確かに「自衛隊イラク派兵違憲訴訟弁護団」の川口事務局次長の「許せぬ恒久法先取り」として「ジブチ基地建設は、海外派兵を容易にする恒久法の先取りであり絶対に許してはならない。アメリカの『下請け』の形をとりながら自衛隊の軍事的拠点をアフリカまで拡大するという軍隊の本質が見えてくる。自衛隊はソマリア・ジブチから撤退し、憲法9条という日本の平和ブランドを生かした外交努力で国際貢献すべきだ」との抗議声明は添えられていたが、共産党のジブチ基地に対する見解はない。お粗末としか言いようがない。
 一読して確認できるようにこの記事には、労働者・市民に内緒で海外に軍事基地を建設している事に対する抗議や怒りが全く感じられない。さらにはテレビでもおなじみの反動派の森本教授の「自衛官がジブチの町で傷害事件を起こしても日本が裁判権を全部行使できるようになっている。(略)この協定をモデルに各国と結ぶことができれば、非常に良い協定の基礎ができた」との発言を肯定的に引用するばかりなのである。この点についても共産党が重大な問題指摘も何らの批判もしていない事に注目していただきたい。
 周知のように、日米地位協定は、さまざまな「密約」によって、米軍が直接占領していた時代の「治外法権」を米軍・軍属に譲与する不平等極まりないものだ。
 ジブチへの派兵に伴い日本政府が昨年ジブチ政府と結んだ地位協定は、基地の保護のために自衛隊が「必要な措置」を取る事や刑事裁判権を日本が「すべての要員について行使する」事を明記するなど、事実上の“治外法権”を押し付けている。事件や事故で被害者が損害賠償請求を起こす民事裁判でも、公務中の場合は裁判権が免除されているのだ。
 日本でも改訂すべきだと論議され始めている不平等な地位協定を、今度は日本政府がジブチに破廉恥にも押し付け、森本教授は良い協定の基礎となったと評価したのである。米軍の駐留によって基地付近の住民に様々な被害や苦痛を強いる事に憤慨するのならば、今や自衛隊が海外で他国民に米軍と同様な仕打ちした事に断固抗議しなければならない。
 共産党はアメリカの沖縄を植民地のように取り扱うことに対する憤激はあげるものの日本自身が、他国の主権を侵害する行動に踏み込む事には一切の抗議をしないのである。
 ソマリア沖に派兵された自衛隊が隣国ジブチでやろうとしている事は、沖縄におけるアメリカの行動のまさにそれである。この点で森本教授と共産党の立場は一致したのだ。

「海賊」とは何か―民主党の「海賊対処法」の一年延期決定

 ソマリアの「海賊」には内戦に関わる政治的動機やイスラム過激派などの宗教的動機は見られない。彼らの主な目的は、物資押収や殺戮ではなく人質の属する船会社等から身代金を取る事だ。確かに「海賊」たちは人質に銃を突き付けるなどの荒々しい行為を行う事もあるが、金銭と交換可能な取引材料である人質に対しての暴力や虐待などは少ない。
 そもそも「海賊」は、もともと漁業に従事していた漁民であった者が多いといわれる。八十年代のバーレ政権下、欧州や日本がソマリアの漁船や漁港の整備に対して援助を行っていた。魚を食べる習慣があまりないソマリアでは、漁獲されたほとんどは、海外への輸出へと回して外貨獲得の手段となっていた。一九九一年のバーレ政権崩壊後は、内戦と統括力がない暫定政府による無政府状態のため、魚の輸出は事実上困難となっていった。さらに、ソマリア近海に外国船、特に欧州の船団が侵入して魚の乱獲を行ったため、漁民の生活はさらに困窮した。そして九十年代なると軍部と欧米の企業が結んだ「沿岸に産業廃棄物の投棄を認める」との内容の条約に基づき、産廃が投棄されるようになった。その中に他では処理が難しい放射性物質が多量に含まれていた。そのため漁民を中心とする地域住民数万人が発病し、地域住民の生活を支えていた漁業もできなくなった。この結果、困窮した漁民がやむなく自ら武装して漁場を防衛するようになり、一部が「海賊」に走りそれが拡大したとの説がある。
 しかし、他方では、高速船の使用や武装の質や練度の高さに見られる「海賊」の実態は、単なる漁民の困窮からの自然発生だとは言い切れないものがある。彼らは、外国メディアからインタビューを受ける際に、自らを生活に困窮した元漁民だと自称して、自らの行為を正当化してきた。だからそれは真実ではなく意図的で組織的な宣伝によるもので、最初から武装集団が「海賊」を始めたのだとの説もある。
 この説によれば、「海賊」は、もともとはプントランドの有力氏族がイギリスの民間軍事会社ハートセキュリティ社の指導の下で創設された私設海上警備隊の構成員であるとされる。この組織がパキスタンカラチ港からインド洋・ソマリアを経由し他のアフリカ諸国やイエメンに対して、アフガニスタンから流入する麻薬や小火器を密輸しており、この密輸組織がやがて「海賊」化した経緯があるという。
 どちらが正しいかは断定しにくいが、0七年以降は「海賊」行為の成功率の高さと身代金の高さに目をつけた漁民らが組織的に「海賊」行為を行うようになり、地方軍閥までが「海賊」行為に参入し「海賊」たちから利益を吸収しているのだとされている。
 真の「海賊」対策とは、「海賊」発生の原因の追求と不可分の関係にある。この点を明らかにして原因を基から絶たない限り、「海賊」対策は対処療法にならざるをえない。
 現実にソマリア沖では、日本やアメリカなど主要国が多数の軍艦や航空機を投入しても「海賊」行為が減るどころか、「海賊」被害は、むしろ広がるばかりである。「海賊」対策といっても、ソマリア沖では、各国の軍事的デモンストレーションの見せ合いがあるだけであって、もともと各国は、本気で「海賊」対策を考えているわけではない。
 ところが、 今年七月二十日の読売新聞によれば、パトロールを行うNATOなどの各国艦船が日本政府に対して、インド洋で洋上の無料ガソリンスタンドを提供したように、ソマリア沖での補給艦による無料の給油の要請をしてきているという。
 政府はこの給油活動を新たな国際貢献策として検討しているが、補給艦を現地に派遣して給油活動を行うには、「海賊対処法」改正か新法制定が必要になる。他方で、自衛隊は来年三月完成予定の基地を隣国のジブチに四十二億円かけて建設中である。ジブチ基地建設の狙いは、「海賊対処」活動に名を借りた自衛隊派兵の長期化に対応する日本の軍事的力の誇示である。まさにソマリア沖での軍事的デモンストレーションの一環なのだ。
 ジブチの基地建設は、本来は昨年に自公政権が決めたいわば置き土産だが、民主党政権が引き継ぎ、具体化した。当然ながら無駄使いを極力避けると主張してきた民主党には、この四十二億円を使う基地建設について、タックスペイヤー(税金支払者)に対するアカウンタビリティ(会計支出の理由説明)を果たす責任がある。これが本当の説明責任だ。
 もっともこの施設については、五月十一日、岡田外務大臣に対して、フリーランスの岩上安身氏が「基地(ベース)建設では」との質問をしたが、大臣はあくまで「ベースではなくスペース」と言い抜け、防衛省は「恒久的とは考えていない。プレハブをちょっと強化したような形」と説明しており、あくまで「活動拠点」と強調して逃げている。
 海上自衛隊の「海賊」対策は、自公政権下の昨年三月、海上警備行動に基づいて、ジブチに護衛艦を派遣した事で始まり、五月から哨戒機P3Cを派遣し、七月には根拠法を「海賊対処法」に切り替えた。
 当時は海上自衛隊がインド洋で、テロ対策に従事する各国艦船に対し給油活動を実施していたが、「海賊対処法」では外国船への給油は想定していなかった。民主党政権は今年一月、自民党などの反対を押し切り、インド洋の給油活動から撤退した。この流れから民主党は時限立法なのでソマリア沖からも撤退する予定だったかも知れない。石川議員が逮捕され、小沢幹事長に対する遁走の攻撃が一段と激化したのはこの事と無関係ではないだろう。鳩山と小沢をクーデターで倒さなければならないと考えた原因の一つになったであろう。しかし菅クーデター政権の成立によって、流れは遮断されてしまったのである。
 七月十六日、政府は、「海賊対処法」に基づく対処要項を閣議決定し、「海賊」対策を来年七月二十三日まで一年間延長した。新たに浮上したソマリア沖での給油については、国会において公然と論議しなくてはならない。民主党や共産党等は、労働者・市民に問題の所在や真実を伝えようとせず、何を隠そうとこそこそ画策しているのであろうか。
 防衛省によると、これまで飛行回数は二百六十四回、不審な船などに関する他国への情報提供は約二千百九十回に上った。NATOなどの各国は海賊取り締まりを強化しているが、海賊行為は二00九年には二百十七件発生。今年も七月十日現在で百一件と頻度は衰えておらず、自衛隊等の警戒監視活動の長期化が避けられない見通しだとの事である。
 このように自衛隊の海外派兵が日常的かつ既成事実となると、当然の事ながら派兵先の国と自衛隊との地位協定が問題となる。日米同盟の強化を主張する民主党政権下にあっては、今や日本にとっての地位協定とは、日米安保上の地位協定だけを意味しない。派兵先国と日本とが、自衛隊と自衛隊員の法的地位を定める地位協定を結ぶ時代になったのだ。
 菅民主党政権が今後とも日米同盟の強化の名の下に、米軍の再編成に唯々諾々と付き従う先に何があるかは明白だ。アメリカ覇権国の先兵としての属国日本の哀れな姿だ。
 日本が海外での軍事攻勢を強めている事に対して、諸外国とりわけアジア諸国の人々が警戒心を高めるのは必至である。私たちは日米軍事同盟の強化に反対する。
 反戦平和を祈念し闘う労働者・市民の皆さん、ジブチ基地建設反対に向けともに闘っていこうではありませんか。