思いて学ばざればすなわちあやうし(11)古事記偽書論争概観する(8)大野晋の業績について(続き)
「学問ごっこ大好き」な伊藤睦月です。今回も大野晋を取り上げます。
(57)大野晋の業績は、①文法論(「係り結びの研究」1993年岩波書店)、②「日本語タミル語起源説」③一般読者向け国文法知識の啓もう普及(「日本語の年輪」「日本語練習帳」など)だ。この3つ。
(58)伊藤睦月です。人文学の学者の業績価値は本人が亡くなってから、のちどれだけ後進に参照、引用されたかで決まる、と私伊藤は考えている。
(59)この観点からすると、大野の業績は、①の文法論だけで、これは先に挙げた「日本語全史」にも引用されています。いわゆる「上代特殊仮名遣い」は、橋本、宮坂の論文はちゃんと引用されているが、音韻論の分野で、大野の論文はもとより、名前すらもでてこない。
(60)②の日本語タミル語起源説については、大野在世中から、比較言語学者やタミル語学者からの批判が強かった。大野は、「日本語の起源」を新版(1994年)にしてまで、(旧版で「上代特殊仮名遣い」で古事記本物説を主張していたのだが)がんばっていたが、「クレオールタミル語説」に転じ、事実上起源説を撤回した。クレオールタミル語とは、私の理解では、「ピジン言語」で、言語系統に関係なく、ただ類似した語彙を多数並べて見せる、ただそれだけのこと。現在この説を支持する研究者は、学会には皆無なようだ。(在野の研究者には存在するかもしれない)
(61)なお、友人で源氏物語などの対談集もだしている、丸谷才一(英文学者、芥川賞作家)は、この惨状について、「大野の手法は、現代日本語とタミル語の単純比較だから、失敗した。古代日本語と古代タミル語の比較から研究をやり直すべきだ」と忠告していたらしいが、古代タミル語の収集分析に協力する研究者はいなかったそうだ(ウィキペディア情報)
(62)③については、「日本語練習帳」(1999年岩波新書)がベストセラーになり、日本語ブームが起きたが、ブームが落ち着いた、現在ではどうだろう。誰か評判聞いたことがありますか。
(63)伊藤睦月です。「中二病君」があげた中公文庫の紹介では、「上代特殊仮名遣いの研究」をもって「橋本理論を発展させた」旨のことが記されている。しかし、私見によれば、単に紹介しただけであり、本来価値中立、政治性のないはずの「音韻論」の成果を「古事記偽書論争」に巻き込んだ弊害の方が大きいと思う。
(64)なお、古事記序文偽書論の代表者、三浦佑之にも、大野と同様の「におい」がするので、少し警戒している。
(65)これで、大野晋編を終わる。次回は、古事記偽書論争に対する私の考え、立場を説明する。もう察しがついている人もいるだろうが、もう少しおつきあいください(これは「中二病君」以外の方に申し上げている)
以上、伊藤睦月筆