解放者(Liberator)はロシアかNATOか

もう(1855) 投稿日:2022/03/11 12:03

会員番号1855の「もう」です。いつもは医師としての立場で新型コロナ感染症について投稿をしていますが、今回は元自衛官としてかつて「非友好国」として軍事的対抗を検討していたロシア(ソ連)軍の現在ウクライナ侵攻において見せている状況を考察してみたいと思います。図がある方が解りやすいのでブログ(https://blog.goo.ne.jp/rakitarou)も参照くださると幸いです。

ロシアによるウクライナ侵攻は3週目を迎えて、様々な情報が飛び交っていますが、戦争が終結する見通しは現在の所ありません。また停戦協定についてのロシア・ウクライナ双方の代表による交渉も3回行われましたが平行線の様です。私は普通の生活を送りたいウクライナの庶民にとって何が望ましいかという視点で考えています。ウクライナには4500万人の人口があるとされますが、200万人が既に周辺諸国に避難していると言われます。逆に言えば4300万人以上はウクライナ国内に残って戦争が終わるのを待ち、普通の生活に戻れるのを願っているという事です。戦争が終わるというのは、1「ロシア軍が引き上げる」2「ウクライナが抵抗を止めてロシアに降伏する」のどちらかしかありません。1については、(1)「停戦合意に達する」(2)「ウクライナ軍が勝つ」(3)「NATOがウクライナ軍に加わり、ロシア軍に勝つ。」の3通りが考えられますが、現状(1)はこの3回の交渉をニュースで見る限り困難、(2)は無理、(3)に向けてゼレンスキー大統領や世界経済フォーラム(WEF)の有力者が尽力中です。では何故(2)が無理だと判断したかについて、以下にまとめます。

1) ウクライナ正規軍は機能していないのではないか

田中宙さんが「3/4の国際ニュース解説」で記しておられる様に、私もロシア軍が苦戦しているという報道には違和感を感じます。むしろ「ウクライナ正規軍24万人は殆ど何もしていない」のではないかと私は思います。戦っているのはウクライナ軍の一部として都市に籠ったネオナチの民兵1-2万人だけというのが実態ではないかと感じます。それは以下の点によります。

〇 軍事拠点制圧の様子や志願兵投入
NHKスペシャル3月6日「攻撃は止められるのか(最新報告ロシア軍事侵攻)」では日本にもウクライナ外交官として滞在していて、現在キエフにいる男性が、現状と今後の戦闘について述べていたのですが、「武装市民がゲリラ的に敵の補給など、後方を攪乱するやり方が主体となる。」と驚きの事実を述べていた事です。つまり正規軍同士の戦争はない、と開戦1週目の時点で断言している。第二次大戦の独ソ戦でもパルチザン的な戦いも多くありましたが、主体はソ連軍とドイツ軍の正規軍同士の戦いで雌雄が決しました。しかしウクライナ正規軍は既に壊滅(か初めから戦っていない)と暗に明言したのです。また3月5日にロシア国防省がウクライナ南部のウクライナ軍基地を掌握したNHKニュースを見ると、侵攻するロシア軍に対抗するどころか、すべての車両が整然と基地内に並べられていて、組織的に正規軍として戦闘準備をしていたととても思えない状態です。実際にヘルソン近郊はロシア軍に掌握されたと西側でも報道されていますから、この画像が本当であればウクライナ正規軍は無抵抗で基地を明け渡したと考えられます。また細菌兵器研究施設があったスネーク島の守備隊員はロシア軍の攻撃で全員死亡とされていたものの、全員捕虜となって無事で施設はロシア軍に破壊されたとCNNでも報道されました。
ゼレンスキー大統領は世界からウクライナ軍に志願兵を積極的に募集、懲役刑の囚人を前線に投入するといった政策を表明しています。日本では軍歴があり、軍の運用について理解できる人は自衛隊経験者しかいないので仕方ありませんが、「訓練されていない素人」ほど正規軍の活動で役に立たない者はありません。また中途半端に軍歴がある志願したゲリラなど、統制された組織行動ができず、自己判断で行動されては正規軍の足手まといであり、全てを台無しにしかねません。戦争は外交の一形態という基本があり、感情で行動されるのが最もダメな軍の運用なのです。
民間人を避難させる回廊を作って、休戦という取り決めが守られないのは、指揮系統がない民兵が戦闘を行っているからであり、現場で中央からの統制された指揮系統がなければ「今攻撃しても良いかどうか」は自己判断するほかないので当然停戦など守られない事になります。無知な日本のメディアは不可能でしょうが、それくらい軍の運用を理解している海外メディアは指摘したらどうかと思います。

2) ロシアは正攻法でキエフ包囲作戦

1941年6月ヒトラーはバルバロッサ作戦を発動、7月南方方面軍ルントシュテット元帥はキエフ包囲作戦を慣行し、ドニエプル川の西と北から包囲してキエフ陥落を目指しました。現在ロシア軍がキエフ攻略のために取っている布陣は、地図に示されたロシア軍の進軍経路を見る限りでは、当時のドイツ軍と同じ戦術で正規軍が侵攻する定石通りに見えます。正規軍が行う地域の攻略には、相手軍を山野の戦闘で壊滅させるか、都市などの拠点の制圧をするかに分かれますが、今回都市などの拠点制圧のための軍の移動が「道路を縦列に使用」して行われていたことがニュースでも報道されていました。これは途中に敵がいない事が解っている場合の移動方法です。つまりウクライナ正規軍は山野では戦闘しない、移動の邪魔もしないと既にロシア側に判明しているという事です。市街地では市民たちが直前まで普通の生活をしており、第二次大戦の戦史に残されている様な渡河を阻止するための守備壕などの準備はないと思われます。市内のインフラは生きている事が報道されています。正規軍でない民兵が市街地でロシア正規軍をゲリラ的に迎え撃つとなると、インフラを含む市民への犠牲が莫大になることはイラクやシリアなどの例からも明らかであり、ロシア軍は今後の対応も考慮して慎重に対応しているというのが現在の姿ではないかと思えます。

3) 住民を盾の状態から解放するのはロシアかNATOか

一般庶民にとって「今まで通りの普通の生活に戻りたい。戦争をやめてほしい。」が偽らざる心境でしょう。西側寄りだろうが、ロシア寄りだろうが、一部の財閥政界有力者には大問題でも一般庶民にとってはどうでも良い事です。対立する大国に挟まれた回廊国家はどちらか一方に近づきすぎると戦争に巻き込まれ、戦場になることは歴史が証明しています。ロイター伝によると、2021年12月の段階でウクライナ正規軍の半数はドンバス地域に終結したと報道され、ロシアの報道では2月の段階でドンバス地域への大規模な攻撃が行われる予定で西側諸国の了解を待つだけになっていたとも言われます。実際2月中旬にドンバス地域に何者かの攻撃が激化していた事は西側でも報道されていました。ロシア側の報道が正しいかはともかく、「戦争止めて!」は庶民にとって本心であることは変わりません。NATOが戦争に加わってロシア軍が引き上げれば、住民を盾の状態から解放するのはNATOとウクライナ軍ということになり、ロシアが勝利してネオナチ民兵たちをウクライナから追い出し、親ロシアの政権を作れば解放者はロシア(第二次大戦と同じ)ということになるでしょう。ゼレンスキーが「ネオナチの政権内の取り巻き達」から脅迫状態になく、自由に政策決定ができる状況にあれば、ウクライナの独立の維持と中立化を宣言してドンバス2州のウクライナ国家内での自治を認めロシア軍には引き取ってもらって「どちらの顔も立てる」事で戦争を終結に持ち込むことができるでしょう。そうでない事でウクライナの一般庶民たちが犠牲になり続ける事が不憫でなりません。

4)トランスニストリアに向かうロシア軍

1992年にウクライナとモルドバの細長い狭間で新ロシア派として独立を宣言したトランスニストリア共和国という西側で承認されていない国があります。同様に国として認められないアブハジア、南オセチア、アルツアフ共和国らと連盟を作っていますが、西側寄りのモルドバ、ウクライナからは阻害されています。ロシアの進撃方向を見るとクリミア半島からオデッサを経てトランスニストリアにも向かっている様に見えます。停戦協定の行方次第では同地域の独立を西側に認めさせる事も考えているかもしれません。