浜矩子:日銀が金利を上げようとしない理由

かたせ2号 投稿日:2022/03/29 17:34

浜矩子の以下の論考を読んで納得した。
円安・インフレになっても日銀は今後も、金利を上げないことに全力を尽くすだろう、と。

1.
浜矩子「拡大する日米金利差 放置すれば日本経済は資金枯渇で『ミイラ化』する」
AERA 2022年1月17日号
https://dot.asahi.com/aera/2022011100008.html?page=1

(引用開始)
ついに正念場がやってきた。年明け早々、円安が急ピッチで進んだ。1月4日の段階で、1ドル=116円台という5年ぶりの安値を付けたのである。

 今後の展開は、実に予断を許さない。円安進行の要因は、日米金利差の拡大観測である。米国の中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)が、金融大緩和モードからの最終的な脱却を急いでいる。本格的な利上げ実施への準備に入っているのである。

 FRBのジェイ・パウエル議長は当初、「物価上昇は一過性だ」と言っていた。だが、いまや、「一過性」は彼の辞書の中から消えた。市場は、FRBの性急過ぎる利上げが、このところの景気拡大に水を差すことを警戒している。だが、パウエル議長の目は足元の景気より、先行きのインフレにはるかに鋭く焦点を合わせている。

 米国が明確に利上げシフトに転じれば、日本は窮地に陥る。日本の金融政策は、いまだに「異次元緩和」の世界にどっぷり漬かり込んだままである。そこから動きようがない。なぜなら、日銀が異次元の世界から帰還するということは、日本でも利上げが始まることを意味する。

 そうなれば、日本国債の利回りも上がり始める。そして、巨大な借金残高を抱える日本政府は、債務返済負担の急膨張に見舞われる。この事態が現実となることは、許されない。日本政府の財政破綻(はたん)が顕在化してしまうからである。この事実を隠蔽するためにこそ、この間の日本銀行は「異次元緩和」と称して、政府のための国債買い取り機関に徹してきたのである。

 かくして日本は利上げが出来ない。だが日米金利差の拡大を放置すれば、日本から資金が流れだす。国内では金利を稼げないジャパンマネーが、日本を見捨てて出稼ぎに行ってしまう。この流れが巨大化すれば、日本経済は資金枯渇でミイラ化する。

 利上げをせずにミイラ化を阻止しようとすれば、金融鎖国に踏み切るしかない。その先には、統制経済化が待っているかもしれない。ご都合主義的に異次元に出かけたりすると、こういうことになる。初夢は悪夢の日本経済だ。そして、この悪夢は正夢であるかもしれない。正月早々、物騒な話で恐縮ながら。
(引用終わり)

2.
浜矩子「利上げ全否定モードの日銀 内憂・外患は待ったなしが濃厚に」
AERA 2022年1月31日号

(引用開始)
前回の本欄で、日銀の金融政策について「ついに正念場がやってきた」と書いた。

 米国の連邦準備制度理事会(FRB)が金融大緩和スタンスを転換し、本格利上げへの準備に入った。それに伴う日米金利格差の拡大観測が、日本からの資金流出と円安進行をもたらした。だが日銀はひたすら利上げ回避を続けなければならない。前回は、この外患深き日銀の姿に着目した。

 ところが、ここにきて日銀を追い込んでいるのは外患だけではなくなった。内憂も深まっている。物価上昇圧力が高まっているからだ。円安と資源高が効いている。2021年12月の企業物価指数は前年同月比8・5%上昇した。企業がこのコスト高にどこまで耐えて、販売価格への転嫁を見送ることができるか。厳しい局面だ。食品業界の中には、既に値上げを予定しているメーカーも出始めている。

 この調子でいけば、ひょっとすると日銀の政策目標である「消費者物価の前年比2%上昇」が実現してしまうかもしれない。日銀がこの目標を掲げたのが13年1月。それから9年が経過している。テコでも動かなかった消費者物価が、ついに動き出す気配を示しているのである。悲願成就の日、近しか。

 だが、この悲願が成就すると、実は大変なことになる。物価目標が達成されたとなれば、日銀は、現在展開中の「異次元緩和」を止めなければならない。2%の物価目標を達成するための異次元緩和なのであれば、これは当然だ。

 その日が来たとき、日銀はどうするつもりなのか。筆者は、異次元緩和が打ち出された当初から、これを考えてきた。日銀による国債の大量購入が、本当に物価目標実現のためなら、ゴールインしたところでの打ち止めが当たり前だ。だが、本当の狙いが国債の買い支えなのであれば、打ち止めはできない。

 現に、1月18日に行われた日銀金融政策決定会合後の記者会見で、黒田東彦総裁は「一時的な物価上昇に対応して金融を引き締めることは全く考えていない」「利上げは議論も全くしていない」と全否定モード一辺倒だった。どこまで、これで切り抜けられるか。内憂も外患も、待ったなし感が濃厚になっている。

浜矩子(はま・のりこ)/1952年東京都生まれ。一橋大学経済学部卒業。前職は三菱総合研究所主席研究員。1990年から98年まで同社初代英国駐在員事務所長としてロンドン勤務。現在は同志社大学大学院教授で、経済動向に関するコメンテイターとして内外メディアに執筆や出演
(引用終わり)