TPP参入後の日本の医療の予想

「もう」 投稿日:2013/03/08 18:10

既に既定路線となっていると思われるTPP参加ですが、2013年2月22日の安倍オバマ首脳会談における日米共同声明の第三パラグラフにおいて「自動車部門や保険部門」と具体的分野を挙げて、「TPPの高い水準を満たすことについて作業を完了すること」という明示がなされたことから、その具体的な内容としては日本の医療において今後混合診療を促進させて、その自費部分にかかる医療保険を米国の保険会社に関与させてゆく方向になると推測されます。

日本では国民皆保険制度の崩壊を危惧する論調がありますが、私はいくらアメリカでも完全に日本の社会制度を頭ごなしに変更させる事まではしないと思います。そのような事で反感を買うよりは「お金が儲かれば良い」という方向に行く事の方が合理的です。アメリカにもメディケアやメディケイドなどの公的保険があり、試行錯誤ながら機能しているのですから、そういった各国独自の制度を強制的に変えるような事はしないはずです(間接的に米国が儲かるように変えざるを得ないような事はするでしょうが)。

日本の医療保険制度はもう現実的には費用面で維持できない状況になりつつある事は厚労省の官僚ならずとも各医療者や保険を担当している人達(保険者)は理解しています。高齢者の介護費用を切り離したり、金のかかる終末期医療を在宅にシフトしたりする方策も費用軽減には限度があります(逆に増加しつつある)。また、医療技術の進歩は薬剤や医療機材のコスト上昇に跳ね返り、急性期疾患の発生を予防するはずの予防医療がまた総薬剤コストの上昇を招くといった悪循環に陥っていることも否めません。

かといって日本人の長寿と健康を支えてきた優れた健康保険制度を維持する事は日本国民全て反対する人はいないと思います。結果として、制度を維持しつつ費用増加を抑える方策は1)総コストが上がる分、保険点数を下げて帳尻を合わせる、2)保険適応とする医療に制限を設ける、の二つしかありません。混合診療を認めない方針から今までは1)の方策を取り続けていたのですが、病院の9割以上が赤字となり、厳しい医療やきつい介護を行う人材がいなくなって医療そのものが崩壊の危機に見舞われる状況になってすでに限界が示されています。だから必然的に次は2)の方策を取らざるを得ない状況になっていると言えます。これは今回のTPP問題の有無に関わらずなってきた状況であり、あながち米国の責任とはいえない問題です。

ではどのような形で混合診療が入ってくるかを考えてみます。
1) 急性期疾患の場合
・同じ病態で複数の治療方法がある場合、最も安価なものを保険診療で保証して、高度先進医療などに相当する差額分を自費とする(今でもその形はあるがそれをもっと拡大する)。

2) 慢性疾患・予防医療の場合
・同系統の薬剤は、後発品などの最も安価なものを保険診療で保証して、新薬や効果の改善が計られた薬品の差額は自費とする。
・複数の予防医療を受ける場合は、優先順位を付けて優先度の低いものは自費とする。

この場合、保険診療の範囲で医療を受けても自費分を加えても結果が同じでは、誰も自費分をまかなう任意医療保険には入らないでしょうから、任意保険に入ってその分をある程度プラスしたほうが医学的にも「少し」良い結果が得られる、設定になると予想されます。この「少し」のさじ加減が大事で、あからさまに差が出てしまうと「金持ち優先の医療」とか「貧乏人は死ねと言うのか」といった批判が出てしまいます。各人は車の保険と同様に、決められた強制保険と補償内容が異なる任意保険(自費分3割補償、5割補償とか。がんは全額とか)を懐具合を気にしながら入るようになるでしょう。任意保険は収益が上がらないといけないのですから、何れにしても国民の医療費負担は増える方向になります。

医療者側は患者さんの保険の内容を見ながら、治療の選択枝を提示することになりますし、急性期疾患を扱う病院は任意性の高い治療法ができる病院かどうか、医師は高度な治療ができるかどうかで任意保険からの収益が異なることになるので米国的に病院の差別化、能力に応じた医師給与の差が出てくることになるでしょう。

このような改革は普通の医療改革として行うことは抵抗が強くてまず不可能です。TPP参入の結果外圧としてやらざるを得ないので、という状況になれば2−3年以内にも始まると思われます。