(参考文献)田村康二「“震度7”を生き抜く」より(2/4)

藤村 甲子園 投稿日:2011/03/17 01:53

(承 前)

サーカディアン・リズムは、遺伝的な要素、つまり、持って生まれた「時計遺伝子」と、生まれてから今日に至る「環境」のあいだの互いのせめぎ合いでできている。

まず、身体の細胞のすべてにある時計遺伝子は約二五時間周期である。これを体内時計と言う。

一方、自然環境である対外時計は、太陽の運行で決まってくるが、これは二四時間周期である。これらの内外二つの時計の互いのせめぎ合いで、体には“体の時計”ができてくる。これを「生体時計」(以下、時計とする)と言う。

二つの時計の互いのせめぎ合いの結果、時計の周期は約二四・五時間ほどになるが、この時計の中枢は、脳のほぼ中央に位置する「視交差上核(しこうさじょうかく)」の時計遺伝子の塊の中にある。

この塊に対し、眼から入った光の刺激が伝わると、松果体(しょうかたい)という組織に信号が伝えられ、そこからセロトニンという「時計のホルモン」が分泌されて、全身の時計を調節していく。これが「体調」といわれ、リズムを調節している仕組みである。
「今日は体調が悪い。だんだんと調子が上がってきた。リズムに乗れる」などという言い方を、誰もが日常的にする。つまり、誰もが一定のリズムで自分の体が揺れ動くような気がしている。

こうした人間身体の経時的な変動には、一定の規則性があることが科学的に解明されてきて、これを研究しているのが時間医学である。この医学の成果は、時間的変動の規則性を見つけることで、日ごろの暮らし方に基づく健康法となり(これを私は、生体リズム健康法と提唱している)、さらには病気の予防や診断、治療に使われている。

たとえば、大脳の前頭葉は、主な頭脳活動(発語、気分、思考、言語など)をつかさどる。頭脳活動や精神的な活動は、一日のうちで午前十一時ごろが最高になり、夕方になるにつれてこの活動は低下してくるというリズムがある。

じつは、頭脳活動を数量的に評価するのは難しいのだが、一日のうちで計算能力の速さについての変動を分析すると、このリズムが明らかになる。したがって、朝の時間帯に企画、立案、評価、あるいは家計簿の整理などの頭脳労働をするのが効率的である。

一方、スポーツに不可欠な運動要素である、走る、蹴るなどの働きは、午後四時ごろにピークになる。そのため、この時間に試合をすればベストの試合ができる。つまり、肉体労働は、午後から夕方にかけて行なうようにするのがベストなのだ。

宮本武蔵は『五輪書』という剣の極意書で、拍子(リズム)や度を越す(急所を乗り切る)タイミングの重要さを説いている。かの有名な巌流島での決戦には、このリズムを考えたに違いない。人生、何事をするにもリズムに乗り、タイミングを摑むことが大切である。そうして、うまく調子の波に乗れれば、体調も元に戻り、回復も早まってくる。

(以下、次号)