共通感覚論

会員番号4655 佐藤裕一 投稿日:2010/12/31 09:19

 李漢栄さんへ

 会員番号4655の佐藤裕一です。

 李さんのブログサイト『異端医師の独り言』におかれましては、身に余る叱咤激励の「応援プレッシャー」を与えて下さいまして、誠にありがとうございます。これからは全てにおいて危機意識を持って臨まなければならないと強く自戒する次第であります。現時点の私には来年の抱負を述べる資格すらもなく、一から精進して参る所存でございます。

 李さんが翻訳された学術論文等を掲載されていますが、私の最大の敵であり克服課題は2つありまして、1つは「睡眠欲」です。どうしても「睡眠欲」に勝てないのです。例えば、李さんに返礼投稿の文章を即座に書くべきだったのですが、眠ってしまうと平気で十数時間眠れます。下手すると丸一日眠っていられます。もう1つは「集中力」のなさです。私は分散思考型、拡散思考型のようです。これが遅筆に繋がっているのでしょう。

 李さんが挙げられた『パラレルワールド』、『エレガントな宇宙』、『宇宙を織りなすもの・上下』は早速に自作の「将来的には読みたい本のリスト」に加えました。私は既に『宇宙論の超トリック 暗黒物質の正体『現代物理の死角』復刻補強版』を読んだ後ということになるので、比較読みをしたいと思います。

 ただ私は遅筆でありますが遅読でもありまして、速読や飛ばし読みが出来ません。「将来的には読みたいの本」がそれはもう凄まじい数になっています。それも私は外国語文献が読めないので、日本語著作物に限っての話です。考えるだけで茫然自失となってしまいます。「おいおい、まだ読んでないのかよ」「これも読んでなかっのか!」という本がリストに沢山並んでいます。

 なので[118]のランキングではありませんが、やはり読書にも優先順位をつけなければいけないと考えています。普通に本棚や押入れに収まる本の様子を眺めると、本当に情けない感情に囚われます。私には菊地研一郎さんのような芸当は到底不可能です。諦めをつけました。

 もはや私は、本当に優れた名著・大著しか読んでいる場合ではありません。それでも駄作・駄本の類には、精神状態が不安定になっている時に自分を安心させる作用があります。経済学者の故・森嶋通夫の言であり、故・小室直樹先生が紹介した「無能教授の効用」は講義だけではなく本であっても言えます。

 これの反対がいわば「有能教授の副作用」で、あんまり素晴らしい本を読んでしまうと自分の駄目さ加減が自分の中で際立ってしまい、絶望的な気分になってくることもあります。しかしそんなことは言っていられません。前進しなければならないのですから。

 さて、李さんが宇宙論の本を読んで、正直な感想で「読めば読むほど、訳が分からなくなり」となるのは、もっともなことかと存じます。私もそうです。

 李さんは専門分野である「医学」「医療」において確固とした自論・自説をお持ちでしょうし、学界内・業界内の様々な対立のことも把握していらっしゃるでしょう。世の中の大多数の、騙されまくる患者達や騙しまくる医師のことを知っておいでです。玄人が「苦労」しても、素人はなかなか「知ろうと」しない人達です。医師も頑固なら患者も頑迷、両者動かしがたし、というところでしょうか。

 どうしても玄人・専門家以外の素人・門外漢には全然分からない、伝えようとしても伝わらないことがあります。医療や宇宙に関わらず、どの分野でもそうなのでしょう。

 副島隆彦先生は玄人・専門家の抱える嘘や欺瞞を暴露してまわる「暴き系」です。先生自身は法学者ですから法関係分野では山口宏弁護士と共に玄人・専門家側からの実態暴露ですが、他では素人・門外漢側からの真実追及派ということになります。その際に玄人・専門家側にも人騙しに憤慨する少数派のかたがいらっしゃって、協力しあうこともあります。

 コンノケンイチさんの『宇宙論の超トリック 暗黒物質の正体『現代物理の死角』復刻補強版』では先生が後ろから協力する形となっています。医学・医療関係では協力暴露が立ち消えになった経緯があるそうです。学問道場にも「近代医学・医療掲示板」がありますね。人騙しを暴いてしまうと商売に差し障りがありますから、一気に敵が増えることになります。

 李さんが「常識とは?」という率直な疑問を抱くのも、まさしく当然だと思います。

 私は普段、自分の文章において「常識」という言葉をほとんど使わないことにしています。当掲示板への書き込み文章でも、私の投稿では引用文や転載文以外において「常識」はほぼ出てこないはずです。書き言葉としてだけではなく、日常会話においてもあまり単語自体を言いません。

 日本語の中には沢山の失敗訳語や質の悪い単語がありますが、私はこの「常識」という言葉も劣悪な部類に入ると判断しています。

 日本語の「常識」という言葉は「常に意識されるもの」「常に認識されている」というような仏教用語もどきの語義ではなく、その実「常に識者に騙されている」という語義で、「常識者」は「常に識者に騙されている者」のことではないかと思います。

 アンブローズ・ビアス(Ambrose Gwinnett Bierce)の『悪魔の辞典』(The Devil’s Dictionary)には、二語にわたるせいか「Common sense」の項目はありませんでした。なので私が『悪魔の辞典』風に真似て書くとすると、以下のようになります。

 

COMMON SENSE 【常識】 玄人・専門家の騙し加減と素人・門外漢の騙され具合が安定して一致している状態。知識・情報市場における需要と供給の均衡点。なお、玄人・専門家自身も騙されていたり、むりやり自己暗示にかかって頭から正しいと思い込んでいる場合もある。

 

 私が持っている『悪魔の辞典』(アンブローズ・ビアス著、奥田俊介、倉本護、猪狩博訳、角川文庫、昭和五十年四月十日 初版発行、昭和五十八年七月三十日 十九版発行)は、かなり古い方ですが重宝していますが、この文章を打っている際に手と本の上に淹れたてのコーヒーをこぼしてしまいました。

 A・ビアス風の皮肉っぽくするとこうなるのですが、真面目に書くと副島先生が著作物で言及されることがありますが、「Common sense」は「常識」ではなく「共通感覚」が訳として適しているのでしょう。未読ですが中村雄二郎さんというかたが『共通感覚論』と題する本を書いていますね。またはマイケル・オークショット(Michael Oakeshott)による「常識」の定義のように、「ある時代を支配している社会通念の束」でもいいでしょう。

 トマス・ペインの『コモン・センス』は日本語題名がそのままで良かったといえます。もしこれを『常識』などとやっていたら最悪でした。

「それは常識だよ」「そんなことは常識さ」などと言ってみたところで、物事を説明したことにはなりません。「常識」で答えを安易に済ませようとするその姿勢・態度が人生の敗北の始まりなのです。特に学者・研究者は「常識」を知ってはいても根拠にしてはいけません。「トンデモ本」だ「疑似科学」だと、物事を深く考え抜くこともせずに、無根拠のレッテル貼りに終始している人は、自分では何も生み出さない人生の敗北者です。彼等はよき反面教師です。

 ある社会で、あるいは世界全体で、みんなでそうだと思い込んでいる、というだけのことです。それが「常識」の正体であり、「共通感覚」でも「社会通念」でも「固定観念」でも「既成概念」でも「集団幻覚」でも吉本隆明先生風に「共同幻想」であるとも表現出来ます。

 みんながみんな信じ込んでいて間違い、全員がものの見事に騙されるということが、大いに有り得るのだ、ということなのです。「常識」に安心しきることはかえって危険であることもあります。

 医療・医学と宇宙論・宇宙物理学の違いは、医学は実験・経験・体験学問なので、実際どうなのかということが結果として分かるということです。なにしろ人体のことですから、いくらごまかそうとしても段々分かってきます。

 対して宇宙論が正しいか間違っているかは、実体験しようとしてもどうしようもありません。今現在自分も宇宙の中にいるということは分かっていても、それによって宇宙全体がどういう構造になっているのか、宇宙の起源はいつどうなって起こったのか、宇宙の果ては? ということなど、外宇宙に行ける技術が完成しているわけでもなし、体では体験しようがないのです。空想するしかありません。

 だから李さんや私のような、宇宙論関係の素人・門外漢のとるべき姿勢・態度としては、まず「常識」を疑うべきだということです。もちろん片一方の「非常識」に簡単に飛びついて信じたりもしない。「常」に注意深く疑ってかかるのです。

 そうすると、いろいろと思考が明瞭になってくることがあります。

 例えば、私はコンノケンイチさんの『宇宙論の超トリック 暗黒物質の正体『現代物理の死角』復刻補強版』は物凄いし素晴らしいと思いますが、コンノさんの自論自説が正しいとは私にはまだ断定・言い切りは出来ません。しかし「定説がおかしい」ことはかなりの程度で分かってきます。ということは一から考え直すべきだ、となるわけです。どちらを信じる・信じないの前に疑いを、ということです。

 宇宙論とは違って、人間の行為が争点である「人類月面着陸の有無」の方は、それこそ「Common sense」が大事でしょう。時代のなかでの人生で体得した知識・経験を総動員した「共通感覚」で、想像力を働かせれば分かってくることがあります。何十年も前の人類が持つ技術で、生きた人間が何度も月に行って往復して帰ってこれるかどうか。何故、2010年もの現代においてサッサと月に行かないのか、あぶく銭のような予算を日本からふんだくっておきながら莫大な予算がかかるから? この何十年かで進歩しているはずの人類から「失われた技術」とはどれほどのものか。

 李漢栄さん、来年も良いお年を!

 

異端医師の独り言
http://blog.livedoor.jp/leeshounann/

異端医師の独り言 【愛読有料サイト】 から転載 2010年12月29日10:27
http://blog.livedoor.jp/leeshounann/archives/51781866.html

 

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