思いて学ばざれば、すなわちあやうし(15)古事記偽書論争を概観する(12)ブレイク:岡田英弘の「災難?」

伊藤 投稿日:2024/10/09 10:33

(81)少し怒りが収まってきた「学問ごっこ」の伊藤睦月です。今回は、私が、日本古代史の理解のベースとなっている。「岡田英弘」を取り上げます。

(82)まず、彼の略歴から。(引用はじめ)1931年東京都生まれ。1957年『満文労当」の研究で日本学士院賞。東京外国語大学名誉教授。その研究は、中国史、モンゴル史、満州史など広範にわたる。

(中略)2017年没(以上、引用終わり、「日本史の誕生」カバー裏から。2008年ちくま文庫)

(83)伊藤睦月、です。出版界、言論界では、日本史関連の著作等は、岡田の業績として認められていない。これは、同著者の「世界史の誕生」(ちくま文庫)とは大違いだ。この本は、よく、紹介され、引用もされている。それはなぜか。

(84)伊藤睦月は、最近までは、

①岡田が日本史や上代文学界隈からすれば、専門外の部外者だから。

②日本史関連の著作は、主に一般向けの雑誌(「諸君」や「正論」といったオピニオン誌に掲載されたものであるので、学問的な著作とはにみなされてはいないから。と考えていたが、この古事記偽書論争の経緯を調べていくと、第3の理由があると、考えるようになった。以下その文章を示す。

(85)(引用はじめ)・・・以上が私(大和)の知る本文・序文偽書説、序文のみの偽書説だが、江戸時代の序文偽書説論者の二人、序文・本文の偽書論者の一人を含めると、13人が述べており、私を含めて14人になる。まだ他にもいる。(引用終わり。大和岩雄「新版古事記成立考」(2009年)79-80頁)

(86)伊藤睦月です。ここから「岡田英弘」が登場する。最初この部分を読んだとき、思わず、瞳孔が開いた。引用を続ける。

(87)(引用はじめ)東京外国語大学教授の岡田英弘は、1976年に、文芸春秋社から刊行した『倭国の時代』に16ページにわたって、『古事記』を論じ、偽書とみている。更に、2001年に文芸春秋刊の」文芸春秋社刊の文春新書の1冊として、『歴史とは何か』二十数ページにわたって書いている主張については、三浦佑之が、古事記学会の機関誌「古事記年報47』掲載の「古事記『序』を疑う(2005年)」で書いているように、「岡田説」は大和岩雄説)『古事記成立考』1975年を踏まえて強調している」のである。

(88) このように、三浦佑之が指摘するように、私が、(2009年から起算して)33年前に刊行した『古事記成立考』に書いた見解を元にして書いているのに、『倭国の時代にも『歴史とはなにか」にも、私の名前は全く載せていない。したがって私説が、岡田説になっているので、岡田見解は紹介しない。(引用終わり。同書80頁)

(89)伊藤睦月です。最初、この個所を読んだとき、「岡田センセイ、やっちまったなあー」と思っていたが今では、違う見解を持つにいたっている。ヒントは、岡田見解を告発したのが、あの三浦佑之(彼はかなり策士っぽい)であること。岡田見解は、「村越憲三郎」説(序文、本文偽書説)を採用しているが、三浦、大和は序文のみ否定説であること、など。考えがまとまったら、また紹介する。

(90)伊藤睦月です。それでも、岡田ほどの高名な学者が古事記偽書説を採用してくれたことが、よほどテンションあがったらしい。岡田説は私説のパクリ、と書いておきながら、この章の最後に、私からすれば、未練たらしく、こう書き残している。

(引用開始)・・・岡田英弘も私説と同じ見解を述べていることを(重ねて)付記しておく。(引用終わり、同署80頁)

(91)伊藤睦月です。なお、岡田英弘は、ちくま文庫版「倭国の時代」2009年、の最終頁に、「参考にした資料について」として、「第6章」『古事記』批判のデータについては、鳥越憲三郎『古事記は偽書か』(朝日新聞社、1971年)と、大和岩雄『古事記成立考 日本最古の古典への疑問』(大和書房1975年)に負うところが多い、と付記し、同文庫の『日本史の誕生』にも同様の断り書きを挿入している。それにより、たぶん大和側と和解したのであろう。両書は、絶版を免れ、今でも書店やネット書店で売られている。(こういうパクリ疑惑で長期間絶版状態になっていた例として、高木彬光『邪馬台国の秘密』があるし、それをテーマにした松本清張の短編があったかと思う)

(92)伊藤睦月です。「世界基準に達していない」としばしば、副島先生から罵倒される、日本の人文学の世界でも、引用、出典に関しては、これほど厳しいものだと、いうことを紹介した。ということは、今後私が、どんな投稿を考えているか、わかる人にはわかるだろう。「先行業績」に注意を払わない「自分の頭で考えたこと」などゴミに等しい。

小休止。

以上、伊藤睦月筆