(参考文献)田村康二「“震度7”を生き抜く」より(1/4)

藤村 甲子園 投稿日:2011/03/17 01:55

<書誌事項> (著者)田村康二、(書名)「震度7」を生き抜く、(副題)被災地医師が得た教訓、2005年、祥伝社新書

<著者略歴> 1935年、新潟県生まれ。新潟大学医学部卒業後、同大医学部助教授、山梨医科大学教授を経て、2001年より新潟県長岡市の立川メディカルセンター常勤顧問を務める。生体リズムを病気の予防、健康に生かす「時間医学」の第一人者。(前掲書より)

<前掲書P224~231より>

[生体リズムを生かして復活しよう]

震災に遭うと、ふだんなんとなく暮らしていた「普通の生活」が、いかに大切かを思い知らされる。では、普通の生活とはなんだろうか? 与えられた自然の中で、心と体の調和がとれている暮らしだと思う。つまり、心身のリズムがうまくとれている生活である。だから、普通の生活に戻るには、このリズムをふたたび取り戻すことにある。

私も、ようやく落ち着いてきたのは、地震後一カ月も経ったころだったと実感している。余震もやっと減ってきたころだ。
地震発生時に、ジムのプールで恐怖の体験をした人に聞いた。
「あのときから、またプールに入りましたか?」
「今日、一カ月ぶりに入りました。でも、怖くてすぐにあがりましたよ」
などという悩みを聞く。

近くの長岡操車場跡地には、たくさんの仮設住宅が造られ、まるで一つの街ができたような気がする。
多くの被災者が、リュックサックを肩に私のアパートの前を行き来している。あのとき、幸せな生活を突然奪われた方たちには、なんの落ち度があったわけではない。なのに、なぜ「仮設住宅に入れてホッとし、落ち着きを取り戻してきています」という生活に耐えなければならないのだろうか。

だが、慣れとは怖いもので、人間は一カ月も経てば、新しい生活に順応しはじめる。
昔から「石の上にも三年」というが、いま思えば、私も風土や仕事がまったく違うこの地での生活に馴染むのに三年かかった。このように、人間の体調、つまり身体のリズムが新しい環境に馴染むには一定の時間が必要なのである。

人間は、広い宇宙の中の地球という星で暮らしている。だから、まず地球物理学的な力が「秒・分・週・月・年」という時間を決め、身体はそれにしたがって変動している。

この変動は、リズミカルに変わって「生体リズム」となり、体内にそれを刻む「生体時計」が作られていく。さまざまな時間的周期を持つリズムは、それぞれがいわば小さな波であり、それらが互いに重なり合って大きな波を作り、心身のリズムができあがってくる。このリズムの代表が、約二四時間のリズムである。これを「サーカディアン・リズム(概日リズム)」と呼んでいる。

(以下、次号)