はじめは漢方も病名治療から始めましょう

えいちゃん 投稿日:2010/06/28 18:18

おじいさん様へ

 あなた様が医療評論や自由診療を生業(なりわい)としているのではなく、少なからず保険診療の恩恵に与っておられるのでしたら、臨床医としての御自分のスタンスやビジョン(なにで生業を得て、どういう医療を実践され、どういう医療を目指しているのか)を明確にされてから、医療批判なり啓蒙?されてみてはいかがでしょうか。

 ちなみに私のクリニックでは、ツムラの漢方エキス製剤において、毎年全国でもトップクラスの使用実績があります。当院の漢方薬以外の自由診療費はすべて無料(わたしのポケットマネー)にしておりますので、漢方エキスなどの保険診療薬の薬価差益などの採算で細々と経営をしている次第です。

「カンブリア宮殿」の番組においては、「漢方薬も副作用はある」とツムラの社長は明言されておりました。

 なぜ薬局でなく病院で医師が漢方を処方する必要があるのか。
 それは漢方薬局では、望聞問切など漢方的な診察ができる医師・薬剤師がおらず(診察していてもせいぜい簡単な脈診、舌診をしている程度)問診だけで処方薬を決めている場合が多いようです。
 また漢方薬局では副作用を予知・発見する技能や経験がなく、万一重篤な副作用が出たときでも、連携病院に連絡する責任を感じておられないからです。しかも独自に漢方を購入すると保険診療の何倍~何十倍の薬価を請求されます。(薬日本堂などの大手でも、きざみの生薬だと月に数万円になることもあり、その上高価な健康食品まで勧められます。)

 初診時から同じ漢方薬を漫然と長期投与する医者は要注意です。当院の初診では通常2日から7日分を処方し、証の変化や患者様の要望に応じて処方を変えていきます。漢方薬を極めてくると、ご指摘いただいたように漢方エキス剤では量や組みわせの細かい調整がしにくいため、自由診療になっても患者様のニーズに応じた生薬を自分で調合したくなってきます。

 おじいさん様が漢方医療に興味をもたれて、漢方製剤についての疑問や興味がありましたら、ツムラなど漢方関係の担当MRさんに病院に来ていただき、また「カンブリア宮殿」で放映されたような全国の漢方研究会・講習会に自腹で参加してどんどん質問されて、知識や経験を積み上げていかれたらと思います。

 漢方を始めるときはだれでも「風邪に葛根湯」「胃もたれに六君子湯」などの「病名処方」から入ります。始めは西洋医学的な系統で各診療科別、臓器別の病名治療から漢方の学習を始めることはやむをえないことで、西洋医学との対比する上では理解しやすい面もあります。
 漢方エキスの処方を躊躇されておられる先生方の多くは「漢方にエビデンスはあるのか」と言われるだけで、とりあえず使ってみようともしません。
 臨床試験などエビデンス?が載ったパンフレットは「病名治療」しかできなくなった西洋医を説得するための道具であり、漢方医はエビデンスらしきパンフレットを一瞥するだけです。漢方医の仲間内では病名より証や症状、兆候を重点に診ますので、さまざまな証や訴えの組み合わせが入り組んだ個々の患者に大規模臨床試験をする意義を感じないと思います。

 大規模臨床試験でEBMなどでの普遍的な80点治療を目指す病気の修復が中心の西洋医療より、ホメオパシーなどと伴にNBM(Narrative-based Medicine)を中心とした、個々の患者に応じて、未病を察知しより健康の増進を目指すような、オーダーメイド治療をすればいいと私は考えます。

 人工的な分子化合物で病気を制圧する製薬をコンセプトとする西洋医薬と、風土や生活の中で培ってきた漢方エキスでは、発想や開発の出発点が全く別なのです。
 漢方医療において、自然界から経験的に取り入れたもの(生薬)に要素還元主義というか分析主義を強いて生薬の単一成分を抽出・分析して、勝手な病名の枠組み内で無理やり画一的なエビデンスを出すことに意味があるとは私は思えません。