ブレイク:在野の有望な、アマチュア研究家をかわいがった「松本清張」と、弟子の業績をパクリまくった「柳田国男」のこと。またまた偏った記憶で恐縮ですが。

伊藤 投稿日:2024/11/21 10:12

伊藤睦月です。もう思い出ばかり、それも偏ってて恐縮ですが。

(1)松本清張(1909-1992)、といえば、言わずと知れた戦後を代表する、推理作家だが、本職の社会派ミステリーのほかに数多くの歴史ものを残していることで有名。「黒い霧」とか「昭和史発掘」(副島先生の最近の歴史本の表題も、松本に対するオマージュだろう)とか現代史だけでなく、古代史でも数多くの著書や発言をしている。

(2)それをいちいち紹介していてはきりがないのでやめるが、私が覚えているのは、在野の研究者、アマチュア愛好家のなかで、清張が見込んだ人には、援助を惜しまなかったようだ。特に出版社をよく紹介したという。

(3)我々もそうだが、アマチュアにとって一番欲しいのは、そういう出版社とのつながりだ。ある種の漫画家のようにSNSから見いだされるわけでもない、音楽関係のように素人の有望株を、売り出す、ビジネスモデルがあるわけでもない。そういったなかで、アマチュアしかも一番金になりそうもない地味な学問系にとって、出版社とつないでもらえるということが、どんなにありがたいことか。

(4)副島先生もそういうことをやってらっしゃる。この学問道場が実は、そういうアクセスルートのひとつだということは、なんとなくわかっている人もいるのでは。もちろん、そういう下心だけでは、通用しないのは当然ですが。

(5)そういう清張が育てた、「アマチュア」の一人に大和岩男という「古事記偽証説」をとなえた、在野の研究者がいた。

(6)この大和という人、大和書房という出版社のオーナーで「青春出版社」という出版社も持っていて、50歳以上の世代にとっては、この出版社の「試験に出る英単語」とか、「ビッグトモロウ」という若手サラリーマン向け啓発・情報月刊誌、の方が記憶にあるだろう。それで大もうけした、と思われる。ちなみに私は「試験に出る英単語」その他、が覚えられなくて挫折した、という苦い思い出しかありあません。(汗)

(7)大和は、古事記偽書説の発想を松本清張の著作から受けて、自説を展開した、と自著で告白している。

(8)大和は、出版社のオーナーとして、清張とも原稿料を払う関係にあったようだ。親交もあったらしい。で、清張も『古事記成立考』の初版本(1970年代)を読んで、大和に増補改訂版を出すように勧め、大和の会社から本を出しても「自費出版扱いになるから」といってわざわざ、ほかの出版社への紹介状まで書いてくれたそうだ。大和は、そのことを自著で回想している。

(9)ちなみに、大和の本の改定版は、30年後(清張の死後)結局、自社から出している。清張の死後では、「紹介状」の有効期限が切れたようだ。

(10)また、清張は、江上波夫(騎馬民族日本征服説)や大野晋(国語学者)らと、大和を引き合わせ、宴席まで設けている。(たぶん費用は大和が出したであろう)

(11) 大和は、日本歴史学会古事記部会の正会員となっているが、これは清張が江上や大野に仲介を頼んで実現したのであろう。(しかし、学会では発表の機会は与えられたが、徹底的に批判されたそうだ)

(12)大和は、大野のタミル語研究のためのインド調査旅行のスポンサーにもなっていたようだ。しかし、大和説を大野が批判、さらに大和が反論するにおよんで、両者はお互い死ぬまで口も利かなくなったようだ。

(13)松本清張は戦前の高等小学校卒。そこから這い上がって、作家になった人だから、「有望なアマチュア」に対するまなざしは優しかったのだろう。

(14)彼の出世作ともなった小説『ある小倉日記伝』(芥川賞受賞)は、そういうアマチュア研究家の悲喜劇を描いたものだ。清張は、主人公には、「松本清張」を遣わさなかった。その点、清張はリアル、である。

(15)一方の、柳田国男は、逓信省(郵政省→総務省に統合)のキャリア官僚出身で、いわば「脱サラ」して学者になった人だ。民俗学者としての名声が高まるにつれ、全国に弟子ができた。

(16)民俗学はフィールドワークが大事だから、柳田のもとには、全国から、そういう民俗学の情報や、地方のアマチュアたちの論文が多数集まった。

(17)柳田は、それらを存分に活用し、「自分の名前で」論文や著作をたくさん出した。そうやって「柳田学」が出来上がったという。

(18)私、伊藤はそんなエピソードを、岩波版柳田全集の月報での対談かなにかで、読んだ記憶がある。あくまでも自分の記憶ですよ。キ・オ・ク。

(19)柳田の弟子たちの中には、自分の名前が出なくても、柳田先生の役に立ったというだけで、十分満足、という人もいただろうが、そうでない人もいたようだと、その対談者は遠回しに言っていたような「記憶」がある。勘違いならごめんなさい。

(20)伊藤睦月です。以上、とりとめのない、「それって誰得?」みたいな、お話でした。寒くなると、そういうことばかり、思い出してくる。今から春が待ち遠しい(ちと早すぎるか?)

以上、伊藤睦月筆