『JFK』JFK(1991) 3.トリーズンとレジサイド
会員番号4655の佐藤裕一です。
当掲示板への私の投稿[99]「『JFK』JFK(1991) 1.映画から見えてくるアメリカと日本の共通点」及び[100]「『JFK』JFK(1991) 2.映画から見えてくるアメリカと日本の相違点」から年をまたいでだいぶ経過してしまいましたが、映画『JFK』について書きます。
以降、「だ・である」口調の文体で書きます。ネタバレ注意。
[99]『JFK』JFK(1991) 1.映画から見えてくるアメリカと日本の共通点
https://www.snsi.jp/bbs/page/2/view/1029
[100]『JFK』JFK(1991) 2.映画から見えてくるアメリカと日本の相違点
https://www.snsi.jp/bbs/page/2/view/1030
● ややこしいアメリカの地名と人名の整理
一旦、ここの旧掲示板の[182]の林ピンポンパン氏投稿文章を転載貼り付けする。
(佐藤裕一による転載貼り付け始め)
[182] { 投稿者:林ピンポンパン 投稿日:2002/04/30(Tue) 02:43:34
「アメリカの秘密」を再読して気づいたこと
ケアレスミスと誤植がある
1 29ページ「イタリア共産党の大物最高幹部であったアンドレオッチさえも、マフィアとのつながりが公然化したのである」 アンドレオッチはキリスト教民主党の元首相で
82年にマフィア関連の裁判にかけられている 共産党とマフィアが無縁なわけはないが
2 51ページ「実際に犯行の指揮をを行ったのは、ダラス市長の弟で、FBIのエドガー・フーバー長官の片腕だったガイ・バニスターという男である」JFKにCIA副長官を解任されたチャールズ・キャベルの弟がダラス市長アール・キャベルというのと混同してる
バニスターはキャベルと血縁関係はない
3 111ページ 「他にもヴァルド派やヨキアム主義者などの異端の宗派がある」
これは単に誤植でヨキアムではなくヨアキムである
この機会にヨアキムを検索したらけっこうあってビックリ
4 167ページ 「彼が正式に所属したのはコミンテルン(=共産主義インターナショナル。これを第一インターナショナルという)…」
これは第一ではなく第三の誤植です
大柄な理解をという副島先生の趣旨を補足する者です。
4
(佐藤裕一による転載貼り付け終わり)
先生の『アメリカの秘密』と『ハリウッドで政治思想を読む』の2冊を文庫化したものが『ハリウッド映画で読む世界覇権国アメリカ(上)(下)』である。私は最初に文庫に出合って熱心に読んだ方なので、前2冊についてはあまりなじみがない。
ただ、林氏指摘2のガイ・バニスターについて書いてある文章については、『ハリウッド映画で読む世界覇権国アメリカ(上)』においても、かなりややこしくて分かりにくい書き方となっている。
私も最初に読んだ際に、何が何だか人物の相関関係がよく分からなかった。私が持っているのは初版なので、後の版では違っている可能性もあるが、その部分と前後を以下に引用する。
(佐藤裕一による引用始め)
ケネディ暗殺の真犯人は誰か。それは、このアイルランド系のリベラルな若造に国の舵取りを任せていてはソビエト共産主義との戦いに敗れてしまうという危機感を抱いた当時の「軍産複合体」に属する指導者たちすべてである。おそらく数百人のアメリカ支配層のトップが、事件当時から真実を知っていたであろう。実際に犯行の指揮を行ったのは、ダラス市長アール・キャベルEarle Cabellの兄で、FBIのエドガー・フーバー長官の片腕だったチャールズ・キャベルCharles Cabell(将軍、FBI副長官)の、その部下だったガイ・バニスターWilliam Guy Banisterという男である。この男の直属の部下たちが、警察官姿で警備の警察官の中に紛れ込み、至近距離からケネディを撃ち殺したのだ。このことは、原作となったジム・ギャリソンの生涯を賭けての執念の調査報告『JFK――ケネディ暗殺犯を追え』(ハヤカワ文庫、一九九二年)に、写真証拠付きですべて詳しく書かれている。もし本物の政治知識人であるなら、日本人でも必ず読むべき本である。
(佐藤裕一による引用終わり)『ハリウッド映画で読む世界覇権国アメリカ(上)』(副島隆彦著、講談社刊 講談社+α文庫、2004年4月20日 第1刷発行、53、54頁から引用、ルビなど省略)
引用文中に登場する4人の暗殺当時における地位・役職を順番に整理していくと、以下のようになる。
アール・キャベルEarle Cabell (October 27, 1906 – September 24, 1975)
当時、現役のダラス市長。キャベル弟。
ジョン・エドガー・フーヴァー(John Edgar Hoover, 1895年1月1日 – 1972年5月2日)
当時、現役のFBI長官。
チャールズ・P・キャベルCharles Pearre Cabell(October 11, 1903 in Dallas, Texas ? May 25, 1971 in Arlington, Virginia)
当時、既にCIA副長官を解任されている。空軍大将。キャベル兄。
ウィリアム・ガイ・バニスターWilliam Guy Banister (March 7, 1900?June 6, 1964)
当時、私立探偵業。元ONI(海軍情報部)、元FBIシカゴ支局長、元ニューオーリンズ市警副本部長、CIA工作員?
日本人にとっては人名や地名がこんがらがったりして、ややこしいところではある。有名なフーヴァー以外は投稿時点で日本語ウィキペディアが編成されておらず、英語版ウィキペディアを参考にした。キャベル兄弟はカベルの方がよく検出されるが実際の発声はキャベルが近い。
チャールズ・キャベルについても林氏の指摘が正しいようで、彼が「FBI副長官」にも任命されたという経歴の記録を私は見付けられなかった。フーヴァーの片腕というのは誤植というより事実誤認であろう。彼の役職はdeputy director of the Central Intelligence Agencyであるから「CIA副長官」なので、正しくはアレン・ウェルシュ・ダレスCIA長官の片腕ということである。
ところで便宜上「副長官」としたが「次官」「局次長」でも同じ。最適な日本語訳は「副局長」だろう。そもそもCIAが中央情報局でFBIが連邦捜査局だからトップは「局長」が相当するだろう。国務長官や国防長官のように、合衆国大統領権限の継承が出来る「長官」というわけではない。まぁいずれも日本語翻訳表記側の整合性の問題である。一部だけ表記を変えたりするとかえって混乱を招くので、以後も「長官」「副長官」で統一する。
CIA長官アレン・ダレスの兄がジョン・フォスター・ダレスで国務長官を努めたが、戦後日本との関わりで重要人物である。なんにせよ私のような初心者の勉強・理解の第一歩は、地名のダラス市(Dallas)、人名のダレス兄弟(Dulles)、そしてキャベル兄弟をごっちゃにしないことである。
それから先生が暗殺の現場責任者と指摘しているガイ・バニスターは、一見しただけで何ともすごい経歴の持ち主である。バニスターは何の背景もないような反ケネディ・反カストロの単純思想右翼とは違う。私立探偵業を営んでいるが実状は腐ったピンカートンみたいなもので、諜報工作機関すらが自分達では直接したくないような汚くて薄汚れた仕事を下請けとして引き受けていたようだ。
ケネディ大統領によってCIAが睨まれ、トップのクビは切られ、解体論まで出ていたのだから、各機関の依頼による下請け作業の需要が多くあったご時勢というところであろう。それでもおおもとであるCIAが解散してしまったら元も子もない。反カストロ派の亡命キューバ人達の戦士育成と経営などは慈善事業ではなく、依頼元や取引相手がないと商売として成り立たない。
この手の仕事は性質上、マフィアが率先して依頼するわけではない。マフィアと反共亡命キューバ人のみでキューバに攻め込んでカストロ政権を打倒出来るはずもないし、暗殺も悉く失敗している。
政府機関が主導しなければ何も始まらないということだ。ギャリソン自身が元FBI特別捜査官であったから、こういうことのカラクリや手の内が分かっていたと先生も書いている。CIAは、FBIと管轄違いで国内での工作活動は禁止されている。もちろんただの法的建前である。
● さらに紛らわしい苗字「ハント」とジョン・バーチ協会(JBS)
映画『JFK』ではガイ・バニスターがジョン・バーチ協会会員であるという台詞が有った。英語版ウィキペディアではメンバーリストに載っている。このジョン・バーチ協会、ケネディ暗殺と全くの無関係ということもない模様である。
2010年11月28日(日)の定例講演会で須藤喜直研究員の話題に出てきた『五月の七日間』Seven Days In May(1963)のジェームズ・スコット将軍のモデルだという、エドウィン・アンダーソン・ウォーカー少将も会員リストにある。この人は極右思想のゆえにか、オズワルドに暗殺されかかったという話がある。そんなに言われるほどの危険な軍国主義者だったのか疑問であるが。
ケネディ嫌いの石油王だったH・L・ハントHaroldson Lafayette Hunt, Jr. (February 17, 1889?November 29, 1974)(ハロルドソン・ラファイエット・ハント)も会員リストにある。
H・L・ハントの子供14人(!)のうちの息子2人がネルソン・バンカー・ハント(会員)とウィリアム・ハーバート・ハントで、銀の買い占めと市場価格操作の失敗で有名な「ハント兄弟」だということだ。ジョン・バーチ協会会員のジャーナリストで『それを陰謀とはもはや誰も呼ばない』None dare call it conspiracyの著者であるゲイリー・アレンはネルソン・ハントのアドヴァイザーであり、アラバマ州知事ジョージ・ウォーレスの大統領選挙時のスピーチライターでもあったそうだ。
私はハント兄弟が引き起こした事件の経緯や詳細を知らないが勝手に妄想するに、誰かにそそのかされて手を出してしまって、足を引っ掛けられたんじゃないのかな。親父の代では実力者だから騙しにくくて潰しにくかったろうが、息子達の代あたりでひとつ成り上がりを叩き潰しておく。ケネディ暗殺とは関係ない話だが、ケネディ一族の親子関係とその末路から類推して考えても、ありそうな話だと思うんだが。
H・L・ハントと同じく、右翼でテキサスの石油王であるクリント・W・マーチソンからリンドン・ジョンソンが「支援」を受けていたという。それから映画『ニクソン』に描かれているようにリチャード・ニクソンも暗殺前日にダラスに来ているから、怪しまれるのも分かる。ニクソンとフーヴァーは、この石油富豪や財界人達も会員ではないかと電話で話し合うシーンがある。
ニクソン主犯説はこの辺から出ているが、映画ではニクソンが彼等から仄めかされたという程度であり、それがストーンの見解なのだろう。ジム・ブレイドン(ユージン・ヘイル・ブレイディング)やジャック・ルビーが当時石油富豪のハント家を訪問しているのも、ギャリソンの見解では偽装工作である。H・L・ハントが「世間から適度に怪しまれる」作戦に協力していたのかどうかは不明だ。
さて、この石油王H・L・ハントと、石油王ではない方のハントである、スパイ小説家で元CIA工作員・ホワイトハウス職員だったウォーターゲート事件の指揮官エヴェレット・ハワード・ハントEverette Howard Hunt, Jr. (October 9, 1918 – January 23, 2007)(一部エドワードとする表記を見掛けるが英語版ウィキペディアでもエヴェレット)は別人であり、日本ではどちらも有名人というわけでもないので、より混同しないように注意が必要である。両人ともにケネディ暗殺に関与説があるが『JFK』には名前も出てこなかったと記憶する。
ハワード・ハントは映画『ニクソン』の方に出てくるのだが、ニクソン政権を脅してウォーターゲート事件命令に関する口止め料を支払わせる様子が描かれている。現職のアメリカ合衆国大統領をゆするなどというのは尋常な行為ではない。奥さんは飛行機事故死(?)している。
ハワード・ハントもケネディ暗殺に関しての名誉毀損裁判をしていたようで、リチャード・ヘルムズから切り捨てられているようだ。『次の超大国は中国だとロックフェラーが決めた(上)』にはO・J・シンプソン裁判に世間の注意を逸らされたのだという先生の解説がある。
CIAの中級幹部クラスであったクレイ・ショーにしてもそうだが、ハワード・ハントも疑惑と裁判にかけられるという歴史的責任を押し付けられる役回りをさせられたようである。彼等より下のガイ・バニスターやデイヴィッド・フェリーといった現場の下級幹部クラスは、証言台にすら立たせないようにもっと前に死んでいる(消されている)。
ジョン・バーチ協会では創業者のロバート・ウェルチ(ジュースのやつ)、大韓航空機撃墜事件のラリー・マクドナルド下院議員などが著名な指導者である。愛国的な反共右翼の組織ということだが、KKK(クー・クラックス・クラン)のような単純な白人至上主義団体というわけではないらしい。
ジョン・バーチ協会シンパのジョゼフ・マッカーシー上院議員はケネディと仲が良い(赤狩りの際の相棒弁護士であるロイ・コーンも会員リストに名前がある)。でもやはりH・L・ハントやエドウィン・ウォーカー少将、バーナード・ワイズマン、ガイ・バニスターなどのような会員もいるわけで、一様ではない模様。あんまり良い話を聞かないせいか、個人的にはこの組織に好印象を抱かない。
このようにケネディ暗殺に関連して、ジョン・バーチ協会会員の名前が幾つも挙がってくるが、当時反共右翼の政治結社としてはそれなりの規模だったろうから、矯激な南部保守派で構成員が実際に何人か関わっていたとしても別に不自然ではない。
組織主導的な関与は特にみられないと思う。「だからこそ」わざと陰謀の噂を、それこそ陰に陽に広めるのに好都合である。私が総元締めの支配者だったら、必ずこういう怪しげな組織に迷いなく罪と責任をなすり付ける。真っ先に彼らのような人達が疑われるように仕向ける。都合が良いことばかりだし、何の遠慮もいらないからだ。
だから陰謀理論家・怪しい陰謀論者と呼ばれる人々も多いが、それは反ワシントン・反ニューヨーク金融財界派であると考えれば分かり易い。真実追求派と言いかえてもいいだろうけれども、世界の支配者達にとっては思惑通りに動かずかえって邪魔な行動をしてくるような都合の悪い右翼は目障りであり、極右のレッテル貼りで排除の対象となる。
大き過ぎて簡単に排除出来ない団体は共和党のように内部から組織を変質させるのも手である。転向者(ネオコン)を取り込んでいくつもりが逆に取り込まれてしまい、いつの間にかすっかり主導権を奪い取られて乗っ取られるわけだ。共和党は規模が大きいしアメリカ政治において最重要なので、ネルソン・ロックフェラー御自ら乗り込んでフォード政権の副大統領にまでなってしまった。
● 『宝石原石文書』とマフィア主犯説(オナシス主犯説、ランスキー主犯説)
ブルース・ポーター・ロバーツという作家が地下出版した『宝石原石文書』The Gemstone Fileという本について、ヴィクター・ソーン著『次の超大国は中国だとロックフェラーが決めた(上)』では関連本について「第九章 ジェラルド・キャロル著『プロジェクト・シーク―オナシス、ケネディ、そして宝石原石文書』‘Project Seek: Onassis, kennedy and Gemstone Thesis’概観」で主に言及されている。
キャロル・キグリー(キグレー)の『悲劇と希望』の原文と同じで、おそらく『宝石原石文書』関連も全て未邦訳だろうから、私はこの章からしか内容をうかがい知ることは出来ないが、ギリシャの海運王アリストテレス・ソクラテス・オナシス(ほんと凄い名前だなぁ。長いので以下オナシス)の主犯説であり、マフィア主犯説の1種である。
オナシスがマフィアの頭目であるということは公然たる秘密ということで納得出来るのだが、ハワード・ヒューズ誘拐・替え玉・本人麻薬漬け死亡説は、どのぐらいの根拠や信憑性があるのか確かめようもなく判断に苦しむところだ。ほかにもポルノ雑誌「ハスラー」のラリー・フリントが銃撃され半身不随となった本当の理由は、彼が暗殺の真相解明に賞金を出したからだという。
『宝石原石文書』の筋書きは他の大方のマフィア主犯説と同様である。ケネディ兄弟達の父でありアイリッシュ・マフィアであるジョゼフ・パトリック・“ジョー”・ケネディ・シニア(Joseph Patrick “Joe” Kennedy, Sr.、1888年9月6日 – 1969年11月18日)(以下ジョゼフ)が、マフィアの協力によって息子達をホワイトハウスに送り込めた。
ところが当の息子達はマフィアに見返りの約束を果たすどころか、かえって逆に犯罪シンジケートの取締りを強化してきた。当然ながらマフィアにとっては契約反故であり裏切り行為となるから逆上した。キューバ革命によって締め出され麻薬市場やカジノも閉鎖される一方で取り戻されなかった。確かにマフィア連中が激怒しない方が不思議である。
ケネディ暗殺について、政府公式見解であるオズワルド単独犯行説に次いで有力というか、まことしやかに喧伝されたのがマフィア主犯説であろう。オズワルドを殺したジャック・ルビーにしてからがマフィアの一員だし、こういった噂が広まる背景がある。
ジャクリーン・リー・ブービェ・ケネディ・オナシス(Jacqueline Lee Bouvier Kennedy Onassis, 1929年7月28日 – 1994年5月19日)がオナシスと再婚しているということもある。ジャッキーについては暗殺を事前に知っていたかどうか色々な説がある。ソーンは事前に時期以外は知らされていたとしていて、事前にオナシスとヨットで二週間過ごしたといっているが、先生の『ハリウッド映画で読む世界覇権国アメリカ(上)』ではジャッキーが葬式でとった毅然とした態度のことを書いている。ところがそのケネディ家で会葬者の相手をしたのもオナシスだということだ。
そうするとマフィア説も現実味を帯びてくる。シカゴのアル・カポネやラスベガスを作ったバグジー・シーゲル、アメリカのイタリア系マフィア最大の大物であるラッキー・ルチアーノなどは強制送還先のイタリアにてケネディ暗殺の前に死亡しているので名前は挙がらないが、サム・ジアンカーナ(ジュディス・エクスナーはJFKと彼の愛人)、ジミー・ホッファ、サントス・トラフィカンテ、カルロス・マルチェロ(マルセロ)、ミッキー・コーエン(マリリン・モンローの自殺偽装に関与?)、ジョニー・ロゼリ(ロッセリ)、チャールズ・ニコレッティ、フランク・コステロなどの大小様々なマフィアの名前が出てくる。
そしてケネディ暗殺コンスピラシーの筆頭はユダヤマフィアの頭目であるマイヤー・ランスキーだ。この人がルチアーノ亡き後、実質上マフィアの頂点だということは分かるのだが、そうだとするとオナシスとランスキーの力関係や上下関係がよく分からない。ランスキーはイスラエル支持派ユダヤ人として骨の髄までジョゼフはじめケネディ一族嫌いだということだ。オナシスはギリシャ人だろうから、共産主義が嫌いだったとしてもイスラエル支持派である理由や動機はないだろう。
ヴィクター・ソーンの一部記述や『宝石原石文書』関係ではマフィア主犯説、もしくはオナシス主犯説なのであるが、ギャリソンや先生はそれを採らない。私も同じである。『宝石原石文書』は事件の一側面を突いているものの、いくら世界の海運王とはいってもオナシスのような外国人扱いの人物が「最高意思決定者」ではケネディ暗殺は無理がある。
オナシスやランスキーにしても、その他のマフィアにも動機がいっぱいあるが、金銭支援や人員提供などして暗殺実行や隠蔽工作などに関わっていたマフィア達は事前従犯というところだろう。従犯といっても別に嫌々ながらに犯行に加わったというわけではない。なにしろ裏切り者であるどころかマフィアの天敵と化したケネディ兄弟の排除を本心から望んでいるのだから、政府や財界人たちの「決定」には諸手をあげて賛成し協力を惜しまないことだろう。
しかし「意思決定」に従う者達を主犯とは呼ばない。それでもマフィア主犯説のなかでランスキー主犯説はもっとも説得力があるものだが、ただ1人の主犯であるということはないだろう。主犯仲間のマフィア側総元締め・最高幹部に相当する、といったところが実情ではないのか。事前に知っていて参加しないという立場もある。暗殺賛成派であれば止める必要もないしただ傍観していればいい。誰かが反対派であってもどうせ止める術はなかっただろうが。
さて映画『JFK』※後半で、裁判前の地方検事局会議における意見対立の模様が描かれている。もちろん観客の理解のために作っているという前提の上で、マフィア主犯説についての理解の補助としたいので、その場面を少々紹介する。
FBI職員ウィリアム・ウォルターという人物に関連する警告文書コピーと組織的証拠隠滅についての反論シーンから。※私が持っているディレクターズカットの特別編集版DVDの字幕を参考にして私が台詞を書いています。
ビル・ブロザード「……私はその説を買えませんねチーフ。なぜFBIが隠蔽を? この国のFBI全支局でテレックスを破棄した?」
ジム・ギャリソン「ある単語のせいだよビル。命令、さ」
スージー・コックス「そして揉み消しよ。Jesus, Bill! あなたはまだFBI共謀の証拠が十分でないというの?」
ビル「私は国家機関に敬意を払っているだけだ!」
スージー「My god!」
ルー・アイヴォン「それを言う必要があるか」
ビル「どうやって共謀関係が続けられると言うのか、マフィアやCIAやFBIや軍情報部の間で。この12人の間ですら秘密を保てないというのに? 至るところで情報漏洩だ。おれたちはここで裁判にかけている、全員でだ! それで一体、本当に何かを得られたか? オズワルドもルビーもバニスターも、そしてフェリーも死んだ。ショーは多分エージェントだろう、私には分からないが。しかし既にホモだと公開され非難脅迫されている」
ギャリソン「ショーは足掛かりだ、彼がちょうど合うかは気にしていない。だが彼はウソをついてる。そこを逃がしてはいけない」
ビル「それだけの理由でクレイ・ショーを裁判にかけるのですか? 負けにいくようなもんです。それよりはニューオーリンズの地元マフィアを調べねばなりません。政府説よりも買えますよ。ルビーはマフィアであり、オズワルドも知っていたから彼が手配した。ホッファ、トラフィカンテ、マルチェロらの銃を借りて、ケネディ暗殺に使われた。政府は全体が複雑で厄介な問題を公開されたくない、なぜならカストロ暗殺作戦の時にも、当局がマフィアを使った経験があるから。マフィアを使ったカストロ暗殺は一般大衆に野蛮と映る。だからJFK調査の本は閉じられる。これで完全に筋が通ります」
ギャリソン「私はマフィアが低い段階で関与していることは疑っていない」
ビル「Oh, come on!」
ギャリソン「マフィアはルート変更ができるか、ビル? テキサスで大統領の護衛を除外できるかな? マフィアはオズワルドをソ連へ送り、その上で彼を取り戻せるか? CIAやFBIやダラス警察の捜査をかき回して台無しにできる? ウォーレン委員会の顔ぶれを隠蔽のために任命できるか? 検死の工作は? 全国のマスコミを操作して彼等を眠らせることもできる? マフィアはあの距離で38口径を使うか? マフィアにはそんな度胸も力もない。暗殺者には報酬が必要だ。スケジュール、時間、命令系統。これはすべて軍隊式の手順だ。これはクーデターだよ。リンドン・ジョンソンの……」
ビル「するとリンドン・ジョンソンの陰謀? 現合衆国大統領の?」
ギャリソン「ジョンソンは彼の友人、ブラウンとルートのためにテキサスの建設会社に10億の特需発注。さらにヴェトナムでカムラン湾の浚渫工事だ」
ビル「ボス! ボス!! まさかあなたは大統領を殺人者と呼んでいるのですか?」
ギャリソン「違うのか? 私が真実から程遠いところにいるのならば、なぜFBIが盗聴してくる? なぜ目撃者たちがカネを与えられて追い払われるか殺された? なぜ我々の召喚令状と送還を妨害してくる?」
ビル「私には、私には分かりません。おそらく政府には、何か事情があるんでしょう」
ヌーマ・バーテル「Oh, come on!」
ギャリソン「完全な隠蔽が必要なほどに? シェークスピアを読んだことがあるかビル?」
ビル「……えぇ。ありますよ」
ギャリソン「ジュリアス・シーザーは? ブルータスとカシウス、彼等も立派な人物だった。誰がシーザーを殺した? 10人から12人の元老院議員。全てそれを1人のユダがしたことにされるんだよビル。一般人に紛れての内部犯行だ、国防総省かCIAのな」
ビル「ここはルイジアナですよチーフ! あなたは自分の父親が誰であるかを、どうやって知り得ますか? 母親がそう言ったからから。あなたは風で飛んでいるゴミを掴んでいるんですよボス。私はもうついて行けません!!」
● トリーズンに見せかけたレジサイド
前述のシーンよりも少し前に出てくる特殊戦略局長のX大佐はフレッチャー・プラウティという実在の人物がモデルらしいが、実際にギャリソンとプラウティが会ったのはクレイ・ショー裁判の後だということだから、裁判前にギャリソンに真実の一端を伝えて励ましたというのは完全な脚色だろう。1対1の会話と追想場面とは思えないほどの長丁場のシーンであり、映画中盤の盛り上げどころの1つである。
ウィキペディアを見るとプラウティは、フランクリン・デラノ・ルーズヴェルト大統領はウィンストン・チャーチルに毒殺されたのだと主張したんだとか。私には、いまいち動機がピンと来ないものの、有り得るのか。FDRを暗殺したところで大英帝国の凋落を食い止められるわけではないと思うのだが。
それで、このミスターXとギャリソンの会話からも、現代日本人にとって重要なことを教えてくれる。
ギャリソン「私には信じられない……。彼等が政策を変えたいがために大統領を殺したとは、とても信じることが出来ない。この時代の、この国で?」
X大佐「それらは歴史上、ずっと繰り返されてきたんだよ。王は殺される。ギャリソンさん、政治は権力、それ以上ではない! ……私の言葉を鵜呑みにせず、あなた自身で考えてみればいい」
ここで王殺しの話が出てくる。レジサイド(regicide)である。これは日本人にはあまり馴染みのない概念である。ギャリソンもシーザー殺しを引き合いに出した。
私も英語が駄目なので自分なりの理解・認識を述べるまでだが、明治維新以降の天皇に対する大逆罪、トリーズン(treason)を連想してしまうと、かえって理解しにくいだろうということだ。あれらは単純に一般大衆の中から湧き上がった思想的・反体制的なものであって、王朝権力の本格的な交代を目指すものではないからだ。レジサイドは政治謀略の一環である。ミスターXの言うとおり、政治権力闘争こそがその本質である。
庶民単位で衝動的・偶発的なテロや殺傷行為で王殺しが成功(そんなことが本当にあるとすれば)だった場合は、大逆罪や国家反逆罪に相当するので単純なトリーズンである。例え殺害に成功したところで本人が王に取って代われるわけではなく、処刑されるかその場で殺される(決闘などは例外的事例)。
オズワルドは裁判にかかることなく殺された。オズワルドがケネディを殺したからといって、かわりに自分が大統領に就任出来るわけではない。だから頭がおかしい単独犯ということにされたのだ。
先のルーズヴェルトは「政治の世界では、偶然に起こることなど一つもない。何かが起これば、それは間違いなくそうなるように予め計画されていたからである」と言っているが、だからこそ偶然の成功は装われる。トリーズンの汚名を着せられるのは1人でいい。
一番都合がいいのは敵対勢力の思想に汚染されているものの操られてはいない孤独で被害妄想に囚われた単独犯である。ソ連やキューバに操られていたことにしたら、本当に復讐戦争をしなければならない状況に追い込まれる。既にヴェトナムと戦争をしているのだから、多方面での本格的な開戦は望ましくない。
憎むべき敵の思想を大衆に警戒させ、憎悪を掻き立てた上で別(ヴェトナム)にぶつけられればそれでいい。だからオズワルドの親友であり支援者であるアメリカ白系ロシア人社交界のジョージ・デ・モーレンシルト等は真実を話す前に消された。背後関係が明るみに出てくると困る人達が大勢いるのである。
レジサイドといえば日本で卑近な例だと孝明天皇父子弑逆事件の方がすり替え・入れ替わりでの成り代わりだから秘密裏に実行されたレジサイドによる王朝交代の成功例だ。だからトリーズンではない。というよりも結果的に「ならなかった」。日本では成功した弑逆事件など決して「有ってはならないこと」なので、実際に起こると「無かったこと」にされる。古代から南北朝を経て現在に至るまで、結構な頻度で簒奪と血統断絶が起こっているのだが、すり替えと種違いでずっとごまかしてきた。トリーズンさえ「無かったこと」にされたレジサイドの隠された汚らしい歴史だ。表面上はいつも平静を装っている。 ……やはり日本の歴史的事例を出すと、分かりにくいな。なにせごまかし放題なもんだから、理解混乱の原因となる。
反乱、反逆という結果だけ見るとトリーズンもレジサイドも同じである。言葉の使い方として違うのは法用語と現象となるだろうが、もっと重要な本質的な点は過程であり、実行に至るまでの勢力関係などの背景や目的・動機から分かってくる。
レジサイドの本質は王朝交代目的のクーデターである。トリーズンは目的達成に成功しても失敗してもトリーズン(反乱罪・大逆罪と、その未遂罪)だが、レジサイドは目的達成に成功すればもはや公式にはレジサイドとは呼ばれない(未遂と正式に発覚すれば反乱未遂、大逆未遂であるが)。もちろん、少数意見の真実追求派は公然とレジサイドであると断定はするけれども。
大成功すればフランス革命のように革命と呼ばれたりする。ただしこれは君主制の国における国王処刑の話だから、本当に正真正銘の「革命」「レヴォリューション」(Revolution)だ。フランス革命やロシア革命だって、政治体制の根本的「変革」があるとはいえ、フランス・クーデターやロシア・クーデターと呼ぼうと思えば呼べるのである。
どちらにせよ民衆暴動による「反乱」であり「政変」なのだから。現在のその国の国民がどう考え、どう捉え受け止めているかにより呼び方・呼ばれ方も異なるのだ。明治「維新」だって徳川幕藩体制支配からすれば「クーデター」の一種だが、王政復古だから国民がそう呼ばないということである。
中国歴代帝国の皇帝と「易姓革命」は、西洋世界の「レヴォリューション」とは違う概念であるということは日本人にもだいぶ分かってきただろう。漢字の「革命」の本義は天からの命令である天命が革まるということであり、皇統の交代によって苗字と国名が変わる。まぁ政治権力闘争という点では西洋世界における「レヴォリューション」と共通しているが、天命を受け継ぐのであるから政治の本質は不変。当然似たような支配が続くので、根本的な政治体制の「変革」ではない。
そしてご存知日本では、天皇の徳が失われるとか、天の神からの天命が変わったりするとかいう概念が元々無い(日本建国時、日本の天皇支配体制確立において都合が悪いところは取捨選択して、中国の真似・導入をしなかった部分である)。なので「易姓革命」はないし、天皇には苗字も必要ない。国名も「倭」という中国からの呼び名を脱して建国時に「日本」と決定してからは、ずっと変わらない。日本には中国の語義での「革命」もなければ自発的な「レヴォリューション」もなく、権力闘争の勝敗結果という各時代があっただけである。
アメリカの話に戻すと、共和制であるアメリカ合衆国のケネディ大統領が国民に選ばれた「国王」だというのは政治の本質を取り出そうとした一種の比喩である。本当に反乱軍を率いてリンドン・ジョンソン副大統領がクーデターを起こしてアメリカ王国の国王に戴冠されたわけではないし、当然ながらそれはアメリカ建国の理念に反するから国民が許さない。
だから「隠れ政変」「隠れクーデター」「隠れ反乱」によって単独犯のトリーズンに見せかけた「隠れレジサイド(王殺し)」が極秘裏に実行されたのである。「隠れ革命」とか「隠れ維新」とか「隠れ変革」などとは呼べないだろう。民衆の総意による変革行動が起きたわけではないし、法形式上の大統領権限継承が行われ憲法が停止したわけでもないが、上向きな要素が含まれてもいないからだ。
以前のパキスタンでムシャラフが起こした軍事クーデターのような、内外から公式に認識されている反乱、政変ではないというところが分かりにくいところだ。アメリカのこういうところは、かえって日本の天皇に似ているかも。計画的レジサイド、クーデターは、民主国アメリカには「有ってはならない」から「単独犯行」として表面上の政治は進行する。
ギャリソンの台詞から読み取れるように、マフィアが世界覇権国のレジサイド(王殺し)を「最高意思決定」出来るとは思えない。率直に私もそう感じる。例え海運王オナシスやルチアーノの後継者ランスキーといったマフィア最高幹部であっても、政治的に高度な協力者としての立場であろう。実行者を人員提供したとしても主犯、真犯人とは呼べない。もちろん積極的に「事前従犯としての関与」をしているマフィアがあったのだろう。
そして恐らくリンドン・ジョンソン副大統領は、リチャード・ニクソン同様の「事後従犯」であるか、そうでなければ「事前従犯として重要な役割を演ずる1人」だったんだろうと私は判断している。彼が「最高意思決定者」であるわけがないと思う。真犯人、主犯とはいえない。確かに「共謀共同正犯」であると言われればそれまでだが。それでも「正犯」といえるほどの本当の「上」ではない。「雲上の財閥」のお方達のご意向を伺う立場であろう。
ジョンソン個人だけの話ではなく、マフィアの連中が「許可」なく暴走して「勝手」に大統領を殺したりしたら、政府・官庁も軍も本格的に許さないはずだ。たとえ結果的に都合が良かったとしても、自分達の最高意思決定と計画に関係なくして、突如としてマフィアごとき部外者に大統領が殺されるなどという不測の事態によって国の根幹が揺らぐということはあってはならないからだ。
不測の事態こそ計画者の最も嫌う事態である。そんなことになれば、いくら自分達に都合のいいことをしてくれた者達であったとしたって、徹底的に捜査して実行したマフィアを突き止めてこれを全滅するであろう。何の遠慮も要らない。マフィアには世界覇権国のレジサイド(王殺し)を主導することなど出来ない。
ギャリソンの『JFK―ケネディ暗殺犯を追え』の「20 見せかけの"スポンサー"たち」から、クーデターの定義に関する彼の見解と前後の文章を引用する。
(佐藤裕一による引用始め)
しかし、ケネディ大統領暗殺事件とその事件のもつ意味に対する私の興味は、今も衰えてはいない。政府の見解を疑問視する人々は次々と新しい証拠を掘り起こしたが、アメリカ合衆国政府はそれらを無視している。私自身から見てもっとも意味ぶかい事態の展開は、まず、検死の際にケネディ大統領の遺体からもう一つの銃弾が発見されていたことが遅ればせながらわかったこと、ケネディ大統領の脳がどこかに持ち去られたことが判明したこと、それに、クレイ・ショーがCIAのエージェントであったことをヴィクター・マーチェッティとリチャード・ヘルムズが認めたことである(18章参照)。
一九七八年から七九年にかけて、下院暗殺調査特別委員会は審議会を開き、死に体のウォーレン委員会報告に息を吹き込もうと努めるうちに、ケネディは「おそらく陰謀の結果、暗殺されたのであろう」という結論に到達した。下院委員会は、解散する前に、司法省に捜査を再開することを考慮するよう要請し、新たに判明した手掛かりを詳述した秘密報告を提出した。だが、その要請があったにもかかわらず、その後一〇年、何の動きも見られない。
ケネディ大統領暗殺事件以降、国民の意識は大きく変化した。私たちは多くのことを経験した。たとえば、マーチー・ルーサー・キング牧師、ロバート・ケネディ、マルコムXが暗殺された。大統領候補ジョージ・ウォーラス、ジェラルド・フォード大統領、ロナルド・レーガン大統領に対する暗殺未遂事件があった。私たちは九年間にわたってヴェトナム戦争という悪夢を経験し、ウォーターゲート事件によって衝撃を受けた。一九七〇年代にはCIAに関して多くの事実が暴露され、さらに時代を下ってはイラン・コントラ事件が発生した。異常なできごとが次々と発生したため、アメリカ国民はのんびりと構えてなどいられなくなった。
今日、新たな情報をもとに考察すれば、ケネディ大統領の身に起こったこと、そしてその原因を、かなり正確に推測することができる。一九六三年一一月二二日にダラスのディーリー・プラザで起こったことはクーデターだったと私は信じている。それを計画し扇動したのは、アメリカ合衆国の情報コミュニティのなかの狂信的反共主義者たちだったと信じている。そして、公式の承認なしにそれを遂行したのは、CIAの秘密工作関係の個々人と政府外の協力者であり、隠蔽工作に手を貸したのは、FBI、シークレット・サーヴィス、ダラス警察、軍部の、同じような思想を持つ個々人だった。目的は、ソ連やキューバとのデタントを求め、冷戦に終止符を打とうとしていたケネディ大統領の努力を阻止することだった。
「政府の最高責任者の交代に関して法律や憲法が定めている正式な手続きによることなく、個人あるいはグループが、暴力を用いて、政府の権威の地位を奪取する目的で起こす突発的行動」――それがクーデターである。クーデターを成功させるには、いくつかの要因が不可欠である。スポンサー(クーデターの主謀者)による綿密な計画と準備、"近衛兵団"(大統領をふくめた政府関係者の警護に当たるべき政府職員)、事後の広範にわたる隠蔽工作、権力を引き継いだ新政府による暗殺の追認、マスコミに関わる大組織による偽情報の拡散。これら一連のことがらはどことなく耳になじんでいるような気がするかもしれない。これらはまさしく、ジョン・ケネディの暗殺に関連して惹起されたものだからである。
クーデターが正確にいつ計画され準備されたのかは知らない。ことによると、CIAが次期大統領に関わる一件書類の分析を行なった一九六〇年の終わりという早い時期であったかもしれない。心理的性向を調べたのは大統領の暗殺を計画したからではなかったかもしれないが、その目的はCIA(あるいはその一部)が外交政策を操作しやすくすることであったろう。CIAの冷戦支持派の胸中に暗殺が一つの可能性として浮かんだのは、おそらく、ケネディがデタントに傾き、外交政策を制御する従来の方法が通用しなくなってからのことだったろう。
誰が陰謀の主謀者であったのかもわからない。しかし、暗殺に関連した活動にガイ・バニスターがかなり早い時期から関係していたことはたしかだろう。一九六一年一月、ニューオーリンズのボルトン・フォード販売店から、ピッグズ湾侵攻用のピックアップ・トラック一〇台を買うために、リー・オズワルドになりすましたのは、バニスターが関係していた<民主キューバの友>の男たちだった(4章参照)。一九六三年夏には、バニスターは反カストロ活動に深く関わっていた。ポンチャートレーン湖北岸でのゲリラ訓練もその一つだし、キューバ侵攻にそなえて武器を奪取したことも一つの例である。このころ、バニスターがCIAのために活動していたことは、今さら論じるまでもないだろう。
(中略)
隠蔽工作がみごとに成功したので、次は暗殺の背景を説明する段階になった。リンドン・ジョンソン、J・エドガー・フーヴァー、アール・ウォーレン以下、新政府の要人たちは、クーデターが起こったわけではなく、アメリカの民主主義は傷ついておらず、独り狼の不平分子が無意味で突発的な暴力行為によって大統領を殺したのだというシナリオを支持することが得策だと見てとったのだ。彼らは暗殺を企てた連中のメッセージをもすばやく理解した――つまり、ケネディ時代以前の冷戦外交の再考を求める、強力なコンセンサスがアメリカには存在するというメッセージを。ジョンソン、フーヴァー、ウォーレン、あるいはアレン・ダレスが暗殺を事前に知っていた、または暗殺に加担していたことを示す証拠は存在しない。だが、それらの人々は事件後、幇助者の役割を果たしたのだと断言してもいいと思う。
情報コミュニティのなかの、暗殺には加わっていなかった人々も、クーデターが起こったことを見てとると、ただちに公式見解を支持する動きに出た。そして、選挙によって選ばれた政府高官から各機関や部局の長にいたる多くの人々が、ある場合は保身のために、またある場合はケネディはソ連に対して妥協しすぎたために自ら暗殺を招いたのだと信じて、巨大なフィクションを唱える合唱に加わったのだ。
成功したクーデターというのはそんなものだ。一七世紀初め、イギリスの詩人サー・ジョン・ハリングトンはこう書いている。
裏切りは長続きしない。なぜなら、
長続きしたら、誰もそれを裏切りとは呼ばないからだ。
(佐藤裕一による引用終わり)『JFK―ケネディ暗殺犯を追え』(ジム・ギャリソン著、岩瀬孝雄訳、早川書房刊 ハヤカワ文庫NF、一九九二年二月十五日 発行、一九九二年四月十六日十六 十八刷、409~411、417、418頁から引用。傍点等省略。読み易いように段落ごとに改行)
投稿『JFK』JFK(1991) 4.ファイナル・ジャッジメントに続く。