《登石裁判官の変心》 平野 貞夫
☆本号は無限拡散希望につき、転載許諾を必要としませんので、
お取り扱いをよろしくお願い申し上げます。
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<メルマガ・日本一新第85号>
◎「日本一新運動」の原点―92
日本一新の会代表 平野 貞夫
私が、1月12日(木)に、東京地方裁判所の登石裁判官の、
「訴追請求状」を提出したところ、『サンデー毎日』と『日刊ゲ
ンダイ』が報道してくれた。ネットでは多数の方々から声援をい
ただいた。ネットでの議論は民主主義国家の司法のあり方をめぐ
って、真剣な意見が交換されているが、巨大メディアは無視を決
め込んでいる。これからの情報社会では「ネット・メディア」が
世の中を動かす予感がしてならない。
そのネットでも、ある有識者から私に対して厳しい批判があっ
た。「小沢氏側近の平野貞夫元参議院議員が、訴追請求状を裁判
官訴追委員会に送ったことは、司法にプレッシャーをかけるパフ
ォーマンスに見え、全く賛同できない。政治家は国民の権利が侵
害されたときにこそ反応して貰いたい」という趣旨のものだった。
私を政治家だと断定するのもどうかと思うが、基本的で重大な
ことを理解していないようだ。私の「訴追請求」が必ずしも「小
沢裁判」に有利になるとは限らない。次第によっては不利に展開
する可能性もあるのだ。それでも、登石裁判官については訴追し
なければならないと確信している。私を批判した有識者は、私の
訴追請求状や「メルマガ・日本一新」で述べた提出理由を知らず
にコメントしたのかも知れないが、この機会に「裁判官の訴追・
弾劾制度」について解説しておこう。
《裁判官の訴追・弾劾の根拠は憲法第15条にある》
憲法第15条1項は「公務員を選定し、及びこれを罷免するこ
とは、国民固有の権利である」と規定している。この規定は憲法
前文の「国民主権主義」に基づくものであり、ここでいう公務員
とは、立法・司法・行政のいかんを問わず、広く国および公共団
体の事務を担当するすべての公の職員をいう。
《憲法は「裁判官の身分保障」を規定しているが、同時に国民主
権に基づく「裁判官弾劾罷免」も規定している》
憲法第78条を見てみよう。「裁判官は、裁判により、心身の
故障のために職務を執ることができないと決定された場合を除い
ては、公の弾劾によらなければ罷免されない。裁判官の懲戒処分
は、行政機関がこれを行うことはできない」
解説をしておこう。「弾劾」とは、国民の意思を根拠に訴追行
為に基づいて、公権力により公務員を罷免する制度のことである。
憲法が裁判官について、弾劾によって罷免されることを認めた理
由は、司法権の独立を実効あらしめるためには裁判官の身分が保
障されなければならないが、司法権も主権の存する国民の信託に
より裁判所に属させたものであるからだ。それは、裁判官の地位
の究極の根拠は、前述した憲法第15条(公務員の選定および罷
免など)にあるからである。最高裁判所の裁判官に対する「国民
審査制度」もここに根拠がある。
従って、裁判官が罷免されるのが心身の故障のために職務を執
ることができない場合に限るのではなく、裁判官が国民の信託に
反すると見られるべき行為をなした場合において、裁判官の身分
を保障すべき理由はなく罷免できる制度を憲法に設けているので
ある。
《裁判官の訴追・弾劾は、国会に弾劾裁判所を設けることが、
憲法に規定されている》
憲法第64条は「国会は、罷免の訴追を受けた裁判官を裁判す
るため、両議院の議員で組織する弾劾裁判所を設ける。弾劾に関
する事項は、法律でこれを定める」と規定している。これに基づ
き、国会法第16章に「弾劾裁判所」を設け、弾劾裁判所と訴追
委員会の組織と構成を規定し、さらに『裁判官弾劾法』を制定し、
裁判官の訴追や弾劾についての手続きや権限などを設けているこ
とは、衆知のことである。
ごく簡単にこの制度を説明しておく。日本国民なら誰でも、職
務上あるいは倫理上問題があるとして、裁判官を罷免するべきと
考えたとき、裁判官訴追委員会に「訴追請求状」を提出すること
ができる。訴追委員会は、訴追請求状を受理すると、訴追審査事
案として立件し審議を行う。審議には当然調査が伴い、証人の出
頭や記録の提出を要求することができる。裁判官を罷免する必要
があると認めるときは、訴追の決定により弾劾裁判所に訴追状を
提出する。弾劾裁判所は、公開の法廷で審理を行い、罷免するか
否かの裁判を行うことになる。
(裁判官訴追委員会事務局作成「訴追請求の手引き」
http://www.sotsui.go.jp/を参照)
《登石裁判官訴追請求の問題点》
弾劾による裁判官罷免には、当然のこととして理由が必要であ
る。弾劾法第2条には、(1)職務上の義務に著しく違反し、又
は職を甚だしく怠ったとき。(2)その他職務の内外を問わず、
裁判官としての威信を著しく失うべき非行があったとき、と規定
している。従って、訴追請求の理由もこれらの条件に該当するも
のでなければならない。ところが、『訴追請求の手引き』には、
「判決など裁判官の判断自体の当否について、他の国家機関が調
査・判断することは、司法権の独立の原則に抵触するおそれがあ
り、原則として許されません」と説明している。
この説明に従うと、私の訴追請求は訴追委員会で受理されず審
議の対象とならない可能性がある。判決の思想・姿勢・内容など
に関係しており、司法権の独立に抵触するという理屈をつけてく
ると思われる。
さて、罷免の第1条件である「職務上の義務」とは、「憲法尊
重擁護の義務」が最大の義務ではないか。さらに、わが国の憲法
は、人類が営々と築いた基本的人権を基盤としており、それに基
づいて推定無罪、罰刑法定主義、証拠中心主義などのことを規定
している。これらを徹底的に冒涜して、多くの国民から「裁判官
の暴走」と批判された「登石裁判官」は、前述したとおり「裁判
官が国民の信託に反すると見られるべき行為」そのものである。
まさに憲法が規定した「裁判官の弾劾」の対象とすべき典型的事
例である。仮に訴追委員会が「登石裁判官の訴追請求」を審議し
ないことになれば、訴追委員会が憲法の期待する職務を怠ること
になり、「憲法の遵守義務」に訴追委員会自体が違反することに
なりかねない。「司法権の独立」はきわめて大事なことである。
それは司法権が正常に機能して、社会正義を確保する役割を果た
すためである。しかし憲法は、司法権を行使する裁判官が「国民
の信託に反する行為」をすることを想定して、弾劾制度を設けて
いるのである。
《登石裁判官の変心》
登石裁判官は平成14年1月30日、北海道大学で行われたシ
ンポジウムで、次のように発言している。
「刑事裁判も民事裁判も、要するに証拠による裁判が基本中の基
本だと思います。なぜいまさらに証拠による裁判を持ち出したか
というと、我々には非常に当然なことですけれども、実際の社会
では必ずしもそれが理解されていないような気がするからです」
「証拠による裁判が基本中の基本」という考え方を公言してい
た登石裁判官が、何時からどういう理由で、まったく証拠を無視
して、憲法の規定する刑事法の原理を冒涜するような思想・信条
になったのか。これはまさに「裁判官の資質」に変化があったと
いえる。漏れ聞くところによれば、登石裁判官は最高裁事務総局
と密接な関係があるとのこと。もしかして、登石裁判官の変心は
「最高裁事務総局」の、力強い指導によるものかも知れない。
私は、日本の司法府について、立法府や行政府よりましな統治
機構だと信じていたがそれは誤りだった。むしろ、国民が聖域と
して尊重してきた影で、どのようなことが展開していたのか、そ
の根本を疑ってみなくてはならない。しかし前述したように、よ
くよく考えてみれば、憲法の裁判官弾劾制度とは、そういう思想
で設けられているのだ。
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