「「死に体」菅直人政権が臨む不毛な国会論戦」
「植草一秀の『知られざる真実』」から貼り付けます。
(転載貼り付け開始)
2010年8月 2日 (月)
「「死に体」菅直人政権が臨む不毛な国会論戦」
臨時国会が召集され、国会論戦が始まった。
菅直人政権が発足して初めて予算委員会が開催された。参院選前に予算委員会開催が求められたが、菅首相は参院選での損得勘定を優先して予算委員会を開かずに通常国会を閉会し、参院選に臨んだ。しかし、参院選結果は民主党大敗に終わった。
論戦は始まったばかりだが、多くの重要な論点が浮上している。国会議員には巨額の歳費が支払われている。国会議員の活動を支えるために、議員会館、議員宿舎などを含めて莫大な国費が投入されている。
政治家の本分は議会で国政を真摯に論議することにある。国会議員は全身全霊を注いで本来の職務に取り組まねばならない。
予算員会審議で示された三つの重要な論点を示す。
第一は郵政民営化の実態である。民主党の松野頼久議員が質問に立った。郵政民営化の過程で郵政マネーが約100兆円も減少した。日本国民が小泉郵政民営化に対して、極めて深刻な不信感を抱いていたことが明らかにされた。
小泉政権は民営化によって大きな収益が生み出され、サービスは向上し、必要なネットワークは守られると喧伝(けんでん)してきたが、現実はまったく違った。この短期間に100兆円もの資金流出が発生したのであるから、郵政マネーが枯渇するのは時間の問題だった。郵政マネーが際限なく流出すれば、郵政事業が破たんに至るのも時間の問題になる。
つまり、郵政民営化は大失敗だったのである。郵政各社が破たんすれば、そのつけは日本国民にすべて押し付けられることになる。「サービスが良くなる」、「ネットワークが維持される」などの構想は、まったくの出鱈目であり、すべては夢物語だった。国家レベルでの詐欺が横行したと言ってもよい。
原口一博総務相は、「ガバナンスの崩壊、ガバナンスの形骸化」、「郵政民営化の実態は郵政私物化だった」と明言した。
松野頼久議員は具体的事例として、「かんぽの宿不正売却未遂事件」、「博報堂との癒着」、「JPエキスプレス問題」を例示した。
かんぽの宿不正売却未遂事件は、本ブログでも集中的に取り上げた問題である。小泉竹中政治支持者は、オリックス不動産への売却価格が不当に低いものでないとの懸命な主張を展開したが、客観事実は、売却予定価格が不当に低いものであったことを裏付けている。
端的に言えば、オリックス不動産に払い下げられる予定だったかんぽの宿79施設の固定資産税評価基準額は856億円だった。これが、109億円で売却されようとしていたのだ。国会論議で改めて明らかにされたことは、日本郵政が不動産鑑定評価を行った鑑定機関に対して、再三、評価額の引き下げを働きかけていたとの事実である。
不動産鑑定評価には、原価法、収益還元法、取引事例比較法がある。低い鑑定評価を肯定する人々は、かんぽの宿の収益状況を前提に収益還元法を基準にした論議を提示してきた。しかし、かんぽの宿は営利事業ではなく、加入者福祉施設であり、見かけの収益データだけを根拠に鑑定評価を下すことができないはずである。
かんぽの宿の収益見通し計数が鑑定評価を引き下げるために、下方に改ざんされていた疑惑も存在する。
鳩山邦夫元総務相は、かんぽの宿売却事案が「出来レース」ではないかとの疑念を提示し、結局、オリックス不動産への売却は白紙に還元された。この問題は、事実の内容によっては、巨大な汚職事件にも発展する余地を内包しており、今後、徹底的な真相解明が不可欠である。
この問題以外に、松野議員は、博報堂との癒着疑惑、JPエキスプレス社創設に関する旧日本郵政経営陣の暴走についても言及した。これらの問題に関する真相解明が不可欠である。
文章が長くなるので、2番目の問題、3番目の問題については、概略だけにとどめる。
二番目の問題はマクロ経済政策運営である。菅首相は2011年度予算編成における国債発行金額を44.3兆円以下に抑制する政策方針について、「経済成長と財政健全化を両立させるぎりぎりの提案」だと述べた。
同時に「緊縮財政を実施するのは時期尚早」とも述べた。この判断は正しいが、この判断を前提とするなら、国債発行金額を44兆円以下に抑制するとの方針決定は間違っている。
2011年度の国債発行金額が48兆円で景気中立であり、44兆円は強い緊縮財政になる。このような基礎的事項を適正に判断できなければ、適切なマクロ経済政策運営は実現できない。菅政権が日本経済を破壊するリスクが極めて高くなっている。
三番目の問題は、消費税問題である。菅首相は6月17日のマニフェスト発表会見で消費税率10%を当面の税率の参考数値とすることを明言し、玄葉光一郎政調会長は、最速で2012年秋の増税実施を明言した。
ところが、選挙戦の公判で消費税大増税公約に対する批判が強まると、発言を大幅に後退させ、「論議を呼び掛けただけ」などの逃げの論議に走った。しかし、参院選後も消費税問題についての論議を提唱するなど、菅首相の主張が極めて不明確である。
鳩山政権は2013年までの消費税増税を完全に封印することを公約に掲げて総選挙を戦った。この公約がいまも有効であるのかどうか、不明確である。
消費税増税を掲げる自民党と、民主党が結託して消費税増税の方向に突き進めば、主権者国民の意思を離れて大増税が決められてしまうリスクが存在している。このリスクは解消されていない。
参院選結果を踏まえて、菅首相は昨年8月の総選挙で民主党が主権者国民と約束した公約に回帰したことを明確にしなければならない。
9月に民主党代表選がある。菅政権は代表選までの寿命である可能性が高い。この問題が残る限り、国会論議は極めて空虚なものになる。
本来は、民主党代表選を前倒しし、新代表を定めてから国会を召集すべきであった。いま、問題を提起しても遅いが、国会審議を有効性のあるもにするためにも、民主党は早期に代表選を実施して、新体制を確立しなければならない。
(転載貼り付け終了)