立法における国民の代表と行法における国民の代表の違い
会員番号4655の佐藤裕一です。
東京新聞ベラルーシ大統領4選 野党抗議デモ強制排除国際(TOKYO Web)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/news/CK2010122002000177.html
ベラルーシ大統領、4選果たす 反体制デモに1万人 – MSN産経ニュース
http://sankei.jp.msn.com/world/europe/101220/erp1012201320010-n1.htm
ベラルーシの大統領選、現職4選確定 国際 YOMIURI ONLINE(読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20101220-OYT1T00512.htm
ベラルーシ大統領選、野党候補9人中7人が拘束か 写真4枚 国際ニュース AFPBB News
http://www.afpbb.com/article/politics/2780180/6600062?utm_source
時事ドットコム:欧州監視団、票集計を批判=野党集会弾圧に非難相次ぐ-ベラルーシ
http://www.jiji.com/jc/c?g=int_30&k=2010122000793
私はあまりベラルーシ共和国の事情に明るくないので、本当に票操作などの不正がなされたのか、どのぐらいの規模の不正だったのか詳細不明ですが、私にも分かるのは大統領などの首長選挙における憲法の多選制限規定を決して改正・廃止してはならないということです。むしろ制限規定がない国は積極的に憲法に導入した方がいいくらいです。
そうでないと毎度おなじみの水掛け論、与野党支持者衝突での暴動や混乱、野党候補の不当拘束による強権発動的な事態収拾、そして結果的に不満が残り慢性的政治不信や恐怖政治に繋がります。暴力革命でないと政権交代が出来ないという不健全な状態に陥ることも懸念されます。そうすると国軍や警察が間にあって勢力を伸ばしたりします。悪循環です。
また、いくら鋭意精査しても不正疑惑なんてそうそう晴れませんし、こういう国の選挙管理委員会や確定を判断する政府の御用裁判所なんて元より国民から信用されていません。今回のベラルーシとアレクサンドル・ルカシェンコ大統領が露呈した現実も、典型的な政治後進国の共和制半独裁国にみられる事例です。
共和制半独裁国というのは、形式上の建前は立憲共和政体を採用していて憲法に則った政治を行っているように見せ掛けながら、実質上は強権的な専制政治体制を維持して独裁体制を敷いている国のことです。半分は一応民主国です。だからまぁほとんど独裁の共和制イスラム教国(イラン除く)なども数えていけば、かなり多い政治体制でしょうかね。
憲法を停止したり廃止したりするともはや完全独裁ですが、それをするとあえて国内だけでなく国際的批判までをもわざわざ率先して浴びるようなものです。ペルー共和国のアルベルト・フジモリ元大統領なんかがそうですね。彼は政治姿勢や手法が正直過ぎたのかも。
有名な共和制半独裁国を現在世界の例で挙げると、ジンバブエ共和国のロバート・ムガベ大統領やエジプト・アラブ共和国のムハンマド・ムバーラク大統領、ベネズエラ・ボリバル共和国のウゴ・チャベス大統領、カザフスタン共和国のヌルスルタン・ナザルバエフ終身大統領など。度合いの差こそあれ、掃いて捨てるほどあります。
ジンバブエなどは凄まじいハイパーインフレとデノミネーションのイタチごっこにみられるように極端に経済が破綻していますが、半独裁国のなかには強権的な手腕の発揮による経済政策と国家目標の設置によって経済発展を成し遂げる国もあります。それが政情不安を起こさない免罪符というか、現行の政治体制を国民が受け入れることと引き換えのようになっているのです。国家の保護を受ける産業政策の推進も開発独裁国の方が指導者が終始一貫した方針を示せるのでやり易いのです。
それにしても冒頭5番目のネット記事、欧州安保協力機構(OSCE)選挙監視団副団長のトカエフ・カザフスタン上院議員による批判などはお笑い種ですね。自分の国には初代から終身大統領が居るのですから。
それから共産主義を捨てたも同然の北朝鮮も、正式国名が朝鮮民主主義人民共和国というくらいですから、金正日国防委員長(朝鮮労働党総書記)も実際上は完全独裁の世襲王朝ですが、形式上は依然として共和制です。今のところは。中華人民共和国は個人ではなく事実上共産党の一党独裁支配体制なので、毛沢東国家主席以後はちょっと個人の独裁や半独裁体制とは違います。でもやはり開発独裁型ですね。
選挙の話に戻りますが、国連や国際的選挙監視団にしたって中立で公正公平なのかというと、実態は怪しいものです。なので最初から複数回当選している人物の立候補自体を制限すべきなのです。不正工作で自分の後継者や子供などの親族を大統領職につけることもあるでしょうが、現職が何十年も続く半独裁状態よりは幾分マシであることは明白です。
副大統領・副首長から昇格した場合などの規定も含め憲法条文の具体例は様々ですが、だいたい2回選出(大統領だと約2期8~10年ほどの任期)されたらもう強制的に禁止すべきです。さすがにフィリピンや大韓民国のような1回選出・1期のみは、ちょっと少な過ぎる気がします。当選したらもういいやで、任期中の再選に向けての国民向け努力というものがなくなってしまうからです。
もっとはっきり踏み込んで書くと、「3選禁止規定」が素晴らしいのです。「連続3選禁止規定」は中途半端で、ロシアのプーチン首相みたいなのが操り人形を一旦大統領にして院政を敷き、虎視眈々と復権を狙うことになります。もちろんメドヴェージェフ大統領は単純な傀儡というほどではないでしょうけれども。
ここで注意ですが、多選制限は行法府(法を執行する機関。「行政」という日本語には「法」を行うという観点が抜けている)の大統領選挙や地方公共団体などの首長選挙において適用すべきこととして書いています。立法府の議員選挙については逆であり、多選制限すべきではありません。全て有権者国民の投票意思(民意)に任せるべきです。
同じデモクラシー・代議制民主政体国の国民の代表でありながら何故違うかというと、立法府の議員は複数で議会を構成していますので政治権力の度合いも分散されており、その実力差は先生が仰せのように何票集める力が各人にあるかどうかということであります。
しかし行法府における国民の代表は共和国の場合、基本的に国家元首・統治者・最高指揮監督権者である大統領は常に1人なので、当然に強大権力が集中しますから憲法条文という法規で掣肘して強制的にバランスをとるのです。これにより政党選択は国民の意思であっても、人物単位では必ず政権交代がなされます。英雄だから何十年でも生きている限り支配者であってほしいというのは政治後進国です。
なお日本国は立憲君主制であり、内閣総理大臣(首相)は議院内閣制、首班指名は国会議員間の互選なので、憲法を改正して首相公選制度(国民による直接選挙)を導入・実施しない限りはあまり関係ありません。
日本の問題点は「政党」の政権交代が健全に定着していないということであり、多選制限するまでもなく細切れに「首相」の交代はしていますので、この点は問題ないといえます。議会での投票選出という衆人環視で、議員総数や投票総数、定数も決まっていて国民より少ないわけで不正もしにくいので、そこが議院内閣制による首班指名の数少ない利点ですね。ヴァチカン市国のローマ法王と似たような選出方法です。立候補なくして互選ですからね。首相の方は別段完全な秘密投票というわけではありませんが。
他国の政治制度がもたらす混乱も、自国の政治制度との比較により学ぶべきところは沢山あるということです。