覇権アメの読み方。通読するより、TPOに応じて拾い読みするのが賢い。例えば、トランプの高関税政策は、今や、合衆国の古典的政策である。

伊藤 投稿日:2025/08/22 18:39

1) 伊藤睦月です。本日は、2025年8月22日です。これまで覇権アメを手掛かりに、私なりのウンチクを披露してきた。凡庸なことは承知の上。さて、残りの章をどう読むか。

2)最初からザクザク読んでいくのも一法だが、かつての私のように、情報の洪水に溺れる人も多いと思う。

3)私が実践し、オススメの読み方は、TPO(自分の問題意識)に応じて該当部分を拾い読みする。一度通読したらそのままにしないで、ときどき本書を開き、辞書のように、読んでみること。どの部分を読むかは、注意深く記述している「小見出し」をとっかかりにすればよい。頭の負担もそれほどでもないし、自分の知見を高かめることができる。ただし、そうやって得た知見を他人に披露するのは、ちょっと考えた方が、良いかもしれない。

4)つまりは、覇権アメを「古典」のように読む、ということである。各記述は時代の制約下(1990年後半)にあることは否めないが、それは、どの古典も同様だ。

5)例えば、こういう記述がある。第3章から。

(引用開始)この立場(1980年代にネオリベラル派が唱えた、「産業政策論」のこと)は、外交面においては、アメリカの利益を積極的に追求する、エコのグローバリズム(経済覇権主義)の立場にたつ。・・・(中略)

6)彼ら(アメリカの大企業の大労働組合の幹部)の立場では、アメリカの労働者の生活を守るためには、外国の企業に厳しく課税してほしいし、アメリカの国内企業を倒産の危機から守ってほしい。

7)アイソレーションスト(保守派)のバットブキャナンは、すでにはっきりと、「アメリカは保護貿易(国内産業保護政策)に転じるべきだ」「アメリカは、覇権国(世界帝国)意識を棄てなければならない」とまで言っている。

8)ブキャナンとは犬猿の仲ながら、ネオ・コン派(民主党から共和党に転じた集団)のエドワード・ルトワックも『アメリカ衰退論』のなかで、「このまま行けばアメリカはもっともっとダメになり、まるで第三世界の都市のような荒れすさんだ国になる」と書いた。

9)民主党ネオリベラル派内からも、ロバート・カトナーが『自由放任経済の終わり』(1991年)を書いて、「もはやアメリカは自由貿易を言っている余裕などない。アメリカは管理貿易体制に移行して、輸入品に高関税をかけねばならない。

10)ヨーロッパや日本という国々は、もともとが自由貿易国家でなくて、重商主義(mercantilism マーカンティリズム、はく奪経済)国家なのであり、自分たちのことしか考えていない連中だから、アメリカが気前よく市場を開放しておくとどこまでも入り込んできて、勝手に商売をやってアメリカの富を盗んでいく」と言っている。これは明らかに、プロテクショニズム(保護貿易論)である。(引用終わり:覇権アメ144P-146P)

11)伊藤睦月です。トランプは1980年代に、民主党支持のニューヨーク財界人(不動産事業)としてビジネスキャリアを始めた人である。このころ、日本は、バブルにおごって、米国の不動産を買いまくった。若きトランプには、そのときのことが、しっかりと刷り込まれている、と思う。高関税政策は、半世紀前から、共和・民主共通のいわば挙国一致の「産業政策」のひとつ、であった。

12) ところで、今回の関税交渉の担当は、赤沢亮正(あかざわ・りょうせい1960-)である。彼のことはよく知らないが、赤沢は、鳥取の代議士一族の3代目であり、石破茂と臥薪嘗胆をともにした、盟友だそうだ。彼は国土交通省のキャリア官僚時代に米国コーネル大学のMBAをとっている。だから、英語による交渉は得意、そこまでいかなくとも、相手の言っていることや、部下スタッフの英語交渉は理解できている、と思えわれる。(これは意外と重要だと思う)

13)その赤沢が、テレビ(テレ朝)の朝のワイドショーで、「覇権国が貿易のルールを変えようとしている」と、いつものひょうきんな発言にまぎれて、しれっと言い放った。そのとき、一瞬だけど、司会者や他のコメンテーターの空気が明らかに変わった。凍り付いた、といってもよい。みんな本当はわかっているのだ。

(引用開始)日本としては、アメリカから、「言うことをきかないと、輸出させないぞ」「制裁措置(リタリエイションretalition)を発動するぞ」と言われたらどしようもない。日本の官僚たちが、いくら対等のふりをしても(そしてオールドメディアがいくらそのように演出しても:伊藤加筆)結局は、日本はアメリカの言うことをきくしかないのである。50年前の(敗戦のときの)ように、国が焼野原になりたくなかったら。売り手と買い手がケンカしたら、大抵の場合、買い手の勝ちなのだということを知らねばならない。自由貿易体制は日本の生命線である。(引用終わり:覇権アメ146-147p)

伊藤睦月です。これって何年前の文章だろうか。だからこの人の本は繰り返し読まずにはいられない。

以上、小休止

伊藤睦月記