ノバルティス「ディオバン」の論文捏造事件は医学部の根幹的問題

2099 六城雅敦 投稿日:2013/08/01 03:11

高血圧薬「ディオバン」は臨床データで脳卒中・狭心症の比較をしたばあい、他の薬との罹患率はかわりないのに、差があるようなデータを示していたという<事件>が紙面をにぎわしています。

しかも京都府立医大、慈恵医大で統計処理をしていたのは、製造会社ノバルティスの社員であったのです。

ノバルティスというスイスの会社は昔はチバガイギーといって、国内ではどちらかというと農薬で有名であった会社です。

97年にサンド社と合併してノバルティスという社名となり、世界二位の規模となりました。(一位はファイザー(米)、三位はメルク(米))売上高はだいたい四兆七千億円という巨大な会社です。

wikipediaでの社員数で割ると1人あたりの売上高は4000万円/人となります。
ちなみに国内最大手の武田製薬では売上高は6000万円/人で国内二位の第一三共で4000万円/人です。

ただしこれは表向きで、連結企業を除くと名の知れた大手は一億円/人程度はあると見るのが正しいのです。(wikipediaの社員数は連結だから)

12年前まで製薬会社に勤めた私が言うのですからそれほど的外れな額ではありません。

というのも薬九層倍(くすりくそうばい)というある意味世離れした世界でした。新薬の値段はいくらでも手前味噌でつけて、それを厚生労働省が認可すればその価格で販売できるのですから。

ですから事務のオネエチャンから新聞読むことぐらいしかない窓際族までいれても、1人あたりの売上は一億円なんです。
当時はそれでも少ない方だと言われていました。おそらく日本のトップの武田製薬は2億円近かったでしょう。

つまりそれほどボロいのです。

ノバルティスの捏造手法は京都府立医大と慈恵医大にそれぞれ研究費5000万円ほど社員につけて送り込んでいます。

5000万円程度の支度金なんて支店長決裁で終りという額です。
この事件の場合、臨床試験ですから本社の医薬学術部が担当でしょう。まあ、どのみちたいした稟議もせずに右から左に出てくる程度の金額です。

製薬会社の社員の感覚では本社決済の額ではないんです。なんたって4兆7千億円の規模ですから、一億円程度の研究費(=下心)なんて現場決済です。

ぺーぺーのMR(営業担当)でも100万円程度は鼻歌で決済しますし、地方の支店長レベルでも年間数億円など屁のカッパ。

はい、ソースは私(笑) 金銭感覚おかしくなりそうでした。

もひとつ余計なことを書くと、経常利益は売上高の1割以上で、使途不明金やらで税金をひかれまくっても決して赤字になることはありません。大手製薬会社では実質は無借金経営で、銭に追われることのない財務部門はこの世で一番暇な部署と言われていたぐらいです。

話を戻して、なぜ京都府立医科大と慈恵医大が舞台になったのかというと、国立大医学部、特に帝大系(東大・京大・東北大・阪大・九大・北大)は競争率が高いから(笑)

どの製薬会社も帝大系医学部にお金を注ぎ込みたくてあの手この手で狙っているのです。

そしてそこの親分がよしと認めたら、その系列の総合病院までオセロゲームのように一気に納品されるからです。

だから医学部を訪問する営業マンは社内では主に薬学部出身者や理学部といった専門性のある人達で、大学病院専属です。地方の医院や小病院を回るのは経済学部や商学部といった文系体力自慢ぐらいと同じ営業部隊でもヒエラルキーがあります。地方ドサ周りはずっと地方まわりでサラリーマン生活を終えます。

まあ大学医学部専任となっても、待っているのは論文の翻訳やら学会発表の資料造り、あげくは局員や薬剤部の婦長さんのご機嫌取りからゴルフだ、銀座での接待だ、あげくはお坊ちゃまの誕生会やら結婚記念のお祝いなどなど涙ぐましい太鼓持ち生活なんですけどね。

臨床研究では製薬会社の社員なんて結納金背負った奴隷みたいなもん

ちなみにどれだけ経費がかかろうとも、それは新薬開発への原価への算入が認められているので製薬会社側も最終的に新薬として認められれば痛くもかゆくもないのです。(くわしくいうと「薬価収載」といって保険適用になることです。)

たとえですが、製薬会社の営業現場とは有力な医者へ北京ダックのようにどれだけ札束をぶち込めるかを競争する場です。医療現場では建前上決して「買って下さい」とお願いする場ではありません。ひたすら下心を秘めてお互いにそしらぬ顔をしながら駆け引きする場所です。

病院の窓口で誰もが気付くと思いますが、記入するボールペンやらホワイトボードについている磁石やら全て製薬会社が持ち込みます。
私も製品名のついた修正テープやマウスパッドを抱えて、当時まだ少なかったパソコンを見つけると置いてきましたから。まるで事務用品のご用聞きのようでした。
ある営業所ではトイレットペーパーに製品名を印刷できないかと考えていたぐらいです。

とにかくゴルフコンペが開催されると聞けば、ぜひその賞品の用意我が社にとか、局員でおめでたい話があればお祝いの品を、となんだかんだ理由を付けて他社に先駆けて覚えめでたくなればいいのです。

要するに普通の(損益計算がある)経済活動では考えられないことばかりです。

話を戻すと、もらい慣れていない巨額な助成金をもらった上にノバルティスが上げ膳据え膳で論文を用意してくれるので、京都府立医科大と慈恵医大は気を許して「下手打った」ということです。

この事件の私の感想は「医者も、捏造したノバルティス社員も詰めが甘いなあ」です。どっちも世の中なめきったアマちゃんです。

ノバルティスの社員は百数十名程度のカルテを徹夜で偽造ぐらいすれば、捏造が発覚しても集計ミスで逃げられたであろうに。

また京都府医大と慈恵医大の医師もてめえの論文を精査することもできない「自尊心だけは人より高いバカ」に過ぎません。

どっちもどっちの糞野郎どもが大学研究室という密室でおこした下手な犯罪というだけの話です。

ただしこの事件は氷山の一角でしょう。なぜならノバルティスだけが京都府医大・慈恵医大と特別な協力関係があったわけではなく、臨床試験を行う医学部と依頼する製薬会社との関係はどこも大差がないからです。

ただし帝大系はさすがにガードが高く念入りです。付け届けでもけっこう現場では配慮していましたから。なんたって相手は国家公務員ですから。(現在は国立大学法人に属す「みなし公務員」)

もし東大でこのような不祥事が発覚したら、厚生労働省がすかさず学術情報(副作用の緊急伝達)を濫発してディオバンの使用を止めて臨床試験のやり直しを求めたでしょう。そうして事件をまるごと闇に葬り去るぐらいのことはしたでしょう。

東大と京大の医学部と厚生労働省は一蓮托生といえるぐらい強い結びつきです。

医者というと日本医師会という団体が連想されますが、これは開業医(町医者)が主に加盟する団体です。政党への政治圧力にはなりますが、官僚への圧力にはなりません。

まあこの事件でわかったことは慈恵医大はそうだとしても京都府医大も政治的な力は全然ないのねということ。

そしてこのような調査側と依頼側との不透明な関係をずっと慣例のように行っている医薬行政の根本問題であるということです。

そして製薬会社ノバルティスが湯水のようにばらまいた銭は
結局我々が納付した健康保険料にツケがまわるのです。

我々の収める社会保険料を詐取する
この巨額詐欺<犯罪>に怒らない奴は痴呆か生活保護者ぐらいでしょう。